物語はまだ……始まったばかり
―――本当ですか? まぁそんな気はしてましたけど、いざ本人の口から聞いたら驚きますよ―――
―――え? そりゃ3年も前から
―――ふっ、そうですね。俺も……少し考えます。と言っても、一気に着いた炎は簡単には消せないですよ? 責任とって下さいね―――
―――はい。それではまた―――
ピッ
まいったな。お風呂入ってサッパリして、ベッドに横になって後は寝るだけ……のはずだったのに、眠気なんて吹っ飛んで行っちゃったよ。
久しぶりに電話来たと思ったら、とんでもない事言い出すし……本当、顔に似合わずやる事がインパクト有り過ぎなんだよぁ。まぁ、変わってないと言えば変わってないけどね?
ガチャ
「ふぅ~! サッパリしたぁ。ん? どうしたの? ニヤニヤしちゃって」
思わぬ電話と内容に、一気に心臓の音が大きくなる。その高揚感は無意識に顔にも出ていたんだろう。部屋に入って来たママには一発で分かったらしい。
……しかし、いくら風呂上がりとはいえキャミソールにホットパンツとはねぇ、まぁ高校の時からスタイルが変わらないっても凄いよな? てか、むしろ子ども産んでから更に色気が増したよ。
「うーん? なんか変なこと考えてるんじゃなぁい?」
「違うって。けどさ? 家の中とはいえ、その格好はどうなもんかな?」
「えぇ? 別に良いじゃん?」
「俺は良いとして、今はママなんだし……」
「あぁ! 2人の時はその呼び方は無しだよ? 約束したじゃぁん」
「あっ、悪い悪い。確かに一瞬体に見惚れたってのも有るけど、本題は違うんだよ。湯花?」
「ふふっ、やっぱり褒めてもらえると嬉しいなぁ。それで? 何があったのうみちゃん」
「今さ、下平さんから電話来て……」
「おぉ! 下平さんから? それで? それで?」
「来シーズン、Bリーグに復帰するらしい」
「マジ!?」
「あぁ、まだ報道もされてないけど……本人が言うんだから間違いないよ」
「嬉しいんだけどびっくりもしたよぉ! だって、NBAでのコーチ業はどうするの?」
そうなんだよなぁ。
大学途中でアメリカのNCAA、D1校へ留学。そこで実績を積み上げ……日本で5人目のNBAプレーヤーになった下平さん。ずっと同じチームで戦い続け、現在はそこでコーチとして活躍。見た限り順調そうには見えてたけど……
「なんか契約とかの関係で、元々今シーズンで辞める予定だったらしい。それにコーチとしての経験はバッチリらしいし、裏ではガッツリ練習してたみたいだしね?」
「うわぁ。用意周到だけど、周りの人に気付かれないって……変わってないねぇ。下平さん!」
「全くだよ」
「でも、考えれば聖明君鳳瞭に入れた辺りで、ん? って感じだったよね」
「湯花もそう思ったか? 俺も」
「やっぱり? 最初は日本の学校を体験させたいって理由に納得してたけど……今思えばそこから準備は始まってたのかもね?」
「だな? それに……晴下さんのBリーグ復帰と被る辺りも怪しいけどな」
「あぁ! そうだよ! 晴下さんはニュースにもなってたよね? んん? うみちゃん? もしかしてなんだけど……復帰先のチーム聞いてたり?」
「ふっ、バッチリ聞いたぞ? おそらく2人で示し合わせたに違いないと思う」
「やっぱり……それでチームは?」
「……青森ワンダーズだ」
「ワンダーズって…………嘘ぉ!」
「嘘だと思うだろ? けど、本当なんだよ。おそらく2人の考えてる事は一緒だよ」
「やっ、やばいようみちゃん! 私興奮してきた! だって……だって……あの時の黒前高校バスケ部のメンバーが揃いつつあるって事だよ?」
青森ワンダーズは、俺達が大学1年の時に出来た県内初のプロバスケットボールチーム。その熱は結構なモノだったけど、新規参入って事もあってなかなか成績は伸びなかった。B1、B2、B3という3つのカテゴリーで形成されているBリーグにおいて、今は真ん中のB2に属している。けど、毎年降格の危機にさらされているのが現状だ。
けど、今シーズンの開始と共にNBAで活躍してる晴下さんが突如Bリーグ復帰を宣言。その復帰先として名前が挙がって、一気に注目されてはいた。そこに下平さんまで来るとなると……大騒ぎ間違いない。
それに湯花が興奮するのも分かる。なんせ青森ワンダーズには……俺と共に黒前高校で練習したメンバーが……2人も居るんだから。
「だな。今監督してるのは野呂さんだし、聖覧は大学卒業してからずっとチームを支えてる」
「そうだよ? あの時のメンバーが……同じチームに……凄いよ!?」
凄い……か。おそらく下平さんと晴下さんはある程度話はしてたと思う。選手としてキャリアを締めくくる為に、地元のチームを昇格させて、Bリーグの頂点に立たせる。あの2人なら本気で考えていそうだ。
