第223話 贈り物1

         贈り物1

 —竜馬—

 エリー殿が、このスパイダーのコンテナ内部で何やら私達へのプレゼントを作って居ると言ってたな・・・

 何やら不穏な気配しかしないのだが気のせいだろうか?

 絶対的にヤバい代物と言う予感がぬぐい切れないのだ。

 しかし、確かにエリー殿の作る魔道具はとんでもなく頼りになる物が多いのも事実だ。

 ここは、嫌な予感はしなかった事にして期待して置くとしよう。

 しかし、俺の実家と言う事は土佐藩まで行くのだが、この機体で何日かかるのだろうか。

 歩きや馬ではかなりの日数が掛かる上に、途中大きな川を渡らねばならないのだ。

 まてよ、それを考えると、エリー殿が俺達にくれると言う物が何となく解った気がする。

 この蜘蛛型の魔道具の小型版のような物なのかもしれないな。

 いかんいかん、考えない様にしようと思った矢先だと言うのに、これでは堂々巡りだ。

 コックピットで、行先を告げる、だけど言った事が無い筈の地名を告げて果たしてそこまでたどり着けるのだろうか?

 疑問であったのだが、何の問題も無かったようで、安心したが、謎は深まるばかりだ。

 こう言う物なのだと勝手に納得するしかなさそうだが、う~ん・・・

 兎に角行き先を告げた事で勝手に走り出したこの魔道具に、後は任せれば良いのだろうが、むしろそれはそれで困った事態に陥る、暇なのだ・・・

 暇すぎて、リーゼさんとの会話も未だたどたどしい物になってしまうので、話す事が無くなった時にどうしたら良いのか判らなくなる。

 さて、どうしたものか・・・

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 -リーゼロッテ・アームストロング-

 何だか目まぐるしく状況が変化して、気が付くとドレスを着せられて化粧をさせられて居た。

 そして混乱の内に見合い相手と言う男性が連れて来られたのだった。

 更に、その混乱した私の目に飛び込んで来たその方は、元々背が高くて諦めている部分も多かった私が目を見張るほど高身長、かつ、とても男前だった。

 一目惚れと言う奴だった。

 一瞬で私は、名前も知らないこの男性に恋に落ちていた。

 ドキドキして、話をしたいけど声が出ない。

 こんな事は未だかつて無かった感覚だ。

 もしかして、このまま心臓が破裂して死んでしまうのでは無いかと思った。

 私は一体どうしてしまったのだろうか。

 かつて私は、跡取りが居ないからと言う事で、男性として育てられていた。

 そのお陰で、女の子するような遊びは何一つ知らずに育ったし、むしろ父の剣神と言う剣の高みに至る為に、ずっと稽古、稽古の日々を送って来た。

 その日々から私を救い出したのは、皮肉にも先の戦争だった。

 私や父の住んで居たランクル皇国がグローリア王国へと攻め込んだのだ。

 その狙いは、肥沃な大地で食糧問題が一度も起きた事が無いと言われる、シーマ辺境伯領。

 まさかそのような地方戦ごときで父が戦死する等とは夢にも思って居なかった。

 どんな猛者が父を倒したのかには興味が有るが、これで私は、アームストロング流剣術、剣術と言いつつ、槍術や昆術等全ての武器に精通した我が父の武術の集大成の様な武術、その師範と言う地位が、突然転がり込んで来た。

