第5話 序章2

          序章2

「これはお久しぶりですな、ナカムラ技術開発局長殿、ゆぐどらしるの戦術予報は素晴らしいですね、お陰様で御覧の通り完全に優勢に戦局が展開して居ますよ。」

 社交辞令的にその場を流す気持ちで返答を返しては居るが、実際に彼の生み出したこのゆぐどらしるのお陰でほぼ人的損耗はゼロで帰還出来そうだ、男女ともに母星に配偶者や恋人を残して来て居る者も多いので有り難い事である。

 あ、自己紹介が遅れました、私は当艦の艦長、ルーデリヒ・フォン・バルデス少将です。

 天皇陛下より階位と爵位を賜り、勲3等正三位伯爵です、以後お見知り置きを、・・・とは言っても恐らく私の登場は恐らく今回だけな気がします。

「ほほぅ、それは重畳、それでは”ゆぐどらしる”は各艦隊の旗艦に搭載しても良さそうだね、早速量産体制を確立しようじゃないか。」

 ”ゆぐどらしる”、その名の通り、おとぎ話に出て来るらしい世界樹と言う意味であるが、この戦術予報AIは、樹木の細胞を利用した生体コンピューターであるらしい、言って居る私にもどのような物なのかサッパリ解らん、と言うかむしろ樹木に演算処理が出来るとは到底思えないし想像すら付かんのだ。

 天才の考える事は誰にも理解出来るものでは無いと思うし、理解出来なくても良い、むしろ理解したくない、そんな物が理解出来る脳細胞は持ち合わせないので致し方無い事だろう。

 まさに彼はその天才という人種だろう。

 大気だけで増殖して鉄やアルミと言った金属を生み出すという全く理解出来ない生態を持つバクテリアを生み出したのも彼だ、しかしそのお陰でこのような巨大な宇宙戦艦を建造出来るのも事実なのだが。

 ちなみにそれらのバクテリアはナノマシンらしく、この艦にも寄生させてあり、小破程度のダメージであれば1時間もすれば完全に修復されてしまう。

 知れば知る程どこまでも出鱈目なマッドサイエンティストである。(あ、しまった、本音がぽろっと)

 実際その恩恵には幾度と無く助けられて居るので頭が上がる存在では無い。

 もうね、凄すぎてまだまだ紹介したい彼の発明はごまんと有るのだがあまりにも多すぎて紹介等し切れるものでは無い。

 なんせ700年間に渡って様々な技術を確立させて居るのだからしょうがないね、だんだん言葉が雑になって来た気がするが地が出て来ただけなので気にするな。

「報告します、敵艦隊損耗60%、退却始めました。」

「よし、残敵掃討、小惑星帯から離脱、全砲門開け、アーマドラグーン部隊全機帰還せよ。」

「「「「ワカヤビタン!!」」」」

「うん流石だね、手際が良い、”ゆぐ”をこの艦で試験運用したのは間違って居なかったな、では私はこれで失礼しよう。」

 博士が帰って行く、帰ると言ってもこの艦に搭載されて居る遠隔義体の充電設備に戻るだけ、そもそもがあの義体は中身が空っぽのただの人形で遠隔で動いて居るだけなのだろうから・・・

 しかし本当に変な所に妙なこだわりのある人であるな、”ゆぐどらしる”の調子が知りたいだけならばわざわざ遠隔義体の並列存在など使わずともバックドアでモニタリング位出来る筈なのだ。

 他人との接触を嫌わないと言う科学者らしからぬ所がある彼らしいと言えば彼らしい律儀な所とも言えるが。

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 ―数か月後―

 あれっきり彼を見ない、又”ゆぐどらしる”の調子や新型過電粒子砲の調子を見に来る頃のはずだが・・・

 と、思って居た矢先、彼が亡くなったと言う悲報が舞い込んで来た。

 どうやら、脳神経系を維持する為に定期的に十年周期で投薬が必要だったらしいのだが、その時期を彼自身開発にかまけて失念して居たようだ、”ゆぐどらしる”の量産化に向けて最終調整に勤しんでいて突然こと切れたらしい。

 今度本星へ寄港した折には、大富豪の彼のおごりでうまい酒が飲めると思って居たのに、残念だ。

 本星へと帰還すると同時に休暇を取った、彼が気に入って私産で購入し、研究施設を作り永住して居た惑星、ネオオガサワラまで、葬儀に間に合わなかった彼の墓に線香の一本でも備えてやる積りである。

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