第66話 開戦前夜

          開戦前夜

 兵士達のゴーレム搭乗訓練、ヘリ操縦訓練がようやく最終試験行程に入った、何とか隣国の攻めて来るまでには間に合ったようだ。

 兵数が圧倒的に足りないので、腕に自信のある冒険者は依頼を受けて参加を表明して居る者も少なくは無い。

 ブラックな依頼とは判っては居ても圧倒的に報酬が良いからだ。

 ちなみに私はギルマスと領主の権限で強制参加だった・・・何故D級程度の冒険者を強制参加にするんだ・・・解せぬ。

 そして、クリスを除いたタイタンズも参加を表明して居た。

 そりゃね、クリスちゃんは未だ戦える状態には無いし、逆にキースとザインは新しい力を手に入れちゃってるから、あの高額報酬は美味いよね。

 そんな中、クリスが私の所へやって来た。

「エリー、お願いがあるんだけど。」

「ああ、大方予測は付くけど、なに?」

「私を戦えるようにして欲しい。」

 やっぱそう来たか。

「良いけど、電脳化する覚悟は有る? クリスはまだ若いし、全身義体とまでは言わないけどさ、クリスが戦いたくても、例えば剣術とか、格闘術知ってる?知らないでしょう。」

「電脳化、って、キースの腕を動かす為にやった手術の事?」

「うん、まあ同じと言えば同じだね。

 だけど、クリスの場合は、素手でも戦える技を一通り記憶領域に収納していつでも引き出して使えるようにしたマイクロチップが搭載出来る。」

「そうなんだ、考えるまでも無いわ、それなら私にその手術をして下さい、お金はあまりないけど、今回の戦争に参加する報酬で頭金位には成るでしょう?」

「良い覚悟だね、キースと一緒に居たいんだね?」

「う、うん・・・」

 少しだけ目を泳がせてほほを染めるクリスが可愛い。

「ふぅん、やっと素直になったみたいだね、キースの事愛してるのね。」

「な! 知ってたの?!」

「あんなに判りやすい反応して置いて今更?」

「お願い、キースが心配、ザインも心配だけど・・・

「ちなみにザインは大丈夫だよ、一人でも戦える。」

「どうして?」

「ザインが召喚出来るようになった精霊たちはね、接近戦も得意なんだよ。」

「私は、魔法も使えないから・・・」

「使えるようにしてあげようか?」

「え?」

「電脳化したら、魔法も使えるように出来そうなんだ、私も精霊なしで使えるようになったしな。」

「ウソ、本気で言ってる?」

「本気も本気、試しに使ってみようか? ほら。」

 私は指先に小さい炎を出してみせる。

「!!」

「ちなみに電脳化して無いと無理っぽいよ、今の所。」

 要するにナノマシンに命令をして魔法のような現象を起こしているだけなのだ。

 ヘリのラボを建てて貰い、内部のマザーマシンやオートメーションラインを構成する為にナノマシンをフル稼働して居た時に、ちょっとしたヒントが見つかって、魔素を認識して集める事が出来るナノマシンをさらに改良、アップデートした事で、魔素で火を起こす物、水を発生する物、風を起こす物、土や石を操る物、植物に影響を及ぼす物、この5種と、光を集める物や創造をする物が出来上がった。

 まぁこれを集合させて群体化させたのが精霊って事に成ったのだけどね、こっちは精霊のような疑似人格が無くて良いので其処迄作り込んで居ない。

 ちなみに闇ってさ、創世の闇に通じた意味で、無、だけど何も無い訳では無くそこには全てが有り形を構成して居ない、闇の魔法は創造魔法に成ったんだ。

 実際に闇を生むのは光魔法の領分に成ってしまって光魔法だったりする。

 他に、無属性魔法として医療魔法を完成させて居たりする。

 どう言う事かって言うと、例えば切り落とされた腕を繋げる医療魔法と言うと、骨を接いで不足して居る成分を魔素を代用して変質させる事で生み出す、神経系も同じように接ぐ、筋肉細胞も一本一本同じように接いで行く、と言った感じ。

