第94話 気が付けば当たり前のように

 



「はぁ、チョコ美味しかったなぁ!!」

「はいはいはい」

「山形、嬉しいのはわかるけど……何日経ったと思ってるんだ? 白波、お前からも何か言ってやれ」


 あのバレンタインデーから数日。晴下キャプテンのおかげで白波が復活したり、湯花からチョコを貰ったりと色々あったけど……


「うん。確かにここまで来ると流石に……」

「だってさぁ、手作りだぜ? 一生もんの嬉しさだろ!?」

「俺、真子ちゃんから貰ったし」

「俺も多田さんから……」


 ようやく、


「でもほら、俺のは愛がこもってるからさっ!」

「……白波、こいつここから下に投げてくれ」

「……うん。証拠隠滅はお願いね? 谷地」


「えっ? 冗談だよな? 嘘だよな!?」

「「行くぞ!」」


「待て待て! 軽いジョークだってぇぇぇ」


 イツメンらしさが戻って来た気がする。


 山形は相変わらずの惚気っぷりで、それをウンザリしながらもどこか嬉しそうな谷地。そしてあの日以降いつもの姿……と言うより、それ以上に笑顔が増えた白波。少し前まではこれが普通だった。けど一度でも誰かが欠けると、どこかポッカリと穴が開いた様な気がして……改めてイツメンが揃う心地良さを感じている。

 ふぅ、白波も元に戻って良かった。けど山形は……ちょっと惚気過ぎだな。


「海! 助けて!」

「聞こえないな。頑張って学食まで来てくれー」


 思わず意地悪したけど……ふっ、まぁ楽しいから良いよな?


「こっ、この薄情者ー!」




 そんなこんなで騒がしい4人が向かったのは、お昼の定番学食。


「でさ!? この2人ひどいんだよ! すず!」

「間野ちゃんに助け求めてんじゃないよ山形」

「そうだよ。ハッキリ言って山形が悪いんだからね?」


 いつもの席で、いつもの並びで、


「昇君……流石に昇君が悪いよぉ」

「えぇ!?」


 湯花を含めた3組の女子との昼食会も、気が付けばやり始めて早1年になろうとしてた。


「うみちゃんっ! はい、お弁当」

「おっ、ありがとう湯花」


「おっ、おい! あれは良いのかっ!」

「雨宮達は見せつけてないだろ? みたいにな」

「うんうん。てか、むしろ原因は山形1人……」


「もう、また始まった。静かにしなよ? ここは皆の場所なんだから」

「はぁ……全く」

「はいはい、皆ご飯食べよぉ?」


 こんな光景ももはや見慣れた感じになったなぁ。最初は湯花の提案で、仲良くなることを目的に始めたんだよな。まさかここまで定番化するとは思わなかったけどね。


 最初はそれでも不定期だった。けどその内段々と増えていって……今じゃほとんど毎日。席もいつの間にか、俺と湯花。白波と多田さん。谷地と水森さん。山形と間野さんが向かい合う形で固定されたし、その光景はまさに合コン風昼食会。

 そういえば山形は最初から間野さん狙いで、必死に話し掛けてたよな? 1度玉砕して、その関係がどうなるか不安だったけど……要らない心配だった。結局それが実を結んで、付き合えたってのは本当に凄いことだよ。素直にそう思う。でも、さっきから散々言ってるけど、最近のそれは目に余るぞ。そろそろ本気で谷地が怒るからな。


 谷地は水森さん狙いは変わらず……だと思う。聞けば2人で遊びに行ったりもしてるらしいし、バレンタインだって手作りチョコ貰ったって言ってた。表情には出さないけど、あれは内心絶対狂喜乱舞したに違いない。 


「真子ちゃん、お返し何良いかな?」

「えっ? お返し?」


 ……谷地、今からホワイトデーは少し早くないか?


