第9話 生徒会相談

 生徒会の仕事は多い。

 普段から遊んでばかりいるイメージが強いかもしれないが、意外にもこの生徒会は仕事はきっちりこなす。個々の能力が異常に高いのだ! 僕を除いて。


 生徒の相談窓口も、生徒会が受け持っている。

 今日はその相談の予約がみっちり入っていた。

 基本的に生徒会相談は会長が対応し、他の生徒会メンバーは各々黙って自分の仕事をこなしながら、相談に耳を傾けている。


 今は3年生の女子生徒の相談を受けていた。


「私、慎一くんのことが好きなんです! 好き過ぎるんです! 夜も眠れないくらいに! 耳たぶをハムハムしたいくらいに! どうしたらいいですか?」


 本人横にいるのに何耳たぶハムハムとか言ってんのこの人。

 もうそれ告白と同義なんですけど。

 女子から男子への告白を禁止されてるからって、この生徒会相談を利用しないで欲しい。

 隣の桃山が殺気だってるから。


 会長はどうでも良さそうに答える。


「あーそうですか。無理なんで諦めてください。はい、次の人ー!」


 この後も同様の相談が続く。

 マジでこの学校の生徒は色ボケが過ぎる。まともな相談が一つもない。

 その都度、会長が機械のように同じ文言で追い出す。『無理なんで諦めてくださいマシーン』と化している。


「次の人ー」


 次に入ってきたのは3年生の男子生徒だった。

 男子の相談というのは珍しい。

 ほとんどの男子は女子を見下しているので、生徒会なんかに相談しない。

 え、僕? 僕のことを知っていて、僕に相談しようなんて粋狂な男子など存在しない。まともな回答が返ってこないことなど、分かりきっているのであろう。


 相談者が男子であると見て、会長も「おっ」と声を漏らす。

 会長が話を向ける前に男子生徒が話し出した。


「知ってると思うが、坂上 大地さかがみ だいちだ。相談に来た」


矢鏡やかがみくんか。面白い名前だね」


 会長は至って真剣な顔で堂々と名前を間違える。


「いや。坂上さかがみだ。坂上。え、というか、俺のこと知らない? 同じ学年だよね? 俺イケメンだよね? 知らない?」


 坂上先輩が会長に詰め寄る。

 『俺イケメンだよね?』じゃねーよ。うぜぇ。

 確かにイケメンではあるけど。


「いやぁ、あはは。ごめんね」


 会長ははっきりと『知らない』とは言わず、笑って誤魔化す作戦に出た。

 会長、その優しさが返って相手を傷つける時もあるんですよ。

 だが、坂上先輩はへこたれない。


「まぁいい。今日から嫌でも忘れられない名前になる」


 ニヤリと笑う坂上先輩。

 どうでもいいけど、早く相談しろよ。


「相談とは言ったが、それは建前だ。今日は西条 智美。お前に言いたいことがあって来た!」


 坂上先輩は会長をズビシッと指差しながら言った。

 いや、相談じゃないんかーい。

 僕は厄介事に巻き込まれるのは嫌なので心の中でツッコんだ。



「え。相談じゃないなら帰ってほしいなぁ」と会長が応じる。


「え゛?! あ、いや、その。相談と言えば相談だ! 見方によっては! ほら、『相談』って人によって形を変えるというか」


 しどろもどろと謎理論を展開する坂上先輩。

 人によって形を変える相談ってなんだよ。


「まぁいいや。では、相談内容をどうぞ」


 会長は面倒くさくなったのか、さっさと話を進めた。


「西条 智美! 俺はお前が好きだ! 俺のものになれ智美!」


 あ、これ間違いなく『相談』じゃないわ。

 誰がどう見ても『相談』ではなく『告白』だわ。

 というか、なんで相談を装う必要がある? 男なんだから普通に告白しろよ。


 全員の視線が会長に向く。
















「あ。無理なんで諦めてください」




 でたァァアアア! 伝家の宝刀『無理なんで諦めてください』

 このワードの応用力がすごい!



「何故だ! 何故無理なんだ! 俺イケメンだよね?」


 こっちもでたァァアアア! リーサル・ウェポン『俺イケメンだよね?』

 イケメンだからって、なんでも上手くいくと思うなよ!



「いや。私好きな人いるし」



 会長が坂上先輩を追い払うべく、追い討ちをかける。



「なん……だと……! それはイケメンたる俺ではなく、という意味か? 誰だ! それはどこの誰なんだ!」



 坂上先輩が唾を飛ばす勢いで問う。

 目が血走っている。怖い。




「ん」




 会長はあくびをしながら、何でもないことのように、作業スペースにいる僕を指さす。



 愛の伝え方が雑ぅぅう!

 いや、分かってはいたけども!

 確かに今更ではあるけども!




「き、き、貴様ァァアアア! どこまで進んだァ! まさか、こんないたいけな幼女とチョメチョメしたのではあるまいな!」


 坂上先輩が激昂して叫ぶ。

 というか、あんたが言うな。

 会長、『幼女』言われて、若干怒ってるから。ほっぺ膨らませて可愛く怒ってるから。

 僕がしっかりフォローして、機嫌を取らなくては。

 まったく、世話が焼ける。


「会長は幼女ではありません! おっぱい大きいですし、めっちゃ柔らかいですから! 立派なレディです!」


 決まった!

 完璧なフォローである。これで会長の機嫌もばっちり回復――あれ? なんか顔真っ赤にして俯いてるんだが。想定と違う。



「お、お、お…………おっぱい……!」


 坂上先輩が目をかっぴらいて、卑猥なワードを呟く。



「よくも……よくも……よくも智美を汚したなァァアアア!」



 坂上先輩が椅子から立ち上がって、僕に向かって突進してくる。

 こわっ! 突然キレる若者かよ!



 しかし、坂上の前に、桃山が僕を庇うように立ちはだかる。



「慎ちゃんに手を出さない方がいいですよ。慎ちゃんは多方向から盗撮、盗聴してますから、簡単に証拠が残ります」


「ぉおおい! 多重盗撮・盗聴とか初耳なんだが! せめて一方向からにしてくれない?!」


 桃山の一言が坂上先輩を止めた。

 まさか僕はプライバシーと引き換えに、外敵から守られていたとは。

 盗撮がこんなに役立つとは思ってもみなかった。


「ぐっ。くそっ! 須田 慎一ィィイイイ! 卑怯だぞ! こうなったら、俺もあの組織に……あの組織に入ってやる! 覚えてろよ須田ァ!」



 そういうと、坂上先輩はズカズカと肩をいからせながら、去って行った。



 あの組織?

 あの組織ってなんだろう。



「次の人ー」


 会長は赤い顔を手のひらでぱたぱたと仰ぎながら、何事もなかったかのように振る舞い、次を呼ぶ。


 次が最後の相談者だ。

 僕はまだ知らなかった。

 この最後の相談者こそが、『あの組織』の回し者であるということを。

 そう。あなたの思っているとおり、この流れは次話に続く感じである。


 一話完結を売りにしているこの生徒会は、文字数が多くなると途端に前編・後編に分けるのである。

 前編に『前編』と付けないくせに、後編には唐突に『後編』と付くのである。



 この生徒会(の作者)の手のひら返しがヤバい!

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