第18話 アホドリル

「いや、股間に決まっているだろ! 全てのエロスの源だぞ?! 男が何かを発射する時は決まって股間からだ! それは最も重要な部位だからさ」

 薫先輩が熱弁する。


「いえ。先輩は分かっていませんね。慎ちゃんの真髄はお尻にあります! ぷりっぷりのプルンプルンで、あざ一つない綺麗なお尻! しかも穴も備え付けられています! 男の子なのに!」

 桃山も負けじと熱弁する。



 頼むから、本人を前にして、『須田慎一の好きな部位』を討論しないでくれないかな? 僕は食用の牛か何かかな? 

 ところで、桃山はなんで僕のお尻事情に詳しいの? 穴を何に活用するつもりなの? 怖い。


 ここで今度は美咲ちゃんが口を挟む。


「いえ。なんと言っても口ですよ! 口が無ければ愛を囁けませんし、オーラルもできません!」



 『愛を囁く』と来たら、次は普通『キス』だろ! なんでオーラルに飛んだ?!

 愛を囁いた後にいきなりアレをしゃぶりだしたらヤバすぎだろ!




 そこへ席を外していた会長が勢いよく扉を開いて現れた。

 問題を起こすのはいつだって、このちびっ子会長なのだ。


「みんな! 大変だよ! カチコミだよ! カチコミが来たよ! 全員武器を持って、出動!」


 皆が一斉に立ち上がる。

 そして、無言で薫先輩のカバンから一品ずつ武器を取って、出動する。


「ちょ! おい! なんで私の私物?!」


 僕もみんなに習って、薫先輩のカバンから一品取り出して、みんなに続き走る。


「こら! 慎一ィ! それパンツ! それ私のパンツぅぅう!」


 薫先輩の叫びを後ろに聞きながら、僕らは問題の中庭へ向けて駆けた。



 中庭に着くと、僕たちとは違う制服を着た女子がずらっとV字に並んでいた。

 その先頭、茶髪を巻き巻きしたドリルヘアの女子が腕を組んで立っていた。

 お嬢様然とした上品さで、なおかつ可愛らしい顔立ち。

 しかし、油断してはいけない。お嬢様はカチコミなんてしないし、それにこの世界はアホしかいないのだ! きっとこのお嬢様もアホに違いない!


「お久しぶりですね、おちびさん」と謎のお嬢様が会長に話しかける。


「誰だか知らないけど、いい度胸だよ」と会長が返す。


 え? 知り合いじゃないの? 向こうのお嬢様はすごいお馴染み感だしてたけど。

 あ、違う。これ会長が忘れてるだけだ。

 だって、向こうのお嬢様、すごい悲しそうな顔してるもの。



「と、とにかく!」とお嬢様が仕切り直す。


「お出迎えご苦労様です。生徒会の皆さん」


 先程の悲しそうな顔を見た後だけに、今更ながらの強キャラぶった態度が痛々しい。


「他校の殴り込みなんて、返り討ちだよ!」と会長がムチを構える。柄には『薫』と書いてある。


「え……? 殴り込み……?」


 謎のお嬢様が怪訝な表情を浮かべた。


「少し数が多いですね。面倒です」と美咲ちゃんが手錠を指でくるくる回す。手錠には『薫』と掘り込まれている。


「でも、やってやれないこともない」と桃山が電マをヴィンヴィンさせる。電マには油性マジックで『薫』と書かれている。


「君たち武器が特殊過ぎない?!」


 僕は薫先輩のパンティが握りしめながら、ツッコみの役目を果たす。


「お前が言うな!」


 薫先輩が僕のツッコみに苦言を呈した。

 まったく、薫先輩は何も分かっちゃいない。


「薫先輩! これは武器ではありません! 回復アイテムです」


「何を回復するつもりだ! 何を!」


「ナニを」


「やかましい!」


 なんか最近、薫先輩にツッコみ役を奪われつつある気がする。この世界で唯一の常識人は僕だと言うのに!


 謎のお嬢様は僕らの武器と回復アイテムに怯むことなく、口上を述べようとした。



「今日はそちらの――


「――先手必勝!」


 会長が話も聞かずに叫ぶと、お嬢様の足にムチを絡ませて転ばせる。

 インディージョ◯ンズ並みのムチさばきだ。


 美咲ちゃんがすかさずお嬢様に、後ろ手で手錠をかける。


 僕も負けていられない。お嬢様の頭にパンツを被せて、視界を塞ぐ。

 が、紐パンなので、視界は塞げなかった。ただ被せただけである。

「くっ、やはり回復アイテムではダメか……!」



 満を辞して、桃山が歩み出る。


「さぁ。私たちに喧嘩を売ったことを後悔させてあげましょう」


 ヴィィィイイインと電マが唸る。

 桃山が電マをお嬢様の股に当てようとする。


「な、なんという連携!」

「すごい! これが亜保那あほな高の生徒会!」

「パンツの使い方が渋い!」


 お嬢様の取り巻きがざわつく。

 パンツは被せただけなんだが。何が渋いのだろう。

 取り巻きもアホであることが確定した。

 というか、助けろよボスを。


「ま、まま待って! 違うって! 本当に違うって! 話聞いて?! お願いだから話聞いて?!」


 お嬢様が足を動かして後退りながら、命乞いをする。


「問答無用!」


 ヴィィィイイイン


「自粛自粛自粛自粛〜ッ❤︎ 自粛自粛ぅぅううっ❤︎ じ・しゅ・くぅああああああっ❤︎」


 自粛がすごい!

 さすが一度運営に怒られたことがあるヤツは違う!

 なんの話だ!




