第40話 全身義体1

          全身義体1

 私自身が一番真っ先にこうしようと思って居たんだけどな、全身義体。

 まさか本物の勇者(元)に対してこんな大掛かりな義体を作る羽目になるとは思っても居なかった。

 しかし、勇者は既にアラフォーってかアフターフォーのおっさんである、失った利き腕(ひじから下)だけ義体にしたところで戦えるようには成らないだろうからやるなら全身でしょ。

 ちなみにこの勇者、利き腕を失った事で見限られ、元パーティーメンバーの薬師だった今の奥様と平凡な暮らしをしようと低級冒険者をしつつ剣術指南等をして生計を立てて居たようだ。

「じゃあ、今から手術を開始しようと思うんだけど、幾つか約束して欲しい事が有るんだけど良い?」

「勿論だ、何でも約束してやる。」

「うん、そこまで思い詰めなくて良いからね、そう言う事じゃ無くてさ、今から言う事は全身義体になった後に忘れずにいて欲しい事。

 先ずは一つ目、全身義体になると言う事は、生身の部分は脳神経系だけなので、10年に一度、この薬を投薬しないとダメなんだ。

 義体の胸の所にこれを差し込む場所が有る、一本目の薬のカプセルが刺さって居るのでそいつを抜いて、これに取り換える、それだけ。」

「そいつをしないとどうなる?」

「生きて行けないので、当然ながら死ぬ、だけどこれさえ10年に一度交換すれば、後のメンテナンスはナノマシンがやってくれる、例えば腕位なら吹っ飛んでも、丸一日もあったら元通りになると思う。

 それに、全身義体を装備して居るにも拘らず命の危険が有ると判断した場合、一時的にリミッターが解除され、通常の10倍の能力で3分間だけ活動出来るようになる、但しその後半日は活動停止状態になってしまうので注意して欲しい、これが二つ目の約束だ。」

「その三分間の間にどうにか出来ないと判断した時は逃げろ、と言う事か?」

「まぁ、余程の事ではない限りそれは無いとは思うが、まぁ無理ならその方が良い、ようするに無理はしないようにと言う事だ。」

「判った、この二つだけと言う事は無いのだろ?」

「勿論まだある、三つめは、全身義体の性能は、生体の時と比べて格段に高い運動能力を有し、知覚も全て強化されて居る。

 例えば人と握手等をする時に、今までと同じ感覚で相手の手を握ってしまうと意とも簡単に握り潰してしまう事に成る。

 力の制御を術後1日で習得して欲しい、出来なければ生体に戻さねば成らないので一日が限界だ。」

「もし、その制御を確保できない場合、元に戻されると言う事か・・・」

「まぁそう言う事だ、だけど、それが出来ないなどと言うのはよほど特殊な場合だけだと思うので意地でも達成して欲しい。

 訓練内容は、義体で卵を使った料理を作って貰う、義体の握力で卵を割らないように掴むのは、始めはなかなか苦労すると思うぞ?」

「判った、料理は苦手だが、力加減の訓練と言うならば頑張らせて貰う、他には?」

「義体は生身の肉体と比べて、重い物になる、保護対象を守るため等に覆いかぶさるような事も無くは無いだろう?特に奥さんと子供を自分の体重で押しつぶしてしまい、殺してしまったりしたら元も子と無い、だろう?

 その為の上手い体さばき、って所かな。」

「そうだな、重要な事だな、そいつも一日で訓練を済ませろと言う事か、やり遂げてみせるよ。」

「一日目に力加減を習得してくれればこっちは割と簡単だと思う、なので翌日からで良いのでなるべく早く習得して欲しい。」

「判った、他には?」

「義体のコンディションとかの情報や、義体で使えるいくつかの能力が有るのだが、その一覧が視界の隅に表記されるようになる。

 すぐに慣れると思うが、始めは少々ウザいかも知れない、それに対してクレームを付けないで欲しい事と、能力の悪用はしないと誓って欲しい。

 まぁ勇者と言う事で正義感は強いと思うし、さすがにそう言った使い方はしないと信じているが、万一悪用した場合、私の大気中に放って居るナノマシンによって私が知ったら、容赦なく潰す気なので私自身の作った義体を私自身の手で壊させないように留意してくれ。」

「例えばどんな?」

「そうだな、例えば光学迷彩、それを使うと周囲の景色に溶け込む事が出来る、つまり視認出来なくなる訳だ、この能力を使った覗きであるとか、窃盗など、と言った具合に悪事に使用しない事、とかね、まぁ極端な例だが。」

「本当にそれ程まで周りから見えなくなるのか?」

「ああ、何か不都合でもあるか?」

「いや、そう言う意味では無く、つまりは魔物に発見される事無く斥候が出来ると言う事か?」

「まぁ、魔物には他にも嗅覚とかで獲物の位置を特定したりすることも可能らしいから完ぺきとは言えないけどな、そう言う事だ。」

「凄いな、他にも能力が有るんだろう?」

「ああ、地面を蹴る音に相反する音をぶつけて相殺する無音歩行とか、一瞬だけ素早い動きが出来るブースト加速とかあるぞ。」

「どのぐらい素早く動けるんだ、それ。」

「具体的に言うと、3秒間だけ、ほぼ音速で走れる程度だ、音速を超えようとするとそこには見えない壁みたいなものが有るからな、それが限界だね。」

「その、音速ってのは?」

「音が伝わる速さって事だよ、離れて話してても走って行って近付いて話すよりずっと速く伝わるんだからどの位速いかは解るだろ?」

 カイエンはごくりと喉を鳴らして頷いた。

「凄いな。」

「だろう、但し、一度使ったら連続しては使えないからな、クールタイムはさっき話したコンディションと一緒に表記されるからな。」

「わかった、覚えておこう。」

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