第339話 環状リニア開通
環状リニア開通
-MkⅣ-
遂にやったわよ、開通したのよ~!
長かった、大変だった、人足の数が日に日に増えるわその給料が出ないわで金策に走ったりして、本気で色々あったわ、良い勉強にもなった気がする。
まぁ、資金繰りに困った当初は何でこんな事までしなきゃいけないんだってキレそうになったけどねw
でも良い経験には成ったよね。
思い出しただけでも本当に色々な事やったわね。
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ふた月ほど遡る。
その一報は結城晋三郎道隆からの電脳通信によって齎された。
『エリー様、大変な事に成りました。』
『どうしたの?』
『はい、この事業に、江戸や大阪の路頭に迷いつつ日雇いの仕事を求めている浪人共が集まって参りまして、予定よりずっと早く工事が終わる見込みになるのですが・・・』
『良かったじゃ無いの。』
『それがですね、良い事ばかりでは無いのです、お陰で資金が底を突きかけて居るのですよ。』
『え?そんなに深刻なの?』
『はい、もうお預かりした千両箱がほぼ空の状態になってまして・・・』
マジか、マズいな。
人足に一生遊んで暮らせる程の金子を約束するって言っちゃった建前上、前金で渡した小判一枚づつだけで底を突きかけるだなんて、どんだけの人足集めたんだ、この無駄に有能なアホの子は。
どうするかなぁ。
まず、AIアンドロイド4人娘の討伐任務の内容をチェックして、回収した素材は探索者組合に全部売ろう、その上でどうしても不足する分は・・・
睦月、如月、弥生の三姉妹を呼び戻した。
そして、マカンヌの戦闘データから算出した数値を元に、三姉妹の調整をした。
別に術札を使って魔法を行使できなくても良いから、術札は普通に手投げカードとして残して置こうかなっと。
よし、調整プランは完了。
こいつらを盗賊団にして、江戸の私腹を肥やす大名から盗みを働いて貧しい人へ施しをする義賊と言う設定で、一暴れさせる。
そこに私がそいつらを捉える為に颯爽と現れた銭形の姉御って事にして大名の味方と言う設定で高額報酬を頂き大名の資産を護る。
勿論私自身はそこかしこで有名だったりするから顔は偽装してるけどな。
これで行くか。
盗賊団の名前は、猫目党義団、これだな、三姉妹だしこれしかねぇ。
初めに一番悪い事してる奴の所にこいつら派遣して根こそぎ奪って見せ、私は二軒目から私が現れて私が来た事で半分だけで逃げて行くと言う設定にすれば私の力も疑われない、そして高額報酬を頂ける、これで決定かな?
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その晩、睦月が馬鹿げた事に犯行予告のカードをターゲットの屋敷に投げ込みやがった。
〚明日の晩、貴方様の隠し財産の全てを頂きにまいります。 猫目党義団〛
おい、確かに元ネタはかなりそれっぽい事してたけど実際にそこまでしろって指示して無いんだが??
何でこうなったんだ?
まぁ良いか、気を取り直してっと。
実際にマカンヌからのフィードバックの戦闘データはかなり優秀だったようで、次の夜、見事なまでに綺麗さっぱりと蔵の中身を盗み出してきた三姉妹だった・・・
優秀過ぎたよねぇ(遠い目)
そんで、ちゃんと義賊って設定も忘れず実行するこいつ等。
漁村の貧乏長屋の各世帯に小判複数枚づつ投げ込んで来たよね。
調べると今回のターゲットの大名は、商人と癒着した上に漁村等から過剰に徴収した物を横流しで換金して溜め込んで居た悪党だった。
フェアトレード相当の利益分と言った所かな。
物価の安い漁村等の村では小判に三枚も有れば恐らく一年近くは遊んでも暮らせる筈だ。
三姉妹で千両箱を4つづつも背負子に背負ったままで岡っ引きや旗本武士達をアッサリ撒いて逃げてしまうのだからその胆力や如何なるかと江戸の武士達も戦々恐々として噂になったのだった。
噂はあっと言う間に江戸八百八町を駆け巡り、弱き者の味方、義賊猫目党と噂が噂を呼ぶようになって行った。
12日に一度、丑の日に犯行予告のカードが何れかの大名の邸宅に投げ込まれ、翌晩には根こそぎ蔵が空にされると尾ひれが付いたとんでもない噂になるのだった。
次のターゲットとなった大名の邸宅では門番が俄かに騒がしくなるので、そこに付け込んで私が自分を売り込んで行く。
「もし、貴方がたは猫目党に予告状を投げ込まれたのではあるまいか?」
「ええい、やかましい、お主のような女に何が出来ると言うのか!」
「ほう、そのような事を言って虚勢を張るのは良いが、猫目党は女子三人の盗賊だ、そのお主らが小馬鹿にした女子に根こそぎ奪われるだけだな?
