第286話 プローブとトーラス
プローブとトーラス
-トーラス-
くそっ!何だあのアインとか言う化け物は!
俺の兵があっと言う間に制圧されて、俺とシェルビー家の当主マスタングも一瞬のうちに拘束されていた。
俺の計画が、長い年月をかけた計画が全て台無しだ。
だが、もうこの国には、統治するべき王が居ない。
父も、兄も、間もなく死ぬだろうからな。
そうなったらあのアインとか言う化け物は只の侵略者。
自動的に俺に継承権が戻るのを待てば良い。
早く死なねぇかな。
誰か、着た・・・
「貴方は、転生者なのですか?」
アインだ、この化け物女は、何者なのだろう、何故俺を転生者と見破った?
「ふん、化け物に答えてやる義理など持ち合わせて居らん、何も答えてなどやるものか。」
「そうですか、我がマスター、エリー様が、貴方を転生者では無いかと呟いて居られたので確認を取りたかったのですが。」
この化け物の、マスター??
コイツより強い化け物がまだ居るのか??
しかも名前を聞く限り、女?
どうなってるんだ、魔王か何かなのか??
「逆に問おう、その貴様のマスターと言うのは、転生者なのか?」
「はい、マスター・エリーは、転生者です。」
何だと?転生者なのか、俺以外にも居たのか。
そうか、それで転生者なのかと、そう聞いて来たのか。
「そうか、お前の主は転生者か、ならば答えてやろう、俺は転生者だ。」
「やはりそうでしたか、同郷の者が掛けた迷惑は、私が許さないと、そのようにマスターは申し上げておりましたので、簡単にどうにかなるとは思わない方が良いですよ。」
「な、助けてくれるとかそう言う話じゃ無いのか?」
「いいえ、逆です、マスターは、此方の事はこちらの者だけで物事を解決するのが最も良い事であると言うお考えですので、貴方のように、同郷が掛けた迷惑は自らの手で払拭すると言うおつもりです。
どんな厳しい沙汰が降りるか、震えながら待つが良いと申しておきましょう。」
「ま、待て!お前は転生者では無いのか? その強さだ、何か途轍もないスキルを授かって此方へ転生したのでは無いのか?」
「いいえ、私はマスターに作られたAIアンドロイド、アイン・オリジンです。」
何だって???今なんつった?アンドロイドぉ??
俺の時代にも、此処まで人と区別が付かないAIアンドロイドなんつう精巧なロボットは居なかったぞ?
しかもこいつは何処まで精巧に作られて居ると言うのだ? 精巧なだけじゃない、強すぎる。
と言うか、こいつの主の、エリー、とか言ったか、そいつは一体、どんな時代から転生して来たって言うんだ?
ここからは個人的な興味だが、一度そのエリーとか言う奴に会ってみたい。
本当に何者なのだろう。
ダメ元で、頼んでみよう。
「な、なぁ、その、エリーとか言う転生者に会わせて欲しいんだが。」
「良いでしょう、と言うか、もう二日もすれば、此方の王子プローブを治療し終えたエリー様が貴方に直接罰を下しに来るものと思います。
それ迄、震えて待つが良いでしょう。」
そう言い残すと、アインと言うアンドロイドは俺をこの牢に置いて去ってしまった。
それから、二日ほど経った頃、本当に初見の女性が現れた。 しかも末期癌だった筈の、何故か健康体の兄プローブを連れ立って。
「な! 兄上!」
「トーラス、貴様の策は、どうやら完全に阻止されたようだぞ、父上も健在だ。」
「な、なん、だと?」
「初めまして、トーラス君、私は、エリー・ナカムラ。
貴方の陰謀を阻止させて頂きました、同郷としてこの世界の人々へご迷惑をお掛けするのは私の本意とする所では無いので。」
そう名乗った彼女は、とても美しい赤い髪を腰まで伸ばした、とても可愛らしい女性だった、良く見ると耳の先が尖って居るように見える、エルフ・・・なのか?
「貴女が・・・同郷で有ると言う事は、アインと名乗るアンドロイドのお嬢さんから伺って居ます。
あそこまで精巧で、しかも高出力のパワーを持つアンドロイド、そのような物が作り出せる貴女は一体何者です?」
「あら、冥途の土産に私の事に興味でも持ったのかしら?
