第293話 本当の再会

       本当の再会

 -エリー-

 ゆっくりと、テディーが居る食堂へと足を進める。

 今頃、テディーならばMkⅣの視覚を共有せずとも、私が再現したそうめんを爆食いしてる頃だろう。

 仲が良かったからこそ判る。

 この世界にそうめんがまだ存在しない事も手伝って絶対に大はしゃぎで爆食いしてる筈だ。

 多分それを、MkⅣが呆れて向き合って眺めて居る頃だろう。

 私と一緒に過ごして居たあの頃も、そうめんになるとこれでもかっつー位てんこ盛りにしても平らげてしまう程のそうめん好きなテディーなら、そうめんに関してだけはフードファイター級なのだ。

 まさかこっちの世界で再会出来るとは思っても居なかったけどね。

 MkⅣからの情報だと、テディーは高校を卒業してすぐに警察官になって、転移に巻き込まれるまでの凡そ一年間、私をずっと探してくれて居たらしい。

 私はそんな彼女の住んで居る国を見捨てたと言うのに。

 でも私の暴走で数か所の国が蒸発して、影響で死の灰が降ったあの国には、当時既に彼女は居なかった事に成る訳だ。

 そこは流石に少しほっとした。

 食堂に到着した私は、どんな状況か、そっと覗いてみた。

 そんな物ナノマシン映像で見れるじゃねぇかとは思うが、肉眼で確認したかったのだ。

 だって、大親友だった子だよ?

 そりゃ、自分の目で確認したいじゃ無いのさ、すっごく懐かしいし。

 そっと覗いてみれば、丁度私が立って居る位置からテディーは反対側を向いて私に背を向けて座ってる。

 そっと近づいて後ろから声を掛けてやろう。

「相変わらずそうめん好きみたいね、テディー。」

 いきなり後ろから、自分の向かいにも座っている私から声が掛かったのに驚いて振り返るテディーは、リスかハムスターかと言わんばかりにほお袋を膨らませてそうめんを頬張って居た・・・

