第二十話 魔女の家 第七十七夜
夕刻を過ぎ、俺たちは再びおやじさんと合流して、寺院の敷地内にある料理店で夕食を取ることにした。
その料理店は丸テーブルに回転台が置かれ、料理は大皿で出てきたものを取り分ける、日本で言えば中華料理店のような場所だった。料理の内容も中華料理を思い起こさせるものが多く、俺的には非常に満足のいく食事だった。
俺たち四人は銘々その日別行動だったこともあり、何をしていたか、収穫はあったか、といった話を持ち寄っていた。
「というわけで、北西の海岸沿いにあるスキーフという港町から来た人から、レーヴェウスらしき男の目撃情報が聞けたんだ。どうやら船に乗って海を渡るところだったらしい」
おやじさんの聞き込みにより、その後のレーヴェウスの足取りに進展があったのは幸運だった。
「どこへ向かってるのかしら?」
アリサの疑問に、おやじさんが続ける。
「海を渡るということはモンモーデル周辺の可能性が高いだろうね。モンモーデルの北にはレーベル神殿もあるからね」
「おやじさん、その神殿ってまさか……」
俺の問いに、案の定おやじさんは頷く。
「そのまさかだよ。魔王序列第二階位、破壊の宰相ティガエルが封じられている」
「よりによってレーベル神殿ですか……」
不意に、シュニィが呟いた。
「レーベル神殿って何かあるの?」
アリサがそう問うと、シュニィが言葉を続ける。
「北のトラペッタ大陸は、そのほとんどがミニアム教に帰依しています。ミニアム教といえば、天使排他主義なんです。魔王と対極の存在である天使を排するということは、魔王にとっては都合の良い場所ともいえます。そして、レーベル神殿もそのミニアム教の施設なんです」
「そういえば、モンモーデルといえば嘆きの蝶――」
オブグラッドの道中で遭遇した獣人ゴーツがその名を口にしていた謎の教団嘆きの蝶が活動の中心としているのもモンモーデルだった。
それだけではない。
「そしてシュニィちゃんの呪いが解けなかった場合、私たちが次に目指そうとしていたのもモンモーデルのカレジ・アフェア師のところなのよね」
果たしてこれは偶然というには出来過ぎていやしないか?
「そういうことなら、俺は一足先にモンモーデルへと向かうことにするよ。少しでも情報が多いに越したことはないしね」
おやじさんは続ける。
「アフェア氏なら俺も面識があるから、先にシュニィちゃんの事を相談しておこう」
「ありがとうおやじさん、助かるわ」
アリサの礼に、おやじさんはいやいや、と手を振る。
「ところでアリサちゃん達は何か収穫はあったのかい?」
「私はオンノブ師から許可をもらって書庫の魔導書を閲覧させてもらったんだけど、これといった収穫は無かったわ。シュニィちゃんは?」
「私も特には……。オンノブ師からエカール百八神の教義を伺ったくらいで……。一番収穫があったのはヒュージさんでは?」
「収穫といえば収穫、なのかなぁ。師匠、じゃない、エリカちゃんから気と格闘術の特訓を受けたよ」
「気?ヒュージ今気って言った?うっそ、気を使えるようになったの!?」
アリサが驚いた顔で俺にそう聞いてくる。
「うん、気のコントロールの仕方は大体学べたかな。あとは実戦と日々の修練で磨くのみ、だね」
「そうかー、魔力はダメだったけど気が使えるのはすごいなぁ」
アリサが俺に羨望のまなざしを向けてくる。
「あとでアリサにも教えてあげるよ。もしかしたら使えるかもしれないよ?」
「ホント!?じゃあ私とシュニィちゃんにも教えて!」
するとシュニィは困ったように、
「いや、私は、その、無理なんじゃないかなぁ、と……」
と自信なさげに呟いた。
その後、俺たち三人は家に帰り、アリサは真っ先に風呂を沸かした。
「ヒュージ、今日はいっぱい動いたでしょ、先にお風呂入ってて」
アリサにそう言われ、少し申し訳なく思いながらも一番風呂を頂くことにした。
身体を流し、湯船につかる。湯加減がちょうどいい。極楽だ。
と、そこへアリサが浴室に入ってきた。
「入るわよー」
アリサと共に入浴するのは、俺にとってすでに日常と化している。ごく当たり前の、幸せな日常だ。
が、この日は違った。
なんと、アリサに続いてシュニィが入ってきたのである。
「お、おじゃま、します……」
い、いや、ちょっと待て。さすがにそれはマズイんじゃないかなぁ?
「あ、え、ちょ、シュニィちゃん!?」
腕で胸と股間を隠してはいるが、明らかにアリサとは異なる妙齢の女性の裸である。
「いや、マズくないか!?」
「別にいいわよねー、シュニィちゃん?」
「え、ええ、ヒュージさんなら、大丈夫、です」
な、なにがどういう理屈で大丈夫なんだ?
