第240話 エリーの一番長い日1

       エリーの一番長い日1

 -本体-

「んぎゃー! んぎゃー!」

 マリイが泣いた、きっとオムツ交換だな。

 目を覚ました渡脚は、未だこの世界にはこれの他に二つほどしかない私自作の時計をチェックした。

 時間は3時過ぎだ。

 おむつ交換をしていると、この屋敷に侵入しようとする気配・・・

 MkⅣ、あの子又朝帰りかよ、最近目に余るわね・・・

 最近では浜松で意気投合した居酒屋のおやじさんと遅くまで飲んでるらしい。

 私はおじさんと言えば、家を出た後の一年間のお陰でトラウマになって居て、受け付けないのに、何故か私の並列存在なのにあの子だけはおじさん平気なんだよね、何でかな、やっぱ並列は増やすと少しオリジナルから劣化が有るんだと思うけど。

 しかし妙な所が劣化したものだ。

 マリイもオムツ交換で目を覚ましたので、ついでに授乳の時間にしちゃおう。

 見るなよ?

 ---

 授乳を済ませると、マリイにゲップを出させる為に、背中を軽くポンポンと叩いてあげる。

 マリイを寝かしつけて、私は目が冴えてしまったので、キッチンへ。

 冷蔵庫から氷を出し、グラスに一つ入れると、冷蔵庫で冷やしてある、コーヒー、ミルクを注ぎ、アイスラテにし、一口。

 ふうっと一息ついた所で、トライがあいさつしに来た。

「エリー様、おはようございます、これから今日の漁に行ってきます。」

「行ってらっしゃい、変なの釣らないように気を付けてね~。」

「ふえぇぇ~、変なのって何ですかぁ~?

 そんなにいつも巨大海老とか釣りませんからぁ~~。」

 この反応に少しニヤニヤしながら送り出す。

 最近は秋も深まって来て、日も短くなったようで、まだ暗いけれど時計を見るともうすでに4時半を回っている。

 アインが外の警備を終えて戻って来る、ツヴァイと交代の時間らしい。

 唯一充電式のフィア―を起こし、神社への出勤までの間のマリイの様子をチェックする係を命じて、アインに朝食の支度を頼み、研究室へ籠る事にした。

 なんたってこの間、MkⅢがトンデモナイ物をストレージに突っ込んでくれたからね、それを検証したかったのだ。

 石化の魔眼の事だ。

 三日ほど前に、アインとツヴァイが妙に中二病じみた事を起こしたが、そっちは一応検査して見て何も問題が無かったのが判ったので、人と同じようにAIでも成長過程でそんな時期が出来ても可笑しく無いのかも知れないと言う事で結論付けたので、そっちはもう良いので、この魔眼の研究に本腰を入れる事にしたのである。

 直接見てはいけない様なので、ナノマシンによる映像での確認をしつつ、魔力を流して見る。

 うん、薄っすら金色に光るよね、そんでこの光に、見た物の体内のマナへ関渉する信号が出て居る訳だよね、その信号を発見できれば人工的に石化魔眼を合成する事が可能になる筈だ。

 ただ、あんまり石化の魔眼なんか再現しない方が良いかも知れないね、あぶねぇし。

 普通の人間で石化の魔眼持ちなんか居たら、ハッキリ言って突然発動されたら対処のしようがねぇもんな。

 でも、この魔眼の特有の波動みたいな物はある様なので、サーチで警戒する事は出来そうだ。

 魔眼は魔法と違って、魔眼の持ってる特有のシステムによって発動する物だから、他の魔眼でも波動みたいなものがある筈だ。

 全て解析出来れば対処位は出来そうだ。

 魔法と比べて発動は魔力を流すだけなので発動は早いんだけどね。

 千里眼の魔眼とかも有りそうだけど、千里眼に関しては私も場合ナノマシンデータリンクで既に再現出来て居るので反則ながらすでに魔眼を持ってるのと変わらない気がするのは気のせいだろうか?

 と、そこまで検証が済んだ所で、アインが呼びに来た

「エリー様、朝食がご用意出来ました。」

「ん、ありがと~、今行く。」

 ダイニングへ行くと、ボサボサの髪のMkⅣが居た。

「あ、おはよー。」

「おはようじゃ無いわよ、アンタ最近朝帰りが多すぎるんじゃない?

