第33話 電脳・義手・手術

          電脳・義手・手術

 キース、本当に馬鹿だよお前は、私だったら身体強化で何とかなったと言うのに・・・

 探索用ナノマシンで急いで腕を探すも、熊の爪でズタズタに引き裂かれて居て只の肉片に過ぎなかった。

 ストレージからローポーションを出してキースの腕に振りかける。

 傷は癒える、が、さすがに欠損部までは戻る訳も無い。

 私は大急ぎでキースを背負い、倒したビッグベア―をストレージにしまいもせず走り出した。

 キース、絶対に助けてやるからな、私がお前の腕を作ってやる!

 後発隊にどこかですれ違わなかったと言う事はまだギルドへは報告の最中だったのだろう。

 門に着いた血まみれの二人を見て門番がぎょっとするも、セシルが駆け寄ってきてすぐに入れてくれると言うので、ギルドの大型解体場へ入れて欲しいと頼み、鍵を開けて貰った。

 誰も使って居ない清潔に出来そうな場所が欲しかったからだ。

 セシルに頼んでギルドへは連絡して貰う事にしてある。

 先ずはこの作業台とその周辺を徹底してきれいに掃除だ。水を撒いて甲板掃除の要領で埃を一網打尽にしていく、ようやく奇麗になった頃には、報告を受けたギルドの構成員やギルマスが降りて来て居た。

