第330話 ルージア崩壊

       ルージア崩壊

 -MkⅢ-

 さてと、今の私に出来る事っつったらこの場に囚われているエルフや亜人達のメンタルケアや体調管理に尽きるよな。

 こんな全周囲から見張られた状況ではそりゃぁ精神衛生的に良い訳が無い。

 幸いな事に、中は鉄格子で仕切られてはおらず、周囲を覆う分だけで、私達は全員同じ牢へ押し込められて居ると言う事に成る訳なので、強引にまかり通らずとも全員とコミュニケーションは取りやすい。

 このメンタルケアの序でに、全員電脳化してしまって電脳通信でやりとりしてしまえば、全員一度づつのアプローチをするだけで良いから怪しまれはしないだろう。

 エルフには私が、エルフ用の炭素式量子電脳を構築させるナノマシンを、本体からストレージに送って貰い、エルフをメインにケアして周る。

 テディーには亜人達中心にケアして貰う事にして、早速状況開始。

「貴女はこの街の東の方にあった森のエルフかしら?」

「貴女は?・・・」

「私は、あなた方を開放する為に来た、旅のハイエルフ、エリー・ナカムラです、大きい声を出さずに、良く聞いてちょうだい。」

「はい、判りました、ハイエルフ様。」

 うーん、エルフって皆ハイエルフだと名前呼んでくれないのかなぁ、ザインちゃんを筆頭にずっと『ハイエルフ様』だったもんねぇ。

 まぁいっか。

「今から貴方に、力を授けます。 電脳と言う、能力を底上げする為の機関を構築すると同時に、貴方に魔法の知識を与えます。

 全員で一緒に反乱を起こし、ここから脱出しましょうね。」

「はい、ハイエルフ様、貴方様に従います。」

「では、電脳化を受け入れて下さい、貴女の承認が無いとこの機関は構築できません。」

「はい、受け入れます、お願いします。」

 今は未だ動く時じゃ無いから、こうして時間を潰そう。

 もしも皇帝自身がこの人身売買を知って居て指揮して居た場合、カイエンかマカンヌ辺りから電脳で報告が上がって来る筈、そうした時に戦力が多いに越した事は無いからね。全員戦えるようにして置く事こそが今やるべき事だわ。

 逃がす時も空中庭園を近くに呼んでおけば大規模転移魔法で一気に運べるしねっ。

 ------

 -カイエン-

 エリーの作戦通り、俺、カレイラ、キース、アキヒロの4人で、エリーの幻影魔法でエリーが捕らえた4人組の冒険者崩れに扮し、潜入する事に成った。

 マカンヌはと言うと、初めから光学迷彩で忍び込んで内部調査に向かっている。

 オーブは未だ寒さが辛いらしいので、身重のクリスの面倒を見て貰う為にスパイダーに残して来た。

 思ったよりもすんなり街門を通れたどころか、衛兵までもがグルと言う事が判ってしまった俺達は、その場でキレてしまいそうなキースを宥めながら、城の裏口へと回り、エリーとベアトリクスを両手を拘束した状態で収容施設の衛兵に引き渡し、そこから城内の報酬支給カウンターに向かい、報酬を受け取ると、トイレを借りたいと言ってトイレに向かい、そこで、既に潜入して居るマカンヌと落ち合った。

 マカンヌの調べによれば、現皇帝は、実は元の皇帝となんの繋がりも無い人物で、10年ほど前にクーデターで皇帝を引き摺り落として挿げ代わった人物らしい。

 元皇帝自身は処刑されてしまい、その親族は、この国の外れの、冬になると氷に閉ざされる辺境に追いやられて幽閉されて居るようだ。

 流石マカンヌだ、短時間で良く此処まで調べ上げる事が出来るものだと感心する。

 つまりはこの国は、滅ぼさないまでも少なくとも政府だけは倒すべきだろう。

 奴隷売買に関しての情報は、途中までしか履歴が残って居ない様で何時からどのくらいの頻度で行われて居たのかが正確には不明で、過去5年程しか遡る事が出来なかったらしい。

 だがその期間の部分だけで見る限り、現皇帝は確実に黒だったようだ。

 つまり一掃する方針で決定だ。

 ちなみに前皇帝の親族の中には、世継ぎの子も存在して居るので、まだ若いがこの国を任せるに足るのでは無いかと思う。

 一掃した後にこちらへ連れ戻して再興させると言う手が使えそうだ。

 良し、大方の方針は決まったな。

「マカンヌ、すまないがもう暫く潜伏して欲しい。」

「判ったわ、私ももう少し踏み込んで調べたい事があったから、二日ほど潜伏して見たいわ。」

「そ、そうか、二日・・・」

 何故か落ち込むカイエンであったが、まぁ気のせいと言う事にして置いて欲しい・・・(by作者)

 --------

 その二日後。

 -MkⅢ-

 何で二日間も私達を放置な訳!?

