第8話 エリーの過去3

          エリーの過去3

 各国の戦術コンピューターすら自在に操作出来るようになった以上、私は神にも等しい力を手に入れたことになる。

 私一人を手に入れる為だけに、教授や同期生を殺害し、私の最愛の彼とその国を滅ぼした、アジア最大の国家である軍国主義国家の国土全てが消失するように世界中の核ミサイルを操作し、その国は一夜にして蒸発した。

 大量虐殺と言われれば其れ迄だが、私だって私の周りの人々を殺された事に違いは無かった、先に無関係な人々を巻き込んだのは向うだと言う思いで、一切の躊躇をしなかった。

 故郷の日本にも、放射能の雨が降るであろうことも容易に考えられたが、元より私の頭脳の流出を見て見ぬふりをし、挙句に私を保護しようと動く事もせず無かった事にされた国だ、そんなもの私の知った事では無かった。

 そもそも私は元より、両親にすら見捨てられた子供だった、父は私が生まれると同時に母と私を捨て、残った私は母の暴力を受けて育ち、小学校4年の夏休みを利用して、家を飛び出した私はずっと一人で、どんな事でもやって生きて来たのだから。

 アジアの某大国が消滅したその日、夫を殺された私の凶行であると認識した各国は、私を死神と畏れ崇めた、私にケンカを売ることはしないと誓いを立てた。

 しかし、これで私は世界最恐の犯罪者である事には変わらない。

 自らの所業を悔やんだ。

 ようやくその身柄の所在を確認出来た娘に合わせる顔等、当然持ち合わせては居なかった。

 その日から私の生活圏は、戦争被害によって壊滅的被害を受けた彼の国家の、地下研究施設と、その脱出口を携えた郊外の地方都市だった。

 私を奪う為だけに行われた戦闘の被害の比較的少なかった都市であったが、それでもその爪痕は残って居た。

 男性型の義体を使っていたのをいいことに、顔だけを変え、医師としてその都市で活動をしつつ、戦争の為に腕や足を無くした者たちへ義体を用意し、彼の残した資産を切り崩して生活をする日々だった。

 それより数十年が経ち、特許権を登録している暇も無かった義体は世界にその製造法、手術法が広まり、ほとぼりが冷めた私は、ようやく逃亡生活から解放されたのであった。

 その頃には既に、娘は三児の母となり、幸せな暮らしを送って居るようで少し安心したものであった

 全身義体を装着した者は、凡そ十年置きに脳細胞の崩壊を抑える薬品を投与しなければ簡単に事切れる、しかし逆に、定期的に欠かさず投与する事で、どこまで生き永らえる事が出来るかがむしろ逆に論議を醸し出している昨今であった。

 多聞に漏れず私もそこには興味が有ったし、願わくば私の唯一の娘の子、孫、ひ孫と、私や娘の不幸な人生が報われて欲しいので、一人たりとも不幸になって欲しくない、可能な限りずっと見守る気でいるので、どこまで生き続けられるかは私の生涯をかけた挑戦になった。

 その間も、私の脳細胞が限界を迎えるまでの膨大な時間に、新しい技術や新素材を生み出しながら、子孫を見守って行った。

 時には間接的に経済支援をしたり、その子の能力に一番優位に働く道へと自然に誘導されるように仕向けたりもして来た。

 まさか数代前のおばあちゃんがまだ存在して居るとも思わないだろうからそう言った誘導も全く難しいものでは無かった。

 全ては私の子孫の為にやって来た事だ、それは単に自己満足でしか無いのも判っては居る、はっきり言って我が事ながらに酷く極端なエゴだと思う。

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