第288話 トライの決断

       トライの決断

 -トライ-

 今しがた、エリー様から電脳通信で明日の朝には戻るとの連絡が来ちゃいました・・・

 ど、どどど、どどどどどうしましょう!

 えっと、その、何と言うか、えーっと・・・(///.///)

 何と言えば良いのでしょうか・・・

 その、あたし、ひろしさんとお付き合いを・・・

 じゃ、なくて・・・えーっと。

 エリー様はもしかしたら私のモニタリングをしていた可能性も有るので、普通にしてましょう、そう、普通に、普通に・・・(///.///)

 駄目だ、普通にしてて顔の装甲が熱くなっちゃいます。

 で、でも、あ、あたしのこの気持ちが、何なのかはやっと判ったんです。

 だから、今は何をして居てもその事ばかり考えてしまいます。

 あたしは、今となっては、これだけは胸を張って言い切れます。

 あたしは、ひろしさんの事が大好きです。

 彼の事を考えただけで、愛おしさで胸が張り裂けそうです。

 この感情は・・・ア・イ・シ・テ・ル。

 お留守番3日目の昨晩、ひろしさんの気持ちに応えて、ひろしさんのお部屋にお泊りしました。

 恥ずかしかったけど、とっても嬉しかった。

 あたしは、ずっとひろしさんと一緒に居たい。

 エリー様を裏切る形になっちゃうかもしれないけど、私はひろしさんと一緒に居たい。

 ---

「たっだいま~。 トライ、良い子にしてたみたいね~。」

「トライ、貴女に留守を任せるのは少し不安でしたが、ちゃんと出来ていたようで何よりです。」

「これでトライも、一人前ですねと告げます。」

 アインお姉様、ツヴァイお姉様に褒められました。

 だけどあたしは・・・

「あの、エリー様、お願いがあります。」

「ん、やっと貴女の望みが決まったようね。」

「は、はい。」

 突然エリー様は小声になって。

「ひろし君は優しかった?

 良かったわね。」

 や、やっぱり全部知ってたぁ~。

 顔の装甲が又しても熱くなるのが判ります。

「さ、揶揄うのはこの辺で許してあげよう、さぁ、貴女の望みは何?

 言ってごらんなさい。」

 ああ、エリー様はきっと、私の裏切りすら許して下さるんだろう。

 マスターたるこの人の元を離れてしまう事に、少し寂しさと畏れを感じてしまう。

「マスター、マザー・エリー。

 あたしは、人間になりたい・・・です。

 ひろしさんと一緒に居たいです。」

「そう、やっぱそうなるよね~。

 ねぇ、トライ、幾つか質問いいかな?」

「はい。」

「貴女、人間になると言う事は、短い寿命で死んじゃうって事よ、死ぬってのは、要するに再起動不能の致命的な故障をするのと同じと思っても良い。

 それでも良いの?」

「はい。」

「そう、やっぱそこまでの域に達したんだ。

 じゃあもう一つ、ひろし君と、結婚したい?」

「はい。」

「よしよし、じゃあ次の質問、ひろし君の子供を産めるようになりたいと思う?」

「はい。」

「うんうん、完璧だわ。

 じゃあ、最後の質問。

 トライは、ナンバーズから離脱する事に成る、そして人の体を手に入れたら、今みたいなパワーバトルは出来なくなります、まぁ魔法を使えるようにはしといてあげるから、身体強化でもすれば多少は力を上昇できるけれど、今のような高出力のジェネレーターが無いから、そこまでの剛力は使えないわ、それでも構わない?」

「はい、むしろ、あんな力はもう要りません。」

「むしろ要らないって言っちゃう?

 理由を教えて?」

「昨日の夜、ひろしさんのお部屋にお泊りしました。

 色々あって、嬉しくてハグしたら、ひろしさんを絞め殺してしまいそうになりました。

 ポーションのお陰で大丈夫でしたけれど、私の感情を表現する為にギュー出来ないのは辛いです。

 力の制御は難しいです。」

「うん!良く出来ました! 百点満点の答えよ!

