第208話 報告

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 夜が明けたよなぁ~、明るくなって来ちゃったよ、全く。

 急ピッチで仕上げた刀を、鞘に納めてやって、疲れたな~って思ってふと顔を上げたら空が白み始めててさ、いや流石に夕方から始めて14時間程も休まずぶっ通しでやったとは言え、良く二本もの刀を打ち終えたよね、私凄い。

 刻んだ銘は、キースの長刀が、初代荒船出雲守 鬼鉄きてつ

 マカンヌの忍刀が、初代荒船出雲守 凡辿丸ぼんてんまる

 そんで、こっちは私の作品でありながら錬鉄した訳では無いので

 銘までは付かないけど、軽くて切れ味最高の、魔法を乗せられる魔剣になったので、こう命名する事にした。

 魔剣 グラム。

 当然ながら、重さがグラム単位だからなんだけどねw

 その内、カレイラに勇者の称号でも生えたら聖剣も作ってやるとしよう。

 カイエンの剣は修理しただけだし、私が名前つける事は今の所、無い。

 元勇者の癖に愛用の剣がショートソード、それもグラディウスって言われるタイプの剣と言う、本当に短いショートソードを愛用する勇者ってどうなのだろうと思う。

 だってあれ、ダガーって奴と並べても大差ねぇんだもん。

 ってかあんな短い剣で良く戦えるよね、あんなに、やっぱスゲェよ、カイエンさんって。

 さて、そろそろ皆起きて来るだろう、朝ご飯でも支度しといてやるか。

 せっかく作った炉が有るので、炉の上に窯を足して、その窯でクロワッサンを焼く事にした。

 実は生地だけは打ってあるのだ、クロワッサンの生地は打つのに膨大な時間と大量のバターが必要になるからね~。

 苦労したんだ、いつ焼くかと死蔵してたんだ。

 薄く伸ばした生地を、正方形に切り分け、それを更に半分の直角二等辺三角形に切って、巻く。

 んで、それを少し曲げてやると良く見るあの形に焼けるのだ。

 真ん中に板チョコを巻き込んでやればチョコクロワッサンになるんだ、美味いよね、あれ。

 チョコクロ10個と、カスタード生地を巻き込んだカスタードクロワッサン10個、ノーマル20個を巻いて焼く。

 ちなみにカスタード生地ってどんな物か知らない人も居ると思うので教えると、パンの生地にカスタードクリームを混ぜてよ~く捏ねて寝かせると、カスタード味の生地が出来るのです。

 他にも、色んな生地が作れるのでちょっとパン焼くのに興味がある人は調べて見たら良いと思う。

 作った生地は冷凍して置くととても良いわよ?

 二次発酵前の形成して無い生地を冷凍して置いて、解凍してから形成して常温二次発酵させるとフワフワの軽いパンが出来るんだよ。

 一度冷凍する事で小麦粉のたんぱく質の外郭が壊れてグルテン増える為に良く膨らむパン生地になるのです。

 で、クロワッサン生地を形成終えたので常温で二次発酵中に、港街からトリコの巣を探しに行った時に途中で見つけたコーヒーの実を醗酵させて置いて、種を取り出してローストして置いたので、虎の子のコーヒーを淹れる事にした。

 で、サーバーに一杯のコーヒーが入ったのでストレージに仕舞う。

 便利だよね、このストレージ、時間止まるからこれでいつ取り出しても淹れたてなのよ。

 で、クロワッサン生地を窯で焼いてる間に、今度はウインナーソーセージを焼いて、ケチャップ添えて置く。

 ベーコンエッグを焼き終える頃には、皆起きて来た。

「エリー、おはよ~。」

 一番早いのはクリスだった。

 次はマカンヌと玉藻ちゃんがほぼ同時。

 その後にカレイラ、男どもは何爆睡しとんじゃい。

 カイエンなんか昨日あれだけカッコええ事言っといて一番遅せえとはね。

「なんかすっごく良い匂いしてるんだけど、これは何の匂い?」

 クリスが聞いて来た。

「クロワッサン焼いてる匂いだろ。」

「クロワッサン~! 懐かしいわぁ~、私アレの焼き方知らなくてぇ~、こっちに来てから初めて食べるわぁ~。」

 嬉しそうなマカンヌ。

 そして、テーブルにオカズの全てを並べた直後に、クロワッサンが丁度焼き上がったので、取り出す。

 とりあえずぜんいんに、チョコクロ、カスクロ、プレーン各一個づつをクロワッサンディッシュと呼ばれる少し淵がせり上がった皿で提供する。

 マカンヌがムッチャクチャ嬉しそうにクロワッサンを見つめている。

 全員に配り終えたので、さぁ朝ごはんだ。

「いただきます。」

 私が言うと、全員が同時に復唱した。

「「「「「「「いただきます。」」」」」」」

 オーブがクロワッサンを気に入ったらしい。

 速攻でプレーンをおかわりしていた。

 コーヒーもマカンヌさんは嬉しかったらしい、感動して涙目になりながら貪ってる。

 マカンヌさんや、あんた栗鼠亜人じゃ無いでしょうに、何でそんなにホッペに詰め込んで食ってんのよ。

 で、マカンヌはクロワッサンのレシピが欲しいと言うので電脳にアップロードしてやったら、「バターの量がエグイわね・・・」

 ってドン引きしてた。

 そう言うパンなんだから仕方ねぇじゃん。

「エリーさん、このパン最高!」

「そりゃ良かった、育ち盛りなんだからもっと食って良いぞ、カレイラ。」

「ねぇエリー、これ、パンなの?

