第3話 偶像少女崇拝の実態調査会

 ごくフツーの大学生だった大原刹那。

 そのセツナと後輩の三浦葵衣は何故か、戦国時代っぽいどこかへ来てしまったのである。だからと言って「なんじゃ、こりゃあ?!」と言って慌てふためいたりはしないのである。イマドキの大学生なのである。そんなマネできっかよ、セツナはそう思ってるし、三浦葵衣は主役が美青年と美少年の二人組なら絵になるのになぁとか、考えているのである。



 時を戻そう。

 その日のコトだ。セツナは学生食堂で『令和時代における偶像少女崇拝の実態調査会』の活動をしていた。お分かりいただけると思うが、平たく言うとアイドル研究会と言う事になる。そして活動と言うのは研究会で作っているホームページの更新であったりする。


「ホームページの更新をしてるのはあたし。

 大原会長は眺めながらブツブツ言ってるだけでしょ」


 三浦がキーボードを打ちながら言う。ホームページの更新はもっぱら彼女の仕事。

ノートPCを学食の机に置いてガチャガチャと音を立てている。


「役割分担だ、俺の方はイベントに参加し写真を取ってくる方が専門。

 昨日のイベントで地下アイドル『アリス壱萬番』撮った写真。そっちに送るからな」


「もう、アレ地下アイドルじゃ無いでしょ。

 テレビやゲームのタイアップやってるんですよ」

「本人たちが地下とそう名乗ってるんだ」


 セツナはHPに出しても良さそうな写真だけ選んで、三浦が弄ってるノートPCに送る。



「ちょっといいかい」


 他の学生は若干距離を取ってる二人に話しかけて来る男がいる。メガネをかけた気の弱そうな男。


「おう、イトゥー。

 三浦、俺の知り合いでイトゥーくんだ」

「知ってますよ、『電脳遊戯研究会』の方でしょ。

 ついこの前まで隣の会室だったじゃ無いですか」


 隣と言うか、実質同じ部屋。パーティションを置いて分けてるだけだったのだ。ところがそんな場所さえ『令和時代における偶像少女崇拝の実態調査会』は取り上げられてしまった。故に学食を使って活動するしか無いのである。多少白い目で見られようが気にしてられないのである。


「セツナ、これ新しく造ったゲーム。今度のナツコミで売るんだ。時間あったらプレイして感想聞かせてくれよ」


 パッケージには美少女画、シロウトが作ったにしては奇麗な絵と言えるだろう。美少女が槍やら剣で武装してる。ってコトはアクションものか、と思うセツナ。


「オッケー、何系のゲームだよ。

 俺アクションニガテだぜ」

「大丈夫、シミュレーション。

 戦国美少女だよ」


「あー、時間かかりそうじゃん」

「そこまで難易度高くないけど、完クリしようなんて思ったらメチャ時間食う。

 まあ、触りの感想だけで良いんだよ」


「分かった、やっとく」


 セツナはCDケースを受け取る。


「にしてもセツナ、研究会の場所取り上げられちゃうなんて災難だよね」

「だよなぁ、チクショウ。

 自治会は何考えてやがるんだよ」

 

 イトゥーくんが同情してくれるので調子にのるセツナである。



「だから会員が二人しかいないからですよ」


「新人はたくさん入ったじゃないか。

 しかも俺の作ったHPの閲覧数は半端無いぞ。

 これだって立派な活動実績じゃないのか」

「四月に入った新人、みんなG・Wには止めちゃいましたね。

 会長がムチャ言うからです」


「俺はなにもしてないぞ」

「しましたよ。

 男だけでぴんくクローバーXの『行くぜっ盗っ人ガール』の振付完コピして女の子の前で披露して拍手を貰ってこい。

 それが入会のテストだって言ってたじゃないすか」


「カンタンだろーが」

「会長は羞恥心が無いからなー。

 不可能も可能にするかもしれませんが、普通の大学生男子にはシンド過ぎます」


 俺だって新人のコトを考えて、分かりやすい振付の曲を選んだと言うのに。イマドキの若いヤツは根性が無いぜ。そんなコトを考えてる大原刹那だ。


行くわよ、今こそ。

アナタの心へ歌うわよ。

ベルが鳴ったら、即座に集まれ。

勉強なんかするわけないじゃん。

揃いのほっかむりと迷彩装束。

その名も盗人ぴんくクローバー


 フンフンと鼻歌を歌い出す大原刹那。場所は学生食堂、周囲には学生がたくさんいるのだが、気にしていない。そんな自分の所属する研究会会長に三浦葵衣はアカラサマに冷たい視線を向ける。


「何だよ、オマエだって女子の新人追い出したじゃんか」


 男性アイドル好きの女性だって世の中には多数いる。『令和時代における偶像少女崇拝の実態調査会』に女性の入会希望者だって四月には若干名訪れていたのだ。


「バイクに乗る方か、ロボットに乗っちゃう五人組出身か。

 全部覚えない様なヤツは要らん。

 そんなムチャを言ってたぞ」

「あのトリビア、何処に行っても役立ちますよ。

 奥さま連中にも受ける小ネタになります。

 現在トップクラスの人気俳優、巣田マッサキが『仮面探偵WWW』で主役やってたなんて言うとウッソーと疑う人達が多いっす。

 当時の写真見せると大受け、鉄板ネタですよ」



「あははは。二人とも仲良さそうでいいね。

 んじゃまたね」


「またな、イトゥー」

「ありがとうございます、イトゥーさん」


 二人の前から去って行くイトゥーくん。ハッキリ言ってセツナと三浦は彼のコトを忘れていた。ほぼ二人きりの感覚で会話していた。ヒドイ仕打ちである。



「しまったな、ちゃんとゲームやって感想伝えてやろう」

「大原会長、友達いないのにイトゥーさんとだけは仲良いですよね」


「おう、アイツ元はドルオタなんだよ」

「そうなんですか?

