第342話 ドワーフの技

       ドワーフの技

 -MkⅣ-

 リニアのインフラ整備に一肌脱いでくれる8人のドワーフが、里長のエルダードワーフ、ガンテツと一緒に飛空艇の搭乗口前に整列していた。

 朝っぱらからやる気があるのは良い事かも知れないけど暑苦しい気合が周囲に漂ってる、メンドクセェな、こいつ等。

 まぁ、放置する訳にも行かねぇし、連れてくって言ったの私だから開けてやるか。

「おはようございます、皆さん元気ですねぇ、私なんかもうすっかり二日酔いで。」

 と言いつつ、搭乗口のハッチを開けると、やいのやいのと自動で開いたハッチに対しても様々な意見を飛ばし合いながら搭乗して来る。

 すごいな、この人達、見た事もない技術だろうに、それでもこうして意見出し合えるって、その道のプロって感じだよね。

 こいつら全員電脳化未だみたいだし電脳化決定っつー事で。

 技術者が増えるのは大変良い事だ。

 搭乗するなり、早速のように搭載されているドラグライダーやフェンリルギアに興味津々のようだ。

「こりゃぁスゲェ! これがこうなってこう動くのか!」

「こっちもスゲーぞ、ここから音で攻撃出来るって事か! 音波の周波数は馬鹿に出来んっちゅうことだな、こんな発想ワシには出来んかったぞ!」

「こいつは一体どんな構造になってるんだ、分解して見て良いかの?」

 おいおい、もう好き勝手すんじゃネェよ、コラそこ! バラそうとすんな!

 うう、最高の腕を持つ最高の技術者達って、私もすっかり忘れてたけどこんなだったぁっ!

 むしろ前世の私もそっち側だったっ!orz

 こうなると暴走あるのみなのよっ!

 こいつらまさしく私と同類だ。

 こうなったら今すぐ電脳化してこの船や搭載機のデーター渡してやらないと既に飛行を開始してるこの船を分解されて全員落ちる事に・・・

 大急ぎで電脳化ナノマシンを散布して電脳化を促し、強引にデータを送信してやると・・・

「おお~、そうかそうか、これがこう成るからこうなってたのか、成程、こいつはスゲェな、わしならここはこうしたい所だがよう出来とるな。」

「成程、こりゃこう言うシステムだったんじゃな?

 こりゃわしにも考え付かなんだわ、こっちは・・・そうかそうか、こりゃいい!」

 うん、一斉に反応が変わったね。

「わしはこの構造に納得がいかん!

 わしの考えた回路の方が効率が良い筈だ、直させろ!」

 いきなりバールを持ちだして内装をこじ開けようとし始めた奴が居たので羽交い絞めにして阻止する。

「こらこら! 壊すな~! 今これ飛んでんの! 落ちたらあんたら全員死亡でしょうが!」

「「「「「「「「「ん? わしらは大丈夫だぞ、頑丈さには自信がある。」」」」」」」」」

 全員口を揃えて大丈夫って言うな!

 何を考えてんのよこいつらは、ったく!

 普通の高さじゃねーっつーの!

 何とか分解癖のオッサンは阻止して、大人しくカフェルームで現地に着くまでティータイムに持ち込んだんだけど、ここでも喧々諤々と9人で言い合って居る。

 流石と言うか何と言うか、これだけの人数が集まってたのなんか、私の大学時代以来じゃね?

 何か懐かしいわ。

 あの後は殆どずっと一人だったからな、弟子取っても最大三人だった筈だからこれだけの人数はやっぱアレ以来だろうな。

 他は人数居てもアンドロイドが私の周囲を取り囲んでただけだからこんな賑やかに言い合いが出来てるのは本当に懐かしい。

 メンドクセェけど、こいつら本当に良い開発者だよ、立派な科学者と言っても良い。

 楽しいティータイムになったわね。

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 現地に到着した。

「さ、皆さん、到着しましたよ。」

「がはははは! わしらが来たからには安心するが良い! こんな工事二日で終わらせてやるわい!」

 それはいくら何でも言い過ぎだろ、おい。

 ってか、ガンテツまで此処で仕事したらダメだろが。

「はいはい、ガンちゃんはこっちね。」

「何じゃ、わしもここでリニアの工事を~!」

「だぁめ、あんた里長なんだからこんな所に詰めちゃったら誰が里の事護る訳よ、それにあんたは私に工房を見せてくれる約束でしょうに、ささ、飛空艇に戻った戻った。」

「うぉぉ~、何でじゃぁ~! 

 わしはリニアに興味が有るんじゃ~!

 何でハイエルフの小娘に羽交い絞めにされた程度で力負けしとるんじゃ~。

 おぬしどんな力しとるか! 放せ~!」

「ダメだっつってるでしょうが、ほら行くわよ!」

「ぐおぁ~!! くそっ放せぇ~~!!」

 ッたくこのじじい諦めんか全く。

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 船に乗せられてしょんぼりして拗ねてるガンテツを尻目に、MkⅢに連絡を取った。

『ねぇ、お願いだからちょっとだけ邑雅貸してよ~、エンシェントドワーフのオッサンがしょげててさぁ、見せてやったらちょっとやる気だしそうなのよ、お願いします、ちょっとだけ、ね、先っちょだけでも!』

