第15話 バーチャルリアリティ

「面白いゲーム持ってきたんです! 皆さんで一緒にやりませんか?」


 美咲ちゃんがヘッドギアのような機械を生徒会室の机に広げる。


「VRゲームかぁ。面白そうだな!」


「VRって何? 慎ちゃん」と桃山が首を傾げる。


「バーチャルリアリティの略だよ。要はコンピューターの作り出す仮想空間で遊ぶんだよ」


 桃山は普段からゲームをしないのか、僕が説明してもピンときていない様子であった。

 美咲ちゃんが補足する。


「このマシンは私が開発した試作品です。まだ世に出回っていないレア物ですよ! これのすごいところは五感リンクシステムです! 肉体は生命活動を続けたまま睡眠時と同様の状態になり、精神だけをバーチャル世界に飛ばすのです。そして、人の持つ五感はほとんどそのままにプレイすることが可能なのです」


 そんなすごいマシンを作り出す美咲ちゃんって一体何者なのか。

 最近はただの変態少女としてしか活躍の場がなかったが、僕は美咲ちゃんが天才だったことを思い出した。


「五感と言ったが、痛覚とかもあるのか?」と薫先輩が質問する。


「安心してください。痛覚は処女膜を突き破られる痛み以外はオフにしてあります」


 絶対いらないだろ、その痛覚機能!

 何キミ、その絶対に訪れない痛みのためにプログラム頑張って組んだの?


「そうか。処女膜の痛覚があるなら安心だ」


 薫先輩が胸を撫で下ろす。


「薫先輩。安心するところが違います」


「何言ってる慎一。女子は初めてを大事にしたいんだ。初めての痛みも込みでな。痛いと言っても止めてくれない慎一……ふふ、ゾクゾクするな」


「いや、薫先輩、『何言ってる』はあなたの方ですから。マジで何言ってんすか?」






「とりあえず、みんなでやってみよっか!」


 会長は、薫先輩のドMはいつものこと、と放置して、1人でさっさとマシンをつけた。

 皆もそれに続き、装着する。おでこにマシンが掛かり、視界は遮られない。


「こうやって机に突っ伏すと安定しますよ」と美咲ちゃんが実演する。


 皆が真似した。

 僕も同様に机に突っ伏して横を向くと、こちらを向いて突っ伏していた桃山と目があった。

 桃山がニコッと可愛らしく微笑む。

 僕は少しドキッとした。

 変態ブルマダンサー事件以降、僕は少し桃山を意識し過ぎてしまっている気がする。

 桃山の匂いを吸引し過ぎたからかもしれない。

 僕はなんとなく気まずくなって、目を瞑って逃げた。


 すると一瞬で真っ暗な何もない空間に意識だけが飛んだ。

 周りを見るとみんなリアルと全く変わらない姿でそこにいた。

 真っ暗なのにみんなの姿ははっきりと見える。


「あんまり違和感ないね」と会長。


「胸のサイズも変わらず……か」と薫先輩がシャツの第一、第二ボタンを外して確認する。


 え、何? 薫先輩、胸小さいの気にしてたの?

 確かに会長と桃山に比べれば小さいけど。

 美咲ちゃんと良い勝負である。


「皆さん! すごいのはここからですよ!」


 美咲ちゃんが興奮気味にみんなに言う。

 何かが起こるってことか?

 ドキドキしながら待っていると、前方から何者かが歩いて近づいて来た。










 何コイツ……。










 僕はソイツを見て、ドン引きする。

 それは一言で言えば、『モンスター』であった。

 僕そっくりの少年が全裸でこちらに歩いて来たのだ。

 全裸であることはいい。いや、よくはないのだが、一応股間にモザイクかかってるし、この際、目を瞑ろう。

 だが、もっと強烈な、このモンスターをモンスターたらしめる異質な点は他にある。












 なんでコイツ鼻にチ◯コ付けてんの……?








 チョコではない! チン◯である!

 チビまる子ではない! ◯ンコである!

 鼻の代わりに、ゾウのように、あるいはピ◯キオのように、棒状の物が伸びているのだ!

