第360話 入居者、回収?

        入居者、回収?

 私の原稿の封筒を手渡すと、中から原稿を上半分程取り出してパラパラと確認したシャーリーは、小声で「よし。」と言って小さく頷き、私に向き直ると、「それではまた来月、後れないようにお願いしますね、先生。」

 と言って踵を返し、今度はタカシに向き直ると、「幾つか詰めたい案件が御座いますので、来週早々にこちら迄御越し頂いても宜しいですか?」

 と、名刺を渡し、私から原稿をしっかり受け取ったぞと言わんばかりに誇らしげに、胸を張って颯爽と帰って行った。

「あの・・・エリーさん、一つ伺っても良いっすか?」

 タカシの表情は、疑問符でいっぱいと言う所だろう。

「何が聞きたいのかは分かった気がするけど、何かしら?」

「シャーリーさんって、空中にあるこの庭園からどうやって帰るつもりっすかね・・・

 っつーかむしろどうやって来たんです?????」

 やっぱそこか。

「さぁねぇ、何処からどうやって来たのかしらねぇ・・・私が知りたいわ、マジで。

 以前、他所の国へお邪魔してた締切日にも、何故かそこに取りに来たもの・・・いったいどうやって来てるんだろうね、あの子怖い・・・」

「・・・エリーさんにも判んないっすか・・・何者っすかね・・・」

「さぁねぇ、ただ、名前がシャーリーでしょう?

 まさかとは思うけど、捨離って書くんだったら少し合点がいくんだけど。」

「まさかぁ、観音様とでも言うんっすか?」

「私もまさかとは思ってるんだけどね、でもあの子、犬獣人っつー事で耳上にあるけどさ、耳の間でお団子にしてるでしょう?髪型・・・あれ、中身ぎっしり髪の毛じゃ無かったらッて想像して見なさいよ・・・」

「はは・・・はははは・・・イヤだなぁ、エリーさん、冗談でしょ?」

「でもさ、私の担当になった当時からずっと変わって無いのよ、あの髪型・・・ 近くでよく見ると前髪もどことなく螺髪っぽく見えなくもない・・・」

「わ、わぁ~! 聞かなかった、僕は何も聞かなかったですからね~!」

「私も気には成ってるのよ、もしタカシがどうしても気になるなら、私も憶測でしか言えないのはこの通りだから本人に直接聞きなさいな。」

「聞ける訳無いでしょう?」

「デスヨネェ~~。」

 しばしの沈黙が流れる・・・

「あ、そうよ、未だする事あるじゃん!」

 思いっ切り話を逸らした私。

「え? 何でしたっけ?」

「さ、お迎えに行くわよ、この庭園の住民になるエルフ達を。」

「ああ、そうでした、そうだそうだ、、お迎えに行かないとでしたよね。」

 ここはタカシも流石に私に賛同したよね、話題を変えて忘れようと言う気満々だ。

 でも、その後が続かない。

 エルフ一行をトレースしたビーコンに行き先を決定すると、話す事が何も無くなってしまった。

 シャーリーの話題を振ってしまったタカシもバツが悪そうである。

 重―い空気が流れる。

 お通夜じゃ無いんだからと、いつもの私なら出て居る所だけど、今はそんな考えに至らなかった、うーん、どうしたものか。

 何となく話しが続かない事に成っちゃったので、私は食堂の喫茶部門のメニューの材料をチャージしてお茶の時間と洒落込む事にした。

「お茶飲んで来るねー。」

「あ、はい、僕はブリッジに行ってみます、全方位見れるんですよね、移動中の様子が見てみたいっす。」

 そうよね、男の子ってこう言うの好きだもんね。

「飽きたらあんたもお茶しに来なさいな、コーヒーとか紅茶とか色々材料提供しといてあげるから。」

「判りました、後で行きます。」


 食堂の適当な席に座ると、タブレットを管理者権限にモードを変更して食材入荷モードでハコンダーZを全機起動させ、持って来たコーヒー豆と紅茶の茶葉をテーブルの上に広げると、4体のハコンダーが代わる代わる持てるだけの茶葉や豆を持って運んで行く。

