第七話  魔女の家 第五十一夜

 俺たちは日暮れ近くにシネッサ姉妹団シスターフッドキャンプに戻ると、まっすぐモリアのテントへと向かった。


「二人ともお疲れ様、どうでしたか?」


 そう尋ねるモリアに、アリサはヴァンパイアの牙を二つ見せ、


「無事討伐してきました。これが証拠の品、マリエッタの牙です」


「封印ではなく、倒してきてくれたのですね。ありがとうございます。ご無事で何よりです」


 そう言ってモリアは頭を下げ、続ける。


「では、今日はもう遅いですし、どこかにテントを用意させましょう」


「いえ、それには及びません。どこか目立たないところ――そうですね、厩舎の裏にでも、ポータルを出させてもらえれば」


 アリサはそう言いながら頭を下げる。


「私たちは自宅に戻りますので、もし緊急で何かあれば、ポータルを通ってうちまで来てもらえると助かります」


 その言葉に、モリアはなるほど、といった顔をした。


「承知しました。では、また明日の朝いらしてくださいね」


 ではおやすみなさい、と俺たち二人はモリアのテントを辞すると、まっすぐ厩舎の裏へ行き、そこでアリサはポータルを開いた。




 家へ着くと、アリサは真っ先に風呂を沸かしに行った。

 風呂が沸くまでの間、俺たちはお茶を飲んで一息つくことにした。


「わりと上手くいったと思わない?」


 今日のマリエッタ戦の事だ。


「そうだね、戦いやすかったよ。最初は連携の訓練のつもりでいたけど、特に訓練の必要もないんじゃないかな?」


 実際、お互いに次の行動がなんとなく読めたこともあって、少なくとも俺としてはかなり助かったと感じている。


「本当に?私、今まで戦闘呪文なんてほとんど使ったこと無いから、タイミングとか心配だったの。だから、初めてにしては上手くいったっていうつもりで聞いたのよ?」


「レーヴェウスの時の雷撃呪文もそうだったけど、俺が欲しいって思うタイミングで魔法を使ってくれてたから、初めてとはとても思えなかったよ」


 魔法のタイミングもそうだが、威力にしても、使う呪文の難度にしても、とてもではないが戦闘初心者のそれではない。


「それと、呪文詠唱の声がはっきり聞こえるから、あ、来るぞっていうのがわかりやすかったんだ」


「すごいねヒュージ、あの戦闘の中でそこまで把握してたんだ」


 アリサが驚いて見せる。


「そればっかりは俺のセンサーの精度のおかげかな。拾う音の種類を絞れるっていうのもあるし」


 いつ何があっても対応できるように、アリサの声は優先度を高くして拾うように設定している。


「さすがは私の勇者様ね」


 ニコニコしながらアリサは笑う。うん、やっぱりアリサの笑顔はかわいい。この笑顔が見られるだけで、一日頑張って良かったと思える。


「けど、あのヴァンパイアは強かったね、下手な悪魔よりも強かった」


「そうね、やっぱり支配階級のヴァンパイアって強かったわ。でも、ヒュージもモードの使い分けの訓練にはなったんじゃない?」


「それは確かに。フレイムモードでアリサの火球と連携できた時は気持ち良かったね」


「気持ち……よかったんだ」


 アリサが急に顔を赤らめた。いやお姉さま、何か勘違いしてはおりませんか?


「私もね、考えてたことがぴったりはまると……気持ち、いいよ?」


 いやアリサ、そんな表情を見せられたら無性にドキドキしちゃうじゃないか。


「あ……そろそろお風呂のお湯加減、見てこなくっちゃ」


 アリサが急に恥ずかしそうに立ち上がって、浴室に向かって行った。




「お風呂のお湯加減、ちょうどよかったわ。……ヒュージ、一緒に入ろ?」


 浴室から戻ってくるなり、アリサはそう言って俺の手を引いた。


「うん、入ろうか」


 あの初めての夜以降、すっかりアリサと一緒に風呂に入ることが多くなった。風呂場でどことなく恥ずかしがっているアリサが愛おしくて、いつもつい長風呂になってしまう。


 二人で裸になり浴室に入って、まずはお互いにかけ湯をして身体を流す。


「今日はすっかり汗かいちゃったからね」


 どことなくアリサの顔が上気している。

 俺はふっとアリサを抱き寄せ、うなじに顔を寄せてアリサの香りを楽しんだ。


「いい匂いがするよ」


 安心する香りだ。今までアリサから嫌な匂いなんて一度も感じたことはない。


「いやん、汗臭いでしょ」


「そんなことない。すごくいい匂いしかしないよ」


 体臭が男女の相性に深くかかわっている、という話を聞いたことがある。自分と相性のいい相手の匂いは、よりいい匂いに感じるという。俺はアリサの匂いにいつも惹かれるし、安心感もある。この匂いが大好きでたまらない。


「私もヒュージの匂いが好き。守ってくれてるなぁって思うよ。安心するの」


 お互いのフェロモンに惹かれあっている、ということなんだろう。心だけじゃなく、身体の相性がいいという証明だ。そう考えるだけでもアリサのことが無性に愛おしくなる。


「もう少しアリサの香り、楽しませて」


 俺はそう言って胸いっぱいに彼女の匂いを吸い込んだ。


「やあん、ヒュージの変態ぃ」


 そう言いつつも、アリサも嬉しそうだ。


「ふふっ、じゃあ身体洗おうか」


 アリサの手を引いて、洗い場に二人で座った。

 ブラシに石鹸をたっぷりつけて、俺はまずアリサの背中を洗い始める。


 アリサの肌は透き通っているように綺麗な色をしている。シミや黒子の一つもないほどに綺麗な肌だ。そしてそのさわり心地はまるで子供の肌のように艶やかで、これでもかという位に水を弾く。