 父の悲報を聞いた私の中に溢れ出した思いは、近所の幼馴染の子達と、同じ様に遊びたかった。

 父が最後の時に振るって居た武器がウォーハンマーだったとかそんな情報はどうでも良かった。

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 父との確執・・・

 それは幼少期にまでさかのぼる。

 父の兄、アームストロング流拳闘術の始祖、その長男、ルイ・アームストロング。

 彼は私ともよく模擬戦闘(あそんで)くれた一つ年上のお兄ちゃんだった。

 歳が近かった事もあって、良く一緒に居た。

 私には兄も居ないし、弟や妹も居なかった。

 だから、彼の兄弟とはとても仲良くして居た。

 ルイ兄ちゃんが後継ぎだから、という理由で、下の兄弟たちはあまり訓練には参加して居なかったので、私にとって兄弟のような存在が居るとしたらそれはルイ兄唯一人だった。

 ルイ兄は格闘術を、私は剣や槍を習いつつ、休憩時間などに、良くお話をして過ごした。

 普通子供がするような遊びを、二人は全く知らなかったから。

 ルイ兄は、私と違って、勉強家で、叔父様の目を盗んでは、叔母様の部屋で本を読んで居たらしく、私に色んな話を聞かせてくれたのだ。

 それはとても楽しく、訓練の辛さを和らげてくれたものだった。

 そんな子供時代がしばらく続いた。

 私が18、ルイ兄が19の時、ルイ兄が、拳王と認められた。

 そして、ほぼ同時のタイミングで、私が剣聖になった。

 もはや、私とルイ兄に敵う者は、互いの父意外に居なかった。

 そんなある日、叔父が、急病で急死した。

 叔父、つまりルイ兄の父様だ。

 その翌日・・・ルイ兄は、ルイ姉になったのだ・・・

 私は混乱をした、しかし、ルイ兄・・・姉の言い分を理解するのにそう時間は掛からなかった。

 私も同じように、父に押さえつけられて生きて来たからだ。

 私は、女として生まれて来たと言うのに、男として育てられて来ていたからだ。

 逆にルイ兄は、男として生まれて来て、言われるままに拳を究める道を歩んで来たが、心は常に女性だったのだそうだ。

 私も、それまでは、用意された剣神への道を歩んで行くのが当たり前だろうと思って居たが、ルイ兄の行動のお陰で目が覚めたのだった。

 だが、既にこんな鍛え抜いた肉体の女を、女性と見てくれる男性はほぼ皆無だった。

 そして、私は、父が居る限り、諦めて用意された剣の道をひたすら歩み続けた。

 21で剣王の称号も得る事が出来た。

 そんな折の父の悲報だった。

 私は、不謹慎にも喜んでしまったのだ。

 やっと女として生きる事が出来るかも知れないと。

 だけど、私は既に27に成ろうと言う年齢、既に、行き遅れだった。

 仕方無く、ルイ姉に手紙を出して見ると、島の国と言う変わった国を旅して居ると言うので、私は後を追いかけた。

 お姉と再会出来たのは、お姉が帰路に就く為に訪れていた港街だった。

 折角来たのだし、仕方無くルイ姉の船を見送った後私はこの島国を見て回ろうと思って、旅を始めた。

 この島には手練れが多く、剣の修行にもなったし、女性らしい生き方のお手本のような物も幾つか勉強する事は出来た。

 今までの私の生き方とはまるで違うので気恥ずかしくてなかなか出来る物では無かったが・・・

 そんな折、ムッチャクチャ強い女性が居ると言う噂を聞いて、探し回った。

 の、だが・・・まさかその女性と言うのがエリー殿だったのだ。

 あっと言う間に見合いをさせられた私だったが、相手の殿方は、私を美しいと言って、プロポーズをくれたのだった。

 これ以上嬉しい事など、もはやあるものか。

 嬉し過ぎて、涙が溢れ、止まらなかった。

 そのまま、お相手の竜馬様のご両親にお会いする為に旅をすると言う事に成り、エリー殿にお借りした乗り物魔道具の、私に宛がわれた部屋に籠り、嬉し涙を流し続けた。

 自由に使って良いと言われた内蔵魔道具から飲み物を出して、水分補給をしながら泣き続けた。

 ようやく落ち着いたのは、翌朝だった。

 こんな物を貸してくれたエリー殿には感謝してもし切れない。

 部屋の外へは、一切音が漏れなかったのだ。

 部屋を出ると、食事の為の部屋へと向かう、既に竜馬様は起きて来ていた。

 御顔を見た瞬間、私の顔が絶対に高揚して居るのが判るほど、顔が熱くなる。

「リゼさん、おはよう、今日中には到着しそうだよ。」

 え? 全然揺れなかったけど、走ってました?これ??

 って言うか、歩いたら30日近くかかる距離と言って無かった?

 ええええ??????

 徒歩でひと月なら、馬車でも13~4日掛かるんじゃないの?

「そんな早く付いちゃうんだ、す、凄い。」

 思わず自が出ちゃった。

「まぁ、今日一日はのんびり過ごそう、この中から好きな物を選んで注文してくれ。」

 そう言って竜馬さんは、変な板のような物を私に向けたのだが、鮮明な絵が描かれている。

 竜馬さんがその絵を触って左右に動かすと、絵が変わる。

 何なんでしょう、この魔道具は。

 教わった通りに操作をし、スパゲッティーミートソースと言う変わった食べ物に興味を惹かれたので、注文の文字を触ると、注文がこれで通ると言われた。

 竜馬様とお話をしながら、とても有意義な朝ご飯だった。

 料理も食べた事が無い様なものが多かったがどれも美味しかった。

「私もこんな風に料理が出来る様に成れたら良いな。」

 そう言うと、料理を運んで来たは以前の魔道具が、喋った。

『それでは、後程レシピ本をお部屋にお届け致します。』

「そう言えばリゼさん、後で、この機には小さい書庫が有るらしいのでご一緒に如何です?」

「あ、ひゃい! ご一緒しましゅ・・・」

 盛大に噛んでしまった、恥ずかしい・・・

 その時未だ、私は知らなかった。

 エリー殿が、私達へのプレゼントをこの魔道具で作って居たと言う事実を。

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