良いでしょう、お答えしましょう。
私は2786年生まれで、元アニオタ。
物心ついた矢先に見ていた古代のアニメで表現されて居た全身義体が、そのアニメの舞台の年代をとうに超えて居るのに未だ存在して居なかった事で自分自身で開発する事を自身に誓い、研究者と成って、自らそのプロトタイプに自らの脳を移した私は、ほぼ不死と成って、734年もの歳月を生き、様々な物を世に残し、宇宙をもこの手に納めて、ある時、ちょっとしたウッカリで死んでこっちに転生して来たの。
こっちで誕生日を迎えたので現在735歳、こっちで得意分野のナノマシン等を開発して、それを媒介に魔法等を開発したわ。
数カ月前に、ある事をきっかけにハイエルフへと進化したばかりの新参ハイエルフよ。」
なんか、とんでもない経歴の人物だった・・・
転生前からチートな感じだよなぁ。
こりゃ逆立ちしても勝てる気がしねぇ。
っつーか今、魔法作ったって言ったよな、本気で出鱈目すぎる・・・
つーか、魔法かぁ、折角転生して来たんだから、俺も使って見たかったよね、魔法。
前世の記憶が戻った時、転生したんだって気づいて、魔法使いてぇって思ってたのに、魔法が無いって知ってショックだったしさ。
あ~あ、魔法が出来たって今初めて知ったって言うのに、もうすぐ、俺は処刑されるんだろう。
俺、ここに何しに転生して来たんだろうな。
何も成して居ないじゃ無いか。
「あんた、何処を聞いても出鱈目なチートだな、前世から既にチート頭脳なあんたじゃ、敵いっこねぇわ、俺は処刑されるんだろ、とっととやってくれよ。
兄者、すまなかった、何で俺はこんなバカな事をしたんだろうな、転生したのに魔法もねぇ、チートスキルも何もねぇ、きっとそんな境遇に嫌気がさして、どうでも良く成っちまったのかもしれねえ。
さぁ、処刑なりなんなり、とっととやっちまってくれよ。」
「トーラス、お前のやった事は容認出来るものでは無い、しかし我はこうして健在であるし、お前も今の言葉に偽りは無いようだ、反省の色が見える。
もし、エリー殿が良いと言うならば、彼女と一緒にこの世界を旅して、修行して来ると言うのも選択肢の一つと思え。」
「な! 馬鹿な! 俺は許されんだろう?」
「私にも貴方のさっきの言葉は、ちゃんと反省したからこその台詞と思ったわよ。
マジで私は修行付けてあげても良いけど、どうする?それとも死にたい?
あ、ちなみに言っとくけど、あんたには実は、水魔法と土魔法のに属性の魔法の才能が有ると思うんだけど。
魔法、使って見たかったんでしょう?」
「良いのか? 本当に? 俺なんかが?」
「イヤなら別に良いのよ? ここに残って絞首刑にでもギロチン刑にでもなんでも掛けられたら良いわ。」
「しかし、王は、父上はどう・・・」
「私が、生殺与奪の権利を貰い受けました。
もしも私に仇成す事があれば、いつでも殺してあげるわよ。」
まさかと思うような答えが返って来た、あまりの驚きに言葉を失った。
気が付くと俺は、涙が溢れていた。
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-プローブ-
「エリー殿、すまない、我の我儘を聞いて、弟を許してくれて・・・感謝する。」
「何言ってんのよ、アンタこそ良くあの子を許してくれたわ、むしろ同郷の転生者として私がお礼を言いたい所です。」
エリー殿の懐の広さには本当に感謝するしかない。
あれだけの事をしてしまった愚弟を許そうと言う我を認めてくれたのだ、これ程嬉しい事は無い。
「エリー殿には本当に何と感謝して良いやら、父まで救って頂いた上に、愚弟までも・・・」
「良いのよ、あの子、トーラスっつったっけ?
本当に素晴らしい魔導士になる素質があるわ、だから私に預けて修行させなさい、その腐りかけた根性も叩き直してやるわよ。」
「ははは、エリー殿、貴女には敵わないな、本当にありがとう、感謝する。」
「気にする事は無いわよ、私は、私の敵に回った者には容赦しないけれど、私に助けを求める物には寛容なの。
貴方は私を全面的に信用して救いを求めに来た、そんな貴方が貴方に仇成した弟君を助けてくれと言う、そしてあの子は私に敵対する気は無くて反省もしている、ならば私が滅ぼす必要も無いと言う事に成る訳。
だから私が寛容なのではなく、貴方が寛容だったのよ。」
成程、この人は初めから全くブレて居ない。
器が違い過ぎる、本当に器の大きな方だ。
ならば我は、この方を縛る事はしないし、この方のしたい様にさせて差し上げる事こそがせめてもの恩返しだろう。
「エリー殿、貴方に一つ、忠告を進言します。」
「何よ、畏まって。」
「多分、ですが、貴方様の優位性が欲しいと思う貴族達が、必ず居る筈なのです。
我が国は未だ新興国ですから、他国からの認知度を高める為にも、貴女を置き留めようとするはずです。
その時は、迷わず脱出して下さい、私は貴女の居場所は絶対に教えないと誓います。」
「そう、まぁそうなるだろうとは思って居たから、秘匿してくれるのは有り難いわ。
その代わり、私はこの国に、他国へ向けて貿易が可能になるような事業を置いて行く事にするわ。
貴方にその知識を授けるから、電脳化を受け入れてくれる?」
「はい、それは願っても無い事です、是非、お願いします。」
こうして我は、エリー殿の提案を受け電脳化とか言う物を受け入れる事にした。
電脳化は直ぐに終わり、私の知識の中に、エリー殿が齎してくれた、ラーメンと言う食べ物、焼きそばと言う食べ物、パスタと言う一連の様々な食べ物や、フリーズドライ、インスタント麺、インスタントスープ等の知識、そして、それの生産を自動化する為の魔道具の製法などの技術の全てが流れ込んで来るのが判った。
小麦だ、小麦を大量に作らせる事にしよう。
連作をする為の農業技術まで頂いた、これを実践して豊かな国へと発展させていこう。
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