 二次元美少女の人だと思ってました」


「まぁ、イロイロあったのさ」


 男には触れられたくない過去ってモノが有るんだぜ、そんな風を気取って見せるセツナである。どうせロクな話じゃないだろう、後輩女子には見破られているのだが。


 大原刹那は大学を出て、駅の方へと向かう。途中にある公園を突っ切って行く。後輩の三浦も一緒だ。午後の授業は無い。『令和時代における偶像少女崇拝の実態調査会』の活動さえ終われば学校に用事なんてあるものか。

 セツナは背中のデイパックにノートPCを放り込んでる。HPの更新は三浦に任せているが本来彼の所有物なのだ。


「ノートPCじゃ無くてそろそろタブレットにしたいよな。性能イイヤツじゃないとダメだけど」

「タブレットはムリです。写真や動画データ多すぎるんです。10TB超えてますよ。

 会長、そろそろ要らないデータ削除してください。外付けHDDだってもうパンパンです」


「要らないモノなんか有るか!

 全て俺が自分で撮ってきたお宝だぞ」

「大原会長って。

 刹那なんて名前の割にしつこく保存したがりますよね」


「HDDもSSDに変えたいな。

 クッソー、なんで大学から会費が全然出ないんだよ」

「うーん、HPに怪しげなアフィリ貼りすぎたんです。至る所に18禁ゲームへのリンクが出てたんでしょ。そりゃ大学も怒ります」


「しょうがねーだろ。会費出ねーんだ。自分たちで稼ぐしかない」

 

 別にエロゲへのリンクを選んで貼ったワケじゃない。見る人に合わせて広告が出るシステム。それを踏んでくれればチョイとばかりの広告費がセツナの懐に入ると言う仕組み。そんなのセツナだけでは出来ない。パソコンとネットに詳しい後輩女子がなんとかしてくれたのだ。


「……ってコトはよ。実はチェックしたヤツがそれまでにショッチュウ18禁ゲーム絡みのページに訪問してたってコトじゃないかよ」

「まーそーかもしれません」


 後輩女子は学生自治会に腹を立てるより、オトコってこれだからなーと言う表情である。

 

「現在の広告収入だけじゃなー。なんか稼ぐ方法ないんか。

 俺らもイトゥー見習ってナツコミで会誌でも売るか」

「アイドル本なんて誰も買わないですよ。同じ穴のムジナ同士が付き合いで買い合うだけ。印刷する経費の方が掛かります」


「オマエ、詳しいな」

「恥ずかしながら、高校時代はまぁまぁオタクだったもので」


「いや今でもだろ」


 この後輩は2.5次元ミュージカルに毎月行っているようなオンナなのだ。パンピーを気取るのは無理が有りすぎだろ。そりゃセツナもツッコムと言うモノである。


 後輩女子がセツナの方を見てニヤッと笑う。


「会長の秘密ファイルに有る画像を出して良ければ。

 多分HPの訪問者ヒトケタ増えるんじゃないですか」


 この女ーーーー!!!


「三浦会員!

 キサマ俺の秘密ファイルの存在を何故知っている?」

「何言ってるんです。

 パソコンの操作、アタシに任せきりにしておいて。

 そのPCの中に有るファイルなんて分かるに決まってるじゃないですか」


「ぬぅっ。

 普通には表示されないようにしたし、パスワードでロックもかけたハズだぞ」

「だからこそ、あからさまにあやしーんじゃないですか」


「むうっ。

 三浦会員のPCスキルを侮り過ぎたか」

「よくもまああんな大量のエロ写真、溜め込みましたね」


「エロ写真言うな!」


 セツナがアイドル達の活動を記録するため撮った写真たち。

 秘密ファイルに隠されているのは。その活動の中で、少しばかりキワドイ写真が撮れてしまう事も有るのだ。一瞬の下着で有ったり、チラリと見えた横チチであったり。セクシー路線の娘たちの、ホントウは見えてはいけない桃色の突起であったり。

 たまたま! である。

 偶然! である。

 何かのはずみで! である。

 意図して撮った写真では無い! のである。

 そこはカンチガイして欲しくないセツナなのである。 

 それは世には出してはいけないモノなのだ。Xファイルなのだ。秘密情報なのだ。一般の人間が見てははならない危険物なのだ。


「俺のような紳士ならともかく。

 世にいる男どもがどの様に活用するかワカランじゃないか!」

「紳士ねー、ヘンタイと言う名の紳士なんでしょーね」


 そんな会話をしながら歩く大原刹那と三浦葵衣。すぐ後に起こる事態を全く予想していないのである。

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