第二部 歪なる七芒星
序章 穢された聖女
第一話 穢された聖女
ケンデウス王国から北東に位置するライフィルド王国には、シネッサ聖女修道院という古い寺院がある。祀られているのは神ではなく、その名の通り聖女という存在だ。
現在祀られているのはシュニィ・ヴィーントという若き聖女で、数代ぶりにイズニフ(天使と悪魔の間に生まれた子)の力を持っている者がその座に就いた。
王国にとって聖女という存在は王家の次に高貴とされ、と同時に国の清浄と守護を司る重責となる。
通常であればその任は象徴職であり、国内に点在する修道院の中から適格者が選ばれその任に付くのだが、国内でイズニフの力を持つ女性が生まれた場合、その女性が直ちに王家から正式に聖女として任命される事になる。
その場合、聖女は象徴職ではなく実務職となり、王国内の清浄化や退魔、守護、封印といった能力を行使するため、必要があれば各地へ出向きその能力を発揮することとなる。
無論、象徴職、実務職を問わず、聖女には様々な聖職者としての能力を学び、行使する必要はあるのだが、ことイズニフの場合はその力の大きさゆえに必然的に実務が多くなる。
近年、世界各地でイズニフの力を持つ存在がこれまでよりも多く出現しているのだが、過去の歴史を紐解くに、そういう時代には魔王が顕現したり、天使による大きな粛清が発生したり、といった出来事が重なる。
十年前にケンデウス王国で首都がトライスタに遷都し、その後魔王の一角である恐怖の帝王レーヴェウスが復活し、先日勇者の手によって討伐されたのは記憶に新しい。
ライフィルド王国はケンデウスに隣接していることもあり、魔王復活の影響を強く受けるだろう事を想定して、聖女シュニィが十五歳でその座に就いてからこの三年間、特に国境周辺を重視して守護の力を行使していた。その甲斐もあり、ここ三年間で国内に悪魔が出現することは稀で、あったとしても聖女シュニィの手によってそれは撃退されてきた。
そのシネッサ聖女修道院にその日、聖女シュニィを尋ねて三人の男女が訪れた。
一人は薄茶色の髪に緑色の瞳が印象的な、黒尽くめの衣服の青年。
もう一人は、その黒尽くめの青年に鎖で縛られた老魔導士。
そしてもう一人は、黒尽くめの青年とは対照的な白い衣服に身を包み、焦げ茶色のブーツと手袋を身に付けた十四、五歳と思われる美少女。その少女の髪はミルク色のショートボブで、頭には焦げ茶色の猫のような獣耳が生えていた。瞳は鮮やかな青。その姿はまるでシャム猫を思わせる。
「余はケンデウス王国第一王子スタンセンである。わけあって聖女シュニィに拝謁したい」
黒尽くめの青年は修道院の入り口で、弓矢と剣で武装している女性の門番にそう言った。
門番は少々お待ちください、と修道院の中に入り、修道女の一人にその旨を伝えた。
「ケンデウスの第一王子といえば、数年前に国を出て今は行方知らずだったはずでは?」
修道女の問いに、門番は首をかしげ、答える。
「そのはずですよね、私もそう聞いています」
「まあいいわ、私が対応しましょう」
そう言って、修道士は門番に続いて入り口に行った。
「こんにちは、当修道院の修道女、ハラルと申します。ケンデウス王家のスタンセン王子とお伺いしたのですが、失礼ですが何か身分を証明できるものはございますでしょうか?」
修道女の言葉は当然と言えた。行方知れずと言われている上に、ましてや家臣ではなく繋がれた魔導士や獣人か何かと思われる少女を連れているのだ、とても額面通りに受け止められる話ではない。
「身分証明と言えるかどうかはわからぬが、王家の紋章の印象指輪ならあるぞ」
言って、男は右手の甲を差し出して見せた。その人差し指には、印象指輪が嵌められていた。
「申し訳ございません、さすがに印象指輪だけでは――」
その瞬間、修道女の首が飛んだ。噴水のように鮮血が空中に吹き上がる。
後ろに控えていた白い美少女がいつの間にか修道女の首を素手――正確にはその指から伸びた長い爪だ――で刎ねたのだ。
「な、何を――」