「おい、大丈夫なのか?」

 ギルマスが声を掛けて来たので、顎で使わせて貰う事にした。

「ギルマス、クエストエリアに行って倒したビッグベアの回収を頼むわ、多分37体居た筈。」

「な、そんなに!?」

「クリス、ザイン、こっちに。」

 涙を流しながらザインに支えられつつ、クリスが寄って来る。

「済まない、キースが私を助けようとしてビッグベアの爪でやられた。」

「う、腕が・・・」

 クリスは上腕の途中から無くなったキースの腕を見て号泣する。

「うるせぇな、ゆっくり眠れないじゃ無いか・・・」

「キース、気付いたのか。」

「ああ、しくじっちまったな、折角こないだお前に助けられたばっかなのに、結局冒険者は引退しなきゃいけないらしい・・・」

「諦めんなよ、キース。」

「よせよ、さすがにこれじゃ無理ってもんだ。」

「いや、無理じゃない。」

「左手一本で剣を振れってのかよ! 俺のトレードマークのあの大剣をよ!」

「大丈夫だ、右手なら私が作ってやる! これを見て見ろ!」

 と言ってストレージから試作した腕の義体を取り出す。

「これは?義手か? 随分とリアルに出来てるけど。」

「こいつは私の作った義手でな、思った通りに動かせるって代物だ。」

「そんな馬鹿な話が有るのか?」

「馬鹿話でも冗談でも空想でも無いんだ、私はこれを作れる、そしてこれが動かせるようになるんだよ、キースは。」

「戻るのか?俺の、腕・・・」

「ああ、そうだ、でもな、こいつはくっつけただけじゃ動かない、キースに、制御できるようにするには、大きな手術が必要になる。」

「右手が戻るんなら何でもするぞ。」

「それはな、お前の頭を開いて脳に細工をする、電脳化と言う事をするんだ。そして電気信号をこの腕に送れるようにしてやることで、こいつは自在に動かせる。」

 クリスがキースと私の間に両腕を広げて立ちふさがるようにして、

「ダメ!そんな事したらキースが死んじゃう!」

 と、割って入った。

 まぁ気持ちはよく判る。

 惚れた男が脳みそ抜かれて死んじゃうかも知れないんだもんな、でも私はそんなヘマしないから大丈夫なんだけどさ、中々説明しきれない。

 なんたって、未だこの世界は天動説しか存在して居ない程なのだ。

「クリス、どいてくれ、クリスだって知ってるだろ、こいつがどれだけ出鱈目か、俺は絶対に死なない、大丈夫だ。」

 と言って左手で避けるようにしてザインに抑えて置くように促す。

「うん、良い覚悟だ、その位のポジティブ思考で居てくれないと成功するものも成功させられないからな。」

「ああ、やってくれ。」

「よし、では始めるぞ、まずは左腕を調べさせてくれ、ほぼ対象にしないとバランスが悪いからな。」

 左腕をナノマシンでスキャンし、そんな見えないもんでスキャンしてるなんて判らんだろうから掴んで見たりしつつチェックしたふり。

「よし、じゃあ、右腕を錬成する。」

 ストレージから材料を取り出して錬成を始めようとすると、キースが。

「なぁ、お前どっから色々出してんの?さっきの見本の義手にしてもそうだ、そう言えば武器も出してたよな?」

「まぁ気にするな、私のスキルの一つ、ストレージボックスと言ってな、何でも入るし、入ってる間は時間も止まってるので生物を入れて置いても鮮度が劣化しない。」

「そのスキル、あんまり人に見せたらダメな奴なんじゃねぇか?」

「ああ、多分そう言う類のだと思う、じゃあ錬成を始める。」

 隔離空間が発生し、素材が溶けるように流動的に動き出し、やがて一本の腕の形をとった。

「これで腕は完成だ、次はキースの電脳化に必要な物を作る、錬成開始。」

 マイクロチップと、そのマイクロチップや腕に電源供給をする為の、血中の栄養素をエネルギーとして発電する発電池を構成、しかも前世の私が死ぬ直前に作って安全性も確認出来ていた最新型と同じ物だ。

 だがそれだけでは恐らく、ごく普通の生活しかできないだろう、何故なら義体の腕のパワーは人の腕力のそれとは桁外れに強い、そして義手は、普通の腕の凡そ2倍の重量だ、この世界で強化プラスチックが作れさえすればもっと軽量化が出来るが、今の所この世界の地球と同じ種なのに地球のそれよりもかなり硬い木から樹脂を取り出すのに難儀して居るので、今は未だ作る事が出来ずに居たのだ。

 つまり重い右腕を支えても問題が無いレベルの筋力が必要だ、ギルマスに使った覚醒催眠なんて生易しいものでは無く、強化だけに特化したナノマシンを使って筋力を上げよう。

 あれならば外から勝手にエネルギーを取り込んで筋力を上げる事が出来る筈だ。

 一体何種類のナノマシン作ったのかって?必要な物は大概作ったから40種類くらいは作ったぞ。

 そんなナノマシンを寄生させる。

 3時間もすれば、筋力や骨の強さも大幅に変化する事だろう。

「さて、準備はこれで完了だな、キース、しばらく眠って貰う、これを吸ってくれ。」

 ナノマシンに集めさせてタンクに貯めてあった笑気を吸わせる。

 昭和の頃から、ずっと私の死ぬ時代まで使われて来て居た希ガスで、信頼性の高い全身麻酔だ。

 キースが完全に睡眠状態になったのを確認した私は、手術用に開発していたナノマシンを使い、サポートをさせつつ、開頭手術を開始した。

 見て居なくても良いのにその様子を見ていたクリスちゃんが気を失ってザインに支えられて居る、もう、どれだけキースが好きなのこの子ってば。

 取り出した脳神経系統を傷つけないようにユニットを装着し、頭蓋に戻す、そして、頭蓋骨上部の全体をチタニウムβ合金の外郭をかぶせ、接合、そして頭皮を縫合し、ローポーションで完全に傷を無かったことにする。

 今度は腕だ。

 アームは肩から作ったのでまず、要らない部位を丁寧に処理し、少し残した骨に義手の骨組みを接合、すると義体の信号を認識した電脳の補助神経コードが位置を認識して腕の切れ目より顔を出した。

 これを一本一本繋いで行き、ギミックをセット、最後に人工皮膚で義手全体を覆い、完成だ。

「ふう、術式終了だ。」

「終わった? キース平気?」

 ザインが聞いてきたので、

「目が覚める頃には安定もしてると思うよ、これでキースはAランクでもやって行ける。」

「流石、ハイエルフ様。」

「何度も言ってるけど、違うからね?」

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