第156話 エリー・子育てと新生活

         エリー・子育てと新生活

 今私は、幸せをかみしめていた。

 自分が腹を痛めて産んだ子を、育てる事が出来なかったのが心残りだったが、自分のテロメアを移植したこの子、マリイが、今その護りたかった願望を埋めていた。

 元ザイデリュウスだったこの子を、自分の娘として完全に認識出来て居た。

 母になると、女性は、自分の子の為ならば何でも出来てしまうと言うが、まさにそんな気に成って居る。

 驚く事に、この子を育て始めて3週間に成ろうかと言う昨今、何故かお乳が張るようになって来たのだ。

 生物学的にはあり得るらしいが、人体にも適応されるとは、私自身も思っては居なかった、だが、ホルモンバランスが変化したのだと思う。

 今は生身の体だからね。

 少し幼い気はするけどな・・・

 多分、今のこの体は、私の16歳くらいの時の体と同等だと思う。

 でも、少しだけ違う所がある。

 私は前世では、11歳から、全身義体に成った20歳までの間、睡眠時間は常に3時間程度で、明らかに睡眠時間は足りていなかった。

 胸の大きさは、睡眠時間に比例すると言う研究結果もある上に、深夜2時頃に睡眠を取って居る者は比較的大きくなると言う研究をした変態学者が居たので、私にはどうすれば胸を大きく出来るか等は元より知って居た事ではあった。

 前世ではそれを実践する事もせずに研究に没頭して居たので、サイズはBだったのだ。

 16の頃には、間違い無くAしか無かったその膨らみは、今世では既にBに達していた。

 その乳房の大きさも、ここに来て急成長を果たし、現在あっと言う間にDまでに達したのだ。

 さっき試しにつまんで見たが、母乳が出る事も確認出来てしまった。

 私は嬉しかった、本当の子供では無いと判っていても、テロメアくらいは分けた正真正銘の私の子なのだ、その子に自前の母乳を与えられるように、ついに成ったのだ。

 まだ解明し切れていない人体の神秘だと、つくづく思った。

 とは言っても今は既にヒューマンですら無くてハイエルフではあったが。

 多分今の私をクリスが見たら、かなり驚く事だろうね。

 あ、おむつの交換だって、臭いなんて思ってやった事は一度も無いよ。

 夜中に泣いて起こされたってちっとも腹なんか立たない。

 これが母として生活すると言う為のホルモンのバランスなのだと実感して居る。

 何て穏やかな感情なのだろう。

 マリイの様子を窺うのが幸せの極みだ。

 何をしても可愛い。

 最近マリイは、首が座って寝返りを打つようになったのだ、それが又愛おしい。

 おいコラ、私に似合わねーとか思った奴出て来いや!

 まぁでも今はどう思われても良いや、私はマリイを育てる為にこの家をクリエイトしたんだからね。

 今の所食べ物に困る事も無いしな。

 -------

「すまん、エリー殿居るかい?」

 突然リョーマさんがやって来た。

「あらどうしたの?リョーマさん。」

 玄関まで出て行った私を見て驚いたように目を見開いたリョーマさんが放った一言が、これ。

「エリー・・・だよな?」

 その眼の見つめる先は、8割方私の胸に集まる・・・

 そこっすか、ヤッパ・・・

 まぁ2サイズもあがりゃそうなるか。

「この家に私以外の誰が居ると?

 あ、いや、生きては居ないのが3名程常駐はしてるけどね?

 で、何の用?」

「出たんだ、村の浜に。」

「出たって何がよ?」

「イセエビだよ! 今年のは例年よりデカくて難儀してるんだ、助けて欲しい。」

「イセエビか~、今は良いかな~って思ってたんだけど?」

「いや、そういう話では無くてな、既に今年は奴に挑んで5人が大怪我してるんだ、お前の力を借りたい、頼む。」

 すると、マリイが私を力強く見つめて、私に行けと言うかのように「あう~!」

 と・・・

 判ったよ、ザインの記憶が無くても、何と無く残る記憶の断片が私に人助けに行って来いと言ってるんだね?

「そうか、マリイ、判ったよ、じゃあ、ママちょっと行って来るからね。

 アイン、ツヴァイ! ちょっと来なさい!」

 AIアンドロイドメイドのアインとツヴァイを呼ぶと、奥からサッとツヴァイが出て来る。

『お呼びですか?マム。』

「ツヴァイ、マリイをお願い、ちょっと出かけて来るわ。」

『エリー様がお出かけになるのは珍しいですね、何方へ?』

「うん、ちょっと漁村の人々が困ってるみたいなのよ、イセエビ討伐に行って来るわ。」

『畏まりました、お気をつけて、マリイ様はお任せ下さい。』

「エリー、この子は何者?」

 リョーマさんが不思議そうに問いかけて来る。

「ああ、この子はAIメイドのツヴァイ、私とマリイの世話をして貰う為に私が作ったお人形さん。」

「!?・・・人形・・・なのか?」

「ん? ああ、そうか、この子達は生きた人間に見えるけど、人間じゃ無いんだよ、機械の人形。

 だから私と喋ってる時にも、口が動いて居ないでしょう?」

「何だそれは、エリー殿、君は何なのだ?神様だったりしないよな?」

「ああ、いやぁ、そのね、実はハイエルフに成っちゃった訳なのよ、言って無かったけど。

 そしたら思いの外デタラメ性能に成っちゃいまして、その・・・ねぇ。」

と言う事にして置こう、説明めんどいし。

 そこへ、庭の掃除をして居たらしいアインが、リョーマさんの背後から現れた。

『お呼びですか?マム。』

「うぉっ!?」

 気配も無く背後に現れたので驚くリョーマさん。

 そりゃ気配無いわな、生きてねぇもん。

「ああ、アイン、今からこのリョーマさんと一緒にイセエビ討伐に行って来るから、お留守番よろしくね、マリイのお世話はツヴァイに任せたけど、マリイはあなたの方に良く懐いてるから、ツヴァイが困ってたら代わってあげて頂戴、行って来るわね。」

『畏まりました、マム、行ってらっしゃいませ。』

「さ、行こうか、リョーマさん。」

「お・・・おう。」

 なし崩しに誤魔化せたかな?

 ちなみに三体目のアンドロイド、トライは、今はボートで釣りしてるので呼ばなかった。

 それじゃってんで、クリムゾンスパイダーに乗って村へ急ぐ。

 で、さぁ、あのな、イセエビって、どんだけでけぇのよ・・・

「リョーマさん、あのさぁ、もしかしてアレがイセエビなの?」

 あんなの大怪獣だろ!?

 何だって村まであと200mは有るのに既に暴れているアレが見える訳よ。

 カーマインファンレイでハープーンでも叩き込まなきゃダメなんじゃねぇかっつー位の巨大な海老が暴れて居たのだ。

 誰だよこんなもんを海から上げたのは。

 更に近付くと、何者かが既に伊勢海老と対峙して戦って居るように見える。

 もっと近づいた私は愕然とした。

「トライ・・・何してんのよあの子は・・・ハァ。」

 思わずガックリ項垂れてしまった。

 ちなみに此奴ってさ、首と胴切り離しても動くよね?

 どうやって大人しくさせるか・・・

 一か八かだな、超電磁砲撃ち込んでみるか。

「超電磁砲用意。」

『イエス、マム。』

「目標、イセエビ、頭部・・・撃て!」

『発射。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る