第335話 ダンジョンに巣喰う最悪2

    ダンジョンに巣喰う最悪2

 そして20階層、いきなりボス部屋に成ったが、ミノタウロスがスクラム組んで突撃して来やがった、私から見りゃただの牛肉が徒党を組んで食われに来たようなもんだけどな。

 丁寧に邑雅で解体して差し上げました。

 21階層からは、もはや牛だらけ、ミノタウロスが集団だったよ。で、23階層を超えると牛の質が変わった、どう変わったかって言うとね、一旦二足歩行になった癖に、又4足歩行に成ったのよ、何が出たかってね、ベヘモス・・・この変化は強烈よね、まるで別次元なんだもん、強さ。

 邑雅折れるかと思ったわよ、マジで。

 で、25階層、ラスボス部屋だったんだけど、ここで出たのが又問題児、ティアマット・・・殺す気か、マジで。

 神格を持った牛がダンジョンで出るって何事よっ!

 頭に来たから炎龍王ファフニールでも召喚して見るか。

「我の呼びかけに答え、現れ給え、我に仇成す者をその力を持ちて焼き尽くし給え。

 我が名はエリー・ナカムラ、出でよ、我が友、炎龍王ファフニール!」

 大層立派そうな召喚魔法陣が天井と床に展開し、光り出す。

 その次の瞬間、かなりの高熱と共に、炎が沸き上がり、このダンジョンの天井の高さまでギリギリのサイズに縮小されたようなファフニールが、その炎をかき消すようにして現れた。

「おお、友よ、我の力を所望するか、良かろう、この牛を倒せばよいか?」

「ええ、流石に神格を持った牛が相手じゃ私の愛刀も鈍らでしか無いから、お願いね、焼き尽くしても構わないけど、出来ればローストビーフ程度にしてくれると有り難いわ。」

「はははは、流石我が友よ、我を料理人として呼び出したか。

 良かろう、任せたまえ。」

 ファフニールは、愉快そうに高笑いをしてティアマットと対峙すると、炎弾のブレスを5連射ほどしてティアマットを地に伏させ、その首に食らいついてその息の根を止め、私に向き直る。

「良い運動になった、感謝するぞ、我が友よ、又いつでも呼ぶがよい。」

 捨て台詞を残して、満足そうに帰って行くファフニールだった。

 さてと、ボスの攻略も終わった事だし・・・ン?

 変な音、と言うか、どっかから声みたいなものが聞こえる・・・

 ん~・・・この壁? かな?

 耳を近づけて見ると、やはりこの先から、戦って居るような音と、必死そうな声が聞こえる。

 まぁ、このボス部屋、このダンジョンの規模からしたら狭いとは思ったんだけどね・・・するとこの壁の向こうにモンスターハウス、っつーか、閉鎖部屋でも有るって事かな?

 んじゃ壊して見よう。

 土魔法でゴーレムを作って殴らせて見る事にしたけど、結構硬いな、あんまり時間が掛かると、この向こうに居る奴ら死んじゃうかもしれない。

 仕方無いな、ホーリーレイ(レーザービーム)で強引に貫通させて壊すか。

 今度はうまく行きそうだ。少し穴が開いた事でハッキリとあっちの声も聞こえるし私の声も届きそうだ。しかもホーリーレイの光があちら側に貫通した事でこっちの存在に気が付いたらしいので、この壁の反対側から離れて貰うように促して、更にくり抜いて行く。

 人が普通に通れる扉位のサイズにくり抜きが終わったので、死の部分の壁を蹴り込んで見ると、今度はいとも簡単に、その部分の壁だけ倒れて、向こう側と繋がった。

「まだ生きてる? 早くこっちへ。」

「済まない、助かった!」

 どうも6人パーティーで三人が重傷を負って残り三人だけでこの向うの無尽蔵に沸く魔獣と戦い続けて居たらしい、良く死なずに居たよな、私が来る以前に入ったパーティーって最後でも2日前だった筈だし。

