第268話 フォード王国・破壊と再生

       フォード王国・破壊と再生

 時は5年ほど前に遡る。

 -トーラス・フォード(プローブの弟)-

 夢を見ていた、僕の知らない世界の夢だ。

 いや、そうじゃ無い、僕はその世界を知っっている。

 現在の記憶もそのままあるが、僕はここに生まれる以前、夢で見た世界で生きていた、筈・・・

 前世での名は・・・万が一にもこの世界に同年代の時代から送られて来た転生者、若しくは転移者が居た場合、有名人の部類であった僕の名はあっさりバレるのでNGだ。

 かつて僕は、政治にも携わった事があった。

 頭脳は悪く無い方だと思って居る。

 理系だし、そんな知識もこっちに持って来る事が出来たようだ。

 ならば、ぼくは今日からこのチートを使ってこの国を支配し、こんな小国では飽き足らず、もっと大きな国を手中にするのだ。

 手始めに、黒色火薬だな、土の中から硝石を取り出して結晶化出来れば火薬になるよね。

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 試行錯誤の結果、失敗。

 何でうまく行かなかった?

 そうだ、不純物が多すぎたんだ、きっとそうだ。

 ならば飯テロだ!

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 何で味噌や醤油が手に入らない・・・

 くそっ! 鰹節すらも、鰹が魔物化してて捕まえられない! これじゃ作れない、一体どうなってる!

 そうかよ!この世界の程度が低すぎて俺の知識チートでもどうにもならねぇってかよ!

 良い度胸じゃねぇか、ならば俺は、強引に王になってやる、そして強引に世界を手に入れてやる。

 手始めに、この失敗した色々な物質の廃棄物だ、これは所謂、環境ホルモンの一種、つまりは、ホルムアルデヒドそのものだと言う事。

 大量にあるコイツを少しづつ、父、つまりフォード王と、兄の食事に何らかの方法で混ぜて食わせていけば、癌を発症して死に至る筈、医学の進歩もして居ないこの世界であれば、容易く殺せる訳だ。

 ・・・こうして、俺の計画が始まったのだ。

 幸い、俺には、何と言うか、不思議な力が多少だが備わっていた。

 物を収納したり、ある程度離れた場所であっても、収納した物を取り出せる力、これを使えば、微量のホルムアルデヒドを食事に混ぜるなどは容易かった。

 あれから5年、コツコツとやって来た計画が実を結び始めていた。

 クソ親父は、元々王になってから贅沢三昧をして居たおかげで、割と早い段階で発症。

 既に起き上がる事もまま成らなくなってきている。

 兄、プローブに関しても発症したようだ。

 何だか、他国に聖女が現れたと言って、病を治して貰いに行くと言い残して旅立ったが、あの体では長くは無いだろう。

 そもそも、癌だけじゃ無くて如何なる病気も祈禱なんかで治せる訳がねぇ!

 兄が旅立って一カ月、そろそろクソ親父も死へのカウントダウンを始めている。

 頃合いだろうな、プローブもあの体調では長旅に耐えられずにそろそろどっかでくたばってる頃かも知れない、生きて居たとしても戻って来られる訳が無い。

 さぁ、クーデターの始まりだ!

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 手始めに、玉座を秘かに狙って居た宰相、マスタング・シェルビーに、あえて隙を見せ、俺を王に据えて裏で操れそうに見せかける努力を惜しまずにやって来た事で、今ではすっかり俺の協力者だ。

 とは言えあの阿保宰相は未だに自分が俺を操って居るつもりで居るけどな。

 だがお陰で、勝手にお膳立てが出来ている。

 既に騎士団の大半が手中にある状態だ。

 この国の成人年齢は16、俺が覚醒して前世の記憶に目覚めたのは10歳の誕生日だ。それから5年、まだ成人年齢には無い以上、アホのマスタングは未だ俺をマウント出来て居ると思い込んでいる、今の内がチャンスだ。

 このアホを顎で使ってクーデターを起こさせるとしよう。

「マスタングは居るか?」

「これはトーラス王子、如何されたかな?」

「兄上は何処かへ出かけてしまい帰って来ぬようだし、父上はもはや虫の息、ここは我が即位せねば国が滅ぶのではないか?」

「左様で御座いますな、トーラス様、それではそのように、明日即位式と行きましょうか。」

「そうだな、よろしく頼むぞ。」

 こうして、全ての貴族と国民へと通達を発した。

 この国はちっぽけなので全ての貴族がこの街と周囲の班日以内に届く範囲の村にしか存在しない。

 明日即位するとなれば、反対する者は今すぐにでも挙兵してこの王都を囲むしかない。

 早速告知が行われ、それこそ貴族街は大騒ぎとなった。

 まぁ、貴族街と言ったって、この国には貴族家は10家しか存在しないので、大した物では無いし、兄派の貴族はその内の6家、4家は俺の派閥になる。

 元は兄派閥ばかりだったが、兄の病気が父と同じでは無いかと噂が広がり、俺の方に鞍替えした者が多かっただけなのだが。

 元は、俺の派閥はこの宰相のシェルビー家のみだった訳だ。3家がこちらに鞍替えをした事に成る。

 まぁ、順調ではある。

 この間ようやく長年の研究が実を結んだ黒色火薬のお陰で、此方にはアドバンテージも出来た事だし、6家が挙兵をしても鎮圧にはさほどの時間を要さないだろう。さぁ、クーデターの始まりだ。