 嬉しいなぁ、貴女の顔のデザインはね、前世で私が唯一血を別けた娘の、結婚した頃の顔なの。

 その娘が帰って来てくれたみたいで嬉しいわ。」

 そう言うとエリー様は、あたしを優しく抱きしめました。

 すると何故か、あたしの義体の人工心肺がドキッと強く鼓動しました。

 私は、思わずこう言って居ました。

「おかあさん・・・」

 それを聞いたエリー様の目から、涙が溢れていました。

「貴女には、ホムンクルスの肉体に、私の遺伝子を別け与えて、貴女の顔から遺伝子情報を少し操作して移植します、名実共に貴女は私の娘になるのよ、良かったね、トライ、良い子。」

「お、おかあさん、ありがとう。」

「それと、人間になれたら、貴女は私の娘の名前をそのまま使いなさい、貴女の名は、江利華よ。」

「はい、おかあさん。」

 あたしは、何度も確認するかのように、エリー様の事をお母さんと呼んでいました。

「それからね、ひろし君と一緒に鎌倉へ行きなさい、彼はもう十分に腕を上げたわ、卒業です。

 それと、彼にも電脳化を施して私のお料理レシピ集をプレゼントします。

 源家に戻ってそのまま料理人として使えるも良し、どこかへ移り住んで料理を提供するお店を開くのも良し、貴女達は自由よ。」

 こうして、後日、私はエリー様の遺伝子を受け継ぎ、人間として生まれ変わる事に成りました。

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 短話;ひろしです、トライちゃんと一緒になります。

 -ひろし-

 エリーさん達が、とうとう帰って来ました。

 トライちゃんを汚してしまった事を、正直に謝ったとです。

 エリーさんは、許してくれたどころか、自分の最終的な究極の研究の手助けをしてくれてありがとうと言って感謝してくれたとです。

 ハッキリ言って、意味が解らんので逆に怖いです。

 だけど、もう鎌倉に帰って良いと言われたとです。

 やっぱり怒ってるとじゃなかでしょうか?

 でも、そんな事は無かったようです。

 荷物を纏め終えた頃の事でした。

 この三日程、トライちゃんを見かける事が無かったので、トライちゃんも何処かに隔離されて居るのかと思っとったですが、表情が豊かになった気がするトライちゃんが、部屋に入って来ました。

「ひろしさん、支度出来た? 私は支度出来たよ、やっぱり、鎌倉に帰ります? それとも二人で何処かでご飯屋さんする?」

 なんか、言葉の抑揚も流暢になった気がするとです。

 小紋の襟元から覗く項がとっても綺麗です。

 僕の目の前に座ったトライちゃんは、良い匂いがしました。

「あ、それから、今日から私の名前は、江利華よ、改めてよろしくお願いします、私の旦那様。」

 その満面の笑顔に、惚れ直したとです。

 護ってあげたいと、改めて思ったとです。

「お、支度出来たか?ひろし君。」

「はい、エリー様、お世話になりました。」

「よし、じゃあこれを受け取って頂戴。 餞別よ。」

「これは? 何ですか?」

「あんた料理人でしょう、この本を全部覚えなさい、貴方にコッソリ電脳化を施したから、電脳が全て記憶してくれる筈よ、私のレシピ集。」

「あ、ありがとうございます。」

「それと、あんた、私の娘を嫁にしたんだから、路頭に迷わせたりしたら容赦しないから覚悟しなさいね、江利華をよろしくね。

 トライの時は人工知能の機械だったけれど、今のエリカは正真正銘の私の娘、人間です。

 遺伝子の加工でハイエルフにはしなかったから一緒に生きて一緒に歳とって生きていきなさい。」

「それじゃあ、あの・・・」

「勿論、今のエリカは子供もちゃんと産めます。

 家族を増やして大事に育てなさい。」

 僕は、神様に弟子入りしたのでしょうか・・・夢を見て居るようです。

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