でも……
2人が同じチームに。そして聖覧と野呂さんと合流する事で、あの時の黒前高校が蘇る。それは嬉しいはずだった。けど、自分の心に渦巻くのは……嬉しさと言うより迷い。
なんだよ……2人で同じチームに行くのは良いよ? でもなんでこのタイミングなんだ? 偶然なのか? まるで…………ったく、ずりぃよ。あの時のメンバーが揃うなんてずる過ぎる。ましてや地元のチームにだぞ? そんなの……そんなの……
「……あのさ? 湯花? 俺……」
「ん? ふふっ、うみちゃん? 良いよ?」
「えっ?」
「行きたいんでしょ? ワンダーズ?」
「なんで……」
「私ね? 今話聞いたら、運命だと思ったんだ。だって、うみちゃんは今年契約更改でしょ? それにこのまま行けばチームはBリーグ6連覇。私が言うのもあれだけど……あれからずっとスタメンとして出続けてさ? ちゃんとチームにも恩返し出来たと思うんだ」
恩返しか……7人目のNBAプレーヤーとしてコートに立って居たある日の試合。そこで大怪我して、チームの退団を余儀なくされた時に、俺を救ってくれたのが……今のチームだった。見事に復帰出来たのも、手厚いサポートがあってこそ。感謝しか浮かばなかったんだよ。
今シーズンも順当に勝ち続け、あと1勝すれば優勝。前代未聞の6連覇。そして俺は契約更改の年……そんな時に、舞い込んできた2人の復帰。それも地元のワンダーズだぞ? 心が動かない訳がない。
「でもさ? 決まったわけじゃないけど、もし俺もワンダーズ行ったらあっちに……」
「ここ賃貸で良かったねぇ。まぁ里帰りって事だし、全然問題ないよ?」
「いっ、いいのか?」
「当たり前じゃん? それに約束したでしょ? いつでも傍に、隣に居るって」
「湯花……あっ、でもあいつらどうしよう?」
「んー?
「あぁ、さすがに小等部・中等部から一緒だった連中と離れたくはないだろうし……」
「まぁ……下の2人は保育園だから良いとして、上の3人はねぇ……」
「鳳瞭には寮あるけど…………ダメだ! あいつら3人、あんな高性能な寮に入ったら……確実に堕落する!」
「言えてる。人をダメにする寮だよあそこは。んーとなると、学校の近く……鳳瞭……あっ!」
「どした?」
「解決できるかもしれない人発見! にっしし」
「だっ、誰だ?」
「今は内緒。でも多分……悪い様にはしないからさ? 安心してうみちゃん?」
「内緒って……」
「大丈夫だから……ねっ?」
ったく、教えてくれても良いもんだけどなぁ。こうなったら湯花、意地でも教えてくれないんだよ。仕方ない、頼もしい事にに変わりはないし、お任せしようかな? でも……
「わかった。でもさ湯花?」
「んー?」
「本当に良いのか? 俺のわ……んっ」
その瞬間、唐突な衝撃に体を押し倒されたかと思うと、不意に感じる柔らかな感触。そして、全身に感じる温かい体温と、優しい重さ。その全てが……心地良い。
「……湯花?」
「にっしし、うみちゃん? 言ったでしょ? ずっと隣に居るって。うみちゃんの隣に居られる事がわたしの幸せなの。だからね、どこにだって付いて行くよ?」
「ふっ、ありがとうな? こんな良い奥さんと出会えて……俺はやっぱり幸せ者だよ」
「はぅ……ズルよ。そのいきなり恥ずかしい事言うの……」
「だって本音だぞ?」
「もう……ねぇうみちゃん? 今日は私から誘う日だよ? だから……ね?」
「そんな甘えるような表情されて……抑えられる訳ないだろ?」
「ふふっ」
「湯花……愛してる。ずっと離したくないくらいに」
「うみちゃん……私も愛してる。この世界で一番愛してる。だから……」
「ずっとギュッてして……離さないで?」
「勿論だよ……湯花」
―――――――――――――――
「突然だけど、仕事の都合で青森に行く事になった」
「「「はぁ?」」」
「それに伴って、ママとおチビちゃん2人も付いて来てもらおうと思ってる」
「「「はぁ?」」」
「ちょっと待って。チビ達連れて行くって、俺達は?」
「まさか寮か? マジで? やったぜ! うちの寮ってかなり凄いらしいよな」
「……そんな甘い訳ないでしょ。ね? パパ? ママ?」
「そりゃそうだ。あそこに居たら絶対に堕落した生活を送るに決まってるからな」
「3人共小さい時からの友達とは離れたくないでしょ? だから……ちゃんと手は打ってあるよ?」
「じゃあどうすんだよ?」
「えっとね4月からは……」
「月城さんのお家でお世話になる事になりましたぁ!」
「「「えぇ!?」」」
もう1度、恋をしたのは君のせい 北森青乃 @Kitamoriaono
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