「たまにはいいじゃない、みんなでお風呂を楽しむのも」
ああ、これは何を言っても無駄な奴だ。アリサはこうなるととことん突っ走る。
「ヒュージも嬉しいでしょ、美女二人とお風呂だなんて」
そりゃたしかに嬉しいさ。嬉しいとも。
「いや、もちろん嬉しいけど……」
ついつい、シュニィに見惚れてしまう。
「あ、あんまり見られると、少し、恥ずかしい、かも」
シュニィの顔が朱に染まった。
「いや、あまりにも綺麗だったから、つい……申し訳ない」
俺も顔が火照るのがわかる。
「ヒュージもえっちだねー」
とはアリサだ。いや、それはあなたが一番ご存じでしょうに!自慢じゃないがエッチですよ!股間もバッキバキだよ!
「ねえヒュージ、私とシュニィちゃん、どっちが綺麗?」
いやいやアリサお姉さん、どうしてそう言うこと聞くかな!?
「二人ともに決まってるよ!選べって言われても俺には無理だよ!」
こっぱずかしくて顔から火が出る。思わずのぼせそうになり、俺は股間を手で隠しながら湯船から出た。二人はすでに身体を流し終えていた。
「身体は正直だねー」
いや、そこツッコまなくてもいいから!慌てて股間をタオルで隠す。
と、俺と入れ替わりで、二人が湯船につかった。
二人とも大きなおっぱいが浮いている。何ともときめく絵面だ。
「ヒュージ、目がおっぱいになってるよ」
一体どういう例えですか!?
「でもさ」
ふと、二人を見ていて思ったことが口に出た。
「二人とも、ホントに綺麗だよな。ありがとう、元気出たよ」
そんなハプニングもありながら風呂から上がり、俺たちは和気あいあいとリビングでお茶を楽しんでいた。
「そういえば――」
アリサが言う。
「帰ったら気の事教えてくれるって言ってたわよね。教えて、どうすればいいの?」
その顔は興味津々だ。この手の好奇心をくすぐる話題はアリサにとっては最大の関心ごととなる。
さて、俺も教えるとは言ったが、やはり俺が教えてもらったのと同じようなやり方から始めるのがいいだろう、と考える。とすれば、最初にまず気を相手に送り込むところからだ。とはいえ、いきなり大量に送ってもパニックを起こしてしまうかもしれない。
「二人とも、手を出して」
俺がそう言うと、アリサとシュニィが手を伸ばしてきた。俺は両手に軽く気を溜めてから、そっと二人の手を握り――二人に少しずつ送り込むイメージを浮かべた。
「どう?わかる?」
すると、先に反応があったのは意外にもシュニィだった。
「あ、わかります。温かいものがすうっと入ってきました」
アリサはまだピンとこないらしい。俺はアリサの方を握っている右手の気をやや強めながら、さらに気を送り込んでみる。
「あ、来た来た。これが気ね。なんか魔力とはまた違う流れね」
「じゃあ、それを全身にゆっくり広げてみて。最初は両手両足首から、それができたら、おでこ、喉、鳩尾、おへそで感じ取ってみて」
言いながら二人の気を探ると、シュニィはすうっと馴染むように気が広がり、アリサは少しずつ引っ掛かりながらも全身に広げていっているようだった。
やはりこのきっかけづくりが、気を感じるにはベストなのだろう。
「今感じ取った八つのポイントが気門というそうなんだ。そこを開けたり閉じたりすることで、気を発生させたり、気を消したりできるようになるよ」
試しに、俺が気門を開放してみる。と、全身にドンッと気が満ち満ち、周囲に圧がかかる。
「うわぁ、ヒュージすごいわね」
アリサが驚きの表情を見せた。既に一度見ているシュニィの反応は、至って普通だ。
「二人とも、一度気を消してから、再度気門を開いてみて。感じ取れたら成功だよ」
再度二人の気を探る。
やはりシュニィの方があっさりとこなしている。不器用ながらもアリサもできている。
「というのが、自分で出したり引っ込めたりできる気だよ」
俺がそう説明すると、アリサが続けて聞いてくる。
「で、これができるとどうなるの?」
「え?」
「え?」
「あいや、これだけ、かな」
実際、その先は俺も教わっていない。習ったことといえば、格闘の際の助けとなること、運動能力が向上することくらいだ。
「えーっと、これを常に意識するようにすると、運動能力があがったり、格闘の助けになる、はず」
「それだけ?なにかこれで技が出せたりするとかは――」
「それは修行が必要みたい」
俺の説明に、アリサは少しがっかりしたようだった。一方のシュニィはといえば、
