第222話 犯罪者の末路

       犯罪者の末路

 -MkⅢ-

 クリムゾンスパイダーを竜馬さんに貸し出している私は、転移を使って琵琶町へと戻って居た。

 まぁ、貸し出したと言うより、本体の提案を受けて、一番高性能のAIを搭載して居るスパイダーだからドラグランダ―を一から建造する為に貸し出す必要性があっただけなんだけどね。

 機内空間パーティションの自由度も一番高かった事もあるけどね。

 実の所他のスパイダーと比べて色々盛りだくさんにしたせいで一回り大きいしなw

 まぁ、そんな理由で今私の乗機はここに無いのだ。

 お昼ご飯がてらに探索者組合へとやって来た私は、構内の食堂のおばちゃんに、レシピを教えながら唐揚げを作っている。

 だって超食べたかったんだもん、コカトリスの唐揚げ。

 ロッテちゃんと竜馬さんのお見合いに尽力しすぎてお昼食べて無いしね。

 出来上がった唐揚げを試食した食堂のおばちゃんが、1分位固まる程美味しく出来た。

 そんな唐揚げを、私はおろしポン酢や、山椒塩で食べるのが好き。

 やった事無い人は味変に是非試して欲しい。

 特に、ポン酢醤油は甘口の物を用意したら更に美味しくなるよ。

 酸味も塩味も円やかな甘口のポン酢醤油は、冷やし中華のタレにも流用出来る優れものです。

 そんな唐揚げを作り終えた私は、作り過ぎたなぁなんて思いつつ、山盛りにした唐揚げの大皿をテーブルの真ん中にドッカリと置いて、その大皿からお箸で取り皿に取り分けながら、味を変えながら頂いている。

 ん~!私最強!

 超美味い!

 ご飯がすすむわ~。

 それにしても、ジ・アースと玉藻&オーブは何処まで遊びに行ってるんだろう、そろそろ日が落ちて真っ暗になるわよ?

 ナノマシンデータリンクを使えば何処に居て何してたか、今何してるかなんてすぐわかるんだけど、彼らの為にはあまりならないので封印して居るんだよ。

 少し心配だけどね。

 それにしてもさぁ、最近、ふと思うんだけど、やっぱりこっちの世界に転生して、生身の体に戻って見て、つくづく分かる事は、こう言った心配する感情とか、細やかな感情の変化が著しく増えたと言うかね。

 やっぱホルモン伝達物質が分泌する生身の感覚は、全身義体ではあまり感じられなくなるんだなぁと思って、最近では新たな研究対象になって居る。

 カイエンとマカンヌと言う二人の検体も居るので、様子を見る為にも私はあいつらと合流した訳なんだけど、やっぱり最近、カイエンとマカンヌの関係性が、以前よりもドライになりつつある気がしてならない。

 もしも離婚なんて言う事に成らない様に、それまでにホルモン伝達物質の分泌が出来るような物に改造する必要もあるのかも知れないと思って、新しい義体も試行錯誤して居るのが今の実情なんだ。

 それとは真逆に、私の感覚も、全身義体で過ごした700年程の間と今とを比べると、何だか、女性らしさと言うか、そう言った物が私の中に徐々にだが戻りつつあるように感じる。

 特にマリイを見た時なんか、あんなに愛おしいと思わなかったよね、全身義体の時だと。

 これが母性本能と言う奴なんだろうと実感したんだ。


 ご飯食べながら考える事象でも無いんだけどね,そこはやっぱ科学者のサガだなぁと思うけど。

 ってンな事考えつつ、唐揚げを堪能して居ると、突然、組合の扉を思いっきり勢い良く開けて騒がしく入って来る者がいた。

「た、助けてくれ、近くにナーガが出た!二人毒にやられた!誰か解毒薬を持って無いか!?」

「ナーガはどうなって居るんですか?」

 探索者組合の受付嬢、梅子がカウンターから飛び出して聞く。

「今、警備兵たちが何とか抑えている。」

「そうですか、緊急依頼発生です! 戦える探索者の方はナーガ討伐に向かって下さい! 解毒薬をお持ちの方は組合が買い上げますのでこちらへ!」

 しゃぁねぇな・・・

「私が行くよ~。

 後、解毒なら任せなさい。」

「エリーさん、ですか、どうお任せすれば?」

「この二人で良いんだよね?」

「あ、はい・・・」

「光よ、集え、かの者達の受けし毒を中和し給え、キュア・ポイズン。」

 解毒の魔法ってさ、中和するだけだから、複数同時掛けが可能なのよ。

 ポカーンとする面々、重度の毒で変色して居た皮膚は、血色を取り戻して行く。

 そんで、怪我の度合いは大した事が無かったので、ローポーションを渡して置く事にした。

「ほれ、こいつを飲ませなさい、私はナーガの討伐に行く。」

 はっと我に返った梅子が、色々ととっさに考えたであろう一言を去って行く私に投げかけて来た。

「エリーさーん、今の何だか後で教えてくださいね~!」

 ああ、魔法で解毒した事・・・で良いのかな?

