32話 節分

 

1ヶ月が経つ。一月を過ごした。春の心に存在する黒い影、一月始めに感じてから今まで何も感じていない。まるでかくれんぼをしているかのよう。


その間、勉学に励んでいる。雫とあまり会話していない、いやできなくなっている。自分というものの在り方がわからなくなっているから。本当に雫を好きだったのかとも考えるようになっている。そんなはずないのに。


そんな最中、雫から真剣な顔で俺を頼ってきた。


「春、今度の節分の日...ちょっと付き合ってくれない?」


つつつ、付き合う?!って思ったが、どうもそういう意味ではないとすぐに気づいた。


「...うん、いいよ」


「ありがと、またその日に」


会話はこんだけ。ここ1ヶ月、あの時から初めて会話したのはこれだけ。俺の想いってなんだろうか?


そして、来たる節分。あらかじめ携帯で待ち合わせ場所を言われた。そこはいつも新年に行く恋の神様の神社だ。少しドキドキする。時間よりだいぶ早くに着いてしまった。雫は何を考えている?


「来たね...」


そーっと静かに来た。真剣な顔立ちで雫は春と面を向き合う。


『美帆の居場所がわかった。私は美帆を助けに行く。だから...』


彼女の目もとに一滴の...



雫が泣いた日の夜、私は超能力を使いこなしていた。まずはこの周りから探し、次の日にはこの地域...日本...世界...


隅々まで探す。たった1人を見つけるために彼女は力を使い尽くす。見つかるまで誰にも諭されず、誰にも気づかれず過ごした。相手がたとえ世界滅亡を望む組織であっても。


そして、やっと見つけた。ネパールの最奥地に美帆の反応があった。私は必ず美帆を助け出す。母にお金とパスポートを出してもらってネパールに向かおうとする。学校も休む。もしかしたら一生休むことになるかもしれないが、最後に春だけは伝えておきたかった。


『...もし、私が無事に帰って来たら...』



春は雫の口を押さえた。


「今は聞きたくないし、雫が危険な場所に行こうとしてるのもわかる...俺だって、雫のことが大切なんだ!そんな死亡フラグみたいなことを言うなら行かせない!たとえ殿下美帆を助けに行くことだとしても...」


雫は彼を見続ける。


「それでも行くんなら、俺も連れて行け!俺の...!好きな人の大切な人を!!助けたいんだ!」


その言葉が本当に春の本心かわからない。けど、きっと嘘ではないと信じる。雫はそっと彼の手をどかした。


「...よかった」


笑顔となる雫の口元が行く先は。



雪は降りゆく山際、BLACKはRAINの報告を聞いていた。殿下美帆の行方不明、雫と春がそれを助けに行こうとしてること。俺たちと共に遂行してくる1人がそう伝えてきた。


「今だからわかる。なぜ美帆を俺に狙わせたのか。RAIN、おそらくすぐには美帆に危険な目には遭わないはずだ。2人をまだ行かせないでくれ...俺がその前に奴をぶちのめすから...」


RAINは黙った。


「...」


BLACKも黙った。彼の持つ覚悟が血塗られたナイフのように、RAINは感じられた。


「...なんとかしてみるわ」


通信機を切る。


「私には彼のこと、救えないのね...」


冬はまだまだ続く。それぞれの幸せを求めて。








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