第23話 野球拳
それは突然だった。
始まりは会長だった。
会長がガタッと立ち上がって、いきなり歌い、踊りだす。
「や〜きゅ〜う〜ぅす〜るなら~、こ〜ゆ〜ぐあいにしやさんせ~! アウト! セーフ! よよいのよい!」
バカである。
果てしなくバカである。
バカな歌とダンスを大真面目な顔でやってのける会長は、それでもやはり可愛いのだが、バカであることは確定である。
そんな打ち合わせも無しに、みんなが野球拳なんかに乗るわけ――
――て、乗っとるぅぅうううう!
何みんな当たり前のようにグーチョキパー出してんの?
出してないの僕だけじゃん!
唯一まとも勢だと思ってたドリちゃん先輩も、しっかりグー出してんじゃん!
「出さなかった慎ちゃんの負け〜。はい、じゃ脱いで」
「いや、『脱いで』じゃねぇーよ! 会長! 正気ですか?! 僕男子ですよ?! 麗しの男子ですよ?!」
自分で麗しとか言っちゃうのキメェとか言わないでほしい。
だって、想像してみ? 元の世界で言えば、男子に囲まれた女子が野球拳の参加を強要されてんだぞ?
ヤバすぎである。
だが、ヤバすぎるのがこの生徒会なのだ。
後ろから美咲ちゃんが僕の肩に手を置く。
振り返って見ると美咲ちゃんは首を横に振りながら言った。
「慎ちゃん先輩。ルールは絶対です」
怖ぇよ! なんでそんなストイックなの?! なんでそんな野球拳にストイックなのォォ?!
だが、逆に考えろ。
これはチャンスでもある。
男子は僕1人であるのに対し、女子は5人もいるんだ。誰か1人くらい全裸にできるかもしれない! ふひひひ! これは最高のチャンスだ!
「いいでしょう。受けて立ちましょう! 後悔しても遅いですよ」
そう言って、僕は一枚脱いだ。
ズボンを。
「――ッ?!」
「いきなりズボン?!」
「ぱ、ぱんちゅ! 慎ちゃんのぱんちゅぅぅう!」
「慎ちゃん先輩、大胆❤︎」
「慎様ァ?! 何してんですか! 普通まずはネクタイか、靴下でしょォ?!」
僕はズボンを脱ぎ捨て、仁王立ちする。
ネクタイを締めたワイシャツにスクールソックス、そしてパンツのみとなった。
大丈夫! 今日はボクサーパンツ履いてきてるし、賢者化もまだ今日はしてないから臭いも大丈夫! オールグリーンだ!
てか、桃山の反応ヤバすぎだろ! 怖いわ!
「なんで……最初がパンツなの?」
みんなを代表して会長が僕に聞く。
僕はワイシャツパンツ姿で不敵に笑い、会長の質問に答える代わりに、ちょっと松田翔◯を意識して、言う。
「このゲーム。必勝法がある!」
「必勝法?!」と全員の驚愕の声が重なる。
僕はクールで知的なナイスガイを演じながら、説明する。当然その間、ずっとワイシャツパンツである。
「このゲームはじゃんけんで負けると、衣類を脱ぐ、それが原則だ。だが、僕はじゃんけんでキミたちに勝つことなく、キミ達を全裸にすることができる!」
「――ッ?!」
「いくら慎一でもそれは無理だ!」
「そうです。ルール上、不可能です」
ピーチクパーチク騒ぐカモたち。
いいさ。これからキミ達は全裸を晒すんだ。
せめて、説明くらいしてやろう。
「いや、僕ならできる。じゃんけんで勝つ必要などない! なぜならば、キミ達を気絶させればいいだけだからな!」
「――な?!」
「このゲームは途中リタイアなど出来ない。であれば、ジャンケンに参加できなくなった時点で、その者は失格者だ! 意識を失っている内に全裸にされても文句は言えまい!」
「いえ、それは全力で抗議させていただきたいのですけれど……」
ドリちゃん先輩が何か言っているが、もう遅い! 僕をその気にさせてしまったのはキミ達なのだ!
「でも、暴力や薬物等を使ったプレーヤーを害する行為は反則だよ!」
会長が『野球拳ルールブック』と書かれた本を開いて、僕に見せる。
ルールブックなんて、あるのかよ! 野球拳ってそんなに真剣な競技じゃないだろ!
