第207話 長い・・・夜。

       長い・・・夜。

 現在、時刻的には午後4時過ぎ。

 大分遅めの昼食だよね、こんな時は早めに寝て夕食は吹っ飛ばすのが一番。

「お前ら、まだまだ有るから好きなだけジャンジャン食って、疲れてるだろうから眠く成ったらとっとと寝てしまえ!」

「イヤしかし、こんな場所で大丈夫か?」

「大丈夫じゃ無い理由が何処に有る?

 良いか?ここには今、6機のクリムゾンスパイダーがあって、その上私の乗って来た新型は従来のクリムゾンスパイダーの戦略AIを圧倒的に凌駕する、カーマインファンレイとほぼ同等の性能のAIが搭載されている。

 このAIを使って演算した戦術を使えばドラゴンだってただでは済まないだろう。

 しかもこの結界はスパイダーの防護バリアーを併用してるからブレスでも抜く事は出来ない。

 これでもまだ不安か?」

「そうだな、こっちにはヨルムンガンドも居るしな。」

「そう言う事だ、それに、ちなみに私も呼び出せるドラゴンが居るぞ?」

「な!?お前何時の間にそんな事に成ってるんだ?」

「私なら驚くまでも無いだろ?

 むしろキースが地龍のマスターとしてテイマーに目覚めてた方が驚きだ。

 しかもこの子やたら強えーしな。」

「ギャギャ~!」

「お、お前褒められたのが判るのか、賢いな。」

「ギャギャ!」

 心成しか胸を張って居るように見える所が可愛い。

 大型犬程のサイズなので丁度、セントバーナードが褒められて誇らしそうに胸を張っている風に見えなくもない、外見はドラゴンだけど・・・

「しかしお前、流石ドラゴンだ、硬ぇな~。」

 と言って、強めにバンバンと頭を叩くがビクともしない、流石と言うべきだろう。

「なぁキース、この子、従魔として探索者組合で登録したのか?」

「イヤぁ、まさか地龍をテイムしたなんか言えねぇだろ。」

「良いじゃ無いか、一目置かれるぞ。

 多分、今回お前らが受けて来た騙し討ちみてぇなインチキ依頼も回されなくなるかもな、ドラゴンと敵対したくねぇだろ?」

「まぁ、そうだな、考えとく。」

「というか、エリー、お前が呼び出せるドラゴンと言うのは?」

 会話に割って入ったカイエンが興味が有るようだ。

「ああ、それは今聞かれても困る。

 その内、な?

 とんでもねぇ強いのが出た時にでも出すさ。

 なんせドラゴンだしなぁ。

 このちびっこドラゴンでもブレスの性能は途轍もないだろ?」

「ああ、まぁ、そうだな。」

「だから今は未だ、ひ♡み♡つ♡」

 ちょっと可愛く言って見た。

「エリーのそれには非常に悪意と末恐ろしさを感じるのだが?」

 なんて事を言うんだこの現行勇者を遥かに凌駕する元勇者め、わたしの発言が怖いと抜かすか、解せぬ。

「わっちはもう眠いのでお先に休ませて貰っても?」

「あ、ごめんね、玉藻ちゃん、おやすみ。」

「私も眠い、おやすみ~。」

「おう、ゆっくり休みな、クリス、それにカレイラも眠そうだな、安心して寝てろ。

 後は私が鍛冶仕事でもしながら警戒してやるから安心しなさい。」

「悪いわねぇ~、エリーちゃん、私も寝る~。

 今日は疲れてるから旦那とのエッチも無しよ~。」

「一々そんな報告要らんわ。

 とっとと寝なさい!」

「エリー、すまん、俺も眠くなってきた、後を頼む。」

 キースもスパイダーの寝室へと消えて行った。

「なぁ、お前は良いのか? カイエン。」

「いや、俺も眠いが、一応年長者として・・・」

「一番の年長者を差し置いて何を言う、とっとと寝なさい。

 これ程の連戦に成った事も余り無いんだろう?

 疲れ溜まってるんだから無理すんな。」

「そ、そうか? なら、お言葉に甘えて寝るかな。」

「大丈夫だよ、安心して寝てな、オーブだってかなり戦えるようになって来てるから心配要らん、寝ろ。」

 こうして、オーブと私だけになった。

「にゃ、師匠、皆寝たにゃ。」

 うん、オーブにしては良い演技だったぞ。

「良くやったな、全員の飲み物に睡眠導入用ナノマシンを仕込ませて配るのを、良くバレずに遂行したな、エライエライ。」

 なでなでしてやった。

「しかし師匠、何でそんな面倒な事をワザワザ?」

「本体からの指令でね、電脳をずっとフル稼働させつつ24時間ほぼぶっ通しで活動してるから、全身義体でも限界が有るから休ませてやれってな。」

「にゃるほど、だからあんな回りくどい事したのにゃ?」

「ま、そう言う事、それに、あいつ等の武器にもメンテナンスか打ち直しが必要だと思ってね。」

 事実、カレイラのカットラス、キースの二本の大剣、マカンヌの忍刀は、既に芯に亀裂若しくは劣化が見られる為打ち直しが必要、カイエンのショートソードでさえ、あれ程の剣技を持って居るカイエンの物にも拘らず、メンテナンスが必要となって居た。

