第302話 番外編21:勇者アキヒロ

         勇者アキヒロ

 -アキヒロ・タカハシ-

 僕の名前は、高橋章宏。

 幕張東中学校の2年生で、剣道部副主将、個人戦代表に選ばれた。

 父は警察官で、僕の剣道の腕前は、警察の剣道部エースの父に鍛えられてここまで強く成れた。

 今回の関東大会で、苦しくも三位に成って、全国への出場権を手に入れた、次はあいつらにだって負ける気は無い、もっと父に鍛えて貰おう、そう思いながら、学校が用意してくれた送迎者に乗って帰る途中、それは起こってしまった。

 高速道路で、逆走して来た車と、正面衝突したんだ。三位になって全国行きを決めたおかげで、ちょっと可愛いなって思ってたマネージャーとはじめて話が出来て、少し浮かれていた所に、そんな事が起こって、シートベルトをせず、真ん中に座ってた僕は、運転席と助手席の間の隙間を飛んで、フロントガラスをぶち破って社外に飛び出してしまった。

 僕の意識はそこで途切れたんだ。

 ここ迄の記憶を突然思い出したのは、5歳の誕生日だった。

 僕は世界を渡って、この世界に、過去の記憶を持ったままで転生して来たんだ。

 異世界転生の定番の、貴族の息子とかではなく、そこは孤児院だった。

 父の名前も、母の名前も、勿論顔も知らない。

 こっちの名前も、孤児院をしている教会のシスターが付けてくれた名前だった。

 きっと僕は、勇者として魔王を倒す使命を受けて連れて来られたんだ、そう思って、必死で体を鍛えた。

 この世界の神様、てっきり異世界物って女神様が定番だったしそうなのかと思って居たら男神で少しガッカリしたけど、アスモデウス様が僕を呼んでくれたんだと思って、その期待に答えようと頑張った、結果、13歳で勇者の称号が生まれた、らしい。

 鑑定のスキルのお陰で、自分のステータスも見られるようになった。

 やっぱり僕は、勇者の称号を得ていた。

 でもそれだけではダメらしく、三国以上の承認が必要と言われたので、僕は旅に出た。

 先ずはこの国の首都、直ぐに承認を受ける事が出来たので、次にグローリーへ向かった。

 その途中で、僕の他の勇者の称号を持つ人の情報を耳にしたけど、その人は某大国の第一王子らしく、勇者には成れないと言う話も聞いた。

 なら僕が承認される可能性は高いよね。

 グローリーに辿り着いて、早速謁見をさせて貰えて、その場で承認された、これで二国目。

 次は、グローリーから一番近い国を目指そう。

 アルファード皇国よりも、ランクル帝国の方が一見近そうだけど、地図の問題だろう、正確な地図がそう簡単に出来るとは思えない文化水準だし、現在居る場所からの間に高い山があって迂回せざるを得ないアルファード皇国までの方があたかも距離があるように書かれて居るだけなんじゃ無いかと思う。

 ならば、勇者の称号を持って居る僕ならば極力直進できるんじゃないか? そんな風に思ってた事もありました・・・すみませんでした、無理です。

 本格的に登山するような装備でも無いと無理でした。

 仕方が無いのでランクル帝国へと向かって見た。

 ランクル帝国は、僕が思っていたより過酷な環境の国だった。

 熱帯乾燥地域、そう、言うならば中東の地域みたいな、砂漠と荒野が殆どを占めるような国だった。

 こんな国ではさぞかし水に苦労して居るんだろうな・・・

 僕の知識で井戸位は作れるんじゃ無いかなとは思う。

 なので早い所何処かの街に入りたいんだけど・・・

 此処ドコっ!?

 右も左も前も荒野!背後に至っては砂漠なんですけどぉっ!!!??

 早いとこ何処かの街に行かないと僕が干上がるっ!

 あ・・・ダメかも・・・目の前が暗くなってきた。

 素直に山を迂回してアルファード皇国に向かった方が良かったんだろうな、きっと、参ったな、舐めてたわ、勇者になったからっつって・・・

 遠退きつつある意識の中で、声を聴いた気がした。

「おい、あんた!大丈夫か!?」

 僕が意識を取り戻した時には、日が落ち始めていて、野営地を探す馬車の荷台の上だった。

「済まない、助かったよ、良かったら僕に野営の見張りをさせてくれ。」

 そう声を掛けると、中々目を覚まさなかった僕に、かなり心配をしてくれて居たらしい。

 助けてくれたのは、僕の同郷のユーノス公国の商人さんだった。

 夕食までご馳走になってしまったので、本当に一人で野営の警護を買って出た。

 勇者の僕に出来るのなんて、精々こんな事位だしな。

 で、こんな環境だったし、夜っつったらそうなるんじゃ無いかと思ってたら、大当たりだった、サソリって夜行性なんだよな。

 でっかいサソリがアホほど沸いて来た。

 一人で警戒するなんて言うんじゃ無かったと後悔した。

 ほぼ夜通し戦い続けて、やっと全てを退けた時には、日が昇り始めてたよね・・・(遠い目)

 その後、商隊の護衛をしながら進む事、半日。

 遂に街が見えて来た、かなりの高さの街壁がある。

 帝都って奴らしい。

 近付くにつれて、城が見えて来る、でっかい城だな、儲かってそうだ、確かこの国って鉱山が主要の財源だって聞いたし、良い金属が出るんだろうね。

 ここの皇帝からも、意外な程アッサリと承認を受ける事が出来て、これで僕は晴れて勇者になった。

 冒険者ギルドに顔を出して、サソリの素材を沢山売れて、お陰でここの質の良い鋼を使ったショートソードを手に入れた、少しは戦闘力が上がったんじゃ無いかな?

 序でなので、胸当ても新調した。

 今までの鞣革の胸当てと違って、少し重いけれど防御力の方もこれで上がるだろう。

 見た目も勇者らしくなったかな?

 一応、ギルドにも勇者に承認された事は報告して置く事にした。

 ギルドできな臭い話を聞いてしまった。

 この国は隣のグローリー王国に戦争を仕掛ける算段をして居るって言う噂だ。

 ヤバそうなので、早々に此処を離れる事にした僕は、戦争とは関わりたくないから、船で海外へ出る方向で考える事にした。

 この国から一番近いのは、西海岸の、ランクル帝国の港街、サーフ・ラック伯爵領だろう。

 また結構な距離がありそうなので、今度は初めから商隊の護衛任務を受けて、商隊に同行する事にした。

 流石に僕だって、あんな、荒野で遭難なんて経験は二度としたく無いよ。

 こうして僕は、船に乗って大陸を渡った。

 そんな経緯で、とある王族に、体良く騙されて、一歩間違えたら魔王の称号が生えてたかもしれない所を阻止されたんだ。

 エリーさんはとんでもない人だった。飛空艇を飛ばして、僕がアニメで見ていたような多脚戦車や、メカゴジラみたいなロボットや、全身義体迄作り出して居た。

 この人達に巡り合えて、僕にもやっと運が回って来たかも知れない、これから、この人達に付いて行って、強くなって行きたいな。

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