第67話 開戦直前

          開戦直前

 冒険者ギルド、辺境伯は、参加表明をした冒険者達を鼓舞する為にこちらに出向いて居た。

 勿論ジュドーさんと、この度現役復帰を果たしたローレル騎士長を伴ってだ。

 ちなみに今回、強化装甲へ搭乗する事に成ったのは、このローレル率いる第一大隊のメンツである。

「傾注!皆の者、此方のお方こそ領主のセドリック辺境伯様である!」

 ローレルが高らかに叫んだ。

 それじゃ誰もこの冒険者ギルドでは聞いてくれないよ、ローレルさん。

 私はすっかり顔なじみになって居たので、仕方なく重い腰を上げて辺境伯の元に。

「あのね、ローレルさん?

 そんなお堅い物言いじゃ冒険者の荒くれ共は見向いてくれないわよ~?」

「おお、これはエリー殿、私は根っからの騎士の家柄でな、こう言う連中はあまり相手にした事が無くて良く判らんのだ、済まないな。」

 へぇ~、永代では無い騎士爵を代々守っている家柄って事か、かなりの腕前なんだろうね、ローレルさんの御父上を含めて。

 もしかすると独自の流派とか確立しちゃってたりしてね。

「良い?こういう場合はまず、領主様にお伺いを立てるの。

 ね、セドリックさん、全員に一杯づつ奢っても構わない?

 あなたのポケットマネーで。」

「ああ、構わんが、一杯程度で良いのか?こいつらにはこれから世話に成るのだ、もっと奢ってやっても構わんが?」

「それ言ったら大燥ぎすると思うけどさぁ、いつ開戦するかって所まで来てるからこそ鼓舞しに来たんでしょう?

 こいつら全部奢るとか言ったら、馬鹿だから朝までどころか一週間位飲み続けるわよ?」

「うぇ・・・それは困る。」

「でしょう、だから一杯づつにしとくの、もしも生きて帰って来たらその時はこの街に今ある酒全部奢ってやる、位言っても良いんじゃ無いかと思うわよ?」

「そこまで言ったら私が破産するぞ。」

「あら、そんな事無いんじゃない? 正規兵と冒険者だけ、周辺の村に居る予備兵を招集せずにたったの5,000人で12万の敵を蹴散らすんだからね、これから。

 それこそ、王様から何か打診があっても可笑しく無いと思うけど?」

「そ、そうか、武勲は最大の勲功だ、領地の拡大もあり得ると言う事か。

 もしかすると第4王女セレナ様を・・・。」

「へぇ、セドリックさんってば第4王女が好きで嫁取りして無かったんだぁ、ふぅん?

 良い事聞いたわ。」

「ち、ちがっ!」

「わないよね、じゃなきゃ具体的に第4王女なんて出ないでしょう?」

「う、うむ、エリー君には敵わんな、その通りだよ何だよ良いじゃないか!

 流石に何百年も生きてる方には敵いませんよ!」

「そこ!おばあちゃん言うなよ!? さぁ、与太話はこの変にして、ローレルさん、今のやり取りを聞いて言うべきことは理解したわよね?

 口調ももう少し砕いてね。」

「ああ、ありがとう、理解したよ。」

「冒険者諸君!聞いてくれ! このお方は領主だ、君達も見た事位は有るだろう?

 間も無く隣国が攻めて来るものと思われる、君達の力も借りねば我々に勝ち目は無いだろうが、君達が参加してくれると言うので大変心強い想いである。

 今より、君たち全員に一杯づつ、セドリック様が驕って下さるそうなので注文をするように。

 尚、この戦が終わった暁に生き残った者達には、報酬とは別に、辺境伯様がこの街の酒全部買い上げて奢って下さるそうだ!

 死んでしまったら飲めないぞ!

 君らの底力を見せてくれ!

 今日は前祝だ!一杯だけで申し訳ないが味わってくれたまえ!

 勝つぞぉっ!乾杯!」

 うん、良いスピーチだったよ流石は騎士長、人心掌握のコツさえつかめば素晴らしく良い事言うじゃないか。

 流石に今度のは皆聞いてくれたようだ、ギルドの建物全体が揺れるんじゃ無いかと言う勢いで、「勝つぞ!」と言う良い歓声が上がった。

「ね?これで良いんだよ、こいつら単純だから。」

 良い空気が出来た所に、斥候に出ていたヘリボーン部隊の騎士隊員が飛び込んできた。

「申し上げます! ついに敵軍に動きが有りました!

 恐らく夕暮れ頃には戦線ラインへ到達する模様。」

 報告を受けたジュドーさんが、すっごく楽しそうに笑顔を浮かべつつつぶやいたのを私は聞き逃さなかった。

「ほほぅ、定石通り夜間開戦を仕掛けて来ると言う訳ですか、面白いですね。」

 いやアンタのその笑顔無茶苦茶怖えし!

 その上でそのセリフ、ヤバい人だったの?

 折角同郷と思って仲良くしたかったのにヤバい人お断りよ!?

 後から聞いたら、強化装甲の威力が見られると楽しみにした言葉だったらしいので少しだけホッとした、けどやっぱちょっとアブナイ人だよね。

 その報告を聞いた飲んだくれ冒険者共は、珍しく自分達を鼓舞し始めた。

「野郎ども! 領主様の奢りの酒を無駄にすんじゃねぇぞ!

 酒盛りはここ迄だ!やってやろうぜ!!」

 何だか一番飲んだくれてた筈な人が一声かけると割れんばかりの雄たけびが返って来たのだった。

 すげぇな、この人達、いつもあれだけ飲んでるのに、やる気さえ出したらこんなにも頼もしい人達だったのか。

 ただ、勢いだけじゃ無い事を祈ろうかな。

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