私はずっとその者達を捕える為に追いながら旅をして来た、私を頼って全部とは言わぬが財を護れたお家もあるのだが、残念だ、精々抗って根こそぎ財を奪われて悔やむが良いよ。」
「ふん!そのような事を言ってお主こそかの盗賊の仲間なのでは無いか?」
「ああ、そうかい、その様な戯言を言ってまで私を拒絶した事を精々悔やむが良いさ、では私は失礼しますよ。」
「待て女! そうやすやすと帰す訳があるまい! 盗賊の仲間め!」
「阿呆どもめ、盗品を抱えたままで貴様らの追っ手を撒いてしまう程の盗賊を唯一追い詰めて盗品を半分程も捨てて行かせた私を捕える事が出来るとでも言う気かい?」
そう言い残してさっと飛び退いて光学迷彩で姿をくらました。
「何と面妖な、消えたぞ。
妖の類か何かか?」
「若しくは今売り出し中の天女の類かも知れんが。」
「そう言えば流行り病を治めたのも空からやって来た天女だったと言う。」
お?私の姿が消えてから今更のように喧々諤々始めたか。
まぁせいぜい悩むと良い。
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翌日、もう一度あの大名の邸宅前に行って見ると、今度は掌を返したように態度が一変していた、きっと主の意向で私を招き入れると言った方向にシフトしたのだろう。
「天女殿、先日は失礼致した、此方へ。」
「私は天女などと高尚な者では無いぞ、只の猫目党を追って来た旅の者だ。」
「へぇ、そう言う事にしときます。」
こんな感じでこの家の主と面会する事に成った私は、早速百両で蔵の財を護ってやると言う交渉をすると、アッサリと条件を飲んで私を雇い入れたので、これで私は電脳で三姉妹アンドロイドに作戦の成功を伝え、シナリオ通りに半分置いて逃げるよう算段を付けた。
そして、夜になると、予告通り三姉妹が蔵へと潜入し、大名の財を盗み出そうとする所を私が追い詰める事で、三姉妹は半分程捨てるように置いて逃げ出す。
こうなると次に白羽の矢の立つ大名にも私の名乗った偽名が轟いている。
こうして、複数の汚職大名より盗み出した財と私に支払われた依頼料、それと礼金でかなりの資金が手に入ったのだった。
まぁ、私としては資金が必要だっただけであと何人汚職大名が私腹を肥やして居ようと知った事では無いので、まだ残る腐敗は放って置く事にしたのだった。
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お陰で人心掌握のいい勉強になった。
しかも、後日談的に、仕舞には将軍の耳に入った事で、盗賊団を見事追い払ったと言う名目で褒美として千両箱で3杯もの小判まで手に入れた、お陰で人足達に約束通りの遊んで暮らせるだけの金子を手渡す事が出来そうだ。
さて、開通式が始まった。
なんか私より感無量で感激の涙を流して居る結城晋三郎道隆が、横で嗚咽し乍ら感動の涙なんぞを流してる、ウザい面倒キモイの三拍子だ。
早速、もう既に試運転で乗って見て問題は無かったのは知って居るが、これで乗って回って閉会だ。
この閉会式には将軍も当然出席している、と言うか、出席する事に成って居たので、これで更に褒美が頂けたのは言うまでもない、これは本体の共通ストレージに仕舞っておこう。
こんな初日に旅行に行く算段を付けてリニアを利用した連中は、私が人足で雇って賃金がしっかり支払われた為に金があり、借金は元から無かった余裕のある者達が殆んどだったのは秘密である。
ちなみに猫目党議団は、いつしかその存在は誇張されて物語として文章になり、書き残されてしまうのだった・・・
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