だが、そんな物を持ち出したところで無駄だ。おそらく僕の必勝法はルールブックに抵触しない。
僕は両手を大きく広げて、生徒会室をゆっくりと歩きながら会長に応じる。当然、その
「暴力や薬物なんか使いませんよ。そんなものは必要ない。そんな物を使わなくても、あなた達を簡単に気絶させることができます。もちろん、反則などではありません。なぜなら……」
一呼吸置き、そして、続け様に叫ぶ。
「僕は
「な! なにィィイイイ?!」
「いえ、『なにィィイイイ?!』ではありませんわ。ただの露出狂じゃありませんか」
興奮と驚愕を同時に体現する一同と、冷静なドリちゃん先輩。
だが、この中で最もカモり易いのは、ダントツでドリちゃん先輩なのだ。ウブな人の方がチョロい。
「ふっ。ドリちゃん先輩は何も分かっておられない。それでは、これでどうですか? これでも同じことが言えますか?」
僕は椅子に座るドリちゃん先輩の前まで歩み寄る。
そして、ドリちゃん先輩の顔の付近に、僕のパンツの股間部を近付ける。
ドリちゃん先輩の瞳は僕の股間の少しだけ飛び出たテントの頂きをロックオンし、一瞬で顔を真っ赤に紅潮させた。
ドリちゃん先輩の小さな鼻がぴくぴく動き、すんすんと臭いを嗅ぐ。
そして、ツーっと鼻血が垂れてきた。
かろうじて意識は保っている。
「これで分かりましたか? 僕はシャツを剥いで、ブラを剥いで、パンツを剥いで、なんて面倒な手順を踏む必要がない。一瞬で全裸にできるのです! あなた達、全員をね!」
「くっ! だからこその初手ズボンか!」
「やるね、慎ちゃん!」
「皆さん、慎ちゃん先輩の露出には要注意です!」
「いや、あなた方、慎様を脱がすために勝負を仕掛けたんじゃありませんの?!」
ドリちゃん先輩の叫びは、当然スルーされ、僕に脱がせてはならないという流れができ、ゲームは進んだ。
運が良いのか、悪いのか、僕は最初以外、一度も負けることがなかったため、ずっとワイシャツパンツ姿であった。
そして、1人、散々な結果の者がいた。
それは、
「ひぃ〜ん、また
ドリちゃん先輩である。
今の負けで、全裸までリーチだ。
残るはワイシャツ一枚のみ。
途中、『ワイシャツを残して、ブラやキャミから脱いでいいか』という申し出があり、僕はそのブラやキャミを僕に渡す条件でOKとした。
ブラとキャミは今、僕の手の中にある。今は生徒会メンバーの面前であるため、自重しているが、後でゆっくり楽しむとしよう。
ドリちゃん先輩は俯きながら顔を真っ赤にして、ゆっくりと、そして僕に秘部を見られないように細心の注意を払いながら、淡いピンク色のパンティを脱ぐ。
シャツの裾を引っ張りながら、恥辱に耐えるドリちゃん先輩。
可愛すぎる! 素晴らしい! むしろ全裸よりも良い絵だ! 僕はシャッターを切った。
「ちょォォ?! 撮らないでくださる?!」
ドリちゃん先輩の涙目で訴える姿がまた
「ドリちゃん先輩、ジャンケン弱過ぎませんか? 1人負けがこみ過ぎです」
僕は言いながら、ドリちゃん先輩のパンティを拾い、ワイシャツの胸ポケットに突っ込む。入り切らずにはみ出ている。まぁ、スーツとかでもハンカチはみ出させたりするし、パンティもまぁセーフだろう。
「慎様?! それどうするつもりですの?!
僕はドリちゃん先輩を無視して、他の生徒会メンバーを見渡す。
会長、美咲ちゃんがワイシャツ一枚脱いだキャミ姿。
薫先輩、桃山は一度も負けていないため、普通にワイシャツ制服姿だ。
次あたりでドリちゃん先輩を全裸に剥くことができるかもしれない。
僕は自慢じゃないがこれまで童貞を貫き通しているため、女子の生全裸を拝んだことがない。楽しみ過ぎて、鼓動が速まる。
「じゃあ、次のフェイズだよ!」と会長が言い、お馴染みのアレを歌う。
「や〜きゅ〜う〜ぅす〜るなら~、こ〜ゆ〜ぐあいにしやさんせ~! アウト! セーフ! よよいのよい!」
生徒会女子メンバーは、珍しいことに、全員が同じ手を出していた。
全員がパーだ。
対する僕は――
「慎ちゃん先輩の…………1人負け」
美咲ちゃんが呟く。
「い」
会長が声を漏らす。
「い」
今度は桃山だ。
「ぃやったァァアアア!」
女子全員がバンザイして、大声で叫び、喜びを示した。
ドリちゃん先輩なんて、「よかった……。本当に良かったァ!」と泣き出す始末である。
いや、僕まだネクタイも、ワイシャツも、靴下も残ってるんだが。
何、勝手にパンツ脱ぐみたいな空気出してんの?
