第357話 番外編23:タカシ

        番外編23:タカシ

 -タカシ-

 エリーさんの提案に乗って、僕は僕の居城に世界樹の種を植えて同一化をする選択をした。

 結果、完全に同化が終わるまでは寝床だった建物への侵入が不可能となった為に、飛空艇に寝泊まりをしている。

 でも、以前より今の方が快適なんだよね、このままでも良い気がして来た所だったんだけど、かれこれ二週間、同化が、今日、たった今終わったらしい。

 終ったら内部のチェックしに来るって言ってたから、もうすぐエリーさんが来るはずだ。

 エリーさんが来るまで、僕の自己紹介をしてみます。

 前世の名前は、田中隆史

 愛知県東海市出身。

 東海市って言うのは名古屋のお隣にある、居住区と農耕地が多めの一寸した田舎だ。

 実際僕の家の裏の方で、フキが作付けされて居た。

 僕はエリーさん達とは少し違う方法でこの世界へやって来たんです。

 中間テストが終わった最終日、いつもの帰り道、友達とオンラインゲームの待ち合わせをして、逸る気持ちから、いつもと違う道、かなり狭いけれど通れない事は無い、小学生の頃までは良く使って居た路地を抜けようとしたんだ。

 ここは何故か土地の権利者が不明で中途半端に隙間が出来てしまった物だと父から聞いた事がある。

 横向きに侵入してそのまま蟹歩きのようにして進まないと通れない。

 ボストンバッグを背負う形で使って居る僕は勿論そのバッグを降ろさないと通れないので、右手に持ち替えて侵入する。

 何でこんな狭い所を通った方が近くなるかって言うと、迂回するとどっちに迂回しても4軒ほどの家を大回りしないと成らないからだ。

 その路地を半分ほど進んだ辺りだろうか、突然足場が消えた。

 穴等は開いて居ない筈なんだけど、何故か突如として足に地面の感触が無くなったんだ。

 その異常事態の直後、意識が途切れた。

 僕が意識を取り戻すとそこは周囲に何も無い真っ白な空間だった。

 そして、突然目の前に現れた変な恰好したおっさんに声を掛けられる。

 すっごく胡散臭いオッサンだったけれど、今僕が居る場所が何処なのかも、どうしてそんな所に居るのかの説明も出来ないような空間だったし、そのおっさんの言う事を信じるしか無かった。

 オッサンの名前はアスモデウス、地球とは違う世界の神様って奴、らしい。

 今ハマって居るオンラインRPGのような世界を、発展させる為の協力をして欲しいと言われた。

 ちなみにハマって居るオンラインRPGって言うのは、有名なドラゴンを狩る奴、そう、一狩行こうぜってキャッチフレーズの奴だ。

 RPG内の世界に似た世界って、興味はかなりあった。

 でも冷静によく考えれば当然こんな疑問にぶち当たらずは居られない。

 そうだよ、何にもねぇ世界っつー事じゃねぇか!?

 街や集落はあっても、テレビもラジオも、パソコンや、まして携帯ゲーム機ですら存在しないって事だ。

 そんな世界で俺に、何しろって言うんだ?

 俺、料理だって家庭科の授業でやった事の有る奴くらいしか作れないし、家も無いし、何処で寝れば良いんだ?

 しかもオンラインRPGで待ち合わせしてるし、どうしてくれるんだ?

 折角試験休み中に狩りまくってやろうと思ってたのに。

 僕はおっさんに尋ねた。

「発展させるって言ったって、僕は只のゲームとライトノベル、それとアニメが好きな中学生です、僕に一体何が出来るんです?」

『君には、錬金術師と言う特別な技術職を与える。

 ある程度の構造と使い方等をイメージすればその通りの者が、アーティファクトとして結実する。

 例えば、どの程度の治療が出来る回復役、とイメージして必要な量の素材を用意すれば等価交換でそんな夢の回復薬が完成するのだ。』

 突然の無駄に大雑把なファンタジー設定に一瞬思考が停止し掛けてしまった。

 そんないい加減な想像力だけでそんな魔道具やポーションみたいなものが出来てたまるかって思ってた。

 でもその自称神様は、でもそれが出来るようにしてやると意味が解らない事を言い放って、強引に僕を転移させたんです、ヒューマンではなく、何故かいきなりハイエルフとして。

 その後は、結局僕のそんな適当でいい加減なスキルが原因で弾劾される事に成ったって訳なんだ。

 皆が魔族と呼んで居る僕のホムンクルスは、僕のそんないい加減なイメージを具現化するだけで出来てしまうホムンクルスで、彼らは僕に言われた事は命懸けで実行するし、全力で僕の事を護ろうとするんだ。

 何でかは知らないけど、きっと僕が追われていて困って居るのが創造時に強く反映しちゃったのかも知れないって、今なら思い付く。

 で、僕がはじめに作った“魔族”は今エリーさんのドライアドに世界樹と同一化されてるあのビルを作って引き籠る時、力を使い果たして、魔素の空っぽな魔石になってしまった。