 相手がナーガでは、時間を掛ければそれだけ被害が大きくなる、って事で、時間が惜しい私は、最近良く使ってるなぁなんて思いつつイオンクラフトで一気にナーガの姿を上空から捉えて一直線に移動する。

「アイスランス。」

 ナーガにけん制する。

 変温動物なナーガにとってこの属性の魔法は相性が悪いからすぐに反応する。

 良し、こっちに意識を向ける事が出来た、出来るだけ街から遠ざかろう。

 ヘイトを取った私を追って街から離れたナーガ。

 良し、この辺で良いだろう。私の新魔法でも披露してやろう。

「風よ、水よ、ここへ集え、我が名は、エリー・ナカムラ、ハイエルフたる我が名に応え、その力をここへ示せ。

 ブリザード・フラワー!」

 樹氷と言う意味だ。

 ナーガと、その周囲が一気に凍り付く。

 さぁ、とどめだ、氷漬けになる前に、ナーガの首を邑雅で刎ねる。

 そしてその首と、胴体をストレージへとしまい、討伐完了だ。

 ゆっくり歩いて戻ると、警備兵の侍たちが、あっけに取られて私に視線を投げる。

「たっだいま~!」

「お、お主、今のは、何じゃ?」

「ん?今のって? 飛んでたのは、イオンクラフトって言う方法よ?」

「そっちでは御座らぬ、あ、いや、そっちもそうなんだが、急に吹雪が起こったような・・・」

「魔法だけど?」

「そんなあっさり応えられても困るので御座る・・・俄かに信じられる物では御座らんが故にですな。」

「あははは、気にしたら負けよ~?」

「は・・・はぁ・・・」

「世の中にはまだ貴方の知らない事がいーっぱい溢れてるって事、いちいち気にしてたら生きて行くのも嫌ンなっちゃうわよ?

 気にしないのが一番。」

 そう捨て台詞を吐いて、探索者ギルドへと戻る途中、咬まれた警備兵も、解毒しておいてやった。

「たっだいま~。

 終ったわよ~。」

「え?もう!?」

 見事な程探索者組合の面々の声がハモったよね~、まるで一人の台詞に聞こえる程に。

「で、梅ちゃん、討伐報酬と、これ、買い取ってね。」

 ナーガの8m程もある胴体と、人の倍近いサイズの、尚且つ人の生首と遜色無い様な見た目の生首をストレージから取り出す。

「ひ、ひゃいっ!」

 オーオー、驚いてる驚いてる。

「先程は、助かった、解毒したまじないは、何だ?」

 まじないって言うなよ、のろいと同じ字を書くんだぞ、あれ。

「ああ、さっきの死に掛け、気にしないでね~。」

「し、死に掛け・・・」

「そんな落ち込んでるけどさ、あんた本当にヤバかったのよ? 腕噛まれて、変色した皮膚が、肩口まで広がってたでしょう?

 胸にまで広がったら死んでたし、頭噛まれてたらその場で脳死だったんだから。

 要するに解毒薬なんかじゃ到底間に合わないし、アンチポイズンポーション、あ、これは私が作った毒消しだけどさ、こいつでも間に合わなかったんじゃ無いかな?

 つまり君はあの時死に掛けてたって訳、ンじゃね~。」

 あまりのアッサリ立ち去る私にあっけに取られている死に掛け君を尻目に、ご飯の続きだ。

 唐揚げが積んで有る・・・筈なんだけど・・・なぬぅっ!!!??