 たまには新しい研究でもして見たら?」

「ん~、そうだねぇ~、んじゃエルフの進化についての研究でもするかな~・・・明日からね。」

「ったく、しょうがねぇ子だわ、アンタ一応私自身なんだからもう少しちゃんとしなさいよ。」

「へーい。」

「だけど、アンタとMkⅢの旅のお陰で転移魔法のポイントは増えたわよね、この大陸だけだけどさ、未だ。」

「そうね~、ハイエルフに成って初めて空間魔法の概念が手に入ったと言うか、生身の人間の超空間航法が実現出来たんだもんね~。」

「乗り物で保護出来てれば超空間航法使えない事は無かったけどな、やっぱ個人単位で飛べるのは便利で良いよ、うん。」

「御馳走さまー、おやすみ、少し寝るわ。」

「今日は出かけないで研究始めなさいよね、MkⅣ。」

「ん~、考えとく。」

 MKⅣはひらひらと左手を振りながら二階の寝室へと上がって行ってしまった。

 それにしても、ツヴァイとアインの個体差がここ最近で出て来たなぁと思う。

 アインはどんどん料理の腕が上がって居るけど、ツヴァイはそんなに進歩して居ない、だけどツヴァイはアインより掃除洗濯が上手い、等、成長して居るんだね、私の作ったAI達は。

 問題はトライだな・・・

 さて、美味しい朝食を済ませた私は、もう少し研究室に籠る事にした。

「アイン、御馳走様、又腕を上げたわね。」

「お粗末様です、エリー様にはまだかないませんが、努力して美味しいものが作れるよう研究して行きます。」

 うん、頑張ってね、アイン。

 研究室へ向かう途中でフィア―に呼び止められる。

「エリー様~、そろそろマリイちゃんのお世話代わって下さい~、御神楽踊りに行かないと。」

 ああ、そうだったわ、忘れてたw

「判ったよ~。」

 マリイを預かって、フィア―を見送る。

「行ってらっしゃい、宮司によろしくね~。」

 マリイをあやして居ると、海上の警戒エリア内に大型の魔物の反応・・・

 はぁ、トライったら、あれ程気を付けろっつったのに。

 釣り用の手漕ぎボートで36ノット位の速度で勢い良く陸目指して居るトライ・・・漫画をそのままやんなっつーの。

 いくらオウルを日緋色金で作ったからってさぁ・・・

 あまり酷使すると金属疲労で折れるわよ?

 で、引き連れて来た巨大生物の正体は・・・

 殻だけで100m近くあろうかと言う、巨大すぎるサザエだった・・・

 何だって寄りによってナマコだのそんな系統ばっかり連れて来るんだ、こいつは。

 たまにはクジラみてぇな大きさになったブリとか、お魚系を引っかけて来いや、全く。

 その内コイツの事だから、この辺の海域は生息域じゃないって言われてるクラーケンとか連れて来そうで怖いんだが?

 まぁ良いわ、ツヴァイにマリイを託して、イオンクラフトで海上へ出た私は、先ずは重力弾を反転して反重力でサザエをひっくり返し、慌てて殻に籠ったサザエに大量のお醤油を飲み込ませ、フレアを放って美味しく焼き上げた、つぼ焼きにしたんだけど、デカすぎてどうやって食べようかな・・・

 なーんて、今さっきまで思ってたさ・・・

 ご近所さんが黙って無かったようです、小湊の皆さんが、海岸の大立ち回りを見ていたようで、御相伴に与ろうと集まって来ましたとさ、めでたしめでたし・・・っと。

 ンで、切り分けて持ち帰った小湊の住人達が、美味しかったってんで後から後からお返しの活魚とか持って来てくれるもんだからあっと言う間に配った量より多く成る始末、これは困るので、エルフの里に設置した、私のとは別枠のストレージを呼び出して、そん中に投入してお裾分けw

 こっちのストレージも完全に時間が止まる事は無くても時間経過が通常の1%と言うスロータイムになって居るので、一緒にメモを入れておいたので有意義に頂いてくれるだろう。

 なんせエルフってのは肉や魚を食べない訳では無くて、食べなくても普通に生きて行けると言うだけで、肉や魚は趣向品として好きなエルフは割と多いらしいからね。

 かなり内陸側の森の中だし、海産物は嬉しかろうよ。

 さてと、村の連中も帰った事だし、研究の続きでも~・・・

 って今度は竜馬さん達戻って来たらしいな、データリンクレーダーに引っかかり始めたし。

 しゃぁねぇな、相手しない訳には行かないだろう。

 しかも、流石にはえぇな、ドラグランダ―は。

 正午には到着しそうだ。

「アイン~、昼食二人前増やして頂戴ね~。」

「畏まりました、お任せください。」

 仕方無いなぁ、研究に戻れるほど時間もなさそうだし、マリイを見て過ごすか。

 マリイが危なくない様に出来るだけ硬い物を撤去し、スポンジや綿を詰めたクッションなどで覆って居る部屋を作ってあるので、そこでマリイと遊んで待つ事にした。

 最近のマリイは、ハイハイも大分速くなって、何かの作業をする時などは、アインかツヴァイに見て置いて貰わないとどこ行っちゃうか判った物では無い位目が離せない。

 だからこの部屋を作った訳である。

 うん、ハイハイで全力疾走するマリイ、可愛い!マジ天使!尊いっ!

 散々遊ばせてあげて、お腹が空いたようなので授乳のお時間。

 うーん、もうそろそろかなぁ、離乳食ってば。

 未だ歯が生えだしたようには見えないんだけど少し痛くなってきた。

 よっし、今晩位から離乳食にチャレンジしてみよう。

 手始めに擂りリンゴと良く茹でたそうめんかな?

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