第303話

       リーディア共和国の落日

 ウラハッデ書記長は困惑して居た。

(一体何なのだ? 先程の城を掠めた巨大物、あれは船のように見えたのだが、何故船が飛んで居るのだ? 何が起こって居るのだ? 何故私の口車に乗せられたアホの勇者が正門から攻めて来て居るのだ??)

 騙す為に、数か月間に渡って上手く飼い慣らした筈の勇者が、自分を裏切る形で正門前の広場に、剣を抜いて先程の船より降りて来た事で、ウラハッデ書記長は何か計画に見落としが無かったかと思い直しつつ混乱して居た。

(その上、勇者と一緒に降りて来たあの化け物時じみた強さの者は何者だ?)

 偶然、他大陸からやって来た勇者を、承認してやる代わりにうまく使おうと思って下準備をして丸め込み、騙せたと思って居たのに、何故その勇者が恩を仇で返すかのように攻め込んで来たのか、全く理解出来なかったのだ。

(良い物食わしてダンジョンでレベル上げさせてやり、更には飛び切りの美女ばかりを世話係メイドとして付けてやったと言うのに、何故こうなったのだ。)

 完全にイレギュラーだった、まさかすっかり騙せていた筈の勇者をこうもあっさりと懐柔されるとは思っても居なかったのだった。

 そして、勇者は普通の戦士よりも厄介、剣技のレベルも高いが、それだけでは無いからだ。

 剣技スキルも3つ以上所有して居ないと勇者の称号は付与されないからだ。

 ウラハッデの知る限りでは、現在勇者の称号を持つ者は、ランクル皇国の第一王子、ラインハルト、先代勇者にして、些細な事で足に致命的なけがを負い勇者の座を降りた、間抜けな先代勇者のカイエン、そしてこの度称号を承認して貰いに来訪したアキヒロの三名だ。

 カイエンは怪我の為に戦える状態では無い筈だし、ラインハルトは勇者を名乗る事こそ出来ないが、英雄として旅をしており、今頃はこの大陸の西側のかなり遠方に居る筈、では今、今代勇者と並び立つ化け物は何者なのか、それを考えた所で答えは出ないのだった。

「と、兎に角あいつらを止めるのです、将軍達を総動員させなさい!」

 勇者の思わぬ反乱に理解が及ばず強硬手段に打って出ようとするのだった。

 そしてウラハッデ自身は、城の避難通路に逃げようとするが、何故か脱出口の戸が開かない。

 まぁ、裏から回ったマカンヌ達がエリーより託された速乾性セメントで固めてしまったからであるが。

「何なのだ!?何が起こって居るのだ?? 何故開かん、これでは脱出できんでは無いか!」

 その開かなくなった扉の裏では、何とか間に合ったとホッと胸を撫で下ろすマカンヌの姿が有った事はここだけの話である。他の脱出口へと向かうも、全ての脱出口が開かなくなってしまって居た為、ウラハッデは、強行手段に出た。

 二階の窓の一つから飛び降り、城の裏門から逃げ果せたのだった。

 そして、この男、用意だけは周到だった。

 城から少し離れた山裾に、奴隷を使って穴を掘らせて、そこに、ひと月は隠れて居られるスペースと食料、それと隠し財産、と言うか国庫より略取し隠匿して居た財宝等金目の物を隠してあったのだ。

(しばらく、そうですね、二~三日ほど隠れておく必要がありそうですね)

 そして、岩に偽装した戸を閉めて立てこもるのだった。

「ええい、覚えて置けよ、アキヒロ、そして謎の戦士よ。

 いつか絶対に報復してやる。」

(ほとぼりが冷めたらこの下に隠してある船でアルファードへ渡り、第二皇子の協力を取り付け反撃の機会を窺うとしましょう。)

 二年ほど前から、放浪癖のある第一皇子は皇帝となる意思は無いだろうと踏んで取り入って居たのだ、現皇帝の目に触れぬように秘かに。

 幸い、第二皇子は次期皇帝の座を狙って暗躍して居るタイプなので、利害が一致して居た。

 国が落ちるやも知れない時である以上、協力者足り得る者の力を借りるのが至極当然だ。

 幸い、資産はこの隠し坑道に全て隠してある、これがあればいつでも再興する事も出来ようと言うものだ。

 恐らくはほとぼりが冷めるまでこの地を離れてさえ居れば戻ってすぐにまた国を再興するだけの事、そんな風に考えていたのだった。

 ---------------

 ‐アキヒロ‐

 思えば、僅か一晩にして僕も強く成ったもんだとつくづく思う、ここの兵など目を瞑ってたって倒せる、エリーさんに刃を潰して貰って居るから殺しはしないけれど。

 でもなぁ、これ見ちゃうと少し自信無くすなぁ、カイエンさん、いや、カイエン師匠の強さは半端ねぇ。

 僕の三倍もの兵を僕の半分くらいの時間で倒してる。

 凄まじいよな。

 電脳では、既に逃げ道は塞いだって言うし、心置きなく無力化しながら前に進めばいい。

 ずいぶん楽に攻城が出来てしまうもんだよね、戦国戦略シミュレーションの攻城戦より楽なんじゃ無いかな?