「何だこれ、ムッチャクチャウメェ!」

 こらマテ、お前はあの死に掛けの仲間じゃねぇか。

「おいコラ・・・」

「おお、アンタか、さっきはありがとうな。」

「その前にお前は何を食ってんだ?こら。」

「ああ、これこれ、むっちゃウメェな、これ。」

「それは私のご飯のおかずだコラ!!!」

 思わず魔王覇気を抑えられなかった。意識朦朧としている私の唐揚げを食った唐揚げ泥棒の胸座を掴んで引きずって行く。

「お、おい、そいつ殺さないでやってくれないか??」

 死に掛けが私に訴えるが、んなこたぁ知ったこっちゃねぇ、私の飯を食ったんだぞ、こいつ、食べ物の恨みは怖いって知らんのか??

 街の門、関所の所まで引き摺って行く。

 さっきの警備兵達が、私のものすごいオーラと引きずられて居るナーガをトレインして来た張本人の様子を見て勘違いした。

「おお、こいつこいつ、こいつがナーガを連れて来たんだ、重犯罪に値する、連行しろ!」

「待って、こいつは私のご飯のおかずを全部食っちゃった犯罪者、私にも捌かせなさい!」

「お・・・おお。そう言う事なら・・・」関所の外に土魔法で穴を掘ると、そこへこの無礼者を押し込み、首だけ出す形で埋め固め、鋸を置くと、立札を立てた。

〔この者、重犯罪者に付き、この関を通行する者は鋸で首を一引きする事。

 出来ぬ者は同罪と見なすものとする。〕

「こっわっ!」

 警備兵達に突っ込み入れられたよね~・・・

「何よ、助けてやった私の食べかけのおかず食われたのよ、恩を仇で返した上に食べ物の恨みが加算されてるんだからこれでも生ぬるい方よ?」

 キッ!とひと睨みして警備兵を黙らせ、組合へと戻った私。

「・・・サーセンでした。」

 死に掛けがもう一度私に声を掛けて来た。

「何よ、アンタには後でしっかり請求するからね?」

「あの、そうで無くて、あいつが君の・・・」

「ああ、あいつには生きたまま首を鋸で引かれる刑に処したからもう良いわよ、助けようとしたら殺すわよ。」

「はぁ、本当にすみませんでした・・・」

「災難だったわね、アンタも、あんなのと組まないで他の人と組んだ方が良かったんじゃ無い?

 テメェの実力も判んねーであんなのが居るエリアに行く依頼受けちゃってさ、挙句に二人も殺しかけて、トレインして警備兵にも迷惑かけて、最終的に私に恩を仇で返してさ。

 もう死んだ者と思ってあいつは諦める事ね。」

「はい・・・僕も探索者は辞めて、家の仕事手伝う事にします。」

「あんた、探索者辞めたら私の請求額払い切れないじゃない。」

「一生かかってもお支払いします。」

「ふん、もう良いわよ、一両でまけといてやるからもう話しかけないで、今機嫌悪いの。」

 死に掛け君は、無言でぺこりと頭を下げると、何度も振り返っては頭を下げながら探索者組合の建物を出て行った。

「あんた!良い所あるじゃ無いの!

 あたしの驕りだよ!これお食べ!」

 食堂のおばちゃんに、豚の唐揚げを貰ってしまった・・・

「さっきアンタに教わった唐揚げを豚で作って見たのよ!これも美味しかったわよ!」

 ああ、アレンジの出来るレベルの腕前だったのか、道理で焼き魚一つとっても塩加減が絶妙で良い感じだと思ったらこの人か。

「ん、ありがと、頂きます。」

 私のレシピを忠実かつ、豚肉向けにアレンジした唐揚げは、私の作る物と遜色が無い程に美味しい、この人間違いなく絶対味覚の持ち主だわ。

 堪能して居ると、キース達が帰って来た。

「お?エリー、戻ってたんだな。」

「おかえりー、どうしたん?その如何にも悪そうなアホ共は?」

「こいつらは、盗賊だ、一網打尽にして来たぜ、エリーの言う通り、ヨルに指示出すには二本の剣は多すぎたかもしれんな、戦い易かった。」

「それは何よりだ、私も戻って来てからひと騒動あった所だけどな。」

「やっぱエリーだったか、あんな事考えるのは・・・」

「お、お前らちゃんと引いて来たのか?」

「ああ、引いてやったよ、俺達もこの盗賊の頭目を埋めて来たしな。」

「それは良いw 最高じゃ無いか。」

「俺達もアイツには腹に据えかねるもんがあったからな。」

 こうして、この世界の関所に、首引きが生まれたのだった・・・

 何よ、残酷? 犯罪防止にもなって良いと思うんだけど?

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