 いや、これをゾウやピ◯キオに例えたら彼らに失礼だ。ゾウもピ◯キオも鼻からこんな卑猥なもの生やしてなどいない。

 股間にモザイクかけといて、鼻の物は無修正である。あくまで『これは鼻です』で押し通すつもりなのか?


「彼はチンいちです。このゲームを管理するゲームマスターです。高度なAIを組み込んでいるので勝手に考えて、喋り、行動します」


 はいチ◯コ〜!

 名前からいって完全にチン◯〜!

 もう『これは鼻です』とは言わせないよ?



 会長達は興味津々といった様子でチンいちを取り囲み、鼻から生えている物を見て「ほほぅ」「なるほどぉ」と感嘆の声を上げていた。


「ねぇ。ここがカリかな?」

「おそらく…………な」

「なるほど……。イメージではもっとカリカリなのかと思ってました」


 男性器に興味津々の美人女子高生たち。ヤバイ絵面である。もっとカリカリってなんだよ。

 とてつもなく関わりたくないけど、一応ツッコミの役目は果たさねば。


「何、部位の名称確認してるんですか!」


 会長が3人を代表して答える。


「だって慎ちゃんとオーラルする時に、『カリがいいの?』って聞いといて間違えたら恥ずかしいじゃん?」


 このちびっ子は何の心配をしているのか……。

 今の現状をもっと恥ずかしがるべきだと気づいて欲しい。

 僕はこのもう手遅れな変態は放置し、美咲ちゃんに責任追及することにした。



「おいコラ美咲ちゃん。このモンスターが何故僕に似ているのかきっちり説明してもらおうか!」


 僕は美咲ちゃんに詰め寄る。


「それは好きだからです」


 全く躊躇うことなく、僕の目を強い眼差しで見つめる美咲ちゃん。

 ちょっと照れる。

 けど、そんなことで誤魔化されはしない!


「じゃあ鼻からヤバいもん生やしてる理由は?」


「……好きだから、です」


 今度は目を逸らし、頬を染めて言う美咲ちゃん。

 え、何? 僕が好きなの? それとも僕の軍人ジョニーが好きなの?

 どちらにしても、鼻に接続する必要はないだろ!

 この子の感性はどうかしてる。

 この子も手遅れだ!


「コラ、オマエ! ハニーヲ困ラセルンジャナイ!」


 チンいちが文字に起こしたらカタカナになりそうな声で僕と美咲ちゃんの間に割って入った。

 もしコレが小説とかなら、作者は思うことだろう。『コイツのセリフめんどくせぇ』と。


「コレカラオマエラヲ……ン゛ンッ! これからお前らを呪われた病院廃墟にランダム転送する」


 調整してきたァ!

 いもしない作者のために調整してきたァア!

 (※います)


「病院廃墟ってことは……これホラーゲーム?」


 桃山が眉を顰めて言う。


「あれ? 言ってませんでしたっけ? これVRホラーアクションゲームです」


 ホラーゲームか……。

 あまりお化けとかゾンビとか得意じゃないのだけれど、今はどうしても目の前のチンいちの方が怖い。


 チンいちが例のアレをぶらんぶらんさせながら説明を続ける。


「浄めの塩を、病院内のどこかにある『約束のひつぎ』に振りかければ、ゲームクリアだ」




 でも、少し面白そうでもある。

 よーし、僕が一番にクリアしてやる!

 そう意気込む僕は、チンいちの次の一言に言葉を失った。



「ここはバーチャルの世界。ここで起こることは肉体には影響しない。、現実世界の体には反映されない。安心して楽しんでくれ」



 安心できねぇぇぇえええええ!

 なんで例えがセックスなんだよ! そこは普通に『例え死んでも』でいいだろ!

 これお化けとゾンビ以前にもっとヤバイ敵が4人増えたんですけど!

 なんか4人とも目の色変えてんですけど!

 美咲ちゃんに至っては「その発想はなかった……」とか呟いてんですけどォ!

 チンいち、テメぇ余計なことしてくれたな!



 ゴールで待ち伏せされないためには何が何でも僕が一番にクリアしなくてはいけなくなった。

 難易度が高すぎるデスゲームが今始まろうとしている。

 ソードアートオ◯ライン並みの難易度だ。

 ジョニーソードアートオ◯ラインである。






「それじゃあゲームスタートだ!」



つづく

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