 おトイレ行きたくなる度に衛兵の目を盗んで転移して家のトイレで済ませるって離れ業をする羽目に成っちゃったじゃ無いのよ!

 後でお仕置きね、アイツら・・・

 そんな事考えてる所にマカンヌからの電脳通信が。

『エリーちゃん、御免ねぇ~、調査に時間掛かっちゃったぁ~。

 どうも以前の皇帝は、戦好きではあったけれど奴隷売買とかはして居なかったらしいわ、10年程前にクーデターを起こした首謀者が今の皇帝、そいつこそが奴隷商売を始めたらしいのよ、記録が5年前までしか残って無かったからここまで調べるのに時間掛かっちゃって、御免なさいね、不自由したでしょう?』

『まぁ、そう言う事なら仕方ないか、でも今の状況をマカンヌに見て貰いたいわよ、マジで。』

『知ってるわよ~、本当にごめんなさいね~。

 あれじゃおトイレとか困ったでしょう?』

『まぁ、かなりね・・・』

『で、エリーちゃんにも思いっ切り暴れて貰っても良いかなぁって思うのよ、私は。』

『それは良いけど、前皇帝ってどうなったの?その親族とかも。』

『辺境の地に幽閉されてるらしいわ、この城や周辺に居ないみたいだし、全部潰しちゃっても構わないわよ~?』

『それは有り難いわね、私も大隊程度の戦力は手に入れたし。』

『あの子達皆って事?』

『そうよ、じゃあもうやっちゃっても良いかな、皆爆発寸前なんだけど。』

『良いけどぉ、こっちにも指示頂戴ね? エリーちゃんが暴れるとタダで済まないから私達の動き方も考えて置いて貰わないと私達にも被害出そうで怖いのよ~。』

 成程、ってか私を何だと思ってるんだ、マカンヌ・・・

『そしたら、カイエン、キース、カレイラ、アキヒロ、マカンヌの五人は攻城戦して貰っても良いかしら?

 私達は、こんな酷い収容施設で自分達に羞恥プレイさながらの状況を楽しみ腐りやがった衛兵達を一人残らず抹殺する気満々だし、忙しいからヨロシクね。

 私が言っても絶対命令聞かないと思うから。』

『うわぁ、恨み篭ってそうねぇ・・・判ったわ~。』

『了解、エリーも発散したければこっちにいつ参戦して貰っても構わないからな。』

『ありがとね、カイエン、でも多分私はこっそり転移してトイレしてたからそこまでじゃ無いから良いわよ。』

『ハハハ、エリーさんらしいですね~、今回は私もちょっと怒ってるので暴れさせて貰います~。』

『全力出して見なさい、カレイラ、私は貴女の全力をしっかり録画しておいて後でじっくり見ます。

 多分貴女は次代勇者に成っても可笑しく無いと思ってるからナノマシンで記録しておきたいのよ。』

『マジで言ってます?エリーさん。』

『大マジよ。』

『俺の活躍も録画しておいてくれないか?後でクリスに見せてやりたい。』

『もちろんだとも、キース、任せなさい。』

『あの、僕は・・・』

『おお、そうかお前も居たんだったな、アキヒロ、自分の雄姿を客観的に見て見たい?折角先代勇者の弟子に成って鍛え直したんだからな、判らんでもない、録画しといてやるよ。』

『あざっす! 頑張ります!』

『まぁ死なない程度に頑張れば良いわよw』

『うにゃ、師匠、アタイも混ぜてよ~、そこに亜人にゃかまも居るんでしょ~? 亜人唯一の拳聖としては助けに行きたいにゃぁ~。』

『じゃあ、あんたは裏口に回って来なさい、あんたが衛兵に怪しまれたら状況開始します。

 あんたは私達の集団魔法が建物の真上から降り注いだ直後に突入して来なさい。』

『了解にゃ!』

『って事で、亜人の子達、拳聖オーブ・スフィアが参戦してくれるそうだから頑張ってね!』

『はいっ!』×22

『エルフ達は、私が指示したタイミングで使える魔法で出来るだけ強力な物を真上から降らせるつもりで撃って頂戴、私とテディー、ハイエルフ二人で私達は大丈夫なように決壊を張るから思う存分やって良いわよ。』