 その個体は、ずっと僕を逃がす為に色々と尽力してくれた。

 今度エリーさんに会った時に、事情を話してこの魔石を元に彼女を生き返らせて貰おうと思ってる。

 多くのホムンクルスを作って、ダンジョンコアを持たせて各地へ送り込んで追手を眩ませる手は、彼女の提案だった。

 彼女は、別に好きだったとかではない、むしろ、僕の母親代わり、僕から見てお母さんのような存在だった。

 身の回りの世話も、彼女が生きていた間、ずっと彼女がしてくれて居た。

 これからエリーさんが来るから、頼んで見るつもりだ、この魔石の魔族を復活できないかって。

 さ、そろそろエリーさんがこの飛空艇の付近まで来たらしい。

「エリーさん、お待ちしてました。」

「よっ、久しぶり。

 私の置いて行ったAIアンドロイドはちゃんと働いてるようだね、飛空艇内が綺麗だ。」

「あの、エリーさん、ちょっと酷く無いっスか?

 いくらなんでも僕だってそこまで散らかし放題にはしませんよ?」

「まぁ口では何とでも言えるわな。」

 うう、完全に舐められてるよね、僕。

 まぁでも確かに部屋の掃除を怠っていた僕が何言ってもエリーさんから見れば信憑性が感じられる事は無いだろうから、これ以上ツッコむのは辞めた。

「実はですね、エリーさんに一個お願いしたい事があるんですよ。」

「ん?何かな?」

「コレなんですけどね・・・」

「あんたの作ってるホムンクルス、魔族のコアみたいね。」

「知ってたんですか?」

「知ってるも何も、元勇者のカイエンを治そうとした時に、私に絡んで来た魔族から始まって色々と何体か世話してやったけど。」

「そうですか、その節はご迷惑おかけしました。」

「まぁ、あんたの経緯とか、あんたの日記が開く事が出来たお陰で大方の事情は把握したし、ホムンクルスの扱いに少し怒った事もあったけど、ホムンクルス達の創造主たるあんたへの愛故の事だったって判ったし、咎める事も無いわ、で、そのコアは?」

「僕が初めて作った、魔族型のホムンクルスです。」

「あなたが魔族型のホムンクルスを作ったのは弾劾されてからの事よね?

 と言う事はそのホムンクルスが全ての魔族型の原型で、長と言う事で間違いは無い?」

「はい、僕はこのホムンクルスの手引きであの場所まで逃げる事が出来たんです。」

「成程、貴方が自分の身を護る為にあの魔族達を作ったのも、その魔族の提案だったのね。

 そのコアに残る思念が伝わって来るわ。

 貴方の事を愛して居たみたいね。」

「僕も、それは感じています、お母さんみたいに世話を焼いてくれたので。」

「で、その魔族を復活出来ないか、と言う事なのね?」

「はい、それがお願いなんです。」

「断る。」

「え?」

「断るっつったの、聞こえなかったとは言わせない。」

「何でです?」

「そのコアを保有していた魔族ホムンクルスは、貴方の追い詰められて歪んで居た心で貴方が生み出した、貴方にとって最高に都合が良いホムンクルスなの、そしてそのホムンクルスは、貴方の為ならば何だってするわ。

 ハッキリ言って危険なのよ、その子は復活させてはいけない、貴方にとってはぬるま湯で気持ちが良いかも知れないけれど、その子は貴方をダメにするわ。

 でももう貴方には私やテディーと言う仲間が居る、だからもう必要が無い筈。

 もしも貴方がそのホムンクルスに御執心で、その子に依存をするならば、私はそうしてもう一度引き籠った貴方を殺さなきゃ成らなくなるかも知れない。」

「何でそんな事に成るんです?

 僕はこいつを、今度は大事にしてやりたいと思って・・・」

「だからこそよ、依存しすぎて貴方がダメになると言って居るの。

 その子の愛情は貴方を狂わせる。

 貴方の為に自らの身を削ってホムンクルスを生み続けるわよ。

 しかも今度は私が貴方に教えた魔法の技術を駆使して。

 本当の魔王になるつもりならば復活させてあげるわよ、勇者や、大賢者たる私の手で殺されたいならね。」

「・・・判りました・・・このコアの魔石はエリーさんに預けます。」

「ん、物分かりが良くなって宜しい、流石、伊達に200年以上こっちで生活してた訳じゃ無いわね、少しは人生経験積めたみたいじゃない?」

「いえ、エリーさんに殺されるって、そんな恐ろしい事想像したくも有りませんから。」

 思わず笑いが込み上げて来て、笑った僕を見たエリーさんが、こう言った。

「貴方、テディーと結婚しなさいよ。

 あの子結構辛辣だけど貴方にはとってもお似合いだと思うわよ?」

 はい???

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