第197話 オーブ、旅立つ。

       オーブ、旅立つ。

『では、我の用件はこれまで。

 また会おうぞ、さらばだ。』

「ちょっと待って、一つ良いかしら?

 リバイアさん?」

『何かね? と言うか、何故そのように親しみを込めたような言い回しになって居るのだ?

 君は、確かMkⅢとか呼ばれてたかな?』

「ええ、私はMkⅢ、そこに居る本体、オリジナルの複製、と言うか、並列存在の2体目。

 呼び方は、私が何かそう呼びたかっただけ。

 私は今、この大陸を旅して周って居るのだけど、もしも私が空間魔法を使って貴方を呼び出したら、オリジナルじゃ無くても来てくれるのかしら?」

『ああ、良かろう。

 何時でも呼び出すが良い。

 お前の使った魔法は中々愉快だったぞ。

 一つ、良い事を教えてやろう。

 我のブレスの様な威力の魔法を使いたいと思うならば、無意識に掛けて居る箍を外す事だ。

 お主は未だ、魔法の威力を恐れている。

 お主らの成長を楽しみにして居るぞ、それではさらばだ。』

 こうして、リバイアサンは踵を返すと、凄まじい速度で海の中へと消えて行くのだった。

 それと入れ違う様にして、カーマインファンレイが最大戦速で接近して来た。

「エリー様、皆様、一体あれは何だったのです?」

「ああ、アレはね、神に最も近い存在の神獣、にして海龍の王、リバイアサンだよ。」

「本当に居たのですね、そう言えば、私もクラーケンに遭遇しましたよ。」

「クラーケンって、あの海域には居なかった筈なんだけど、何処ほっつきあるってた訳?」

「ははは、オットー殿を完成した帆船とサルベージした積み荷を持たせて降ろした後、目いっぱい南の海域を目指して見たのです。

 結構楽しめましたよ?

 素晴らしい食材も手に入れたのでストレージに入れて有ります、どうぞご自由にご賞味の程を。」

「なり切ってるね、あんた、MkⅡ~。」

「おっと、その呼び名で呼ばないで下さいませ、普段からそう呼んでしまって居ると、カイエン様辺りは勘が良いのでバレてしまいますよ?」

「そうだったわね、気を付けるわ。」

「さて、ひと段落付いた所でアレなんだけどさ、そろそろ猫を旅立たせてはどうかと思うのよね。」

「へぇ、本体がそう言うのなら、そろそろ良いんじゃない?」

「私もそれは賛成。 一応ここで様子は見てたからね、あれだけ動けるなら後はMkⅢに同行して最終調整で鍛えて貰ったらカイエン達と合流させられるんじゃない?」

「MkⅣ迄そう言うのか、んじゃ私と一緒に来い、猫や。」

「あのにゃ、さっきからずっと聞いてるけど、アタイのにゃまえ一度も言わにゃいのね、そんにゃにアタイは弱いか?」

「「「うん!!」」」

「すっげくきっぱり言われたにゃ・・・」

「あのぉ、わっちは?」

「ああ、御免よ、私と一緒に未だ旅するでしょう?

 この猫娘が一緒に行く事になるけど良いよね?」

「ええ、猫亜人はあまり好きではありんせんが、このようなちゃんと鍛えとる人なら、仲良く出来そうな気ぃもしますわ。」

「にゃにゃ・・・アタイの意思は?」

「お前の意思は関係ない、拳聖とか言ってぬるま湯生活長い事続け過ぎて、俄か仕込みのレスリング技のクリスにけちょんけちょんにされるような奴は只の一般人と変わらん。

 むしろ修行付けてやってるんだから有り難くついて来なさい。」

「うう、半殺しの毎日な未来しか見えにゃいにゃ・・・」

「さ、私はそろそろ行くよ~、ショッピングの途中だったんだから。」

「お、行くの?んじゃ私が送ってやんよ。

 旅の続きも始めたいしな。」

「おお、転移で送ってくれんの?悪いねぇ~。」

「いや?折角だから、私が作ったクリムゾンスパイダー新8号機で。」

「なんでそれ?」

「良いでしょ、元の8号機は皇帝君のに成っちゃってバリアコートのカラーも皇帝君色になって名前クリムゾンから変っちゃってるんだし、この子にはオリジナルの8機には付いて無い機能が付いてるんだから。」

「へぇ、それはどんな?」

「未だ秘密。」

「ファム並みの演算能力の超小型量子コンピューターと他のスパイダーのトレースをする事が可能な高性能レーダーだろ?」

「あぁっ! 秘密にしてたのに!酷いよ本体!」

「ふぅん?すると、アレだね、戦闘発生時にも回避か反撃かを自分で考える事が出来る訳ね?

