第234話 進化を促す者

        進化を促す者

「さぁ、そんじゃぁ、名前付けちゃおう・・・

 と、言いたい所なんだけどさ、貴女は自力でドライアド・トレントへの進化を?」

『わたくしは、250年程前に進化を果たしました。

 その進化を手助けして下さったのが、ハイエルフ、タカシ・タナカ様です。』

 なぬ? 明らかに日本人じゃない、そのハイエルフ・・・

 もしかして転生者かしら。

「そのハイエルフに進化させて貰ったと言う事ね?

 それで今の、分離前段階のトレントと言う事か。

 何でそのハイエルフは貴女に名前をくれなかったのかしら?」

『判りません、ですが、そのハイエルフ様は、かなり消耗して居らっしゃる様子でした。』

 成程、名前を考え付ける、そこまでの気力が無かったと言う事か・・・

 恐らくそのハイエルフこそが、魔王認定され処刑されたと見せかけて逃げて来たと言う、私の探している人物、あの日記の所有者で、魔道具を作り、サリ―シリーズホムンクルスを齎した、元錬金術師。

「少々宜しいでしょうか?」

 エルフの長、キュルレンシスが口を挟んで来た。

「なぁに?何か知って居る事でもあるの?」

「はい、その、タカシ様は、以前海岸沿いの森に住んで居た私達が、遭難し流れ着いたハイエルフ様を保護した事がありまして、その方です。

 その方は、まだ体力も戻らないままに、私どもに助けられた礼がしたいと申しましてこの地へと私達を、そこでエンシェントトレントを見つけ、進化を促し、今に至ると言う事です。」

「で、その人は今何処に?」

「判りません、これからも、人助けをする事を教示としてこの里を護って行ってくれと言い残し、まだ癒えても居ない体で出て行ってしまわれたのです。」

「そうか、そのハイエルフは、魔法は使えなかったと言う事で間違いはない?

 癒えて居なかったと言う事は回復する術を知らなかったと言う事だろうから、間違い無いとは思うけど。」

「あ、はい、間違い御座いません、その通りです。」

 そうか、だから魔人達は魔法が使えないんだな、ホムンクルスを作る事は出来ても、それはあくまでもスキルとしての錬金術によるもので、その人は魔王として今でも追われて居ると思い込んで居て魔人を輩出しては逃げていると言う事で多分間違い無いだろう。

 今何処に居るかは知らないけど、多分錬金術のレベルも上がって来て居て大型の船、どの時代の人かは知らないけど、自分の時代にあった一番安全な船でも作ってこの大陸からはもう居なくなっているのでは無いかと思うが、勇者をまく為にそこかしこにダンジョンを作って見たり、魔人を刺客として放って見たりしてるって事かも知れないね。

 常に探してた情報も手に入った事だし、早速名づけでも始めるとしようか。

「ありがとう、良い情報を貰ったね、じゃあそろそろ名前を付けるとしようか・・・」

『お願い致します。』

 さて・・・っと。 どんな名前が良いかしらね~・・・

 何もトレントやドライアドに引っ張られた名前じゃなくても良い筈よね・・・

 富士樹海にある里の守り神的な存在なんだからぁ・・・

「コノハナサクヤ、なんてどうだろう。」

 富士山の女神様の名前だけどな、名前の響き的に森の管理者たる存在の精霊にもってこいな名前と思うんだ。

『コノハナサクヤ。 素敵な名前です、ありがとう。』

「おお、コノハナサクヤ様、素晴らしい美しい名前ですな。」

 ドライアド自体も、エルフの長老も気に入ってくれたようだ。

 名を付けたからすぐに進化が始まる訳では無い。

 この里にこの名前が広まって、この名の意味が強くなるほど進化が加速するはずなんだ。

 それが、名前の持つ魔力。

 信仰対象ともなれば尚更だ。

「さて長老、この名前を里の皆に周知させて欲しい、それによって彼女は進化を果たす事に成る。」

「畏まりました、ハイエルフ、エリー様。」

 ちなみに長老も進化出来そうな程に徳を積んでるっぽいんだよね~、魔法使えるようになったら一気に経験値が届いて進化に至るんじゃ無いかという気がして来た。

 まぁ、ネクロノミコン置いて行くから進化出来るんじゃ無いかな?

 長老が、里の者達にこれを伝えに行った所で、私は案内役だったリンドウ君に、玉藻ちゃんの姉妹の所へ案内して貰う事にした。

「リンドウ君、玉藻の姉妹の所へ案内して貰える?