 背中から首筋、脇腹、そしてお尻まで石鹸で洗うと、俺はアリサにブラシを渡した。


「え?ヒュージ、前の方も洗ってよ」


 いつもならすんなりと受け取って自分で洗うはずが、今日は違った。


「う、うん、わかったよ」


 俺は再びブラシを受け取ると、まずは腕を洗う。そして、腕を終えると、肩から胸を洗おうと手を伸ばした。するとアリサは胸に伸ばした手からブラシを取り上げ、


「胸と……アソコは、ブラシを使わないで手で洗って?」


 アリサお姉さん、また大胆発言ですか……。

 俺はそーっと胸に手を伸ばし、手についてる泡をその豊満な胸に伸ばしてゆく。円を描くように手のひらで胸を撫でると、柔らかかった乳首が次第に硬くなってゆく。


「んっ……」


 アリサの頬がほのかに赤くなってゆく。

 俺はその柔らかな胸を揉みしだく。


「んっ……はぁっ」


 俺は手を胸からお腹へと動かし、アリサの敏感な脇腹を触れるか触れないかくらいで指を這わせる。もはやそれは身体を洗う行為から、愛撫へと変わりつつあった。

 指先はゆっくりと鼠径部へ下り、そして股間の整えられた毛を撫でる。


「ヒュージ……気持ち、いい」


 そして俺は、ゆっくりと熱く濡れている彼女の大切な部分へと指を這わせた。

 クチュッといやらしい音が聞こえる。


「あんっ……!」


 アリサが喘ぎながら、後に手を回してきた。そしてゆっくりと俺の股間に手を伸ばす。すでに大きくなっていた俺の息子が、アリサの柔らかな手に包まれた。


「私と一緒に、気持ち良くなって……?」




 結局お互いに気持ちを抑えられなくなって、俺たちは洗い場で身体を重ねてしまった。それからお湯で体を流して、二人で浴槽に浸かった。俺がアリサを後から抱え込むように抱いている形だ。


「俺さ、この頃よく思うんだ。もしかして俺の心ってアリサに読まれてるんじゃないかって」


「さすがにそれはないかなぁ。でも、どうして?」


「なんていうのかな、俺が思ってることを、アリサが先手先手で用意してくれてるみたいで」


「それはね、心を読んでるのとは違うよヒュージ。あなたの気持ちを考えると、次にこうしたほうがいいかな?とか、なんとなくわかるのよ」


「俺ってそんなにわかりやすいかな?」


 考えてる事が顔に出やすいとか、態度に出やすいとか、そういう事なんだろうか?


「んー、ヒュージってあんまり感情を表に出すタイプじゃないから、他の人にはわかりにくいと思うわ。でも、私の前だとすっごく顔に出るわよ」


「アリサの前限定で顔に出やすいのか、俺」


「そうね、だから私には嘘はつけないと思うわ、絶対」


 言いながら、アリサはエヘヘヘ、と笑う。ちくしょう、かわいいなぁ!


「でもさ、それを言ったらヒュージだってそうよ?最近なんて私の性格まで把握されちゃってるみたいに思うわよ?」


「それはさ、なんていうか、どうしたらアリサがいい気分でいられるかな?って考えるからだと思う。アリサが喜んでくれたら俺、嬉しいから」


「愛されてるなぁ、私」


 言いながら、アリサは俺に頭を預けてくる。


「俺、アリサのこといっぱい愛してる。アリサが俺のことを想ってくれてるのと同じくらい愛してる」


 そう言って、俺はぎゅっとアリサを抱きしめた。




 翌朝、俺は昨夜のアリサとのベッドでのひと時に心地よい疲れを感じながら目を覚ました。こんな疲れなら大歓迎だ。


 アリサはまだ隣で静かに寝息を立てている。その寝顔を見つめながら、彼女への愛おしさを改めて感じる。


 そっと布団の中でアリサを抱きしめた。触れ合う肌の温かさに幸せを感じる。無意識にだろうか、アリサも俺に抱き着いてきた。


「あったかいね、ヒュージ」


 目を覚ましていたようだった。


「おはよう、アリサ。もしかして起こしちゃった?」


「ん、おはよ。気持ち良かったからいいよ」


 そう言うアリサに俺はそっとキスをした。

 それから少しの間他愛もない会話をしてから、俺たちはいそいそとベッドから起き出し、朝の準備をはじめた。


 二人で朝食を食べていると、アリサがぽつりとこんな事を言った。


「あのね、昨夜、夢を見たわ。はっきり覚えてるから予知夢だと思うんだけど……」


 そう言いながら、なにか言い淀んでいる。


「言いにくい夢?」


「うーん、変に思わないでね?私たちが、裸の人たちが大勢いる中にいたの。男の人も、女の人もいたわ。それで、その中を進んでいって一人の女性を助けるんだけど、彼女だけ服が無くて……。だから、今日荷物の中に女ものの服を一揃い、持っていきたいの」


 どことなく恥ずかしそうにアリサは言った。

 もしそれが現実になれば、きっと俺たちは恥ずかしさでいっぱいになりそうな気がする。どういう状況でそんな事が起きるのかは想像もつかないが、アリサが視た夢だというのなら信憑性は高い。


「わかったよ。バッグに入れていこう」


 俺がそう言うと、アリサは小さく頷いた。





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