第345話 エクスカリバー?(後編)

        エクスカリバー?(後編)

 MkⅢの通信をご飯中だから後でと言い放って放置した私は、これで心置きなくご飯が食べられると、安心して注文用タブレットを操作する。

 今日は何食べよかな~。

 なんて考えながらメニューをチェックして居ると、そう言えばまだ食べた事無いメニューがあったわね。

 極力自分で作る様にしてた事も手伝って、まだオートクッカーでいつでも提供されるもので食べた事が無い物が幾つかある事に気が付いてしまった。

 その中でも、気になったのは、ポークチャップ。

 ポークステーキをケチャップベースのソースで頂くあれだ。

 何の変哲も無い、誰が作ってもそんなに味に差が出ない、筈の、それ。

 でも私が作るととんでもねぇ美味くなるのだ、隠し味が有るからね、秘密の。

 それを再現した奴、普段私は自分で作らない時はパスタがお手軽で多くなる傾向が有るからなかなか食べないもんだから、たまたま目に付いたコレにする事にした。

 ハコンダーZ LENIがそのとても眩しい水色のボディーをこれ見よがしにくねらせながら運んで来た、うーん、我ながらこの配膳ロボは少々凝り過ぎな感があるなぁなんて思いつつ、マカンヌのネーミングセンスにも少々の疑問を感じつつ冷めた目で眺めている。

 何だかなぁ、マジで。

 そんなアイドルが居たとかマカンヌが言うのだが、私はアイドルとかはあんまり詳しくねぇんだっつーの。

 アニメに関しては400年分位ほぼ網羅したけどさ。

 まぁ、一番面白いと思って居たのはマカンヌの生きた時代に重なってたからあの変態主婦的には私はそっちにも詳しいと思い込んでたらしいのだけどねw

 ポークチャップと一緒に注文した、強引に再現してみたこーらを一口、う~ん、懐かしいと言うか何と言うか。

 ポークチャップも何気に私は懐かしいと思う食べ物だったりはするのだけれどね、でもあまり良い思い出では無いのが玉に瑕。

 でも、うん、美味しい、私のレシピだけの事はあるよね。

 ちなみにソースのレシピは秘密なので、今回はお料理教室しないからねw

 汗だくで多々良の前に詰めてたからさ、コーラをお替りしながらポークチャップを頂いたら、MkⅢが煩そうだからこっちから連絡してやる事に。

「お待たせ~。」

『ねぇあんた、何あの剣、魔法剣するととんでもない事に成るじゃん。』

「お、早速試して見たんだ、面白いっしょ?」

『何かアンタに出抜かれた気分だわ、作り方教えなさい。』

「だが断る、ドワーフに教わった技術なんだぜ、良いだろ?」

『くぅ~、なんか負けた気分だわ。』

「どうせお互いに本体に情報上げちゃえば統制されて私もあんたの刀打てるようになるだろうし、私の聖剣もあんた作れるようになるんじゃない?」

『そうだろうけどさぁ、私も勿体無くて本体に情報上げて無いんだわ。』

「でしょう?だから私も上げない。」

『で?カレイラ用の聖剣、作ってくれてるんだって?』

「勿論、何ならカイエン用も作っても良いけど、アイツは全身義体だし普通のオリハルコンで良いかなっても思うわ。」

『あ、私的にもカイエンに入らないと思う、なんか物持ちが良くてさ、大事に使い込んで自分に馴染むように成長させてる?らしいよ。』

「うわ、ある意味職人だわ。」

『だからカイエンはほっといたって。』

「そうする、キースも今ので十分なんじゃ無いかな?」

「ああ、キースはね、今使ってるのが私の高周波振動ブレードの奴だから、定期的にメンテして修理してやってるからほっとくと良いわよ。』

「あんたそんなのつかわしてんの?ヤバすぎでしょう。」

『あんたの聖剣に言われたくねぇわ、何だあの切り口が鏡面仕上げな剣は、出鱈目すぎでしょうが。』

 そうなのだ、あの聖剣にマナ流して使うと、岩とかぶった切って見たら切り口表面が鏡面仕上げみたいにつるっつるになるのよね・・・

「ヤッパそう思う?」

『とにかくカレイラのエクスカリバーは任せたからヨロシクな~。』

 勝手に名前付けられた、っつーかまんまじゃねーか、その名前。

 まぁ良いけどね。

 さて、っと。

 後半の形成、いっくでぇ~!