「白波?」

「はい?」

「今日のお昼のメニューは?」

「えっと、サラダに味噌ラーメンです」

「……なるほど」

「セッ、セーフですか?」


 この2人はそういう雰囲気あるんだけど……どうしても谷地達みたいな関係には見えないんだよな。


「ん? 待って、あんたそれ並盛じゃないでしょ?」

「えっ? そっ、そんな特盛なんて頼んで……」


 うん。まさにコーチと選手って感じだな。

 けど、実際多田さんにアドバイス貰うようになってから、白波のやつ痩せたよな。前々から顔はイケてると思ってたけど、痩せたら完璧じゃね? それこそ多田さんとか……


「特っ……並盛ならセーフだったんだけどねぇ。食べても良いけど、練習……頑張りなさい?」

「ひっ、ひぃ」


 ……どうなんだろうな? 多田さんはバスケのことに関しては色々話してくれるし、相談にも乗ってくれる。けど、肝心な多田さん本人のことは……正直未だにわからないことの方が多い。まぁ、無理に聞くようなことでもないし、俺達にとって多田さんは多田さんだ。


「はぁ……あとちょっとなんだけどね。野呂先輩についてもらって筋トレも頑張ってるし、恐らく春季大会までには理想の体型になれると思うんだけど……」

「ホッ、ホント!?」

「でもあともう一押し…………分かった。白波?」

「はい?」

「明日からバランス考えたお昼持って来るから、それ食べて!」

「おっ、お昼!?」


 えぇ? いきなり!?


「今まではお昼くらい好きな物を……って思ってたけど、なかなかあと一歩が進展しない。だから明日から私が持って来たお昼食べなさい?」

「えぇ!?」


 ……多田さん、多田さん的にコーチとしての行動だと思うけど、一般的に見たらそれって……


「多田さんが白波に!? すっ、すず! お願い! 俺にも手作り弁当作ってくれない!?」

「えっ!」

「お願いだよぉ!」

「そっ、そんな。急にぃ?」


「まっ、真子ちゃん……」

「ちょっ、ちょっと! なんて顔で見てるのよ」

「……」

「なっ、何か言ってよっ!」


 うわぁ、やっぱり? 一気に騒々しくなったぁ!


「いい? 白波」

「それってボリューム的には……」

「それなりに考えとく」

「それなり……」

「良いわよね?」

「はっ、はい……」


 なにこのギャップ!? 片や必死にお願いして、片やそれとなくお願い。その一方で手作りお弁当にガッカリしてる奴も居るし……何だよこの光景!


「ふふっ、うみちゃん。皆笑ってるね?」


 ん? 湯花? このカオスな状況見て良くそんな微笑ましい顔してられるな。俺は周りの目が気になって仕方ないよ。けど、本気で楽しそうだな。まぁ……それもそうか。


「だな。でもこんな楽しい雰囲気作ったのは、湯花だぞ?」


 湯花の一言がなければ、昼食会なんて出来る訳なかった。昼食会がなかったら、俺達はここまで仲良くなかったんだ。

 山形だって間野さんと付き合ってなかったかもしれないし、谷地は水森さんのこと名前ですら呼べてなかったかも知れない。多田さんは……もっと白波に厳しかったかもしれないな。けど、俺達は今こうして笑い合ってる。それは紛れもなく、湯花……お前のおかげだ。改めて、その凄さが身に染みるよ。


「そうかな?」

「当たり前だろ。湯花が提案してなきゃ昼食会なんてなかったって」

「そう言われると、なんか照れるなぁ」

「照れろ照れろ。事実なんだしな?」


「へへっ、でもね? うみちゃん?」

「ん?」

「うみちゃんが居なかったら、私昼食会やろうなんて声出なかったよ?」

「またまた」


「こんなことで嘘ついてどうすんの? うみちゃんのこと気になって、うみちゃんのクラスメイトとも仲良くなりたかったんだ。だから……」

「半分はうみちゃんのおかげなんだよ?」


 なっ! こっ、こいつ……止めてくれよ! いきなりドキッとするようなこと言うの! 一瞬反応に困るだろ? でも、半分俺のおかげ……かぁ。


「そうか? まぁでも湯花のポジティブさには負けるよ」

「元気だけが取り柄だからね?」


 そう言ってくれると素直に嬉しいんだけど、


「その元気で、今度の交流大会も頑張れよ? 男子も応援行くからさ?」

「ホント? 頑張るっ! うみちゃん来てくれるなら、120%の力出ちゃうよ」


 やっぱり1番の源は、弾けるくらい眩しい……


「出し過ぎて空回りするなよ?」

「了解ですっ!」


「「ふふっ」」




 湯花の笑顔で間違いないよ?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る