咄嗟に門番が叫ぶも、同様にその首は瞬時に刎ねられていた。たちどころに周囲が朱に染まる。
「手際がいいな、カッツ」
スタンセンの言葉に、カッツと呼ばれた少女はニヤリと笑みを浮かべた。
「入るぞ」
言って、スタンセンは無遠慮に扉を開けた。
そこは、広いホールだった。
「余はケンデウス王国第一王子スタンセンである。わけあって聖女シュニィに拝謁に来た」
よく通る声で、スタンセンはホール中に声を響かせた。
ピタリ、とホール内の人々の動きが止まった。冷たい空気が張り詰める。
そこへ、カツカツと足音を響かせて一人の女性が現れた。
白地に銀の刺繍が縫われた聖衣に身を包んだ、長く美しい金髪とブルーグレーの瞳が印象的な、透明感のある女性だった。
「
見た目の柔らかさとは違い、毅然とした声で聖女シュニィはそう名乗った。
「そこまでの強い邪悪の気配を隠そうともせず、この修道院に何用ですか?」
キッと軽蔑のまなざしでシュニィはスタンセンをねめつけた。
「ほう……これはこれは、噂にたがわぬ強力な力をお持ちのようだ。しかも美しい」
ニヤリと口角を上げながら、スタンセンはまるで獲物を眺めるかのようにシュニィの顔をじっくりと眺める。
「何者なんですか?あなた達は」
「だから言ったであろう。ケンデウス王国第一王子スタンセンだ、と。聖女シュニィ、我々をこの修道院の地下へ連れて行ってくれぬか?」
シネッサ聖女修道院の地下には秘密がある。それは、トライスタの修道院が建造されたのと同じ理由だ。つまり、魔王が封印されている。封じられているのは、魔王序列第七階位である苦悩する乙女カッツエル。
そしてスタンセン、いや魔王序列第一階位・恐怖の帝王レーヴェウスの目的は、そのカッツエルの解放にあった。正確には、レーヴェウスがトライスタの地下で魂を封じられていたのとは異なり、カッツエルの場合は魔王としての肉体が封じられている。そしてその魂は、今レーヴェウスの後に控えているカッツと呼ばれた少女である。つまりは、この少女は地下深くへもぐり、己の本来の肉体を取り戻さねばならないのだ。
そのためには、このシネッサ聖女修道院の遥か地下深くにある迷宮への封印を解かねばならない。この封印を穢すことによって。
「お断りします。これ以上あなた達をこの修道院に居させることを看過するわけにはゆきません」
シュニィは断固たる口調でそう言い放った。そして、その言葉に続けて右手のひらをレーヴェウスに向け、祈祷の言葉を呟いた。
瞬間、レーヴェウスの目の前に六文字の聖典文字と共に六芒星の描かれた銀色に輝く結界障壁が浮かんだ。
シュニィがその手のひらをさらに押し出すと、その動きに合わせ結界障壁がレーヴェウス達に向かって前進する。
「案内してはくれぬ、と」
そう呟きながら、レーヴェウスはその結界にシュニィと同じように手のひらを向け、そしてその手のひらを、まるで何かを握りつぶすかのように閉じた。
と同時に、まるでガラスが割れるかのように結界障壁が砕け散った。
「聖女シュニィ、おまえは誰を相手にしているのかわかっているのか?」
シュニィの顔に恐怖の色が浮かんだ。
「地下へ案内するんだ」
レーヴェウスの言葉に、シュニィは足をガクガクと震わす。
「貴女の苦悶の顔、そそるわね」
レーヴェウスの横で、カッツが興奮を隠さずに言う。
「案内せよ」
ついにはレーヴェウスが怒声を発した。
シュニィはその声に震えながら、ジリジリと後ずさる。歯を食いしばりながら、シュニィはついにレーヴェウスの恐怖に打ち勝てぬまま振り向き、ゆっくりと足を進めた。
そして修道院の奥にある地下行きの階段を前に、シュニィは足を止め、震えながら
「こ、ここが……地下の入り口、です」
「おまえが先導せよ」
レーヴェウスは容赦なく命ずる。
もはやシュニィに逆らうだけの心の余裕は無かった。この恐怖には打ち勝てない。私はこの恐怖に絶望するしかないのだ、と。
だが、これは彼女が味わう恐怖のほんの始まりにしか過ぎなかった。
階段を降り切ると、広めの円形の部屋に出た。まったく何も置かれていない、ただの行き止まりの部屋に見える。