 気を入れ直して後半の形成にもう4時間かけて、10歳になって身長も伸びて来たカレイラの為のこれまで以上の細身のロングソードを打ち出し、仕上げのドワーフの技に取り掛かる。

 驚くなかれ、アマルガムを良く剣身に塗り付けると、一時的に青白いミスリル剣風の色合いになったその刃が何とも艶めかしい、ついこのまま乾かしてしまいたくなる所だが、ここにオリハルコンのメッキを仕上げなければこの表面加工は成立しなくなってしまう訳だが、ここで剣を吊るしてアマルガムを良く落とす、一度塗り付けると二度目の塗りで馴染みやすく成るからだ。

 少々風に当てて丁寧にアマルガムを落とした後は、もう一度アマルガムの水槽にイン。

 良く馴染ませるように水槽内で剣を揺すり、ゆっくりと引き上げると、何とも言えない艶っぽい刃が上がって来るが、これで終わりではない。

 高温で加熱したオリハルコンを、オリハルコン製の私特製のフードプロセッサーみたいな魔道具に突っ込むと粉砕して行く、キンキンと硬そうな音が無くなるまで細かくしたら、そこに揮発性の油脂と膠を混合した特製の液を混ぜて行く。

 配合比率は私は聞いて知って居るけど秘匿なので言えない。

 完成したメッキを、ガンちゃんが自力で開発して既にこの世界にあったと言うスプレーボトルに入れて完成。

 さて、完成したオリハルコンメッキスプレーを剣身に吹き付けて行くと、ミスリルアマルガムが凝固してオリハルコンメッキと同化を始める。

 こんな簡単な事でまさかマナを流す事が出来るオリハルコンの剣が完成するだなんて誰が思い付いただろうか。

 ガンちゃんも本当に偶然だったって言うから誰もそうなると思って作った奴は存在しないだろうね。

 私みたいに科学検証的に理論的にどうしてこうなるのかって理解して作ってる訳じゃ無くて、感覚的思い付きでやって見て偶然完成するって所がこれまでのドワーフらしい技術だったんだろうけどさ、すげぇよね、なんとなくでこんなスゲー物作っちゃうんだからさ。

 オリハルコンメッキでミスリルの色が完全に隠れてオリハルコンらしい白い剣身になったら完成。

 オリハルコンの剣身ってマジで真っ白だからさぁ、例えるならセラミック包丁みたいなんだよ、まぁあれより光沢が有るからそうでは無いって認識も出来るんだけどね。

 それで、ガンちゃんの直伝の研ぎ技で、指先にマナをこう圧縮率で纏わせて刃を付けて行く。

 これでもうこのオリハルコンの剣は研ぎも二度と要らなくなる、らしい。

 次に完成した剣のサイズに合わせて、鞘を作る。

 先に鞘作っちゃっておくなんてガンちゃんみたいな器用な真似は出来ないからねw

 私ならではの鞘を作るとしよう。

 所々に装飾の金具を付けたいから、先ずは金の装飾品を、後からサイズの微調整が出来るように拵えて、バルサ材二枚で形成した鞘の外郭に、剣の納まる空間を削り出し、カレイラに似合いそうなパール色に塗り、一本の鞘の形に圧着して、装飾を巻いてギュッと締めて時間固定、で、時間を停止した物では無いか用に見せかける為の補強の紐でしっかり撒いて見て気が付いた。

 あ、これ、MkⅢの一言のせいで私自身も無意識にあの剣をイメージしてたなーって・・・

 そう、見た目が、アーサー・ペンドラゴンの聖剣エクスカリバーの鞘とそっくりになってたんだよね。

 しゃぁねぇから、剣の銘もエクスカリバーにしちゃった・・・

 はぁ、つい勢いで付けちゃったよね~、MkⅢの誘導で何だか本当にそんな大それた物打っちゃった気になってたよ。しゃぁねーからペンとドラゴンの装飾追加しとくかw

 良し、完成したし、これは私が直接カレイラに届けるとしよう。

 私の飛空艇は他の並列存在の物と比べても圧倒的に速いからすぐ到着する。

 ナノマシンGPSで目の前まで飛んで行くと、たまたま偶然か、ベヘモスと戦う一行、微妙なタイミングで来たらしいね・・・

 アキヒロがレーバテインで頑張っては居るけれどな。

 カレイラは何処に居る?