まぁ確かに『公然わいせつで気絶させるぞ』と脅したのは僕だけど……。
なんかコレもうパンツ以外を脱ぐのは許されない雰囲気だよね。もうコレ詰みだよね。
はぁ。
もう仕方がない。僕も男だ。覚悟を決めよう。
僕はため息を一つついて、勢いよくボクサーパンツを足首まで下ろした。
「――ッ?!」
「……そんな?!」
「うそ……でしょ?」
「マトリョーシカ……」
「――って、なんでパンツの下にパンツ履いてるんですの?!」
バカめ! パンツの下が必ずしもジョニーの
「説明しよう! これはいわば貞操帯的ブリーフなのです!」
「貞操帯?!」
やはり一番に反応するのはドM変態の薫先輩である。鼻息荒く、目を輝かせている。
僕は見なかったことにして続ける。
「僕は日々、生徒会メンバーのセクハラでジョニーの硬質・肥大化を晒される目に遭ってきた。そこで考えた! ジョニーの肥大化を妨げる貞操帯を装備すればいい、と! 本物の貞操帯はちょっと変態過ぎるから、材質が硬めなブーメランブリーフをアマゾンでポチって、正パンツの下に装備することにしたのです!」
「いや、ブリーフでも十分変態過ぎますけど?!」
僕は例のごとくドリちゃん先輩のツッコミは無視する。
「とにかく! 試合は続行です! 僕はまだ戦えます!」
僕が興奮冷めやらず、ワイシャツブーメランブリーフ姿でドリちゃん先輩に1、2歩近づいた時、それは起こった。
僕の股間の圧迫にビビったドリちゃん先輩が
そして、そのまま尻餅をついて、転倒した。
お尻を打っただけだ。大して痛くもなかったろう。
だが、問題はそこではない。
ドリちゃん先輩はワイシャツ一丁だったのだ。
転んだ拍子に、大事な部分が元気よく顔を出す。
『慎様! こんにちは! ドリルの穴です! ドリルで
まるでそう言って、僕を祝福しているかのようだった。
僕はここから先、薄らとしか記憶がない。
黒いジャングルの奥の赤ピンクに怪しく光る洞穴。
それを見た瞬間、衝撃で意識が飛びかけた。
これが巷で聞く、遭遇したら気が触れると言われる都市伝説の『くねくね』かと錯覚した程だ。
僕は意識が飛びかけながらも、なんとなく周りで叫ぶ声は聞こえた。
「ちょ! 慎ちゃん! 大丈夫?!」
「まずい! 童貞の慎一には刺激が強過ぎた!」
「鼻血! 鼻血の止血して! 失血死しちゃう!」
「ドリちゃん先輩! 早くその猥褻物をしまってください!」
「ちょっとォ! 猥褻物って――」
「――いいから早く! 早くしないと慎ちゃんの脳みそが焼き切れちゃうよ!」
「とりあえずズボン履かせて、机に寝かせるんだ!」
「人工呼吸! 人口呼吸要りますか? ふへへ❤︎」
「おばか! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! バカ言ってないで美咲、足持って!」
僕の記憶がない間に、服を脱がされたりしなかったのが、せめてもの救いだ。
この生徒会は変態は変態だが、同時にとても優しい人たちの集まりなのだ。
優しい人は男子に野球拳を強制しないという見方もあるが、その辺は僕の性格を完全に把握した上でのギリギリ許容されるラインを攻めてきたのだろう。
まぁ何にせよ、僕は今回のことで学んだ。もう学習済みだ。本番を迎える日に意識を失うことはないだろう。多分少し鼻血が出るくらいで留まれるはずだ。
僕はもう二度と忘れない。
黒いジャングルの奥地にひっそりと待ち構える赤ピンクの洞穴。
こんなこと言ったら女子の皆様に総スカンをくらうかもしれないが、あえて言わせてほしい。
そして、童貞の諸君には、是非気をつけて欲しい。
女子の秘密の花園はなんか色々生々しい! ヤバい!
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