 良し、新しいモードの実験も成功だ。

 これで、タカシの庭園の新たな住人となるエルフ達が収穫した食材や狩って来た魔物や動物の肉等も補給に困らないだろう。

 モードを戻して、今度は注文だ。

 ンッとぉ~、今日は私は、秋も深まって来たお陰で肌寒い日が増えてきた昨今ではあるけどこの空調がばっちり効いた暖かい部屋で飲むのもおつなので、アイスコーヒーの甘味を蜂蜜で付ける、ハニーコーヒーって奴でも頂くとしよう、さっき蜂蜜も食材に入れておいたのでメニューに載って居るはず・・・

 ああ、あったあった。

 アレンジアイスコーヒーのジャンルの最後に表示されてる。

 タップすると、ものの数十秒で用意が出来たらしく、並んで停止していたハコンダーZの一号機、赤いボディーとフェイスの左右にちょっと凹みの有るのが特徴のKANAKOが動き始めた。

 蜂蜜の入ったピッチャーとホットコーヒーが入ったデキャンタ、そして氷のみが入ったグラスに、ストローが付属したお盆を丁寧に運んで来る。

 さて、これを目の前で淹れてくれるパフォーマンスが楽しみだ。

 私の前にお盆が置かれ、あったかいコーヒーのデキャンターに蜂蜜が注がれる。

 そして、軽くかき混ぜると、クラッシュアイスの入ったデキャンターに暖かいコーヒーが注がれ、冷まされる。

 良く冷めた、蜂蜜入りのコーヒーは、最後に氷を入れたグラスに移され、ストローが投入されて完成する。

 蜂蜜の比重が重いので暖かい状態で一度溶けた蜂蜜が急激に冷やされる事で少しだけ元に戻ろうと凝固し掛けるのをこのストローでかき混ぜて溶かしながら飲むのだ。

 蜂蜜は寒いと結晶化するからね、一度溶けて居るので全部では無いけれど、飽和分は急な冷却で結晶化しようと収束する傾向が有るのでストローでかき混ぜながら飲むのがお勧めなのだ。

 そしてハニーコーヒーは甘くして飲むのがお勧めなのでどうしても飽和分があるのよ。

 蜂蜜はブドウ糖が存在しない純粋な果糖が主成分だから甘くても直接的な糖尿病などの原因とは成り得ないので私の一押しの糖質。

 良く糖質制限でダイエットするってのが有るみたいだけど、糖質を全然取らないと、体の生命維持とは一番遠い部分から徴収して脳に栄養を届けようと糖化する為に、毛根や手足の筋肉を分解して持って行くと言うある意味ダイエットでは有るけれど悪質と言える反応をしてしまうのであまりお勧めできません。

 糖質制限ダイエットをして脱毛が増えたと思う方は少なく無い筈なのだ。

 男性ならばまぁ多少剥げても良いかも知れないけれど、女性だと問題だろ?

 だから私はこうして蜂蜜を多用する事で糖質を取っている。

 まぁ、取りすぎなければ普通にお砂糖でも良いけどねw

 ケーキやパンには蜂蜜使うと形成に問題出て来たりするからお砂糖使うしな。

 生キャラメルって知ってると思うけど、アレって製法以前に蜂蜜を使う事で凝固が甘くなってやわらかい物に成るんだよねw

 塗る生キャラメルはその蜂蜜を多く使い過ぎた物です。

 時間と混ぜ続ける根気があれば簡単に作れるので、試したい方はそこらウェブ上でレシピ検索して作って見ると良いかも。

 ハッキリ言って簡単ではあります。

 スゲー長い時間掛けて煮詰めつつ混ぜ続けないとダメってだけでねw

 脱線しちゃったけど、講師居て完成したハニーコーヒーを飲もうとした所に、タカシがやって来た。

「あら、もう良いの?」

「ええ、飛空艇の方が速いし楽しかったかなーって。

 でも庭園だって悪くは無いんですよ?