 それと、あれよね、オートクッカーのクオリティーも上がってたりするのかな?」

「くっ! バレちゃ仕方ねぇ、兎に角乗った乗った!」

「へいへい。」

「猫も乗れ!」

「うう、自ら地獄へ足を踏み入れてる気分にゃぁ・・・」

「MkⅢ、次帰って来る時はちゃんとお土産お願いね~。」

「あのね、あんたがストレージに入れて有るのみんな勝手に出して食っちゃうから無いんでしょうよ?

 希少なグレートジャイアントボアの肉まで勝手に食ったでしょう?」

「そうだったかな??」

「もう、そうやって誤魔化すんだから、まぁ私だし仕方ねぇけどな。

 じゃ、行って来るよ~。」

 こうしてMkⅢ、MkⅣ、猫の三人は行ってしまった、さて、私はすっかり暇になったよね~、すっげぇ静かになったしな。

 さて、実際には危機では無かったとは言え、危機は去った。

 マリイを愛でるとしよう。

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 -MkⅢ-

 さて、MkⅣは宇都宮迄で降りるお客様枠だから良いとして、猫が旅の道連れに増えたからな、パーティションを仕切り直さないとね。

 先ずは、基本的にこの機体のカーゴスペースはもっと狭くても良いのだ。

 したらねぇ、こうしようか、猫のトレーニングルームを一つ、猫の寝室を一つ、玉藻ちゃんのお部屋が一つ、私の研究室、寝室、お料理部屋、各1つ合計6部屋にパーティションを切って、私の3輪バイクと、猫、玉藻ちゃん用のバイクで三台を搭載するスペース。

 うん、これでも救助した対象を乗せる為のスペースも狭いけど確保出来そうだな。

 医務室は私の研究室が兼用出来るからそれで良いだろう。

 今私は、このクリムゾンスパイダー新8号機の専用AI、スペイド・エースと電脳をリンクしてこの機体のパーティションを構築し直して居た。

 こう言う間仕切りとかは簡単に組み直せるんだもん、ナノマシンのお陰でね。

 んで、そんな事やってたら、もう到着しちゃったよね、宇都宮・・・

 近すぎw

「MkⅢ~、もうこの辺で良いよー、ありがとね~。」

 パーティションの再構築の為に、他の部屋では危ないので全員ブリッジに居た訳なんだけど、外の風景を確認していたMkⅣが、もう宇都宮の目と鼻の先まで来ている事を認識して声を掛けて来た。

「ああ、そう、もう少し距離があるっちゃあるけど、良いの?ここで。」

「うん、なんせ本体ったら街の中に居た私を強引に転移して連れ帰りに来ちゃったもんだからね、私は未だ街の中に居る事に成ってる筈なんだわ、この関所の先が街だからさ、街の中に居る筈の私が外から帰って来たら不振がるし。

 ここの人ら本当に優しい人達だからあんまり驚かしたくは無いのよ。」

「成程、ンじゃジャンプして行く?

 それとも私が転移ゲート開いたろか?」

「おおー、転移ゲートなんて作ったの?

 まぁ空間転移の応用だから出来なくは無いんだろうけど、何種類か使えると便利よね~。」

「だろ? で、使って見る?」

「ああ、使ってみたいね~、でも、座標とか大丈夫なの?」

「あんたね、私を誰だと思ってんのよ、あんたと私は同一人物でしょうに。

 こうやって集中すれば・・・」

 MkⅣの額に私の額をくっつける。

 丁度、お熱測る時みたいにね。

「よし・・・っと。

 この路地辺りが人気が少なくて良いかな?

 開くよ。」

 転移ゲートを展開して、市街地の裏路地の入口付近にゲートを展開させる。

「おお~、空間ダンジョンの入り口に似てる~。サンキュ、MkⅢ、又ね~。」

「あ、待って、MkⅣ、一言聞いて良いかな?」

「ん? どした?」

「あんたさ、魔法使えるようにして無くて大丈夫?

