第299話 今代勇者
今代勇者
ヨル君が大暴れして食い散らかしているんじゃ無いかと思うリザードマンの巣であろうエリアへと急ぐ。
恐らく上位種も存在して居るだろうと思われる統率の取れたリザードマンは、それだけでゴブリンの集落を超える脅威だ。
まぁ、ゴブリンキングが居るだけでも相当に驚異的な魔物の群れである事には変わりないんだけどな。
それにしても、この国はどうなって居るんだ、言う事を聞かない村に対して魔物を集団で差し向ける事が出来るとは。
それこそ背後に魔王の存在を感じざるを得ないんだが。
スパイダーで砲撃して、周囲を包囲した後はカイエン、キース、マカンヌ、カレイラ、ボクス、タイカン、そして私が飛び出して殲滅して行く。
リザードマンなんて、ただでさえ厄介な性質の魔物が100体以上も居るこんな状況だからこそ包囲殲滅戦が有効だ。」あんまり魔法も効果が無いので私も邑雅を携えて白兵戦だ。
ちなみにボクスとタイカンにも私の打ったミスリル製の剣を持たせてあるので戦闘力が合流前よりもかなり上がって居る筈だ。
何でアダマンタイトにしないかって?切れすぎて、軽すぎて、扱いが逆にシビアで難しいから駆け出しには少し問題が有るんだよね。
それにしても、本当にカイエン一家は戦闘センスが高い、全員そうってすごい事だよね。
特にカレイラは見事なまでに魔法剣を操っている、踊りを踊っているように流れるように、こんな湿地に在りながらもこれだけの動きが出来るのは本当にセンスとしか言いようがない。
この子マジで強くなったわ、今代の勇者が居なくなったらこの子になるんじゃ無いかな?って思える程だ。
そんな事考えるんじゃ無かったわ、これ・・・
当面、視界に入っているリザードマンを粗方は片づけた頃。
少し離れた所にある小高い丘の上に、プレートメールを着込んだ人のシルエットが見えた。
助太刀でもしてくれる気なのかもしれないなんて甘い夢を見ちゃった瞬間もありましたよ、ええ、でもね、そのまま傍観してるみたいだったので、もしかするとこいつら操ってる黒幕なんじゃねぇかなって思っちゃった訳ですわ、これが。
んで、取り合えずそいつの目の前まで瞬歩って奴で寄ってみる事にした。
瞬間的に目の前に現れた私に動揺する彼をよそに、挨拶をして見る。
「こんにちは、貴方、こんな所で何をしてるのかしら?
まさかとは思うけれど、あの魔物達を嗾けたのは貴方かしら?」
にやりと笑ってやる。
「ぐっ! お前、何者だ!?」
「人に名を聞く時は自分が名乗らなくちゃダメよ?
それとも名乗れないような後ろ暗い事してる人なのかしら?」
「く、確かにテメェの言う事は正論だな・・・
俺の名はアキヒロ、アキヒロ・タカハシだ、本当は別の名前が有るが、こっちの方が俺的にしっくり来るからこう名乗っている。
勇者だ。」
「おお、やっと会えたな、勇者。
そうか、転生者だね、私も転生者だ。
エリー・ナカムラ、ハイエルフで、賢者で聖女だ。」
「何か色々忙しそうな奴だな、魔王じゃ無いのか?」
「魔王の称号はもう既に持ってるさ、でも、私はこの世界を滅ぼそうとか、ンな事は考えてない。」
「アッサリ白状されちゃったなぁ、俺、こんなかわいい子倒さなきゃいけないのかぁ。」
「可愛い言うな、こう見えても私は735歳だ、それと、何で倒す前提で話してんの、お前。」
「勇者は魔王を倒すものだろ? それで魔王は勇者に倒されるものだ。」
「そんな事無いんだけど、ほら、あそこで戦って居るショートソードにラウンドシールドの奴は君の前の勇者だ。」
そう言えば猫は相変わらず冬場は寒いっつって出て来ねぇから今日も休みだな、今頃気が付いた・・・
まぁ、それは今はいっか。
「ふぅん、元勇者ねぇ、聞いてた話とは違うけど、魔王に寝返ったから勇者の認定を外されたんじゃねぇの?」
「物は考え方、か・・・
もう既に知って居るとは思うけれど、勇者の称号を持って居るだけで勇者って訳じゃ無い、三国以上が勇者と認定した、三つ以上の剣技を使える勇者の称号を持って居る奴が勇者なんだ。
魔王も逆に同じ、魔王の称号を持って居るのは私だけじゃない、そして勇者の称号を持って居るのも、君だけじゃない。
実は私も持って居る。」
「は? 魔王なのに、勇者? 何で?」
「何でって、称号の魔王や勇者なんてのは、行動によるものが大きい、その称号を持つのに相応しいと思われる行動をすれば得られる物だからね。
そしてその基準が緩い、アスモデウスがアホだったからな。」
「って、神様を呼び捨て?お前何者? でも、そうか、俺も魔王になる可能性も有るって事か。」
「その通り、あんな魔物を使役して村襲わせたりしてると魔王になるよ?
