第294話 テディー改造計画

       テディー改造計画

 とても大事な、重要な事をああもあっさり決めちゃったテディーは、一度帰らせる事にした。

 もう一度よく考えさせるために。

 その間、私は彼女の改造プランを考え抜いて居た。

 どうせあの子は私と一緒に馬鹿出来るならば、私と同じように悠久の時を生き続け、全てが消えて行くまで見届ける事の辛さをいとも簡単に克服するだろうし、見届ける気満々だろうと言う事位は私が一番良く判って居る。

 だって、テディーに眠って居たこんな熱い性格を引き出したのは私自身なんだから。

 ならばせめて、ハイエルフへと昇華する時の苦痛を少しでも緩和する方法を考える事にしたのだった。

 念の為、テディーには電脳通信で私に連絡を入れて欲しい旨伝えておいたし、それ以前に、例の反対運動をして居た内容を加味して、江戸から厚木や小田原を通ってテディーの苦言を呈していた御殿場や三島を経由し、沼津に終点を迎える路線と浜松迄繋がる路線を構築する事を約束して置いた。

 それとは別件で、小型の飛空艇をテディーにせがまれたので一隻、と言うか、小型高速飛空艇を小型と言っても、一応はドラグライダーが一機搭載できるサイズだから小さいと言っても良いかどうかは少々疑問が有るが、一艇作る事も約束してしまった、私も流石に懐かしい顔に出会うと甘く成るなるのだなぁと実感した。

 ンで、問題のテディーの改造計画についてだが、やはり最善の方法としては培養カプセルに入って貰って2週間程掛けてゆっくり進化を促していくのが一番苦痛も少なくて良いのでは無いかと言う結論に達したのだけれど、テディーが了承するかどうかが最大のネックではある。

 私もせっかちな方だとは思うけれど、テディーのせっかちは筋金入りだから、苦痛を伴っても数時間で完了する方が良いとか言い出しそうだからね。

 テディーは今頃、帰って向うでアレコレと説明してどんな条件を取り付けられたとかそんな報告をしてる頃じゃなかろうか。

 私は、念の為に生体培養カプセルの準備をしておこう。

 そんでもってテディーには電脳通信で、少しでも苦痛を和らげる為の方法を理論上では有るけれど模索中である事を報告して見た。

 すると、初めての電脳通信でテンションが上がったらしくすげぇ反応が返って来た。

『エリちゃん!これが噂の電脳通信って奴ねっ!?

 スゲェ~! 声出さなくても喋れるっぽいねっ!

 つい声に出しちゃうけどさっ! 何かスゲェ!

 ブレスレットフォンのニューロリンクヘッドセットよりもずっと進化したヤツ?

 みたいな感じ? 頭の中でエリちゃんの声が聞こえたしっ!」

 まぁ、彼女の生きて来た時代背景を考えるとこの位のテンションになるのも良く判るわ。

 ---

 当時、ようやっと人間の脳がどのような割り当てで仕事をして居るのかのメカニズムがようやっと完全に解析が済んで、実は大脳、中脳、小脳と言った脳の主要部分は、コンピューターで言う所の記憶媒体でしか無かったと言う事が判明し、海馬の下の後ろの方に付いて居る小さな器官、それ迄は只の神経系を脳へと繋ぐ為のルーターやハブのような役割しか無いと思われていた部位、松果体が実は演算を司るCPUに当たる事が判明したのだ。

 意外性も然る事ながら、これ迄は松果体は神経系の集合体であるが故に電極を付ければその刺激で激痛が走る為に死に至ってしまうとされて解析されなかった器官だった訳だが、実はここは超高性能のCPUだったのだ。

 物理的にも元より解析機器を取り付け出来ない上に、基本クロックにして実に880ΩHz、余りにもかけ離れた性能過ぎて解析する事すらもままなる物では無かった訳である。

 神経反射と思われていた、痛い時の咄嗟に手等を引く動きは、神経で反射的に行われて居る訳では無かったのだ。

 瞬間的に演算処理をした上で反応し、引く作業を実行して居たのだ。

 そりゃぁこんな精密な部位に金属の端子を挿すような事をしてはひとたまりも有る筈が無かった訳だ。

 それにしても何故、様々なセンサーを使っても反応の怒るのは大脳の各部位だったのかと言う疑問もあったのだが、それは松果体に一時キャッシュと呼べるメモリーが無かったからである。

 松果体は記憶領域である大脳等へ一度情報を持ち込みそこに一時保存した情報を解析して居た為に反応するのは大脳だった訳だ。

 そしてその高性能故に一瞬で解析が概ね終わるので、機械で作った圧倒的に脳より劣る速度でしか処理出来ない物では松果体の動きを観測し切れなかったのだ。

 お陰で、電脳などは、エリーがその技術を確立するまで夢のまた夢だったし、万一当時の技術で、他所でも可能であったとしても、倫理の一言が邪魔をして居た、倫理的頭打ちだったのだ。

 当然ながら技術開発は頭打ちとなっていた訳で、スマートウォッチはその内部にスマートフォンの機能を詰め込んだ物と言う所までで進化は止まっていた。

 音声コマンド入力でAIを使って電話、インターネットなどを起動し、ネットや映像、画像などのモニターはホログラムを展開する。

 そして音声入力をしないで良いように開発されたのが、脳波を検知し、逆に脳波に干渉して疑似的に電脳通信のような状況を作る、ニューロリンクヘッドセットなど、これが限界だった、これだとどうしても一瞬遅れが有って時間的ズレが起こるのと、流石に脳波に干渉すると言うだけあって、長時間の使用は片頭痛の原因になるとして社会問題にもなって居たりしたものだ。

 ここ迄が当時の限界だった訳だ。

 それが何故かずっと文化水準が低い筈のコッチの世界へ転生して着たにも拘らずずっと進化した物に出会ったのだ、テディー的には驚き以外の何物でも無かったのである。

 ----

 んで、結局・・・

「で、どうする?テディーさんや、むっちゃくちゃイテェの我慢して強制進化する?

 それとも、生体培養カプセルで進化をぐっと遅くゆっくりに調整して2週間くらい掛ける?」

『ん~、私もさぁ、子供4人も産んだオカンやし、痛くても我慢できる気ぃはすんねんけど、でもこの歳になって痛いのも嫌やわ、二週間コースにしといて?』

 私の予想はある意味ハズレたけれど準備しといて良かったと思ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る