「部屋の中央へ行け」
レーヴェウスの命令に、シュニィはおずおずと足を進めた。そして部屋の中央につくと、ガチガチと震えながらレーヴェウスの方を向いた。
「よろしい」
レーヴェウスの言葉に、その横でカッツがニヤついた。その後ろでは、鎖につながれた魔導士がこれから起こることを予期してか、シュニィと同様に絶望の色を浮かべていた。
レーヴェウスは正面に立つシュニィに右手のひらを向けた。するとその手からは紫色の光が四条走り、それぞれがシュニィの両手、両足に一本ずつ絡みつくと、光は魔力の鎖となり、シュニィは部屋の中央で下半身がやや前方に位置するように固定された。
「カッツ」
レーヴェウスが少女を促すと、その少女はシュニィの真正面に立ち、右手の人差し指をシュニィの首元へ向け――それをスッと真下に下ろした。
と同時に、シュニィの服が中心から切り裂かれ、乳房から陰部までがさらけ出された。
手のひらにおさめるに程よい大きさの乳房に、何の穢れもない薄桃色の乳輪と乳首が美しい。肌の色はその顔同様に透明感に溢れ、まだ穢れを知らない陰部は頑なに閉じていた。
シュニィの顔に、恐怖に加え恥じらいの色が浮かぶ。
「いい表情ね、聖女様。ゾクゾクしちゃう」
カッツが淫靡な笑みを浮かべながら、左に避ける。すると、レーヴェウスが満足げな顔でシュニィの正面に歩み寄った。
「穢れを知らぬイズニフの聖女――極上だな」
「イ、イヤ……」
シュニィの目に涙が溢れる。
「またその涙がそそる」
レーヴェウスは言うと、シュニィの下腹部に人差し指を当て、ゆっくりと小さな七芒星を描いた。その筆跡に合わせ、紫色の光がその下腹部に輝いた。瞬間、その光が広がり、シュニィの下腹部に淫紋が刻まれた。
「聖女シュニィ、おまえは余との間に子を為すのだ」
レーヴェウスはシュニィの両太ももを抱え上げた。
「イ、イヤアァァァッ!」
絶叫に近い悲鳴がシュニィの口から吐き出された。
「最高の悲鳴ね」
カッツの顔がますます淫靡に歪む。そしてその目線はシュニィの顔から、レーヴェウスの股間へと移る。
そこには若々しく屹立する男根があった。
「素晴らしいモノをお持ちね、レーヴェウス?」
「乙女とは思えぬセリフだな、カッツよ」
言いながら、レーヴェウスはその男根をシュニィの女芯へと当てがった。
「イヤ、やめて!お願いだからやめて!」
泣き叫び、シュニィは激しく頭を左右に振る。その動きに合わせ、乳房が弾む。
瞬間、レーヴェウスがシュニィを貫いた。シュニィの下腹部の淫紋が激しく光り輝く。
「イヤアァァァーッ」
広間中にシュニィの絶望と破瓜の叫びが轟いた。
何度もの行為を終えた後、ぐったりと頭を仰け反らせたシュニィをそのままに、レーヴェウスは鎖でつながれた魔導士に命じた。
「さあ、この広間を聖女の血で穢したぞ、グラヴィス。封印を解け」
レーヴェウスの言うとおり、シュニィの真下の床は破瓜の血で真っ赤に穢れていた。
グラヴィスと呼ばれた魔導士はフルフルと首を横に振る。
「早くしろ、グラヴィス」
恐怖の命令にグラヴィスはガチガチと震えながら、広間の奥へとのそりのそりと進む。
そしてその奥の壁に鎖でつながれたままの両の手のひらをつけると、何やら呪文のようなものを唱え始めた。
すると、破瓜の血を中心に赤い光の線が広間中に広がり、その線が壁に到達するとガタゴトと音を立て、壁が組み換えを始めた。そして数分の後、グラヴィスがいた位置の正面に、さらに地下深くへと進む階段が現れた。
「カッツ、あとはお前に任せた。少しの間聖女は借りるぞ、あとでお前の手のものに返しておく」
そう言うと、レーヴェウスは魔力の鎖を解き、シュニィを肩に担いだ。
「任されたわ。残りもしっかり頼むわよ。それとお姉ちゃんによろしく伝えておいて」
そう返しながら、カッツ――苦悩する乙女カッツエルは地下への階段へと足を向けた。
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