第261話 番外編19.セドリックの式場選び

 番外編19.セドリックの式場選び

 私は今、悩んで居た。

 結婚式をせねばなるまい。

 第四王女を娶るのであるから、これを外す訳には行かなかった。

 披露宴は貴族達へのアピールの為にも外せない物ではあるが、こっちは問題が無かった。

 初めは、貴族会館を使おうと思って居たのだが、此方が丁度私の披露宴当日まで、絵画展をしていると言う事で、利用出来なくなったが、何の問題も無い。

 何故なら私には、世界を見て回る旅へと出たエリーが私に残してくれた、ジャイアントクルーザーが有るからだ。

 ジャイアントクルーザーは馬車での移動など比に成らない位の移動力を誇るが、それだけでは無いからだ。

 パーティー会場として使える規模の食堂が完備、娯楽施設迄完備、宿泊施設から風呂迄完備して居るからだ。

 コイツで、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順に、此方から出向いても良いとまで思って居る程だ。

 だがそれを言ってしまうと、うちのジュドーから、

「旦那様より下の位の貴族を此方から迎えに行く必要は有りません、王都迄到着次第彼らの到着するのを待つのが宜しいでしょう。

 此方から出向くなど有っては成りませんよ、沽券に係わる事で御座いますからそこはキッチリと為さって下さいませ。」

 私と同じ、辺境伯に認定されて居るのは、他に二家ある。

 そこ迄と思ったが、よくよく考えたら、前回、舞踏会の前の叙爵式の席で、私は侯爵に成ったのだ。

 未だ何となく慣れない事だが、そうなると良く先は限られてくる。

 公爵家、侯爵家を周って迎えに行けば良いだけに成るからだ。

 公爵家は、王家を除いて三家、侯爵も僅か四家だからだ。

 私を入れると五家になる訳だ、この辺は歴史の長い家から回れば良いと思って居る。

 すると都合の良い事に、王都を中心にして、王都から順に渦巻き状に、内側からグルっと回ると丁度いい塩梅に成る事に気が付いてしまった。

 ぐるっと一周半程回った後に真っすぐ王都に戻れば良いだけで良いのだから、二日も有れば十分に回り切る。

 乗せた貴族には、娯楽施設と寝室、風呂、食堂を使わせておけば問題は無いだろう。

 彼らの世話は施設内の管理をしてくれている、ロボットとか言う魔道具が全てやってくれる。

 セレナ(照)と二人で、良く利用してる程の料理のクウォリティーとゲームの面白さだ、このクソ真面目とまで言われた私が嵌って居る程のゲームと言う所がまた良い。

 飽きないのだ。

 内部の娯楽施設で出来るゲームは、カードを使った、ポーカー、ブラックジャック以外はエリーの考案の物だ。

 バカラ、ルーレット、スロット、パチンコと言った遊具が私の好みだ。

 中でもパチンコにハマっている。

 パチンコにも様々な種類があってどれも面白い。

 エリーに知られたらなんか言われそうだからあまり言わないように気を付けてはいるが。

 その上、風呂も良い、私の領地にはエリーが掘り当ててくれた温泉も有るから普段はそっちだが、この風呂も良い、常に利用可能で、その上、いつも清潔に保たれている、石鹸類も完備してあるので持ち込む必要性も無し。

 これならば、誰しも納得してくれるはずだ。

 後でこの娯楽施設や温泉施設が領地に欲しいなどと言われても困るけどな。

 さて、披露宴はこれで良いだろう、披露宴の時の公開婚姻式として仮設の神殿は屋上(甲板)に式設しておく(工作用マシンと言うものクルーザー内に搭載されて居ると言うので試しに作って見たら既に出来ていたりする)

 まぁ、どうやってこの規模の物がこうもあっさり建設できるのかはサッパリではあるが、エリーは多くの人が見ているさ中に瞬時に城を構築して見せた事があった、あれが出来るのだからこの位は簡単なのだと思う事にして置く。

