PART7

 それから数日後、俺は”アヴァンティ!”の止まり木でバーボンを舐めていた。

 隣には何故か、”警視庁さくらだもんの切れ者”こと、

 五十嵐真理警視が座っていた。

『貴方って本当に乱暴なひとね。』

 からかうように俺を横目で見ながら、コニャックのチューリップグラスを傾ける。

『仕事さ。俺にはそれ以上何も言うことはない。』

 素っ気ない俺の口調に、彼女は苦笑いをし、グラスを置いてシガリロに火を点けた。

 あのあとC国の大使館から外務省を通じ、警視庁に俺の探偵免許をどうにかするようにと、遠回しで圧力をかけてきたという。

『断っておいたわよ。偉いさんは何とかしたかったみたいだけど』

 彼女は煙を吐きながら、これでまた貴方に貸しが出来たわよといって笑った。


 肝心の彼女・・・・光明寺早苗博士はどうなったかって?

 希望通り大学を退職し、そのままC国へと旅立ったさ。

 今回のトラブルで、大学側や日本学術会議、それに政府の偉いさん達も何かアクションを起こすかと思ったが、大人しいもんだった。

 政治家や学者なんてものは、こんな時何の役にも立ちやしない。

 

 出発前、先輩であり、かつ同僚だった俺の依頼人、鴻ノ宮教授は彼女に再度面会し、翻意を促したが、無駄な努力に終わった。

”僕は君を第二のオッペンハイマー博士にしたくない。マッドサイエンティストの列に加わって欲しくない”

 俺に使ったのと同じ言葉で、彼女に語りかけたものの、それに対する彼女の答えは、

『おっしゃりたいことはそれだけですか?折角ですけど、私の心には全く響いてきません』

 という、簡潔なものだったという。

 

『自分の研究のためには、悪魔になることさえ厭わない。そういう決意の表れなんでしょう』

 探偵料の残金を、事務所までわざわざ払いに来てくれた教授は、そう言って肩を落とし、自嘲気味に微笑んでみせた。


・・・・・彼女の研究が功を奏したせいかどうかわからんが、外電がC国で、

遺伝子レベルで兵士の能力向上実験に成功したらしいと発表するのは、数年後の話だが、それはまた別の機会に。

                                終わり

*)この小説はフィクションです。登場する人物その他は、あくまでも作者の創造によるもので、実在は致しません。

                   




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純真なマッド・サイエンティスト 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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