第280話 トライとひろし君

         トライとひろし君

 -トライ-

 あたし、今、悩んで居ます。

 マイマスター、マザー・エリー様が指摘された通り、私は自分が何者なのかと考えています。

 あたしを作って下さったのはエリー様である事は間違い無いんです。

 あたしは只のAIだった筈なんです、半導体に焼き付けられた只のプログラムの羅列の筈なのです。

 なのに、なのに、この気持ちは何でしょうか。

 最近では、ずっとこの気持ちが何なのかを、エリー様のデータベース等を参考に調べてるけど、答えは出ません。

 調べて居てこの気持ちに対するこのモヤモヤするのを、もどかしいと言う単語が当てはまる気がします、とてももどかしいです。

 そしてこの一週間ほど、エリー様を始め、アインお姉、ツヴァイお姉も忙しそうで、相談しにくい感じで、ますますもどかしいんです。

 ひろし君、ですか?ひろし君には、そ、相談できない・・・かな?

 -回想-

「ふえぇ~、又失敗しちゃいましたぁ。

 あたしってどうしてこんなにダメな子なのでしょう・・・」

「あ、あの、大丈夫、ですよ。

 僕なんか、どんなに頑張っても、アインさんの料理に敵わんとです。

 でも、トライちゃんは、失敗してとんでもないサイズのナマコとか釣ってしまっても、最近は自分で何とか倒しとるとでしょ?

 僕ではその手助けは出来んとですけど、いつも、応援しとるとです。

 頑張っとるトライちゃんは、凄く輝いとります、僕の憧れです。

 とっても、奇麗だと思うとです。

 そんな、頑張っとるトライちゃんを、好ましいと思うとです。」

 ------

 あの時、私の中に何らかの変化が起こったんです、だから、ひろし君には相談できません。

 ひろし君と目が合うと、思わず逸らしてしまうんです。以前はそんな事は無かったのですけど。

 それ以来、ずっともどかしいんです。

 思わず、(この表現で合ってると思うけど)身悶えしちゃうほどなんです。

 この、込み上げてくるような気持は何なんでしょうか。

 それと合わせて、私は、プログラムの筈の私がこんな不思議な気持ちになって居る事の答えも探して居るんです。

 私はどうなっちゃったのでしょうか。

 誰か、教えて下さい、エリー様は、自分でいっぱい悩みなさいって言ってた・・・

 だけど答えはまだ出ません。

 そんな時、アインお姉がお出かけして、その後、エリー様がツヴァイお姉を連れてお出かけして、私とひろし君にお留守番を申しつけられました。

 ・・・・・・・ど、どどどどどうしましょう!

 今日から、何日か、ひろし君と二人っきりでお留守番だなんて!

 どうしていいか判りません・・・

 エリー様の電脳にアクセスして、データベースの閲覧可能領域を調べても、寝室の戸をわざと閉め忘れて寝なさいとか、露出度の高い服を選んで着なさいとか、訳が分かりません・・・

 わたしのボディーは、人間の人の脳の代わりに量子コンピューターが搭載されて居るだけの、完全全身義体なので、人と同じ事が出来るらしいのですけど、ひろし君と二人っきりと言う事を考えるだけでも、ホッペの辺りの装甲が暖かくなる気がするのです。

 それなのに、エリー様のデータベースで閲覧を許されたそれらのデータをチェックしたら、人工心肺が動きを速めてドキンドキンと強く鼓動するのです。

 私って本当に一体どうなっちゃってるのでしょう。

 電脳通信で、忙しいかと思ったけどエリー様にメッセージを送ってみる事にしました。

 あ、でも、マリイちゃんのお世話もしてる筈なので、MkⅢ様の方にですけど。

 そうしたら帰ってきた答えが・・・

「何だそんなの簡単じゃない、ひろし君がお風呂に入ってる時にお背中流しに行ってあげたら万事解決よっ!」

 は、はい~~??!

 確認した途端に、顔は熱く、人工心肺はドキドキと益々早い鼓動を打って居ます。

 あ、あたし、ひ、ひろし君の前で裸に成れって事ですか??

 だめ、これ以上は、私の量子コンピューターが熱暴走しちゃいます!