「そんな風に食う食べ物だったか?そうめんって・・・

 多分違うと思うんですけど。」

「モガっフゴフガグガッ!」

「イヤ何言ってんのか判んねーからちゃんと飲み込んでから喋れよ。相変わらずだなテディー。」

「んぐんぐ、ごきゅ・・・んがっ、エリちゃんが二人おる!」

「驚いた? まぁ驚くわな、私が本体でこっちは私の並列存在3号、私がMkⅠて事に成るからこいつはMkⅣね、まぁどっちも私なので驚いても無駄ですが何か?」

「相変わらずのその途中から言いたい事が何だったのかがずれて行くような口調、エリちゃんらしいわ、オヒサー。」

「なんか今の言い方だと私がアホの子みたいに聞こえるやんか、やめて~。」

「そう言うたんやからしゃぁ無いわ、むしろこれが普通に聞こえとったらマジでその頭に耳から手ぇツッコんで脳みそ引き釣り出して観察してみたいわ。」

「相変わらずの毒舌やネ~、テディー。」

「あんたに言われと無いわ、エリちゃん。」

「どう?これで本当に私と再会した気ぃに成ったんとちゃう?」

「せやねぇ~何でやろねぇ~、MkⅣはん顔ソックリなのにやっぱ少しちゃうんやわ。」

「あ、この子に関しては気のせいとちゃうねん、こいつな、同じ人間やから区別着く様に個性出したろ、言うて畏まっとんねん。」

「成程ぉ~、余所行きやったんやね?」

「ちょ、本体、勝手な事言わないで~。」

「何言うとんねん、勝手しとんのはアンタの方やで、マジで。」

「んで、その子はエリちゃんの子?」

 突如話題がガラッと変わる、この辺もテディーらしい。

「ああ、うん、この子は私の子でマリィちゃん言うんや。」

「あんた、可愛い子ぉやなぁ、良かったなぁ、こんなヒネた性格で悪人面のオカンに似とらんくて。」

「あぁン?聞き捨て成らんなぁ、誰がヒネた悪人面やねん、あんたかて人の事言える顔ちゃうで?」

「ほらその顔や、横目で睨んで人を見下ろすその人相、悪人以外の何物でも無いわ。」

「はぁ? 私が美女やから睨まれたら怖かったっちゅうだけやろが、どのツラ下げて人の悪口言うとんのかな?このおばはんは。」

「おばはん言うな!700歳超えのオババの癖して。」

「何やとぉ?」

「「やんのか?こら。」」

「やめい!!本体もテディーも何意地ンなってんのよ!」

「「あははははははは!!」」

「イヤぁやっぱあんたオバチャンに成ってもテディーだわ。」

「700歳超えてたってあんたはやっぱエリちゃんだわ、久々でおもろかった~。」

「お前ら振りかよ!」

「あんた私の並列の癖して色々自己流で封印しすぎだわよ、この一連のやり取りも覚えて無いなんて。」

「そうかぁ~、どうりで、なんや物足りんなと思ってたのよ。」

 MkⅣを押しのけるようにしてテディーの正面に座る。

「どう?美味しいでしょ、そうめん。」

「うん、とっても、何年ぶりかなぁ、こんなちゃんと細く製麺されてるそうめん食べるの、中々ここまで細く成んないんだよね~。」

「自力で作ろうと試みてたんだね、やっぱ。」

「そうなのよぉ、マジでそうめん好きなのにさぁ、こっちの世界に飛ばされてからそうめんが無い事に気が付いた時のショックったらなかったわよ。」

「判るわぁ~、私もさぁ、こっちに転生して見りゃお米が基本無い国だった訳さ、探したね~、マジで。

 たまたまこっちの国の人が行商で来てたおかげでこっちで初めてのお米にありついたあの時はホンマときめいたわぁ~~。

 TKGにして泣きながら食ったからねぇ~。」

「判る~、私も今マジで涙目だったもん。

 良くぞ再現してくれた!」

「へっへ~、実はそれね、私は作り方をAIに教えただけなんだよな~。

 凄くね?」

「マジ? 中学生当時に食ってた物より上等なそうめんなんだろうなとか思ってたのに?」

「マジだよ、AI優秀なのよ。」

 テディーは私の両手をガシッと掴みかけて、瞳をキラキラ輝かせながらこう言った。

「エリー! 結婚して!」

「は? 何言ってんのこのおばちゃんは、何で同性の親友と結婚せなアカンねん。

 脳みそ沸いとるんとちゃうか?」

「脳みそ沸いてたって何だってえぇから!そうめん食えたらええから!結婚してぇ~!」

「そうめんだけかぁ~い!」

「うん。」

 即答だった。

「そこ迄そうめん愛してる?」

「うん。」

「私735歳やで?」

「うん、知っとる。」

「ハイエルフやから歳取らんのやで?」

「うん、それでも良いから結婚して。」

「先に死なれたらイヤやしハイエルフに進化してくれる?」

「どうやって?」

「ん~・・・私がハイエルフに成った時はぁ、レベルが120カンストしてて、瀕死で、仲良しのエルフちゃんが庇ってくれて半殺しの目に遭って、そんでキレた、そしたらリミットブレイクが起きてハイエルフに成ってたんだけど・・・」

「どう同じ状況を作ると?

 アンタの強さだと多分魔王も瞬殺よね?

 死に掛けたりしないよな?」

「ですよね~・・・」

「あかんゃやん、どんなムリゲーよそれ。

 そもそも私のレベル20、今からどうやって100上げんのよ。」

「でももう二個ほど手が有るんだな、これが。」

「有るんかいっ! しかも二つも有るんやないかいっ!」

「まぁ一応ね。」

「一応って?」

「結構手間が掛かるんだ。

 一つは、あんたに全身義体を作って電脳を移植する。

 もう一つは、私の細胞のDNAにあるテロメアをあんたの細胞に移植する方法なんだけど・・・

 これには半端ない苦痛が伴う。

 ハイエルフのテロメアはさ、普通のテロメアでは無くて、細胞分裂をいくら繰り返してもその長さが変化しないのね。

 だからいつまでもDNAが劣化しないので若々しいままで居られるって訳。

 その代わり、苦痛でこの子みたいに頭髪が真っ白になっちゃったり、以前の記憶を完全に忘れる程の記憶障害が起こる可能性がある。

「この子って、まさかとは思うんだけど、あんたを庇ったエルフちゃんだったの?」

「流石テディー、私のやる事はお見通しって?」

「あんた、それってどうなの?倫理って何?」

「これはね、この子の以前の人格の時の意思なの、私の子供になれるのなら、ハイエルフとしての新たな人生を・・・って。

 私も倫理的にどうなのかって、悩んだけどね、でも、この子を救うにはそれしか手が無かった。」

 私はこれを説明しながら、他の手段を見つけられなかった自分の不甲斐無さに涙を流した。

「御免、エリ、自由奔放なあんただからって言っても、何も考えずにやらかす子じゃ無いのは私が一番知ってるのにね、御免ね。」

 テディーがどう決断するのか、それを待ちながら、私は自分の生涯を語り聞かせた。

 三日三晩かけて。

 4日目の朝、目覚めたテディーは、おはようの代りに、こう言った。

「私もエリの生きた時間を体現して見たい、私をハイエルフに進化させて頂戴。」

 そして、電脳へ彼女の半世紀にわたる記憶を完コピする事に成った。

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