 私は怪我も簡単に直す事が出来るし、この子も姉妹と合体する事で力を取り戻す事が出来るのよ。」

「わ、判りました、ハイエルフ様!」

 う~ん、なんか長老の私への態度を見てからというもの、この子の私への態度が、ある意味畏怖を含んでる気がして来たんだけど・・・

 あ、そうか、彼自身もこの里のドライアドに滅多にあった事が無いというのに私のトリーシアと此処のドライアドにもいきなり遭遇してしまって思考が追い付いて居ない可能性もあるか。

 まぁ混乱するよねw

 しかもドライアドが私に敬語使うもんだから尚更って所か。

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 玉藻ちゃんの姉妹は、それは酷い状況だった。

 両腕は食いちぎられて居て、左目は潰れて居たし、尻尾も半分食いちぎられて居た。

 何と戦ったんだろう。

 まぁでも、尻尾一本では大した強さでは無い筈だから、この付近の魔獣相手では仕方が無いとも言えるかな。

 早速私は、エクストラヒールでそれを治したのだった。

「わ、わっちは、もうダメかと思って居りんした・・・

 あ、あれ?」

「やっと見つけたで? あんたこんな所で何してはったん? エルフはん達に迷惑かけて。」

「あんた、尻尾もう4本なっとる、強い人見つけたんやねぇ、そんならわっちも融合するわ。」

 玉藻の尻尾がとうとう5本になった。

「恵里衣はん、死に掛けた理由の相手に、今なら勝てそうですわ、腕試しに行って来てもよろしゅおすやろか。」

「そう、なら行っておいで、一応、ポーション持って行きなさい。」

「ありがとう、使わんに越した事は無いけど、もしもの時には使わしてもらいます。」

「気を付けて行っといで、それと、この里一度出たら二度と戻ってこれないと思うし、MkⅢの所にそのまま戻りなさい。」

「MkⅣはん、ホンマお世話になりました。」

 そして玉藻は、この里から出て行った。

 私はと言うと、歓迎の宴を開くからと引き留められ、そろそろ夕方なんですけど・・・その間、何人ものエルフが私の所へやって来ては、様々な果物をくれるわ、握手を求められるわ、しまいには拝まれて居た・・・そうこうしつつ宴会の準備は着実に進んで行く、それにしても長老は何処に行ったのだろう、どこかに籠ってしまって出て来ないみたいなんだけど。

 ・・・あれ?

 今、進化始まったよね?急速にマナ量が増えて行って居る反応が、二つ。

 多分これは、大樹とコノハナサクヤだろう。

 大樹はここからも見えるので、そのまま鑑定をしてみると、ドライアドトレントではなく、トレントですら無くなって居た。

 私の大方の予想通り、その名前は、”世界樹”

 でもその名のすぐ後ろに(3本目)ってあるんだよなw

 既にこれまでに2本の世界樹が有るという認識で間違い無いのだろうか・・・

 三本もそんなモンがあったら大盤振舞だな、おい。

 まぁ、もう少しで同じ道辿りそうなトレント君に私も心当たり有るから少ししたら4本になる気がするんだけどな・・・

 っておい!

 何でもう一つ進化の反応が?

 まさかとは思うんだけど・・・長老か?

 長老は、まさかの私と一つ違いだったんだよね、私が735才だろ?

 長老が734歳だったという。

 私も少し前まで734だったから、学年とかの見方で見ると同級生位な可能性があるねw

 でもかなり年上には見えてた。

 まぁエルフだから、900歳くらいまで若々しいのが普通だから年上に見えると言っても精々ヒューマンの30歳くらいの見た目だったけどね。

 しかしこれは、凄いな・・・多分マナ量がこれまでの10倍位に一気に増えてる。

 多分ネクロノミコンの、進化の章を読んだのだと思うけどね。

 まぁ、元々私のマナ量は異常だったみたいだし、私と比較したらダメなんだけどね。

 その、長老と思われる膨大に膨れ上がったマナを持つ反応がこちらへ近づいて来るのが気配で判る。

「あの・・・エリー様。」

 見知らぬ若者に話しかけられた・・・いや、知ってる、これは長老だわ。

「キュルレンシス君? だよね。」

「はい、そうです、なんか若返ってしまいました。」

「だろうな、ハイエルフに進化したしな。 おめでとう。」

「やはり、そうなんですね、私は進化したのですね?」

「そうだね、それじゃこれからは、ハイエルフ名にしないとね。」

「左様ですか、では、私の新たな名も、エリー様にお願いしても宜しいですか?」

「そうね、私も既にそう読んでるからあれだけど、ユーフォルビアだと少し間延びした感じになるから、キュルレンシスを残しましょう。

 そしてこの里は、富士の嶺に当たる場所に有るし、里の名はフジミネとしましょうか。

 今日からあなたは、キュルレンシス・フジミネ、こう名乗ると宜しいでしょう。」

「素晴らしい名を頂きました、有難う御座います。」

 こうして、玉藻のお手伝いのつもりでここに来た私は、樹とドライアド、エルフの長老の三体もの進化を見届ける羽目になってしまったのだった。

 はぁ、疲れたわ・・・

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