 壁は大地魔法、アースウォールで塞いでおいた。

「そこの三人はここに寝かせて、直ぐに治療するから。」

「薬師、なのか?」

「残念ながら違うわ、私は、ハイエルフの冒険者、エリー・ナカムラ。

 治療魔法を行使しますからちょっと待ってね、静かに。

 ハイ・ヒール。」

「な、魔法!?」

「あんた達軽傷の人達はこれ飲んで頂戴、ポーションよ。」

「ポーションって、あの、東の大陸で作られたって言う、あの?」

「その認識で間違いでは無いけどね。」

「そんな高価なものを、すまない。」

「飲み終わったら、そこら辺で休憩でもしておいて、治療にもう暫く掛かるから。」

「なぁ、あんた、ハイエルフってだけでも珍しいけど、何者なんだ?」

「私に興味が有るの? ダメよ、私に惚れても、簡単に靡かないわよ。」

 冗談でウインクしてやる。

「いや、そう言う事では無くて、魔法も驚きましたし、このポーションも。」

「ああ、何だそんな事、これ等の技術は全て私が開発したのよ、あっちの大陸では何だか大賢者とか言われ始めてるみたいだけどね。 大袈裟よね~。」

「大袈裟か?そんな事無いと思うけどな。」

「さて、全員治療終ったわよ。」

「おお、凄いな、全員、傷も跡形も無く消えてる。」

 そこに、気を失って居た重傷だったゴツイ男が目を覚ました。

「う・・ん・・・おお、俺はどうなったんだ?」

「あ、リーダー、気が付いたか。」

「おお、俺はどうなったんだ? かなりのダメージを受けた気がするけど、・・・痛く、無いな・・・」

「そっちのハイエルフの姉さんが助けてくれたんだ。

 凄いぜ、この人は。」

「はじめまして、わたしは、ハイエルフのエリー・ナカムラです、よろしくね。」

「ああ、すまない、俺達をどうやって助けてくれたのかは知らないが、治療してくれた事と合わせて感謝する、それと、名乗るのも遅くなってしまって申し訳無い、俺はこのパーティー、”青き月の輝き”のリーダーで、フィガロと言うもんだ。

 名前のイメージで何となく解るかも知れないが、俺は元々こっちでは無く東の大陸の出身だ。」

「ふぅん、確かに印象的にはグローリーに有りがちな名前かも知れないわね、しかも貴族っぽい。」

「そこまで判っちまうか、まぁでも俺の実家は吹けば飛ぶような木っ端貴族だけどな。

 俺は元々、マーチ男爵家の六男でな。」

「そう、もしかしてセドリック辺境伯の関係者?」

「いや、セドリック家とは違う派閥では有るが、セドリック辺境伯家は実力が有るからな、良くして貰っては居たから敵対するような派閥ではないよ。」

「ふぅん、こっち来て長いわよね、貴方、セドリック辺境伯が侯爵に成った事も知らないみたいね。」

「なんと! それはどんな功績で?」

「ランクルが攻めて来たのよ、それを辺境伯の私兵と冒険者だけで阻止したの。」

「そ、そんな事が、しかし私兵だけですか。」

「まぁ私が一枚嚙んでるけどね、その話は置いといて、第四王女を娶って素敵な結婚式してたわよ~。」

「第四王女ですか、セレナ様は特にお美しい方でしたね、さぞかし素晴らしい式だったのでは無いですかね、出席出来れば尚良かったのですけど、私なんぞは実家の兄から疎まれてたので仕方ありませんが。」

「お兄さんと確執が?」

「ええ、剣の腕が私の方が優れて居たもので、少々。」

「それで家を出たのか、まぁ解るけどね。

 まぁその話はこの辺にしといて、このダンジョンから帰らないとね、あんた達がここに調査に入ってから既に3日目だからさ、皆もう死んだと思ってるんじゃないかな?」

「もうそんなに立つのか、あの部屋の罠に嵌ってから。」

「幸い、この部屋のボスキャラは私が倒したから、後はその扉を開けて帰るだけ・・・ん?