 あ、居た居た、魔法剣が使えて無いねー、もう少しで現地上空だからここからフェンリルギア射出して届けてやろう。

 いそいで格納庫に転移した私はフェンリルギアをロボ形態に変形させて装着し、カタパルトに乗ると、射出口ハッチを展開して自分を射出した。

 あ、カレイラが押されてる、間に合えよ~。

 ギリギリ間に合って、ベヘモスの爪がカレイラに届く直前にカレイラの前に割って入る事が出来た。

「え、エリー師匠!?」

「お待たせ、カレイラ。

 ちなみに私はMkⅣだよん。

 これがあんたの新しい剣だ、聖剣エクスカリバー。

 アキヒロのレーバテインと同じくオリハルコン製だけどマナが流せるからね、魔法剣使い放題よ!」

 フェンリルギアのバックパックから剣を下げて手渡すと、カレイラは急ぎ剣を受け取る。

「す、凄い、重さも前より軽くなったみたいに感じるけど、何より剣から伝わってくるポテンシャルが半端じゃ無いです!

 これなら!」

 しかしこの世界の10歳って大人びてるよねぇ、私なんか10歳じゃ未だ初潮すら来て無い頃だっつーのに。

 剣を抜いたカレイラは、早速魔法剣を無詠唱で発動させる。

 何時の間に無詠唱使えるようになったのよ、この子ってば。

 雷撃を纏った剣は、驚く程の輝きを放ちつつ、周囲にプラズマ球をも伴って居る。

 とんでもねぇな、この剣、我ながら最高傑作と言って良いね、まだ一人で打ったの初めての一本だけどさ。

 ミスリルをあしらったブーツにも雷を纏ったカレイラが、父親のカイエンすら凌ぐのでは無いかと言う速度で動き、一瞬でベヘモスの首を切り落とした。

 益々強くなってるじゃん、恐ろしい子っ!

 あ、私のせいでも有るのか。

「MkⅣ師匠だったんですね、助かりました~、急にベヘモスの群れに当たっちゃって、皆手いっぱいだったので。」

「カレイラ、遅くなってスマン、レーバテインより先に打ってあげればよかったね。」

「いえ、アキヒロさんの方がそれまで普通の剣使ってたので順番は間違って無いですよ。」

「しかし良いのかなぁ、私、一つのパーティーに二人の聖剣持ちってとんでもないもん作り出したかも知れん。」

「そこは元々とんでもないパーティーなので気にしない方が良いと思います。

 元勇者に、忍びマスターのクノイチ、2本の大剣を振ったり、ドラゴンを使役する長刀使いの英雄に、魔法で傷を癒せてしまう回復魔法使いにして格闘技の全てをマスターした超戦闘的な聖女、拳聖オーブに次世代勇者、これだけでも既に魔王も敵わないでしょう?

 聖剣二本在ったって良いじゃ無いですか。」

 カレイラもかなり毒されて居る事が良く判りました・・・

「ああ、それはそうと使い勝手はどうだった?」

「とっても良いです、今までの剣よりずっと魔法の乗りも良いです。」

「だろうね、ドワーフの技術を教わって作った剣だからな。」

「MkⅣ師匠の鍛冶の師匠にもお礼が言いたい気分ですよ。

 最高の剣です、これ。」

「他の魔法も乗せて見せて欲しいんだけど、良い?」

「はい、先ずは、水。」

 深い青色に包まれた剣身と、その周囲を渦巻くように取り囲む水の粒子・・・

 ヤバいね、これ、もしかして名前が悪かった、もとい、良すぎたかも知れない。

「土。」

 黄土色?と言うかベージュに近い色に剣身が輝き、剣の周囲にダイヤモンドとしか思えない輝く結晶が・・・

「火。」

 以前にも見たとおり、赤黄色く輝く剣身と、その周囲から溢れる熱気による逃げ水。

 ただ、レーバテインよりも輝きが強い気がする。

「風。」

 驚いた事に、剣身は風に溶け込むように見えなくなった。周囲の風を取り込んで行く形で剣身の代りに鍔からツイスターが出て居るような感じのビジュアルになった。

 なんかとんでもない魔法との親和性があるよね、元から私が魔法剣士の為にと思って撃ったからレーバテインより親和性が上がったのかも知れない。

「光。」

 うっわ、これはアレだ、ライトセイバーみたいになった、多分切れ味はそれ以上だと思う・・・

「カレイラ、もう判った、トンデモナイ事が良く判ったわ。

 もっと言うと、カレイラの為だけの剣に成っちゃった事がよ~く、嫌って程分かった。」

「じゃあ、MkⅣ師匠、もうひと頑張りしに行きます。」

「ん、私は帰るわ、リニアの工事もまだ終わって無いし。」

「はーい、じゃあまたいつか。」

「ん、カイエン達によろしくね。」

 飛空艇で帰る私は、暫くナノマシンのリアルタイム配信動画でカレイラの出鱈目な大活躍を眺めて呆然としていたのだった。

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