『あんたねぇ、そんなお約束の先っちょネタまで使わなくても一瞬見せる程度なら貸してやるってば、あんたじゃ無いと抜けないと思うけどね。』

『はぁ、やっぱ駄目かぁ...って、え?』

『貸してやるっつってんの、今は珍らしくまったり過ごしてる所だしな。』

『マジ? いいの? ありがとう、だから好きよ!MkⅢ!』

『自分自身に言われても嬉しかねぇわよ。』

『じゃあストレージつなげるからお願いします。 MkⅢ様。』

『はいはい、終ったらちゃんと返しなさいよ~。』

 MkⅢから邑雅を受け取って、ストレージから取り出す。

「ほら、ガンちゃん元気出して、私の並列存在の作った刀を見せてあげるからさ。」

「む、何じゃ、この沸き上がって来るような波動を感じるぞ、お主、それをワシに見せろ!」

 そう言うとガンテツは私から一瞬で邑雅を奪い取る。

 元気は出たようだな。

「言っとくけどそれは私にしか抜けない・・・わ・・・よ??」

 アッサリと刀を抜き、波紋を目を細めて眺めるガンテツがそこに居た・・・

 何で抜けてんのよ、しかもこんなにアッサリと。

「こいつは・・・これを打ったのは何者じゃ?

 ドワーフじゃ無いのは判るのじゃが、こんな物がドワーフ意外に打てるとは思わなんだぞい。

 こいつは驚いたわい。」

「それは、私の並列存在の一人と、ヒューマンの師匠が打った合作ですよ。」

「なんと、お主、大したもんじゃな、これだけの加工が出来るのなら、もっとこの上を目指せるじゃろ。」

 そ、そうなのか?

「それはどんな?」

「よし、わしの技を教えてやる、里に戻ったらすぐに炉に火を入れるぞ。」

 やったね、成功成功。

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「良いか、それが普通のオリハルコンの剣じゃ、だが、これはオリハルコンの特性上、魔素が流せん、じゃが、こいつをこうするとどうじゃ?」

「成程、今まで私はこんな風に作ってましたけど、これだとオリハルコンの刃をそのまま流用出来るので切れ味は落ちませんね。」

「そうじゃろう? 実はな、わしらもどうしてそうなるのか迄は判らんとこいつを作って居ったのじゃが、おぬしの、電脳化と魔素の研究についての論文のおかげでやっと理論的に説明できるようになったのじゃがな、がはははは!」

「私の研究とドワーフの持って居た技術の結実ですね、これは素晴らしい、是非一振り打ちましょう、私とガンちゃんの合作で。」

「がははは、ガンちゃんか、わしもそう呼ばれるのは久々で悪い気はせんな、ええじゃろ、今から打つぞ。

 オリハルコンは持っとると言って居ったな。」

「うん、いっぱい有るわよ。 打って貰うお礼に少し置いて行こうか?」

「おお、最近不足気味で助かるわい。」

 ドワーフの鍛冶に使う玄翁は、とんでもないものだった。

 もはやバトルハンマーと言っても過言では無かったのだ。

 デケェ、こんなの一日振り続けたりするんだ、スゲーなこいつ等。

 そんなハンマーを振らせて貰った、すげー重量だ、これは力自慢のドワーフじゃ無いと一日振り続けるのは不可能だろうね。

「がははは! ドワーフ以外でそいつを振れたのはお主が初めてじゃ! 大したもんだぞ!」

 いや、身体強化で筋力上げて振ってやっとなんだが?

 体重的にも正直言って自分が振られてる気分な程だしな。

 ガンちゃんは私に教える為に、丁寧に丸々二日かけてゆっくりと仕上げてくれた。

 そして遂に、最後の仕上げだ。

「良いか、ここまで圧縮したオリハルコンは、絶対刃毀れはしない、じゃからこの剣は既に研ぎ不要なんじゃ。」

 と言いつつさっき、魔力を指先に集めて丁寧に研いでたよね、指で・・・

 じゃからな、こいつに魔素を纏わせて一撃必殺の技を繰り出そうとしても、このままでは魔素が乗らんのでスキルの技も一切使えん。

 使えるとすればスラッシュみたいなスピードを乗せるだけの技や、剣の腹で叩くだけのバッシュ系の技のようなスキルと関係無いものだけになっちまう、だが、ここからがワシらの真骨頂じゃな。

 以前に私もここまでは作り出した事で知って居たが、アマルガムを構成するよね、ミスリルって。

 そのミスリルを使ったアマルガムの水槽に剣を丸ごと漬けちゃったのだ。

 そして取り出した剣、アマルガムが良く絡みついて居るその剣に、オリハルコンの粉末を使ったメッキを施したのだ。すると、私も気づかなかった反応が起きた。

 オリハルコンメッキはメッキとして使った訳では無く、アマルガムを凝固させて剣に焼き付ける事に成ったのだ。

 こんな反応がおきるとは予想もして居なかった私は、驚きのあまり言葉を失っていた。

「どうじゃ、これこそこの里に伝わる秘奥義じゃよ。」

「す、凄い、私でもここまでして見なかったから、全く気が付かなかったわ、こんな事に成るなんて・・・」

「がはははは! これはわしがお主を信用して見せた技じゃ、他所で教えちゃダメだぞ。」

「ええ、勿論だわ、こんな凄い技は、簡単に流出させる物じゃ無いわ、この里に来て貴方に認められた者だけが打って貰える魔剣、いえ、聖剣だわ。」

「さあ、このわしの特製の鞘に入れて持って行け、おぬしとは仲良く出来そうじゃな、エルフ達はイケスカンと思うとったがな、又いつでもこの里に遊びに来い、まぁその時は又美味い酒持って来いよ! がははははは!!」

 何処までも豪快で、何処までも優しく、とことん力強い、それがエンシェントドワーフ、ガンテツだった。

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