 外から見ればクーデターを起こしたのは兄派閥の貴族でそれを鎮圧しただけと言う風に見えるだろう。

 つまり大義はこちらにある様にしか見えないのだ。

 まさに完璧な策略だ。

 翌朝、この城を取り囲むように6家の貴族軍が集結する。

 こいつ等を下す為に、完成させた火縄銃を200丁用意した鉄砲隊を城壁上に配置した。

 俺から見れば大昔の戦術だがこの世界でなら最新の戦術だ。

 誰も追随出来る訳も無い。

 取り合えず、鉄砲を一斉射撃してけん制した。

 すると、射程外へと逃げて行った。

 後はこちらに大義が有ると言わんばかりに宣誓をするだけだ。

 これでほぼ、勝敗は決したも同然。後は即位式をするだけだ。

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 ほぼ制圧されたと言える王国上空へと差し掛かったアインとアイン・スタンダード1個師団。

『エリー様、目的地上空へ到着致しました。

 反対派貴族軍と思しき軍隊が周囲を囲んで居ますが、何らかの弊害が有り近寄る事が出来ない様子で、遠巻きに停滞して居ります、突入しても宜しいでしょうか?』

 飛空艇から見る下の風景は、空に突如現れた謎の船に困惑して居るようで、王国軍、反対派抜貴族軍共にぽかんと口を開けて見上げている様子だ。

『良いだろう、制圧開始。』

 エリーの下知を貰って、一気に空挺降下をするアイン・スタンダード軍。

 空挺降下と言っても、彼女達はアンドロイドであるが故、只単にパラシュートもロープも無く飛び降りて居るだけである。

 同じ顔をした女が1個師団相当の人数、空から降って来る異常な事態。

 混乱以外のなにものでも無かった。ものの数十秒で王城は制圧され、鉄砲隊は無力化、城は、まさに秒殺で無血開城と成ったのだった。

 それからは、アインが各貴族への対応を迫られる事と成る。

 飛空艇は亜空間へと消え、アイン・オリジンが、城内の広間で、マスタング・シェルビー宰相以外の貴族を集め、円卓会議のようなものを実施したのだ。

「お集まり頂き有難う御座います。

 私の名は、アイン・オリジンと申します。

 プローブ・フォード様よりのご依頼を受け、此方へと赴きました。」

 一気にざわつく円卓。

「プローブ殿下は御無事なのか?」

「お亡くなりになったと伺って居たのだが、御存命なのか?」

「その様な戯言を!

 何処の国から参ったのだ、侵略者め!」

 様々な意見、見解が飛び交う。

「現在、プローブ・フォード様は、我が主、大賢者でハイエルフのエリー・ナカムラ様の元で療養中で御座います。

 この場に在らせられぬ事でご不満、御不安も御座いましょうが、数日後には病を克服されたプローブ様をお連れ出来るとの事ですので、ご安心下さいませ。

 怪我をされた方はどうぞ、私の部下に治療させて頂きます、中庭に特設テントをご用意いたしましたので、ご利用くださいませ。」

 中には耳の早い貴族も居るようで、そのアインの申し出に、質問が帰って来る。

「それは、まさかとは思うのだが、あのローポーションとか言う薬が用意出来ると言う事かね?」

 アインは、得意げに当然とばかりに答える。

「勿論で御座います、欠損の有る方の為に、ハイポーションもご用意いたしましたが。」

「なんと!欠損も治せると言うのか!??」

「勿論です、我が主はハイエルフの大賢者ですから、あまり舐めて頂くのは不本意で御座います。」

「いやスマン、申し訳ない、そんなつもりで言った訳では無いのだ、あまりにも我々の常識からかけ離れて居ったので驚いての言葉だ、許して下され。」

 こうして、怪我人も助かると言う事で信用を得たアインは、国王の治療もしてしまい、聖女様と呼ばれる事と成ったのだった。

 これで各国での聖女像が割とバラバラになった。

 ちなみにこの時、国王は最終段階の癌、全身に転移しており、生きて居るのが不思議な程だった。

 一部、部分切除が不可能な部位も有った為、全身の概ね半分程が義体と成ったのだった。

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「くそっ!なぜ我がこのような地下牢に入れられなければならぬ! 我こそがこの国の次期国王であるぞ!」

「やかましい罪人ですね、A級戦犯が何を言った所で誰も聞く耳を持つものでは有りません、断頭台に上る日を震えて待つが良いです。」

「だ、断頭台だとぉっ!ふ・・・ふざけるなァっ!出せっ!ここから出せェ~!」

 排除対象では無いとは言え、戦犯に対して全くの無慈悲、流石はAIアンドロイドのアイン・スタンダードであった。

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 -5日後-

 新たな飛空艇が飛来、ツヴァイ軍がプローブ王子を伴い、到着したのだった。

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