 盛大に脱線してしまったが、さて、式はいつ何処でやるべきか。

「旦那様、差し出がましいとは思いますが、このジュドーめに提案が御座います。」

「構わん、申して見よ。」

「はい、この度の婚姻が叶った事の発端は、この領地の教会で御座います、神前での式も可能で御座いますので、此方では如何でしょうか。」

 但し、教会があるのは、この街の中でも最も貧民が多く集う、ダウンタウンとなる。

 要するに、平民、貧民達の目に晒されての式となる訳だ、だが、この街を収める領主として、エリーと交わした約束がある。

 それは、教会を支援し、孤児を保護する事、貧民街の住民も自領の民である、仕事の斡旋をし、彼らに人並みの生活を提供する尽力をせよ、と。

 つまり、私はこれをする為に、ダウンタウンの住民を差別してはいけないと言うものだった。

「そうか、私は未だ、ダウンタウンを差別して居たのか、自領に教会は在ったでは無いか。

 良かろう、我が領の教会での式を検討しよう。」

「それでは、視察に行って参ります。」

「待て、私も行こう、自分の婚姻の式をする教会を自分の目で見ないなんてそのような事があっては成らない。」

「畏まりました、セレナ様はいかが致しますか?」

「そうだな、本人に確認を取ろうと思う。

 だが恐らく、下見に同行すると言うだろうな。」

「ええ、あのお方であれば、きっとそう申されると思います。

 旦那様は本当に素晴らしいお方を射止めました。」

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「馬車の用意が出来ました。」

「うむ、では、そろそろ参ろうか。」

「はい、私も楽しみですわ、孤児達をジュドーから伺った程の人数保護して居るだなんて、きっと高名な牧師様なのでしょうね。」

「この牧師は、我が領にローポーションを齎している賢者殿だよ、大賢者で聖女のエリー殿の弟子、と言った所だ。」

「エリー殿と言うと、貴方のお話に幾度と無く出て来る、あのわたくしのベッドやあのお風呂、それにあの大きな乗り物を作られた大賢者様ね?

 そんな方のお弟子様だと言うのならますます楽しみです。」

「では、出発いたします。」

 ジュドーはそう言うと、御者席に座る。

 暫く、領内のいくらかの個所を序でに視察しようと、少し大回りをしつつ教会へとたどり着いた。

 以前と比べ、我が領はやはり潤って来ているように思える。

 不思議な事に、エリーが我が領内から居なくなって暫くしてから、どう言う訳か我が領内で魔法の発現が観測されて居る。

 エリーが何かして行ったのであろうとは予測出来るが、何故今更のように時間差で魔導士が誕生して居るのかは、調査中らしい。

 そのように、冒険者達の強さが上がって来て居るので、それによってかられた魔物の素材が領内に増えて来たのが、この潤いの原因であろうとは予測できる。

 本当にエリーには脚を向けて寝られない。

 程無くして、馬車が止まる。

 だがここは教会では無い。

「ジュドー、どうした、何かあったか?」

「旦那様、一目旦那様にお会いして感謝の意を伝えたいと言う老婆が居ります、如何致しますか?」

 ここは既にダウンタウンの真っただ中、普通であれば貴族はこのような所に足を踏み入れないだろう。

 だが私は、ここの住民達も領民として対等に扱うと決めたばかりだ。

「判った、降りる。」

 馬車の戸を開け、踏み出すと、小汚いが、私の前に出る為にめかし込んだのであろうと思われる貧民達が数名。

 全員頭を下げている。

 ふと気が付くと、セレナも私の後ろに降りて来ていた。

「馬車に居っても良かったのに。」

「いいえ、貴方が信頼している住民達ですから、私が信用しない訳には参りませんよ。」

 こう言う方なのだ、だから私は好きになったのだ、私に輿入れする事が決まって少々浮かれて失念して居た。

 念の為と言うか、セレナを護るように、セレナを挟んで私の反対側にジュドーが立つ。

 流石最も信頼する従者だ。

 と、突然にセレナが住民に向けて声を掛ける。

「皆さん、面を上げて下さいな。」

 住民達が顔を上げる、その顔には、声を掛けて頂いたとでも言わんばかりの感激に満ちた表情だ。

「此方は、此処の街の領主、セドリック・フォン・シーマ公爵殿下です。

 そして、私は、この方へと嫁いで参ります、セレナ・フィガロ・グローリーと申します、第四王女ではありますが、この度このような良縁に恵まれた事、大変に嬉しく思って居ります。

