第8話 ナイアガラの悲劇あるいは奇跡
「はい。リピートアフターミー。
「薫先輩、僕バカですけど、それが汚い言葉だって分かりますよ流石に」
下ネタが苦手な人はここでブラウザバックして欲しい。なぜなら、この生徒会は下ネタがヤバいからだ。
僕は今生徒会室で薫先輩に英語を教わっている。
僕から教えを乞い開かれた勉強会でこんなこと言うのもアレなんだが、どうか言わせてほしい。
真面目にやれよ!
いや。ある意味薫先輩は真剣だ。
真剣に、僕に罵倒スラングを言わせようと躍起になっている。
頼むから、その熱意を別のベクトルに向けてくれないだろうか。
今日は、会長が不在であった。
なんでも会長は、今日の家庭科の授業で『慎ちゃんにプレゼントして好感度アップ!』と言って、調理実習のメニューを勝手に変え、特大の飴玉を作ろうとして、家庭科室で小爆発を起こしたらしい。
その件で、今は生徒指導室で説教を受けている。
何やってんだ、あのちびっ子。
桃山も美咲ちゃんもまだ来ていない。
今は薫先輩と2人きりだ。
薫先輩は黙っていれば、モデル顔負けのスタイルと美貌を持ったスーパーガールである。
今日は長い黒髪を後ろ首の低い位置でお団子にして、美しさと可愛さを兼ね備えた『大人のお姉さん』といった雰囲気であった。
だからかな。薫先輩と2人きりだと少し緊張する。
「慎一、ギャグボールって知ってるか?」
話題がアレだからか、僕の緊張は一瞬で吹き飛び、そして『ドン引き』の訪れを感じる。
こんにちは、ドン引き。よく会うね。
そうこうしていると、ガラガラとドアを開け、顧問の水島先生が顔を出した。
今日は来ると通知があったから、予定通りの来訪だ。
「おっ。今日は2人だけか。慎ちゃん、いい子してた?」
「あ。はい。とても」
水島先生は僕を異常に可愛がってくれるのだが、何故かいつも子供扱いなのだ。
「ほうかほうか。えらいなぁ。酢昆布いるか?」
酢昆布て……。それで僕が喜ぶとでも?
「いただきます!」
意外と美味いな酢昆布。
僕が酢昆布をハムハムしていると、先生がここにきた本来の目的を話す。
「2人にお願いがあるんだけどな。離れの用具倉庫分かるだろ? あそこから机を2つ持ってきて欲しいんだよ。職員室まで。私これから会議だからさ。頼める?」
「ええ。分かりました」
僕と薫先輩は、先生が去ってからすぐに用具倉庫へと向かった。
用具倉庫は校舎から少し離れたところに位置する小さいコンクリートブロック造りの建物だ。
用具倉庫はほとんど人が訪れないような場所に建っていて、間取りはL字型の造りとなっているため、構造上、出入口から最奥までは見通せない。
僕と薫先輩は倉庫内を、入り口に近い位置から順に見ていき、机を探した。
机は倉庫の一番奥に積まれて、たくさん置いてあった。
「うっわ。一番奥ですよ、薫先輩。こりゃ出すのに一苦労ですね」
最奥までの通路は草刈り機や小型発電機、スコップなど、普段使わないものが散乱している。
「まぁ。仕方ない。やらないと先生がまたぐちぐち言うからな。慎一は倉庫の外で待っててくれ。私が出すから――」
薫先輩が話している最中。
唐突に音が響いた。
ガチャン! カチっ。
すたすたすたすた……
おい。
これ。まさか。
定番の。
倉庫閉じ込めイベント、キタァァァアアア!
僕は歓喜した。
この後は、薫先輩とイチャラブする最高の展開が待っているのだ!
嬉しくない訳がない!
「薫先輩っ、薫先輩っ! 僕たち閉じ込められちゃいましたねっ!」
「あ、ああ。ところで慎一は何故そんなに嬉しそうなんだ?」
薫先輩は本気で『困った。どうしよう』という顔をしている。
アホか! ボーナスタイムだぞ?
薫先輩はまずポケットに手を入れ、スマホを生徒会室に置いてきてしまったことを確認してから、今度は倉庫内に窓はないか探し始めた。
無駄無駄無駄ァ! この倉庫は一つしか出入口がなく、窓もないことは確認済みだ!
外との繋がりは、ドアの下部についている通気用のガラリだけだ。これだって、指を入れるのが精一杯で通り抜けるなど、どうやっても無理な代物。
やがて薫先輩は諦めて、床に座った。
僕もその隣に肩と肩がピトッと触れ合うように座った。
そして誘惑の一言。
「薫先輩っ、薫先輩っ! なんだか寒いですね! とっても寒いです! 薫先輩と触れ合っている肩以外が全身、満遍なく寒いです! どうしたものですかねー困ったぞぉ!」
「なんでそんなにニヤニヤしてるんだ、慎一?」
僕の期待は最高潮に達していた。
さぁ! 早く抱きしめろ! 抱きしめてそのままキスして、そしてチョメれ!
