第328話 番外編22:ルージア帝国へ

        番外編22:ルージア帝国へ

 -カイエン-

 我々は、この広大な大陸と、湿地の多い土地柄によって阻まれつつ、人狩りで奴隷売買の実行犯的な立場だったリーディアを抜け、そのリーディアを従えて居る黒幕国家のルージア帝国領へと入った。

 名前が似て居る為に割と同一国家とか言い間違いの範疇と思われがちな二国だが、リーディアはルージアの属国にして、ルージアの悪事を隠蔽すると言うか、ルージアの代りに悪事に実行犯となってルージアを護る隠れ蓑のような存在だったらしい。

 いや、おかしいと思っては居たのだ、リーディアを潰した時に暫定政府を真っ先に買って出たのがここルージアだからな。

 何処かで聞き覚えが有ると思って考えていて、ふっと思い出したのだった、エルフを奴隷にして売買している国家の名がルージアと言って居たと。

 名前が似ているが為に、我々は軽い思い違いをしてリーディアを落としたのだ、まぁ何れにしても実行犯である事には変わりないのだからそれでも同じ事ではあるが。

 リーディアの捕虜を尋問して得た情報のおかげで色々判った事もあるしな。

 元々ルージアとリーディアは同じ国であったらしい、だが南部と北部で争いが起き、分断されることとなり、独立は果たしたものの、南部のリーディアは結局弱みを掴まれてしまい、統一するのでは無く、報復的に属国扱いにされて手足の様にこき使われて居たと言う事なのだろう。

 それにしてもこれだけ大々的に組織的に人身売買なんて派手な事やってくれて、完全に俺達やエリーを敵に回したよ、この国は。

 しかもエルフを奴隷だなんて、ハイエルフとなったエリーから見たら抹殺対象じゃ無いか。

 これはエリーに目を付けられる前に俺達で解決してしまうか?

 まぁ、その手はアリだ、しかし、それ以前に少々問題がある。

 先程言った通りで、リーディアを潰し、暫定政府をギルドに頼んだ時に真っ先に買って出たのがルージアであると言う事、つまりは我々は既に彼らより目を付けられている。

 恐らくは懸賞金付きで指名手配されている可能性もある。

 こう言う悪事で国政を運営するような国家は周囲の情報を収集する事に長けている。

 何故ならばそれは周囲の国から見られる事を良しとしないからこそである。

 つまり、我々の人相や情報は既にルージア国内では情報が出回ってしまって居るだろうと言う事だ。

 それの何処が問題か位は誰にでも解るだろう、我々、ジ・アースはルージアの領内のどの町でも受け入れられる事は無いと言う事だ。

 で、まさに今、目の前に見えて来たのがそのルージアの首都たる、ミュシュカルの街壁な訳だが、当然指名手配されているであろう我々は正規の方法で入る事は不可能だろう。

 さてどうしたものか、困ったものだ。

 俺とマカンヌだけならば、光学迷彩で素通りは可能だろう。

 問題は後の4人だ。

 キース、クリス、カレイラ、アキヒロの4人は全身義体では無いので、光学迷彩は持ち合わせて居ないからな。

 いや、厳密に言えばスパイダーは光学迷彩を持っては居る。

 だがあんな巨大な物でどう街へ侵入するかが問題だ。

 むしろスパイダーを使うのであれば街壁を破壊して突破する方が楽な程だが、まさかそれをする訳にも行かない。それにもしうまく入り込めたとしても、街の至る所に似顔絵付きの指名手配所でも出回って居ればどうする事も出来ないだろう。

 偽装出来る魔法でも有れば良いのだろうが、そうなると俺の電脳に入っているエリー由来の知識では光魔法と言う事に成る。

 光学迷彩と同じように、光魔法で人相などを偽装するテクスチャを張って誤認させる、認識阻害と幻影魔法、かな?

 残念な事にクリスの使える光魔法にはどちらも存在して居ない。

 カレイラは光魔法の素養が無いしな、今の時点だけで言うならば、詰んで居ると言う所か。

 エリーに連絡を付けると言うのが一番賢い選択肢であるとは思うが、極力彼女の手は借りたくないのだ。

 夜になるのを待って、マカンヌに侵入させて、そこかしこに張り出されているであろう手配書を全て廃棄させた上で、壁を昇って侵入すると言うのが一番現実的だろうと思う。

 電脳会議の結果も、そんな作戦で纏まりつつある。

 まぁこれが一番妥当であるのは間違い無い、決まりだろう。

 ならば準備を始めるのは早い方が良い。

 行商人に見えるような服に着替え、髪の色を変え、付け髭を付けて、エリーの知識内の変装用の特殊メイク技術を利用させて貰い、少し恰幅が良さそうなメイク、をし、服の内側に綿袋を張り付けてふくよかな体つきに見せる事にした。

 他のメンバーも思い思いのメイクで、スパイダーのサークル内に集合した。

 カレイラは普通の町娘のようになって居た、クリスは幸せそうなごく普通の妊婦、キースはその旦那で紹介の若旦那風、アキヒロはあまり裕福では無さそうな青年と言った風体だ。

 ちなみにマカンヌだけは完璧に闇に紛れて行くつもりのようだ、忍び装束である。

 兎に角日が落ちる迄は後凡そ1時間程だ、最後に作戦を詰めて置く事にした。

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 作戦開始直前、何故かエリーが居た。

「皆でどうしたの?仮装行列でもする気?

 私も混ぜてくれないかしら?」

 もう少し早く来て欲しかった気もするが、ある意味最高のゲストだ。

「エリー、何でこのタイミングで?」

「いやぁ、ソロソロかなぁ~って思って、あんた達の現在地だけでもとGPSでリサーチしてたのよ。

 そしたらこの場所に留まって長い事動かないから、この近くにルージアの帝都でもあるのかなーって思って飛空艇で急いできたのよ。

 当たりだったみたいね。

 ただ、貴方達の変装だとバレバレだわよ、侵入するにも既にここで通用する身分証の偽造も出来てるから無理しないで明日の朝に堂々と入りましょ。」

 ああ、本当に何て無茶苦茶なんだ、エリーに掛かれば堂々と正面から入れるなんてな、呆れるしかない。

 だがしかし、これでこの無理やりな変装などしなくても、エリーの偽装魔法で何の問題も無く入り込めると言うものだ、悩みが無くなったお陰でゆっくり明日の朝を迎えられそうだ、今日は寝るとしよう。

「エリー、本当に助かる。

 皆、明日までゆっくり寝てくれ。」

「カイエンさん、もうこのチームカイエンさんがリーダーでいいや、俺より纏めるのうまいし。」

 あ、しまった、キースの仕事を取ってしまったようだ、すまんキース・・・

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