第144話 ところが・・・
ところが・・・
幽霊の 正体見たり 枯れ尾花
ってな俳句もあるけど、事実は意外なもので、魔獣っちゃ魔獣だったけど、サーペントや海龍では無かった。
まぁ、あんな速度で泳いで来るあの巨大なセイウチにタックルされりゃ姿も見ないうちに沈没してても何にも可笑しくないよね。
状況終了、と、警戒態勢を解除しようとした瞬間だった。
又しても警報が鳴り響く。
何だってこんな連戦してんの?
何この海域、可笑しいんじゃねぇの?
そして私は、目を疑う光景を目にした。
既に、目前にそれは居たのだ。
シーサーペント、しかも、かなりの大物だ。
恐らく全長は30mにもなろうかと言うサイズ、ドラゴンかと見間違う程だった。
主か? ヌシなのか???
恐らくこの辺の海域を根城にして居るヌシと言う所だろうな、多分。
そのヌシたるシーサーペントが今、このカーマインファンレイの目の前に現れ、容赦なくブレスを浴びせようとして居るのだ。
「くっ! ザイン! 出来るだけ多く召喚して直ぐにウォール系!
マカンヌ! 水柱に火柱土壁風塵!
他は下がって!! 急いでっ!」
そして私も、フレイムウォールとアースウォール、サンダーウォール、トルネードガードを同時無詠唱発動で、《シーサーペント》に掛ける。
いつの間にかマナ量が10000台後半に突入して居るザインが、シヴァ、ラム、イファーリア、シェリルを召喚、私の魔法を外側から囲むように魔力の壁を展開する。
ここまで頑張ればブレスも防げるのでは無いだろうか。
発動がどうしても数秒遅れるトルネードガードが発動したのとほぼ同時にブレスが放たれた。
ブレスは、私のウォール群を押すようにして破壊した、が、同時にブレスも一発分が尽きたようだ。
すると、ウォール系の魔法がその外側をカバーしていたトルネードガードに吸収され、意外な効果をもたらした。
複合魔法と言う奴に成ったのである。
サンダーウォールは更なる電撃へと発展し、アースウォールはトルネードの風圧で細かく砕け、海上であった為に水分も吸い上げていたトルネードの中に吹雪が発生、にも拘らずフレイムウォールがトルネードに取り込まれてフレイムトルネードと成ってトルネードの威力すらパワーアップさせた。
その威力は、雲の上にまで竜巻を起こした。同時にシーサーペントは吹雪と炎に包まれ、プラズマによって電撃を食らう事と成った。
その硬い鱗は剥がれ落ち、焼けただれ、凍って砕けた。文字通り、跡も残さず。
その、自然界ではあり得ない相反する属性を持ち合わせた異常な竜巻が治まったそこには、黒炭と化した巨大な亜竜であった何かが、かろうじて立って居た。
「さ、流石・・・ハイエルフ様・・・す、凄い。」
しばしの沈黙を破ったのはザインだった。
そのザインの言葉を聞いて我に返った私は、思わずこう口走ってしまった。
「チ、やりすぎだったか・・・」
ここまで消し炭に成ってしまっては何も回収する物は無いな、と思い、そのままブリッジに帰ろうと歩き出した時。
「え、エリー・・・う、うし、うし・・「うん?牛?モーモーがどう「違うのエリー!後ろ~~!」」」
私が振り返ると、消し炭にしたはずのシーサーペントが凄まじい勢いで蘇生しながら、ブレスを吐く体制になって居た。
「なっ!?」
そして、目を疑った私の一瞬の隙に、そのブレスは吐き出された。
「ハイエルフ様!」
私とシーサーペントとの間に、ザインが滑り込んで来て、出ていた精霊と共に魔力障壁を展開した。
「ば! ザイン!今のマナ残量では無理だ!」
急いで私自身も魔力障壁を展開するも、間に合わず、マナ切れを起こしたザイン、精霊は霧散し、残されたザインがブレスに掻き消える。
「ザイン~~~!!!!!!」
急いでザインを引きずって、クリスの前に担いで行くと、皆に託した。
「クリス、すまん、私のミスだ、まさか超回復なんてトンデモスキル持ってるとは思わなかった。
まだ息は有るから回復魔法を頼む。」
「エリー、なにする気?! 今だって障壁貼り続けてマナ消費してるんでしょ?!