 これからは、わたくしも、セレナ・フィガロ・シーマとして、皆さんを支援して行くつもりです、よろしくお願いしますね。」

 驚いた。

 もうすでに民衆の支持を得始めていたのだ。

 皆口々に、勿体無いお言葉です、だとか、喜びの言葉が聞こえてくる。

 先程馬車を止めた老婆に至っては、手を合わせて拝み倒して居る程だ。

 中には、少し不敬な感じの言葉ではあるが、坊ちゃんの所に最高のお嫁さんが来たと泣いて喜ぶオッサンまで居る。

 この際罪に問うたりはしないが、これ程に民衆の支持を受けられるのは、私が良い領主に成ったのだと言う証拠なのだろう、誇る事にしよう。

 この先は何れにしても、道も細くなるので、教会への道に馬車は入れそうにも無い事もあり、此処から歩いて行く事に成った。

 私とセレナの歩く道を、両脇を住民達が囲んで声援を送ってくれる。

 感激のあまりに涙が出そうになる程だ。

 こんなに住民に愛される領主が他に居るのだろうか。

 そう考えると益々、頑張らねば成らないと思えて来る。

 教会へとたどり着くと、そこには、丁寧に修復された美しい白壁の教会がそこには建って居た。

 もっと汚れた、壁等も崩れ掛けた様な物が出て来ると思って居たので、少々驚く。

「旦那様がかの公爵様とのお取引で得た収益で修復出来ました。」

 ジュドーが一枚嚙んで居たらしい。

「お待ち申し上げておりました、領主殿。」

 牧師が出て来て挨拶をするも、その牧師服も新調されたと思しき大変奇麗な物であった。

 牧師の後に続くシスターの修道服も、孤児達の服装も、貧民街の教会と思えない程に奇麗な新品同様の物だった。

「とても素敵な教会ですわ、それに、貴方様はこれ程までに孤児達に目をかけて居りましたのですね?

 私、輿入れするお相手として大変誇らしく思います。」

 セレナの中で、私の株が一段上がった様だった。

 牧師に誘われ、神殿へ。

 すると、何故か私達は、その風景に間違いを発見した気分に苛まれつつも、概視感という相反しても可笑しく無い感情に囚われていた。

 何かがおかしかった。

 その違いを目で探す。

 すると、牧師がこう言い放った。

「この像に付きまして申し上げます。

 この度、ローデスト神殿よりの情報により、この度の聖女様を信仰しようと言う事と成りましたので、アスモデウス像を撤去、聖女像に変更させて頂く事と成った次第です。」

 ・・・なんでそうなったんだ?どう言う経緯で??

 いや、えりーのすることだから、どうせまた、ローデストでもろくでも無い事をしでかした以外には無いのだが・・・

 何で神を挿げ替える必要性が???

「す、済まない、牧師よ、何故そうなったのかの経緯を説明してくれると助かるのだが・・・」

「はい、実は・・・」

 彼の話は、1時間以上にも及んだ。

 そして全てを理解したのだが、納得は出来ていない・・・

 アスモデウス様は地へ落され、それをエリーがあざ笑いながら蹴飛ばした???

 なんでそうなるんだYo!

 もう大概の事には驚かないと思ったが、これ程驚いたのは生涯でも初めてだ。

 だがまぁ、四の五の言っても仕方が無い。

 式をする教会は決まった、そして、友人、知人迄で小規模に正式な式を終わらせて披露宴に臨む。

 念の為エリーにも届くように招待状を出すとしよう。

 あの大賢者に届きさえすれば、王を治療したクリスや、英雄達のパーティーもきっと出席してくれる気がするのだ。

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