 おかしいわね・・・」

「どうした、何か問題でも?」

「うん、この先からすっごくヤバい気配がじわじわとね、もしかしてこの部屋のボスってラスボスじゃ無かったのかしらね・・・」

 まぁ、仕方無いか、行くしかなさそうだしね。

「確かに、とんでもない気配が・・・」

「まぁ、あんた達は大人しく見ててくれたら良いから、行きましょ。」

「し、しかし・・・」

「逆に足手纏いになるって言ってんのよ、私は、魔法、精霊召喚、龍王召喚の他に、格闘、剣技なんかも扱えるの、負ける要素は無いでしょう?」

「せ・・・精霊召喚?? 龍王召喚?? 魔法だけでも驚きだと言うのに・・・」

「他にもこんなのも有るわよ。」

 フェンリルギアを呼び出して、プラグスーツと繋いで人型に変形させる。

「こ、これは?」

「これはフェンリルギアと言う私の戦闘用強化魔道具。」

 完全に言葉を失って居るこいつらをしりめに、扉の前に移動した。

「さ、行くわよ。」

 戸を開けて中に入る。

 私の後を慌ててついてきた六人も、私に続いて入って来る。

 全員入った所で、勝手に扉は締まった。

「来るぞ、みんな、エリーさんの邪魔に成らない様に集まれ。」

 うん、流石にそれが一番保護しやすいからね。

 どんどん気配が濃くなって行き、霧のようなものが集まってその姿があらわになる。

「げ、だめだ! こんなの倒せる訳が無い!」

「私は平気だから集まって隅っこに居なさい。」

 現れたのは、ティアマットすら凌駕する、牛神と言っても過言では無い存在、クジャタだった。

 その上、クジャタは4体ものベヘモスの上位、エンシェントベヘモスを召喚したのだった。

 あ、これはこいつら護り切れないわ、仕方無いな、フェンリルギアをパージしてディフェンスモードでフルオートで起動させておく、それでも心許ないな・・・

 最近面倒で自分のステータス見て無かったけど確認すると、MPが150万に到達して居た、これなら行けるか?

「精霊召喚、精霊女王オールキャスト!」

 土、大地、森、水、風の五体の女王をディフェンスに、氷、雷、火、炎、光の精霊女王はオフェンスに配置した上に、更に龍王召喚をしてオフェンスに参加させる事にした。

 召喚したのは、リバイアサンと、MkⅣ由来の雷龍王、ヴォルタクス。

 相性が良いからな、大海嘯でずぶ濡れにして置いてインドラクラスを凌駕するヴォルタクスのライトニングブレスが効果大だろう。

 ここ迄召喚すると、10秒で3000程のマナがゴリゴリと持って行かれる、私はそこまでとは想定して居なかったのだが・・・

 クジャタの突進を5体のゴーレムで受け止め、

 ラムとヴォルタクスの電撃でクジャタを怯ませ、すぐさまスルティアの火魔法、イファーリアの爆炎魔法でクジャタに少なく無いダメージを与える。

 シヴァのホワイトアウトでクジャタの視界を阻害しつつウィル・オ・シェイドがホーリーレインで追加ダメージを与えて行く。

 私はと言うと・・・

 ゴリゴリと持っていかれるマナに、ランナーズハイのような状態になって居た。

「ふひひひひひひひひ、にゃんだかか体がかりゅいにょら!

 斬る斬るキルるる~!」

 邑雅を振り回して邪魔なエンシェントベヘモスを次々と屠って居た。

 4体目を沈黙させた私は、ティアマットで既に刃が通らなかった邑雅をストレージに仕舞い、新たなアダマンタイトの剣を錬成するに至る。

「ふーっ、ふーっ、ふーっ・・・錬成錬成~~~・・・」

 出来上がった剣を見て、ハイになった頭で名前を付けてしまう。

「・・・・あ、アダマンタイトの・・・剣・・・ふーっ・・・ら・・・ぐな・・・ラグナロクっ!」

 刃の重量が20g程度しかない、途轍もなく軽い大剣が完成して居た。

 しかも、ハイになった頭で思い付いてしまった銘がマズかった。

 神殺しの剣、ラグナロクの名を冠してしまったのだから。

「あっははははははははは! いっくよぉ~~~! ほいっ!!!」

 ラグナロクを、ジャンプしながら上段から振り下ろした・・・のだが。

 完全にナチュラルハイな私は、振り下ろすだけでは飽き足らず、回転して剣に振り回される事に成った。

「あははははははは! 面白ーい!」

 回転しながら徐々に左にズレていた為に、クジャタは見事な程に薄切りスライスになってしまった。

 そして戦闘が終わった事で召喚された龍王達、精霊達は一斉に帰って行った。

 そしてマナの流出が止まった事で、ハイになって居た私の精神状態も自然と元に戻る。

そして、正気に戻ってハッとし、記憶をたどって、赤面する事に成ったのだった。

綺麗に薄切りロースのように加工されたクジャタであった物をストレージに仕舞いながら、猛反省する私だった。

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