 余りにも規模がデカすぎるので実感はわきませんが、それでも僕の世界樹とドライアド、それとメイドしてくれるAIアンドロイドも充実してるので快適ですしね。

 完全空調だし。」

「ああ、そうそう、サービスで庭園内に小ぶりな湖も作っといたから釣りも出来るわよ、興味あったらどうぞ。」

「マジっすか、致せり尽くせりじゃ無いですか、暇潰しにたまに釣り糸たれてようかな。」

 何とか話題も新しく構成出来て重い空気からは脱したようで良かった。

 タカシも同じ物を注文して、気に入ったらしくおかわりしてたけど、他愛の無い話をしつつようやく保護するエルフを地上に発見できた。

 回収する為に、タカシが慌ただしくブリッジ、と言うか集中コントロールルームに走って行く。

 コントロールには直接行ける転移陣作ってあるのにご苦労な事で。

 転移陣に乗って先回りしてやったら、息切らせて入って来たタカシが放心状態だったよねw

「あ、あれ? エリーさん・・・」

「あのさ、ここには繋がってる転移陣あるの、ちゃんと電脳に送っといた取説見てよね、もう。」

「すみません、基本そう言うの見ない方の人でした・・・」

「今度からちゃんと見ようね、あんたの生きてた時代よりずっと進んだ科学で拵えてるものなんだからさ・・・」

「ハイ、すみません。」

「ん、貴方の知らない機能なんかも持ってあるはずだからちゃんと読もう、今度からね。」

 反省したタカシが、電脳をフル活用して、マニュアル通りに外部スピーカーで呼び掛け、一か所に纏めるとトラクタービームで回収した。

「タカシ様、この度は、樹を所有された事を祝わせて頂きます。」

「ありがとう、僕の樹は、建物になって居るので中に住む事が出来るんだ、君達にもぜひ住んで欲しいのだけど良いかい?」

「勿論で御座います、所で、ここはタカシ様の空中庭園との事ですが、どのような事に成って居るのでしょうか。」

「このエリーさんの技で、樹と、樹が護る土地が地下のダンジョンごと地上から切り離されて浮いてるんだ。」

「本当にここは空中なのですね? 俄かには信じられないです。」

「こっちにいらっしゃい、庭園の端っこまで連れて行ってあげるわ。」

 庭園の端、この場所から一番近い所へと連れて行く。

 この庭園も例外なく結界で保護して居るので、落ちる事こそ無いが、一応実際に空中である事はここに連れて行けば理解出来る筈だ。

「さ、着いたわよ、結界で保護して居るから見えない壁みたいなのが有るけれど、下は眺める事が出来るわよ。」

 橋に立ち下を見下げたエルフ達は、腰を抜かしたように一斉に尻もちをついた。

「ね、もう安心して良いのよ、世界樹に抱かれた安住の地を貴方達は得る事が出来た。」

「そうですね、ハイエルフ様方、有難う御座います。」

「ちなみに他の里との交流は4年毎で良いかしら?

 魔法や錬金術の技術を競う祭典を企画して居るのだけど。

 その時に出会って仲良くなったらお互いに電脳のアカウントを教え合って遠距離恋愛するもよし、何方かが里を出て相手の里へ行くも良しと考えて居るのだけれど?」

「そのような場まで・・・しかし他の里は我々もあまり知らないのですが。」

「大丈夫よ、私の知って居る里だけでも、あなた達の里となるここで4つ目になるわ。

 まだまだ探してあげるから、安心しなさい。」

「そこはエリーさんにお願いしちゃってもいいっすか?」

「タカシは他力本願過ぎだと思うけどね?」

 そう言って全員で笑いあったのだった。

 こうして、新たなエルフの里が、タカシの空中庭園に確立した。

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宇宙戦争時代の科学者、異世界へ転生する【創世の大賢者】 赤い獅子舞のチャァ @akaishishimai

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