 まぁ、カイエンのショートソードに関しては、研いで研磨用ナノマシンの補充で十分だろう。

 特に酷いのは、マカンヌの忍刀と、魔法剣を多用したと思われるカレイラのカットラスだ。

 これは完全に打ち直しが必要だろう。

 キースの大剣なんだが、これは高周波振動でスパスパ何でも切ると言う類の物な為、劣化が激しい。

 で、キースは既に新たなジョブを獲得して居るのだから、大剣は二本要らないだろう。

 むしろ、長刀を持たせて一撃必殺の示現流でも使わせた方が有用だ。

 洞田貫みたいな直刀の厚めの歯の重い日本刀、それを長刀で作る。

 ほぼ、斬馬刀だよな。

 この方が、テイマーとしてヨル君に指示を出しながら戦うには向いて居る。

 良く寝ているのを電脳の反応で確認した私は、こっそりクラウド経由でキースの電脳に示現流をインストール。

 まさに一撃必殺の兜割り剣術。

 早速、方針が決まったので、先ずはサラを召喚し、好みの形と大きさの多々良炉を作る為の現場監督をさせ、ポックルとシェリルに、多々良炉を建築させる。

 完成した多々良炉を使って鍛造する訳だが、火加減を、サラにお願いしてこれで私の負担を軽減。

 で、早速キースの長刀から作る。

 玉鋼、非緋色玉鋼、ミスリル、オリハルコンを混ぜて炉に入れ、真っ赤になったら取り合えず打つ、そして折り曲げ、炉に入れて、赤く成ったらまた打つ。

 これを16回程繰り返したら、オリハルコンの硬度が多分最高値にまで上がったらしく、それ以上折れ曲がらなくなったので、これを打ち続けて形を整えて行く。長い刀なので少し形成に手間が掛かったが、これで長身のキースが構えても長いと思える程の長さには成型が出来ただろうと思う所で、切っ先などの形を整え、分子レベルで金属を分解出来るナノマシン(mkⅢ自信作)を使い、芯だけを刳り抜く。その真の部分に、ぴったりとハマる、抜けなくなるような加工をしたアダマンタイトを仕込み、封印。

 その後、ある程度歯になる部分を磨いで、波紋を作る工程へ。

 粘土を歯に付けて刃紋を形成させて焼く。

 そして油に投入して一気に冷ます。

 これで刀の表面が鏡面仕上げのようになる工程と刃紋の皇帝は終了となる。

 ダマスカスの刀に成る為に鏡面仕上げにこそ成らないものの、玉鋼の美しい銀と日緋色金の赤味掛かった黄色(所謂日緋色)、ミスリルの美しい空色、オリハルコンの艶消しの白が相まって、何とも言えない物が完成した。

 後は研ぎの工程だが、これを、素人でも出来るように、角度を一定にする型を作って置いてオーブの仕事にした。

 マカンヌの忍刀は、オリハルコンを使ってしまうと重くなって仕舞いそうなので、スピードが命のマカンヌの戦闘には合わないと思うので、オリハルコンは使わない。

 此方は、非緋色玉鋼とミスリルのみで打つ。

 同じように芯にはアダマンタイトを使用。

 ちなみにアダマンタイトを作るのにさ、先に形成して時間を止めてから芯に差し込むんじゃ無くって、芯に流し込んだゲル状のウレタンとかを時間止めても良い訳だからそう言った方法を取ってます。

 ハッキリ言っちゃうと断熱材用の発泡ウレタン使ってるけどな。

 カレイラのカットラスは、そろそろ長めの軽い剣に変えても良いだろう、と言う事で、フランベルジュ当たりの薄くて長い剣にする事にした。

 で、私はここで考えた。

 薄くて軽い剣と言えばMkⅣにあげたアレだろ?

 でもあれはアダマンタイトだから時間止まっちゃってるから魔法の付与は一切受けない・・・

 カレイラは魔法剣士、魔剣士だから、エアスラスト剣とか、フレイム剣とか使う訳だよ。

 したら、ミスリルの方が良い。

 結果・・・アダマンタイトの剣を作って置いて、高温で溶かしたミスリルを噴霧して肉付けをする。そんでもって、ミスリルを剥がしちゃわない様な研磨ナノマシンと言う繊細な物を作る。

 そしてミスリル補充用の採集ナノマシンも一緒に、鍔とグリップ内に仕込む事にした。

 うーん、私の武器って凶悪だわ、自分で言っちゃうのもなんだけどね。

 で、結局、カイエンのショートソード以外は完全に新しい物になっちゃった、こんなだからやり過ぎって言われちゃうんだよね、てへっ♡

 キースの長刀とマカンヌの忍刀が研ぎ終わった頃には、空が白み始めていた。

 さぁ、今日は探索者組合へ殴り込み(?)だぞ。

 私は売られた喧嘩は高値買い取りって決まってるんだ。

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