 ここであれ?って思う人も居ると思うのだけど、魔素を変質させて成分を創造して繋いで行くって事は闇魔法?ってなると思うんだけど、正解、でも闇魔法だと少し心証が悪いので無属性とした。

 私は、この医療魔法を含んだいくつかの闇魔法とサポート系および分解系の光魔法をクリスにインストールする気だったりするのだ。

 ちなみに光魔法は闇の対局でも有るので創造の闇に対して分解が可能、って事はどう言う事かって、解毒は分解するのが手っ取り早いので解毒系の魔法は光魔法に成る。

 ちなみに、錬金術スキルが無くてもこの闇魔法でポーションが作れるようになりました。

 詠唱だけはなんか神の加護がうんちゃら言う感じで神聖魔法と呼ばれても可笑しくない状態にしておく、この詠唱が医療魔法の為のナノマシンの発動のキーワードって感じである。

「私が、魔法使いに?」

「残念だけどクリスは、私の鑑定結果では攻撃魔法のそれに耐えうるだけのマナを確保できていない。

 医療魔法も、未だちょっとした切り傷程度しか修復出来ないだろう。

 但し、ザインちゃんの様子を見て居て確証したけど、ある程度使って回復を繰り返すとマナ保有量は増える。

 これから成長して行けばそれなりに使える段階に成るかも知れないけどね。

 だから、クリスちゃんには医療魔法を伝授してあげる。

 電脳にその為の詠唱もインストールして置きます、そして医療魔法は医療知識が無いと使えないので、それも全て電脳にインストールしておきます。」

「どう言う事?」

「つまり、今まで薬師だったクリスは、医療魔術師としてサポート役であることには変わりが無いって事。

 で、その医療魔法には医学知識が必要なんだ。

 そんで、万が一の時に一人でも自分の身を守れるように格闘術を使えるようにして置こうって事。

 勿論、身体強化を使えるようにしておくから、鋼の剣だって、素手でへし折れる。」

 それを聞いたクリスは、ごくっと喉を鳴らして唾をのんだ。

 そして、再びこう言い切った。

「私に電脳化手術をして下さい。」

「判った、でも、私はクリスちゃんからお金を取れないわね。

 だって、クリスちゃん超かわいい!!!

 恋する乙女!って感じで!!」

「ダメです、ちゃんとお金取って下さい!」

「ヤだね~! 私はブ○ックジャックと一緒で取りたい人からは取るけど取りたくない人からは頂きません!」

「そのブ○ックジャックってのが何かは知らないけど、とにかく私は払いますからね。」

「いや要らねって、キースからもザインからも金取ってねぇのにクリスから取る訳に行かねーだろ? そう言う事、この話これでおしまいね~。」

 強制的に話を切ってやったら、クリスちゃんったら小声で、「ありがと」ってつぶやいてた、ちゃんと聞こえてるよ。

 クリスの電脳化は、誰からも秘密裏に、深夜に行われた。

 キースが無茶苦茶心配するのが目に見えてたから。

 そして電脳化を終えたクリスは、素手で戦える格闘術、合気道を含む総合格闘術の全てをマスターする事に成った。

 どんな戦い方をするかは自由って事だね。

 もしも武器を使うと言うならばジークン道などもインストールして置くので、ヌンチャクとか、好きな武器を自分で武器屋にお願いしたら良いだろう。

 一気に知識が増えて居る事にクリスが驚いて居たが、これが私の知りうる全ての医療技術と、素手で戦う為の技の全てだと言ったら、ムッチャクチャ感謝して居た。

 ちなみに医療技術の全てをインストールしたと言う事は、次から誰かの義体の手術する時に助手やって貰えるかな~って思ってたりして。

 マナ使用量が大幅に増えてしまうので、万能細胞等を利用したクローン技術を使用する欠損部位を再生する為の再生医療は今の所は使用不可。

 クリスのマナが増えて行けばいつかは使える究極の回復魔法に成る予定。

 あ、そうそう、医療魔法と言う位なので広範囲回復魔法みたいな、症状や患部の異なる物を同時に治すなんて芸当は電脳をフル活用出来ても無理です。

 翌朝早々に、クリスは私と一緒に居ると言う条件で冒険者ギルドに参戦を表明しに行ったのだった。

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