 将軍の一人が僕の前に立ちはだかった。

「貴様、アキヒロ、裏切ったな?」

「どっちが? 僕を騙してタダの納税を拒んだ村を襲わせようとしたのはどっちです? 僕は、久しぶりに怒ってるんですよ?」

「アキヒロ、大丈夫か?」

「カイエン師匠、大丈夫です、今の僕ならこの将軍を相手でも1ミリも負ける気しません。」

「そうか、ではもう一人は俺が貰うぞ。」

「はい、お願いします、二人同時は流石に自信ありませんから。」

「判った、では、行くぞ!」

「はい!師匠!」

「行くぞ!裏切り者勇者め!」

「お前の相手は俺だっ!」

「こっちも端からそのつもりだぜっ!」

 っとまあ、こんな具合で自然と自分の相手が決定した感じで戦闘開始。

 カイエン師匠はわずか2秒で片を付けていた、すげぇ・・・

 さ、俺も早いとこ倒さないと、ねっ!

 俺の相手は、大剣を振り回して戦う、リーディア最強の将軍、シュヴァルツコフ。

 キースさんとの模擬戦を思い出して、大剣の欠点の大振りになりがちって所を念頭にさばいて、出来た隙を付く戦法が有効だろう、キースさん程スイングスピードは速く無いからさばくのもそんなに難しくは無い。

 キースさんはあんなデカい剣を片手でこの将軍より速く振り回してるけど、何者なのだろう。

 普段使って居るのは剣では無くてスゲー長い刀だったしな。

 あの人もなんだか英雄とか聞いたけど。

 そもそもあんな剣をあそこ迄自在に操ってる人に出会ったのはあの人の先には見た事ない。

 お陰で、もうこの将軍の癖も判って来た。

「さぁ! 裏切り勇者! 何時までも受け身では私に勝つ事等出来んぞ! とっとと降参するんだなぁ!」

「デカい剣振り回しながら喋れるのは褒め称えて差し上げたいですがね、もう僕には通用しません! 既に貴方の剣筋は見切りました!」

 そう言って、斜め上から振り下ろして来た大剣を盾ではじいて小手を刃の潰れた僕の剣で叩いて剣を落とさせた。

 剣先を将軍の目の前に突き出し、見下ろした。

「まだやりますか? ケガしない内に止めときません?」

「くそっ、何時の間にこんなに強く成ったんだ?

 この間模擬戦で手合せした時は俺に何も出来なかったのに。」

「今一緒に居る人のチームに、もっとスゲー大剣使いの人が居るんで、実は。」

 こうして両将軍を拘束する事に成功した僕らは城の中へと飛び込んで行った、のだけど・・・

「カイエン師匠、国家元首、居ません・・・」

「う~ん・・・脱出通路は全て塞いでるんだけどな~・・・何処から逃げたんだ?」

「あの、まさかと思うんすねど、2階の窓、あそこから飛び降りたんじゃ無いっすかね?」

「いや、この高さならそれもアリか・・・」

「仕方ないっすね、逃げられたけど、ここは落した事だし、新しい王を立ててしまえば良いんじゃ無いっすかね?」

「その王は誰を立てるんだ?」

「言われてみたら、そうっすね・・・どうしましょう?」

「仕方ない、今から追いかけても早逃げされて居てはもうどんな経路で逃げたかも判らんしな、此処までだな。」

「じゃあ、戻ります?」

「そうしよう、もしかするとエリーならモニタリングして居るかもしれないしな。」

 あっけなかった、こうもあっけなく城って落せるもんだっけ?

 ------------

 こうして、飛空艇へと戻ると、もう皆戻って来ていた。

「お帰り、中々やるジャン、流石勇者って感じだったわよ? モニターで見てたけど、あの大剣の人に一撃で勝っちゃうんだから、大したもんだわ。」

 エリーさんに褒められた。

 僕としてはカレイラちゃんに褒められたかったけど・・・

「え~、私も出てたから見てみたいな~、エリーさん録画して無いの?」

 え?カレイラちゃんちょっと興味持ってくれてるの?

「録画してるわよ、勝手に再生して良いわよ、最新動画がそれね。」

「はーい、皆見よっか。」

 ボクス君とタイカン君もカレイラちゃんに並んでみ始めた、けど、この映像ってどこから撮ってるんだ?

 どうやって映像録画してるんだろう、すっごく近くで撮ってるような映像なんだけど・・・

「さ、皆、あいつ追い詰めたみたいだから、捕らえに行こう。」

 エリーさんが唐突に核心に迫る事を言い出した。

「まさか、逃げた先が判るんですか?」

「判るわよ、城の背後の山裾に人工的に開けた穴に逃げ込んでるわね、入り口は岩に偽装した扉で閉じて有るわ。」

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