 急いで冷却しないと。

 呼吸を早めます。中々冷めません、もっと呼吸を加速します。

 はっはっはっはっはっはっ。

 少し下がって来ました、深呼吸で効率を上げます。

 すぅ~~~・・・はぁ~~~~・・・

 すぅ~~~・・・はぁ~~~~・・・・・

 ふう、少し落ち着きました。

 でも、MkⅢ様・・・・いやぁん。

 はっ! 何か又身悶えしてます。

 でも、でもぉ・・・MkⅢ様の提案、やって見ようかなって気持ちも少し有ったりするんです。

 そんな事する私を、ひろし君はどう思うのかって、そんな事考えるともう一つ悩みが増える気もして、ますます身悶えです。

 もう・・・え?今の気持ち、ですか?

 そうですねぇ・・・強いて表現するなら・・・

「もう、いやん。」

 ですね。

 -ひろし-

 ひろしです、最近、トライちゃんが気になるとです。

 この間、落ち込んで居たので、応援してあげたら、それから何だか、様子が変わって悩ましい感じになったとです。

 何だか、それ迄の無機質な感じの動きから、何と言うかこう、女性らしい柔らかい動きになった気がするとです。

 そして時折何やら考え込むような仕草が、とても可愛らしく思うとです。

 元々、アインさん。ツヴァイさん、トライさんの三姉妹は、全員絶世の美女と思っとったとですが、最近のトライさんは、トライさんでは無く、トライちゃんなんです。

 とっても親近感が沸くとです。

 可愛いです。

 余りにも悩ましいその考え込むような仕草が堪らんとです。

 思わず抱きしめたくなるとです。

 でも、トライさんは、人間では無いのだと聞いた事があったとです。

 実際に、巨大ナマコや巨大イセエビと戦って居る所を何度か見たとです。

 でも、そんな風に頑張っている姿もとても美しいと思ってしまったとです。

 僕は、多分トライちゃんが、好きになってしまっとるとです。

 あの怪力を考えると、抱きしめて良いものか、考えてしまうとですが、それでも抱きしめたくなる事があるとです。

 トライちゃん、めんこかとです。

 数日前にアインさんが出かけて帰って来ません、そして今日、エリーさんとツヴァイさんが出かける際に、数日間お留守番して欲しいと頼まれたとです。

 僕一人じゃ無かったとです。

 トライちゃんと二人っきりです。

 何か起こったらどうしよう・・・

 フィアちゃんは、もうすぐ年の瀬なので、お手伝いに行っている神社にお泊りでのお手伝いだそうです。

 破魔矢とかお守りなんかを作るそうです。

 本当に二人っきりになってしまったとです。

 そんなドギマギしてるのを知ってか知らずか、今日のトライちゃんの服装は、妙に肌の露出が多かとです。

 何故か、特に胸元が開いとって、艶っぽかとです。

 理性が保てるか、少し不安になって来ました。

 もしも僕の理性が吹っ飛んだときは、きっとトライちゃんの怪力で即死です。

 その時は短い人生だったと諦めるしか有りません。

 でも、トライちゃんも心成しか、ほおに赤みが差しとる気がするとです。

 昼ごはんが出来たので、家庭菜園の水やりをして居るトライちゃんを呼びに来ました。

 声を掛けようとしたら、目が合いました。

「あ、と、トライちゃん、お昼出来ました、ご飯食べに来て下さい。」

「ひゃい! 噛んだ・・・」

 トライちゃんは、目を逸らして走って何処かへ行ってしまったとです。

 食卓に、今日の料理を並べて、ご飯をお櫃に入れた物を置いておく事にしました。

 暫くすると、厨房で一人でご飯を食べ始めた頃、トライちゃんがやって来ました。

 目を合わせない様にして恥じらったようにモジモジしながら「あ、あの、二人しか居ないので、一緒に食べませんか?」と言ってくれたとです。

「よかとですか?」

「は、はい。」

 その頬は、間違い無く高揚しとったとです。

 もしかすると、トライちゃんも僕の事を好いとうかも知れん。

 自分の分の料理を食卓へ運ぶと、トライちゃんはお茶を入れてくれたとです。

 その仕草にドキドキしたとです。

 やっぱり、僕はトライちゃんが好きになったとです。

 あ、なんか一部元気に・・・

 --------

 -エリー-

 どうなるかと思って、監視用ナノマシンで見てたけどさぁ・・・

 こいつ等初恋同士の中学生カップルかっ!

 見た目どっちも大人なのにこれかよって感じで、見てておもろいから良いけどなw

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