無茶しないで!!」
「いや、無茶でも何でも無い、何故なら私は久しぶりに本気で怒ってるんだ。」
私はそう一言だけ綴ると、シーサーペントに向き直った。
「大丈夫だ、クリス、こんなに大きく見えるエリーは初めてだ、絶対に負けない。」
泣きじゃくってザインに回復魔法を使えないで居るクリスに、カイエンが優しく声を掛けた、流石年の功だ。
シーサーペントが私を睨み付ける、しかしその表情は、あざ笑って居る様にも見える。
蜥蜴如きに表情が有るとは思えないので、多分私の精神的な物だろう、けど、ムカつく。
「おぉぉおおおおおおおおおっ!!!」
私は、吠えた、悔しさに、不甲斐無さに、自分自身の驕りに対しての怒りに。
そして、自身に無意識に課していたリミッターを、意識的に外した。
全身に雷を纏い、イオンクラフトで宙に舞い上がり、炎と風の属性を合わせたマナで剣を作り、両手に。
周囲に、私の心の中を表現するように吹雪を起こし、この海域に存在する全ての藻類を操りシーサーペントを拘束する。
その時、自分では気づいて居なかったのだが、私の耳の先は、尖って居たらしい。
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その姿を見た瀕死のザインは、こう一言呟き意識を手放したそうだ。
「やっぱり・・・・・・・・・ハイ、エルフ、様・・・」
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「シーサーペントだかシードラゴンだか知らねぇけど、私の友達に手ぇ出したら、生きてられると思うなよぉっ!」
シーサーペントは、私に向けて今一度ブレスを放って来たが、私は先程マナで生み出した剣でそれをバッサリと切り払うと、まず目を刳り抜き、二本の角を根元から切り落とし、二度とブレスが吐けない様に、サーペントの下あごから上あごに向けて剣を突き刺したその後は、極限まで強化された身体強化で非常識な威力を手に入れた両腕でサーペントの全身をくまなく殴りつけて回る。
「オラオラオラオラ! マダマダぁ~!
超回復スキルを持ってる事を後悔させてやんよぉっっ!」
一発撃たれる毎に、シーサーペントの体がへこむ、そして超回復で元に戻る、だがまた次の瞬間又体のどこかがへこむ。
あまりの苦痛に、シーサーペントが悲鳴を上げるが、私は辞めない。
こうしてずっと殴り続けて行けば、超回復スキルで少しづつ減っていくSPがいつか尽きる、その時にはこいつは力付きで倒れるだろう、が、この苦痛は長く続くのだ。
「楽に死ねると思うなよ!蜥蜴ぇぇ~!!!」
カイエン、キース、マカンヌ、カレイラが、恐怖を隠そうともせずに私を見て居るのが、判る。
クリスが、目にいっぱい涙を溜めながら、それでも必死に治療魔法をザインに施す姿が、判る、見て居る訳では無い。
そしてその瞬間、私は、魔王と呼ばれる覚悟を決めた。
殴り続けて30分、ついに、シーサーペントが力尽きた。
項垂れて、カーマインファンレイの甲板に崩れ落ちたシーサーペントの胸に、私はこの間封印したはずだった包丁を突き立てた。
こんな所で役に立つとは思っても居なかった。
シーサーペントの胸を切り裂き、その巨大な心臓、いや、魔石を引き釣り出して、ストレージへ仕舞い、戦闘が終了した。
私のあまりの慟哭を、誰も咎めようとも、攻めようともしなかった。
その日、ザインは、辛うじて一命を取り留めた。
全身麻痺と言う重傷を負っていた。
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