「仕方がないな」
薫先輩が僕に向き直る。
『仕方ない』なんて言いながら顔は優しく微笑んでいて、まるで子供に抱っこをせがまれた母親のような顔をしている。
うほぉぉおおおお! キタキタキタキタァァアアア!
僕のテンションが急激に上がっていくのとは、対称的に、薫先輩は穏やかな表情でゆっくりと僕の腕に手を当てる。
そして、
「うぉぉぉぉおおおおおおおおお!」
薫先輩が叫び、同時に僕を
全身をすごい勢いで擦った。擦りまくった。
そこにエロが介在する余地はない。
あるのはお爺ちゃんが行う乾布摩擦の如き、擦り。
やりたいことは、まぁ分かる。
摩擦熱で温めよう、ということだろう。
だが、薫先輩。
それではないのだ!
僕が求めていたのはお爺ちゃんの健康療法ではないのだ!
なんで普段エロばかりのくせに、こんな時に限ってエロをしないのか!
「はぁはぁはぁはぁ。こんなもんでどうだ。慎一」
「あ。はい。もう十分です。ありがとうございます」
僕のイチャラブ大作戦は失敗に終わった。
しばらく雑談しながら、2人で座っていると、急に薫先輩が太ももをぎゅっと閉じ、もじもじし始めた。
これはまさか!
「薫先輩、トイレ行きたいんですか?」
言い当てられ、恥ずかしかったのか顔を赤らめる薫先輩。少しデリカシーがなかったかもしれないが、いつもデリカシーがない言動をするのはこの人なのだから自業自得だろう。
「そ、そんな訳ないだろう! 大丈夫だ! 私は大丈夫! 平気だ! がんばれ私!」
やっぱり恥ずかしかったのだろう。薫先輩が強がりを言う。
途中から自分を言い聞かせるように奮い立たせている。
僕は魔法の呪文を唱えることにした。
「ナイアガラの滝、イグアスの滝、ヴィクトリアの滝、ヨセミテの滝、グトルフォスの滝、ガイアナの滝――」
「慎一ィィイイイ! 落ちゆく液体を想像させないでぇえええ!」
薫先輩が苦しそうに顔を歪め、額に汗を貼り付けて叫ぶ。
「もじもじする薫先輩が可愛くてつい」
ペロッと舌を出して、ウインクすると、薫先輩は「うぅ! 可愛い……」と股を両手で押さえて呟いた。
よし、もう一押しか。
普段セクハラされまくっているのだ。たまにはお灸を据えてやらねば。
「ドデ◯ミン、リア◯ゴールド、ライ◯ガード、デカ◯タ――」
「し・ん・い・ちィィイイイ! マジで! マジでやめて! 黄色い液体を想像させないでぇええええ!」
顔を上気させ、身を
僕は存分にエロい薫先輩を堪能したので、その辺からバケツを探してきて、薫先輩に渡してあげた。
薫先輩はバケツにおしっこすることを初めは躊躇ったが、お漏らしするよりはマシだと思ったのか、観念してチョロロロと致した。
当然僕は見ていない。
音だけだ。だが、それもまた趣きがある。
音だけで僕は元気付けられる。どこが、とは言わないが元気が湧いてくる。
僕はチョロロ
全て済ませた薫先輩を見ると顔が真っ赤だった。
「うぅぅ…………死にたい……」
ちょっとお灸を据え過ぎたらしい。
その後もしばらく2人で座っていたが、僕はふと思い出す。
「あっ。そうだ! 忘れてた! ログボ、ログボ!」
僕はおもむろにポケットからスマホを取り出すとゲームを起動し、ログインボーナスをゲットした。
「……ちょっと待て。慎一。お前が今手に持っているものはなんだ?」
「え? スマホですけど?」
「……そのスマホで助けを呼べば、ここを出られるとは思わなかったのか?」
「あー。言われてみれば、そっすね! 先輩頭いいなぁ!」
「し・ん・い・ちィィイイイ! 何のために! 何のためにナイアガラの悲劇は起きたんだァァ!」
あ。薫先輩がキレた。
というか、自分でもナイアガラ言うんだ。
薫先輩は一瞬にして僕からスマホを取り上げると、出入口ドアのガラリからドアの外に落とした。
「ああああああああああああ! 薫先輩なんてことをォォ! なんてことをするんですかぁぁあああ!」
薫先輩はニッコリ微笑んだ。
そして静かに言う。
「慎一。お前も一緒にナイアガラしよう。ナイアガラの奇跡を」
い。
い。
いやァァァァアアアアアアアアアア!
結局、僕もバケツにおしっこするはめになり、2つのナイアガラは合わさり、深いドデ◯ミンになった。
薫先輩はチョロロ音で元気が出過ぎて、鼻血を吹き出し、気絶した。
その1時間後に、会長達によって無事に僕らは助け出されたのであった。
僕は今回の件で深く反省した。そして学んだ。
薫先輩は追い込まれるとドMからドSに変貌する。
今後はそれを踏まえて、上手く薫先輩をコントロールしなくては。
マニアックなエロスにも対応可。この生徒会はヤバい!
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