『はい! ハイエルフ様!』

 とうとう最後まで名前では呼んでくれなかった、恐れ多いとでも思ってるのかしらね・・・

『師匠、配置に就いたにゃ、これから裏口に凸るにゃ~。』

『判った、じゃあ、カウントダウン、5・4・3・2・1・状況開始!』

 集団魔法の発動が引き金と成って、全員が同時に動き始める。

 亜人の子達は、私がストレージから吐き出した武器を思い思いに掴んで、魔法で溶けて無くなった鉄格子の残骸を飛び越えて突撃を仕掛ける。

 エルフ達はそれぞれの親和性があった魔法を、無詠唱で発動し、亜人達を後ろからバックアップし時には衛兵に対し攻撃魔法を放って行く。

 初めの集団魔法でかなりの数の衛兵と建物の大半が焼失したが、まだ生き残って居る者は意外と多かったのである。

 状況に気が付くとすぐさま白旗を上げる衛兵も少なくは無かったが、彼女達は自分が辱められ続けて居た事に相当の怨念がこもって居た様で一人残らず叩きのめした。

 流石に私も、これは止める気には成らなかった。

 そんなさ中、建物の外に居た衛兵を扉の残骸ごと鉄斬功で吹き飛ばして、オーブがやって来た。

 亜人達がその姿を確認すると、彼女達の気勢が一気に上がった。

 このまま私とテディーの出る幕は既になさそうだ。

 ちょっと手持ち無沙汰に居なっちゃったから、戦って怪我した亜人の子達の回復にでも務めるとしよう。

 ---------

 -ジ・アース-

 -カイエン-

 エリーの状況開始の電脳通信が届いた。

 さあ、行くか。

 俺とキースを筆頭に、全員が武器を構え王城へと突撃をしようとしたその瞬間、そいつは現れた。

「ちょっと待った、随分と物騒ですよ、城に向かって武器を構えて走り出そうだなんて。」

「何者だ、邪魔をするなら、斬り伏せるぞ。」

 キースが二本の大剣を、中段と上段に構え、対峙する。

「名乗りが後に成って済まないな、私はラインハルトと言う冒険者だ。

 君達が余りにも物騒な装備を構えて走り出したので何事かと思って止めさせて貰った。」

「ラインハルトだと? そうか、貴方が英雄ラインハルトか、しかし何故こんな所に居られるのです? ラインハルト・ハリアー・アルファード様、」通称英雄王子殿。」

「止してくれ、確かにそう呼ばれはして居るが、此処に居る私は只の冒険者ラインハルトだ。」

「そうですか、ではどう言う事にして置きます。

 我々は冒険者パーティーの、ジ・アースと申します。

 俺が一応リーダーのキース、こっちはカイエン、カレイラとマカンヌ、そして今代勇者のアキヒロ。」

「へぇ、凄い面々だね、私の耳にも入って居るよ、双大剣の首狩り英雄キース殿、神速の勇者と名高い先代勇者カイエン殿、最近その腕前と戦い方で名を売り出し中の、次代勇者と名高い美しき魔法剣士カレイラ殿、そして今代勇者のアキヒロ殿ですか。