ちなみにアスモデウスは既に神様じゃ無くなってるからね~。」
「それは困るな、んじゃ辞めとくわ、後処理、よろしく、あの魔物の親玉は、そこの洞窟に居るから。
その神様が神様じゃ無くなった話はいつかゆっくり聞かせて貰うとして今日は撤収だ、じゃあな~。」
「まぁ待て、時間は有るんだ、ゆっくりして行け。」
上空に待機させてあった飛空艇の光学迷彩を解いてトラクタービームで私もろとも今代の勇者君を軟禁する事にし、食堂へと連れて行った。
「な!? 何だこれ!」
「これは私の飛空艇、貴方は私にアッサリ軟禁された訳よ、光学迷彩で上空に待機させといて良かったわ~、まさかアンタみたいな大物が掛かるとはね。」
「お、俺をどうするつもりだ?」
注文端末を操作しながら答える。
「別に、殺したり拷問したりしないわよ?
私以外の転生者達に興味が有るからお話したいだけなんだけど?
あ、あなたコーヒーで良い?」
「どうもこちらの意思は関係無いらしいな・・・仕方ない、少し話をしてやっても良いぞ。
コーヒー、有るのか?」
「あるわよ、うちのユグドラシルで実らせて見たらこれは上質の良いのが採れてね。」
アキヒロは脱線しそうな話を強引に戻すように続ける。
「しゃぁねぇか、んじゃさ、先に俺が聞きたい事が有るんだけど、あのドラゴンは何?」
「あれは、あのパーティーのリーダーのキースって、長い日本刀持ってる奴の従魔で、ヨルムンガンド。」
「え? 従魔に出来んの?ドラゴンなんて・・・
それに、ヨルムンガンドなんてヤバい名前付けちゃったらまずいんじゃねぇの? 地龍の王じゃんか。」
「ああ、名前に関しては私も聊かやらかしやがったなと思って頭痛のタネではある。
どうも名前つけた時は只の土竜の魔獣だったらしいぞ?」
「も・・・モグラだったのかよ、マジか・・・」
んじゃ次はこっちから質問、あんたは転生前、地球に居たのよね、何年の何処の国に居たのかしら?」
「俺は、2024年の日本で中学生してたんだ、剣道部だった、都大会で念願の優勝を果たして、次は全国だって意気込みながら帰る途中、暴走トラックに跳ねられて、気が付いたらこっちの世界で、ユーノス公国で孤児だった。
当時多分5歳位かな?
ラノベみたいな転生って本当にあるんだなーとかって思いながら冒険者になって身を立てたら、元々剣道やってたから剣の基礎が出来てたらしくてどんどんスキルレベルが上がって、気付いたら勇者に認定されてた。
で、こっちの大陸に渡って来たらこっちの国の王に頼まれて・・・って言うか俺、今思うと騙されてたって事か、あの糞国王、ボコボコにしてやる。」
「今頃騙されてたのに気が付いたか、まぁそれは良いか、じゃあ今度は私の経緯を説明してやろう。
私は、25世紀生まれで、色々あって外宇宙に出る為の様々な技術を生み出して、最終的に宇宙戦争をやっていた時代に最強のマッドと言われてた。
全身義体で700年以上を生きて居たから、その記憶の全てを持っている以上、現在の年齢は735歳と言う事に成る、よろしくな。
この世界では、こんな飛空艇や多脚戦車、強化装甲なんかを生み出したり、魔法を作ったりしたぞ。」
「な!? 魔法? マジで魔法使えるの?今!?」
「ああ、お前が転生して着た時にはそんなもの無かったろ? 私が来た時にも無かったからな、作ってやった。 ファンタジー世界には必須だろ?」
「お、俺にも使えるようになるか?」
「見た所お前はマナを体外に放出する回路が構築されて居ない様だ、うちの仲間にも一人居たからな、作ってやったことが有るから言えるんだが、むっちゃ痛かったらしいぞ。
それでも良ければ魔法回路を作ってやらない事も無い。」
「痛いのかよ・・・やだなぁ、でも魔法欲しいなぁ・・・少し考えさせてくれ。」
「ああ、考えて置くと良い。
あ、丁度良い所に来た、おいオーブ!こっち来い。」
「にゃ?師匠、おはようにゃ、アタイににゃんか用?
その人はお客さんかにゃ? ようこそいらっしゃいませにゃのにゃ、アタイはエリー師匠の弟子で、拳聖の、オーブ・スフィアにゃ、エリー師匠のお陰で今は魔法拳闘士になってるにゃ。」
「この子が今話してた魔法回路作ってやった子よ。」
「なっ! 探したのに見ない訳だ、こんな所に居たのか、拳聖オーブ。」
「ん?アタイ?どなたか知らにゃいけど、にゃにかご用かにゃ?」
「俺は勇者だ、拳聖、オーブ・スフィア、お前をスカウトしたくて探して居たんだ、こんな所に居たのか。」
「師匠~、はにゃしが見えにゃいんだけど・・・にゃに??」
「あんたを勇者パーティーに入れたかったらしいわよ。」
「だが断るにゃ~。」
「なっ! なんでっ?!」
うむ、こいつ、世間知らずな内にこっちに飛ばされてしまっただけで、悪い子では無さそうね。
この子だったらカイエンに弟子入りさせたら立派な勇者になるんじゃね?
多分圧倒的にカイエンの方が強いだろうけどな、まだ。
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