第2話 やっぱり好きだっ!

 その眩しい素肌に、磁石の様に目が張り付く。


 彼女は――。


 シースルーなのだ。


 冷静になって想像してみて欲しい。日常生活におけるシースルーってどういうことかって。重ね着した衣服から薄っすらと肌が透けて見えるって、普通はそう考えるよな。正にその通りだった――わけではない。


 なぜなら、今、咲ちゃんは衣服を着ていない。上半身素っ裸の状態だ。つまり、シースルーとは薄い肌から薄っすらと内臓が透けているという意味だ。全部ではない。なんと、心臓の部分だけが透けているのだ。


 一瞬、装着したコンタクトレンズの調子がおかしいのかと疑ったが、コンタクトは正常に機能していた。そりゃそうだ、このコンタクトは『特殊』でお値段も高い。

 ひどく興奮しているのか、透けた心臓の部分が内側から曇っている。どくどく力強く脈打つピンク色に、俺の頬も同様にピンク色になる。


 ――って。


 いやいや、咲ちゃん、どういうことよ。

 興奮気味の彼女を一旦落ち着つかせて、話を訊くことにした。


「じ、実は……」咲ちゃんはぬらりと唇を動かす。


 ふんふん。

 ほうほう。

 はいはい………………っ。


 どうやら、彼女は太陽系から2億光年離れたアマテラス・ヤッパテラサズ銀河団にある、アマノハシダテハジメマシテ星という早口言葉のような星からやってきた宇宙人らしい。



「すいませんっ、内緒にしてました」



 うーん。にわかには信じがたい。心なしか眩暈もする。眉間を揉んで、とりあえず事実関係を確認せねばなるまい。



俺「本当に宇宙人なの?」

咲「はい。わたしたちの星では心臓の部分がシースルーなんです」

俺「いつ地球にきたの?」

咲「就職を機にです。ふるさとは不況でした」

俺「好きな食べ物は?」

咲「青椒肉絲です」

俺「日本語しゃべれるよね?」

咲「はい。漢字検定2級ですよ。うふふ」

俺「今は一人で日本に住んでるの?」

咲「はい。今度、うちに来ますか? 住宅手当が助かってます」

俺「ちょっと、心臓のあたりとか触ってもいい?」

咲「いきなりすぎっ」


 一連の質問を終えて、確信に至った。

 君は俺のことが好き? なんて野暮な質問はしない。

 だって、俺は――。



 やっぱり咲ちゃんが好きだっ!



 彼女が宇宙人だろうが、何だろうが、そんなもんは知らない。

 ……ごめん、嘘をついた。

 まあ……知らないことはない。少し動揺したことも無きにしも非ず。心臓だけシースルーって。そんな体ありかよって一瞬だけ脳裏をよぎったことも認める。


 だが――。


 同時に俺が彼女を好きだという事実も揺るがない。

 目の前でうるうると涙袋を膨らませる彼女の瞳に嘘はつけない。 


 もう一度、世の女性を愛する全ての男を代表して言わせてもらおう。好きな女性と自宅という密室で二人きり。そのシチュエーションが導く永遠不滅の宇宙の真理。

 その答えは――。



 やっぱり咲ちゃんとやりたいっ!



 がばっと布団のように覆いかぶさる俺。「いきなりすぎっ」と真っ赤な顔した咲ちゃんを前に、蜘蛛のごとく手足を動かそうとするが。



「あれ? なんか硬いのが当たってますよ」



 この一言で、野蛮な悪魔を賢者の己が駆逐する。


 おいおい。

 硬いのって……。


 ああ。

 そうだった。

 俺も内緒にしていたことがあったんだ。

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