(5分後)




「はぁはぁはぁはぁ」


 顔を上気させてぐったりするお嬢様。

 一部だけ地面が濡れてるのがエロい。

 僕はホクホク顔でトイレに行こうと踵を返した。

 が、薫先輩に肩を掴まれる。


「待て慎一。賢者に変身するのは、このいざこざを片付けてからにしろ」


 バレとるぅぅううう!

 はぁ、仕方ない。とっとと終わらせるか。

 僕はお嬢様に尋ねる。


「そもそも何しに来たんですか?」


 しかし、お嬢様はなんか、はぁはぁ言ってて答えなかった。代わりに会長が答えた。


「いや、だから、殴り込みでしょ?」


「いやいや。あの人、なんか『違う』って言ってたじゃないですか? 聞いてなかったんですか? 会長」


 まったく。これだから人の話を聞かない会長は困る。


「分かってたんなら止めてくださる?!」


 あ。お嬢様が復活した。

 お嬢様が息を整えてから、気を取り直して説明する。


わたくし北亜保那きたあほな高校の生徒会長、東條とうじょう 紗希さきです。別に殴り込みに来たわけではありません!」


「なんだ、そうならそうと早く言いなよ」


 と、会長がへらり笑い、肩をすくめて言う。

 安定のウザさだ。


「言おうとしたら先手必勝とか言って襲ってきたんでしょう?!」


 どうでもいいけど、このお嬢様おもちゃがいると話が終わらん。延々と生徒会に遊ばれるぞ。

 僕は話を進行すべく、仕方なく問う。


「で、何しに来たんですか?」


 紗希先輩は、僕を見つめて、優しく微笑む。


「慎一様。あなたを迎えに来ました」


 ………………は?

 何言ってんだ。僕はこの人と初対面なんだが。


「この前の『笑ってよがんす』を見て、ビビッと来ましたの。この人は、わたくしの運命の人だと」


「あの放送でビビッとくるなんて、お前どうかしてるぞ」と薫先輩がツッコむ。

 確かに僕はあの日はただ勃起して、薫先輩の指を舐めて、軽く放送事故発言しただけだ。惚れる要素は皆無である。



「それでも! ですわ! わたくしはあなたが欲しいのです、慎一様」


 生徒会一同が紗希先輩を睨む。

 おいおい、紗希先輩、これ以上みんなを怒らせるとまた電マされて、『自粛自粛ぅう❤︎』な目にあうぞ!

 だが、紗希先輩は止まらない。



「時に皆さま。今度の球技大会、ウチとそちらの学校が合同でやることはご存知ですか?」


 いや、知らなかった。そうなのか。


「その球技大会で、うちの学校の生徒会とそちらの生徒会でエキシビションマッチをしようではありませんか! どちらが上か、ハッキリさせましょう。そして、わたくし達が勝利した暁には……慎一様。あなたはウチの学校に転校してもらいます!」



 なに言ってんだ? このアホドリル。



「そんなこと認められるわけないでしょう? 底無しのアホドリルだね、あなたは」


 会長が僕の心を代弁する。


「うるさいわね! ドリルは関係ないでしょ! ドリルは!」


 そういう過剰反応するからオモチャにされるんですよ、紗希先輩。


「でも、ドリル先輩っ。それは賭けとして成立してません。こっちが勝っても得るものがないですから」と美咲ちゃんが指摘する。


「誰がドリル先輩よ!」


 そんなにドリル呼ばわりが嫌なら、ドリらなければいいのに。あれ毎朝わざわざセットしてるのかな?


「でも心配しないで大丈夫よ。貴方たちにもメリットはあるわ」


 ドリル先輩がニヤリと笑う。


「貴方達が勝ったらこの私がそちらに転校し、生徒会に入ると誓うわ」


 高らかとドヤ顔で宣言するドリル先輩。


「それデメリットじゃん」

「ああ。いらないな」

「慎ちゃんの周りの女は一人でも少ない方がいいし」

「ドリルならマキタ製以外認めません」


「なんでよ! てか、そこの一年! 私を工具扱いしてません?! 電動ドリル扱いしてません?!」


 ドリル先輩は生徒会の反応が想定と違ったのか泣きそうな顔で文句を垂れる。涙目のドリル先輩は普通に可愛かった。

 ドリルなのに可愛いなんてすごい! 僕の心は動いた。


「僕は別に構いませんよ。工具系女子ならキャラ被りしてないし」


「慎一様……! 嬉しいです! 嬉しいですけど、私、工具ではありませんのよ?」



「でもさぁ」とここで会長が割り込む。


「そもそもそんな賭け、学校が認めるわけないって」


 確かにそうだ。

 僕らの間で取り決めたって無意味である。

 しかし、ドリル先輩は揺るがない。


「おーっほっほっほっ! それなら問題ありませんわ! すでに両校長の許可は得ていますの!」


 おい。マジかよ。

 ダメだ! この学校の長はダメだ!

 アホの学校の長はやっぱりアホなのだ!

 まともな校長ならこんな馬鹿げた賭け許可しない。

 この校長がやばい!


「だが、しかしな。お前は別として、慎一の親に許可なく転校などさせられないだろう」


 薫先輩が最もなことを言う。やはり本気でツッコみポジションを狙いに来ている。侮れない。


「ご心配なく。それも許可を取ってきたから」


 母さァァアアアん?! 前々から思ってたけど、今日はっきりしたよ母さん! あなたもアホです! 超アホです! アホしかいねぇよマジで!


「つまり、これは正式な勝負。慎一様。あなたは私が手に入れます。生徒会副会長の座を開けて待っていますね。おーほっほっほっ!」


 ドリル先輩はパンツを被り、後ろ手で手錠をかけたまま、高笑いしながら去っていった。

 アホな球技バトルが今始まろうとしている。





 つづく

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