 今ならハイエルフに成ってるんだし、魔導書・完全版原本ネクロノミコンを読むだけで良い筈なんだけど?」

「あんた・・・そんなもん持ち歩いてたのね?」

「うん、だってさ、私の旅の使命の一つに、世の中に魔法使いを生み出すって言うのが有るのよ。」

「ああ、そう言えば本体もそんな事言ってたわね、その為にも常に旅をしたいんだ、とかって。」

「そう言う事、だから私は、本体に原本を持たされて旅してたって訳。

 まぁ、普通の人には原本なんか見せないけどね。」

 そりゃ、見せられないよね、本体が研究の成果で確立させた、エーテル、マナ、魔素の真実の全てが掛かれた本なんて。

 しかもナノマシンが仕込んで有って、全ての属性の魔法に対応した魔力回路が構築できるんだから。

 でも普通の人にそんな回路仕込んでも、逆に器用貧乏になっちゃって全属性使えるけど初級魔法のみ、何て言う事に成るのは可愛そうだからね。

 この原本の完コピの何冊かは、エルフの里に納める積りなのだ。

 エルフならば全属性でも使い熟せると思うんだよ、マナ保有量がヒューマンと比べて圧倒的に多いし、長命だしね。

 これを属性ごとに分けて、才能のある属性以外は読んでも反応し無いナノマシンを付属したのが、グリモワールになる。

「ん~、私は、良いわ、身体能力の向上は出来るんだし、多分白兵戦最強だから。」

「そう?残念~、ハイエルフならすべての魔法が電脳化無しでも使えると言う前提になると思ったのにな~。」

「その実験はさぁ、本体って実はすでに並列存在のスキルレベル上がっててもう2体くらい並列作れるらしいから、あんたが自分で並列作ったら良いんじゃね?」

 一瞬MkⅣが何を言ってるのか判らなかったが・・・

「ふぇ?そんな事出来るの? ・・・・・・あ。」

 自分のスキルを調べて見ると、有ったよ、並列存在が。

 どゆ事?

「本体の並列レベルが上がったもんだからね、私達も一体づつ更に並列を作れるようになったらしいよ~、じゃ、私は行くね~。」

「あ、うん、サンキューMkⅣ。」

 マジか、並列を、元々並列の私が作り出せるなんて出鱈目チート、私も初めて知ったぞ??

 まぁ、しかし良い事聞いた、今度やってみよう。

 さてと、今は、こいつの方が優先だ。

「猫やーい、ちょっといらっしゃいな?」

「う、にゃんですかにゃ?」

「あんたの為にトレーニングルーム作っといてやったから思う存分特訓しなさい。」

「その部屋って、拷問部屋の間違いじゃにゃいかにゃ??」

「何を言ってるのかなぁ~?列記としたトレーニングルームよぉ~?

 但し無理やりだけど。」と、にっこりと笑ってやった。

「ひぃぃぃぃ~~~! マジで殺されるにゃぁ~!」

「そんな事しないわよ?

 意識が飛ぶまで低酸素運動とかを強制的にやらされるだけで、意識レベルが低下したらちゃんと止まってあんたの寝室に勝手に運ばれる事に成ってるだけよ?」

「やっぱこれは虐めにゃ、絶対そうにゃ!」

「いやいや、怠け癖が抜けなくて折角進化も可能なのに拳聖程度で甘んじている貴女の為の特訓よ?」

「進化にゃんてしにゃいし出来にゃいにゃぁ~。」

「それが甘えだっつってんの、狐亜人が猫亜人を嫌いな理由ってそれでしょうが! 実力は狐亜人よりもある上進化出来るのに怠け癖が激しくて進化する奴がほぼ皆無って言うそこが!」

「アタイも狐亜人嫌いだからお互い様で良いにゃ。」

「だぁめ!玉藻ちゃんと仲良くして欲しいの。」

「ううー、仕方にゃいにゃ、ちゃんとトレーニングするから強制は辞めて欲しいのにゃ。」

「やっと私の言いたい事が理解出来たみたいね、良い子良い子。」

「じゃあ、トレーニングルームに入って特訓して来るにゃ!」

「あ、ちょっと待ちなさい、先にご飯にしましょ、もうお昼だし。」

「MkⅢ師匠・・・師匠が一番優しいにゃ。」

「ん?そんな事無いわよ?私が一番実戦が多いし新しい技とか見出す事にストイックだから私に付けられたんだから、それだけあんたの能力が上がって来たって事だもん。

 さ、ちゃんと食べとかないと訓練で倒れるわよ?」

「そ・・・そんにゃぁぁ~~~~~~!!」

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