 そちらの美しいご婦人は、確かカイエン殿の奥方と言う認識で宜しかったでしょうか?」

「あらやだ、なんて正直な子なの、うふふふ。 ええ、私はこの人の妻に成ります、だから煽てられても何も出ませんよ?」

 美しいと言われてマカンヌが嬉しそうだ。

 でもちゃんと俺を立ててくれている、俺の妻が彼女で良かった。

 だが、カレイラの彼を見る目が少々・・・

 俺としてはもっとキースの様に硬派な者を好いて欲しいと思う所だが・・・

 いや、キースをクリスと取り合えと言う意味では無いが・・・

「で、その英雄王子殿がなぜ我々を止める? もうこの国の悪事位は知って居るのだろ?だからそれを正す為に此処に居た、そうでは無いのか?」

「まぁ、そう言う事では有るんだけど、私も私の策で動こうとしていた矢先なのでそれを潰されるのもあまり面白くは無いのだ。」

「成程、ではどうすれば良いかな?」

「実は私は、今日これから謁見をする事に成って居る、そこで皇帝を討つつもりだったんだ。」

「成程、つまり貴殿もこの国の悪事に関しては調べつくしたと言う事か。」

「ま、そう言う事なんだ。」

「じゃあ、こうしようぜ、あんたが先ずは謁見しに行って、その謁見中に俺達が事を起こす。

 そうしたらあんたは英雄として皇帝を護る振りをして確保する、どうだ?」

「それは良いかも知れないね、皇帝は玉座の背後に、20ものルートの逃げ道を用意している、確保が出来ていれば度の荷も逃がす気は無いからな、それで行こう。」

「そうか、ならば、カレイラ、英雄王子と一緒に謁見の間へと先行してくれないか?」

 おい、キース、カレイラは問題が・・・

「キースさん、判りました! 彼と一緒に謁見の前向かいます!」

 うう・・・カレイラ、お父さんはそいつを未だ認めて無い・・・

 少しオロオロとして目が泳いだ事を、マカンヌだけは気が付いたようだ。

『貴方、大丈夫ですよ、カレイラはちょっとカッコイイ人と思って舞い上がって居るだけで、まだそこまで彼を好いては居ませんよ。』

『そ、そうなのか?』

『ご自分の娘を信用しないでどうしますか?あなた。』

『む・・・むぐぅ・・・』

 チラッと見たマカンヌの笑顔が、ちょっと怖い、マジだな、これは。

『わ、判った、信じるとも。』

『よろしい。』

「では、謁見が始まったら、カレイラは電脳で知らせてくれ、カレイラからの通信が状況開始の合図だ。」

「了解、お父さん。」

「へぇ、カイエンさん、見た目よりかなり上の年齢なんだね。」

 ラインハルトからこんな事を言われた、普通なら怒るところかも知れないが、俺の場合この全身義体のおかげでもあるのでここは怒る所ではない。」

「カレイラ、気を付けて行くんだぞ、侵入者であるとは気づかれるなよ。」

「大丈夫よ、もう、お父さんは過保護なんだから。」

 -------------

 -キース-

『謁見始まったわよ。』

 この時すでに、極大魔法が発動されていた。

「よし、行こう!」

「カレイラ、何故お父さんじゃ無くキースに連絡を・・・」

 カイエンさんには行かなかったらしい、この通信・・・

 年頃の娘は難しいとは聞くけど、こう言う所か・・・

 少しカイエンさんが可哀そうに思えて来たな・・・

「何者だっ!」

 城門の衛兵がその手の長槍を向けて来たので、それを俺の高周波大剣で払うと、木の枝を切るかのようにスカッと小気味の良い音を立ててその矛先が落ちる。

 その様を見て逃げ出そうとする衛兵を、マカンヌが先回りして峰打ちで仕留める。そのまま一気に4人で雪崩れ込むと、どうやら謁見の間でもカレイラが暴れ始めたらしい、蜂の巣でも突いたかのように兵士達が走り回っている。

 そのままその兵士達の向かう先へと後を着いて行くとその先、謁見の間は兵士で溢れかえって居た。

 そしてその先、玉座の前には皇帝と思しき人物を剣で人質にとるラインハルトと、近付く兵士を片っ端から風の魔法剣で頃伏せて立ち回るカレイラが居た。「さぁカイエンさん、いつまでも落ち込んでないで、自分の娘に良い所見せるチャンスだぜ?」そう言うと、カイエンさんは自分を奮い立たせて一気に兵士の合間を駆け抜け、切り伏せて行った。

 流石スゲェな、この人の強さは底が見えない、俺も行くか。

 今回はヨルは呼ばないので大剣を二本構え、斬り込んで行く。

 奴隷売買の主要人物はマカンヌさんからの情報のおかげで顔は周知して居るから、1人でも多く捕えられるように突き進んで、剣の腹で叩いて片っ端からその意識を刈り取って行く。

 こうして、ついにルージアは落ちたのだった。

 -----

 が・・・

 折角とらえて置いた人身売買に直接関わって居た主要人物達だったが、皇帝以外を、恨みとばかりに囚われていた亜人とエルフ達がねちねちと三日三晩に渡ってリンチをして、全員殺されてしまったのだった。

 まぁ、それ程にも恨まれるような扱いを受けて居たのだろうと諦めるしか無かったが。

 そして恨みを晴らしてスッキリしてしまった亜人、エルフ達は、エリーと一緒に去って行った。

 はぁ、今回は、エリーに迄クレーム付けられるし、色んな意味で疲れた。

 だが、これで奴隷を買い付けた者達も判明した、俺達としてはこいつ等も許す気は無いので、全て叩き潰して奴隷を開放する気だ、これから忙しく成るぜ。

 カレイラの強さも流石だと思ったが、ラインハルト殿ともちょっと手合せして貰って、俺の強さも彼にひっ迫するほどになって来た事が判って、自信を付けた。

 まぁ負けたけどな。

 前皇帝の親族たちは、ラインハルト殿が連れ戻してくれると言うので、そっちはお願いする事にして、俺達は既に売られて行った奴隷達を開放する為に行動を開始する事にしたのだった。

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