 こんな柔らかくてサクサクしたの初めてなんだけど?

 これ売ったら儲かりそう!」

 クリスよ、お前何時から商人に成ったんだ?

「これ、うめぇ、もう一つ貰っても良いか?

 三種類ともウメェけど、俺はこの何も入って無いのが気に入った。」

 キースも気に入ったらしい。

「それはクロワッサンって言うパンだ、中に入れて有るもので少しっつ名前が違ってな、こっちの黒っぽいのがチョコクロワッサン、略してチョコクロな。

 で、こっちがカスタードクロワッサン、略してカスクロだと少し心証が悪いからクロッカスと呼んでくれたら良いかも。」

「エリーはネーミングセンスも良いから羨ましいわ、出鱈目に凶悪な名前付けちゃうキースと違って。」

 クリス、そこでその突込みは喧嘩になる、辞めておけ。

 そう言おうとしたら、キースは、「こいつぅ~、もう勘弁してくれよ~。」

 ラブラブじゃねーかっ!

 見てられん。

 カイエンだけはひたすら黙々と食ってた・・・

 お行儀の良い事で、あ、いや、その異常な量のクロワッサンのキープはどうしたもんかね?

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 さて、朝ご飯終ったので、皆に預かった武器を渡す。

 と言うか一人だけは預かった武器と違うもの渡すんだけどな。

「っと、先ずカイエン、メンテしといたぞ。」

「助かる。」

「カレイラー、剣、作り変えておいた、命名、魔剣グラム。」

「うわ、何この軽さ??」

「マカンヌ、前回は自分で作ってた人頭だったが、私が腕によりをかけて名刀にしといた。

 銘は、初代荒船出雲守 凡辿丸。 何なら忍術で魔法剣も掛かる様になってるからうまく使え。」

「エリーちゃんって・・・何時の間に刀匠に成ったの?」

「で、だ、キース!」

「おう、俺の剣はどうした?」

「お前はさ、テイマーになってしまったから、剣士は卒業だ、ヨル君に指示出しながら戦うのに二本の大剣振り回すのは精神的負担が大きいからな。

 今日からお前は、ジョブは侍だ。

 ほれ、新しい武器、長刀だ。

 銘は初代荒船出雲守 鬼鉄。」

 手渡した刀を受け取ったキースは、びっくりしたよね。

 まぁ驚くわな、オリハルコンを多めに使って叩く事でグッと圧縮したオリハルコンは、とんでもない重量になって居るからね。

「この細長い剣の何処にこんな重量が・・・?」とか言ってる。

 早速の様に素振りをしているカイエンとカレイラ。

 刃紋を繁々と眺めてうっとりしてるマカンヌ・・・

「抜いて見なさい。」

 キースに促す。

「ああ、見せて貰うよ、俺の新しい武器か。」

 無意識に腰に鞘を挿し、鯉口を切ったキースは、すぅーっとゆっくり刀を抜いた。

 何とも言えない波のような文様に、魅入られたように動きを止めたキース。

「すげぇな、こいつ・・・」

 お、既にこの良さが判るほどに腕も上がって来てたか、良い感じに強くなったな、こいつも。

 試し切りでもさせて見るとしよう。

 巻き藁をいくつか用意して、カイエン、カレイラ、マカンヌ、キースにとりあえず一本づつ提供する。

 カイエンは相変わらずの太刀筋で綺麗な切り口を量産している。

 カレイラは、風を纏わせたグラムを器用に突いたり切ったりして切試しをしている。

 この子も強くなったね、もっと強くなるだろう。

 マカンヌは、早速のように術札を新しく開発して、水を纏わせて楽しそうだ。

 キースは、示現流に構えて、いきなり巻き藁を縦垂直に真っ二つにして見せた。

 見事だね、これなら打ってやった甲斐もあろうと言うもんだ。

「ねぇ、私には何か無いの?」

 クリスが聞いて来たので、MkⅣから拝借してきたバトルスーツを一着提供。

 このバトルスーツさぁ、出鱈目なんだぜ?

 魔素の流れを感知して、精神感応みたいなノリで筋力のアシスト出来るようになってやがった。

 あいつ、出鱈目なぶっ壊れ性能作りやがって、全く。

 着替えて出て来たクリスに、デッケー岩が転がってたの見つけたんでこいつ殴って見ろって言ったらさ、クリスに正拳突きされた大岩が爆散しやがった・・・

 爆散って、どんな破壊力だよ。

 まぁ、クリスはこのバトルスーツを中に着たままの上にローブは居るだけで十分なので、本人は動きやすいって気に入ってたから良いけどさ。

 益々クリスがヤバい子になった。

 さぁ、変な詐欺まがいの依頼してきた探索者組合に、殴り込みだ。

 出発。

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「あ、お帰りなさい、中々返って来ないので心配して居ました。

 あれ?其方の御三方は?」

 私と玉藻ちゃんとオーブが増えて居るので疑問に思ったようだ。

「取り合えず、報告だが・・・」

 カイエンがゆっくりと、低い声で、私との打ち合わせ通りに喋り始めた。

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