「この気の流れを上手く応用すれば、祈祷の助けになるかもしれません」
と前向きだ。
同じ聖職者の技だからこその発想の転換なのかもしれない。
「アリサはそれこそ何か文献に気の事とか載ってるのを見てたんじゃない?だったらそういう方面からのアプローチの方が面白いことがわかるんじゃないかな?」
俺の言葉に、アリサは
「それもそうね、魔術師の私が
よしよし、食いついてくれた。
「ちなみに、俺は気弾を飛ばせるようになったよ」
「気弾?」
「そう、気で衝撃波みたいなのを飛ばすんだ」
するとシュニィも興奮した様子で、先ほど俺が気弾で岩を粉砕した話を聞かせた。
「すごかったですよ、岩が粉々に砕け散ってました!」
「私もそれ、出せるかなぁ?」
やはりアリサは興味津々に聞いてくる。
「じゃあ、右手に集中して気を溜めてみて」
こればかりはイメージと気の強さの問題もあるのでできないだろう、と断じるのは早計だ。アリサの場合、一度やらせてみた方が早い。
「気が溜まったと思ったら、俺に向けて、その気を飛ばすようにイメージしてみて」
言うと、アリサは俺に向けて手のひらを向け、
「ハッ!」
と叫んだ。ややあって、何やらほわっとした感じの気が俺の顔を撫でた。
「今、やさしい気が俺の頬を撫でていったよ」
俺はそう言ってアリサの頭を撫でた。アリサは微妙な顔だった。
その夜、ベッドの中。
「さっきはシュニィがいたから言えなかったんだけど」
俺はアリサに小声で囁く。
「実はちょっと気付いたことがあってさ」
そう言って、俺はアリサの手を探り、右手でアリサといわゆる恋人つなぎをする。
そして、アリサの手にじわじわと気を送り込む。
「あたたかいわ、ヒュージ」
「そのまま、手のひらの感覚に集中してみて」
そして、さわさわっと撫でるように気を送り込む。
「アンッ」
アリサの口から小さな声が漏れた。
「どう?」
俺の問いかけに、アリサは
「うん……気持ちいいよ」
と、ぎゅっと手を握り返してきた。
俺はアリサにそっと唇を寄せ、彼女の唇を奪う。そして、唇と舌に意識を集中し、アリサの口にふわりと気を送り込んだ。
「ん……んぁっ」
アリサの目がとろけそうに潤む。
「キス……気持ちいぃ」
俺はアリサを愛撫する指に気を漂わせ、じっくりとアリサの身体をほどいてゆく。耳元から首筋へと指を這わせ、横乳からそっと乳房全体を撫でまわす。
「ヒュージッ……なんだか、今日、すごく敏感になってるッ……!」
アリサを抱きしめながら、背中に指を這わせる。背骨の筋をスッと撫でると、アリサの身体がビクンと弾んだ。
そっとアリサの寝間着を脱がせる。
彼女のお腹を撫でながら、俺はアリサの股間にキスをした。しっとりとした湿り気と、アリサの香りが俺の頭の奥をジンジンと感じさせる。
何度もアリサ自身に舌を這わせ、気を送り込みながらその一番敏感なつぼみを舐めあげると、アリサは軽く絶頂する。
アリサの嬌声が耳に心地よい。
「ヒュージもっ……来てッ」
アリサの甘い声に、俺は自分の高ぶりを彼女の中へと埋めた。
気を纏わせながらゆっくりと抽送をする。いつもにも増して、アリサの締め付けがきつく感じる。
俺もアリサも、まるで全身が性感帯になったかのように感じ合い、お互いをもみくちゃにしてゆく。
「ヒュージッ、大好き、もっとメチャクチャにしてぇっ!」
長い時間をかけ何度もアリサを絶頂へと導き、最後は彼女と共に最高潮に達しながら、己の全てをその中へと注ぎ込んだ。
アリサを腕枕で抱きながら、俺たちはピロートークを楽しんだ。
「今日はなんだかホントにすごかったわ。こんなに違うなんてビックリ」
まさか俺も、気がセックスに役立つなどとは思いもよらなかった。
「俺もめちゃくちゃ気持ち良かったよ。今までの中で最高に気持ち良かったかも」
「私もよヒュージ。何回もイッちゃった。こんなにいやらしい女、嫌じゃない?」
顔を赤らめながらアリサはそう尋ねる。
「嫌なわけないよ。むしろもっともっと好きになったよ」
こんな夢のようなひと時が過ごせるのなら、むしろ何度でもアリサと愛し合いたい。もちろん俺たちの関係はセックスだけではないけれど、身体の相性というのもものすごく大事だと思う。
「ヒュージ、気が使えるようになって良かったね」
アリサの言葉に、俺は彼女の唇を奪うことで返事をかえした。
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