第82話 目指すその先
「あの人の動きヤバいなぁ」
「恋さん達はどっちから告白を?」
「キャー、それ聞いちゃうの!?」
「なんか無駄な力が入ってないよね? 自分の体を最大限に使ってる気がする」
「そこまで分かるんですか? もしかして月城さんバスケ経験者?」
「だって、夏に来た時は怪しいのは怪しかったですけど、まだ付き合ってなかったですよね?」
「そうだけどさー、湯花ちゃん達の馴れ初め聞かせてくれたら教えてあげるー」
「いや? 中学校の時はサッカー部だったし、体育の授業程度かな?」
「マジっすか? それでよく体の動きとか……」
「えー、恥ずかしいなぁ」
「ほれほれ吐け吐けぇ」
「ん? 最近勉強……」
「「ちょっとこの席順変えませんかねぇ!?」」
先程出会ったばかりの月城さん日城さん。そんな2人を交えて、バスケの試合を見ているんだけど……その間に何となく2人の雰囲気というか、その辺りが分かってきた。
まず、湯花と日城さん。この2人はぶっちゃけ性格が似ている気がする。見た限り両者共明るくて、テンション高め。少しうるさい部分もあるけど、有無を言わさずその世界観に引きずり込まれる感覚は独特だ。更に俺の頭にはある警告音が鳴り響く。この2人と姉ちゃんは引き合わせたらまずいと。
そして月城さん。この人はどことなく……俺と似ている気がする。何かと隣の女子に引っ張られてる感じとか、
「ちょっと俺達は後ろの席に行きましょうか」
「確かに。間に2人が居たら、話が届かないんだよ」
「うみちゃん……?」
「えぇ、ツッキー隣から居なくなるの?」
「「……」」
「あぁもう、分かったって」
「あぁ、もう分かったよ!」
結局は彼女に甘いところとか……けど、月城さんに関して言えば、特筆すべきはその洞察力と観察力だろう。実際俺が足攣りかけてたのを歩き方で見抜いたり、湯花の突き指を的中させるなんてにわかには信じがたい。けど、事実それを月城さんはやってのけたんだ。
そして、スポーツトレーナーを目指してるって言葉の通り、試合を見る姿は本気そのもの。しかも自身でわからないことは俺とか湯花にすぐさま聞き出すくらいので、まさに向上心の塊と言っていい。根拠とかはない。けどもしかしたら、本当にこの人……将来ヤバい人物になるんじゃないか?
ホテル1階のロビー。そこで缶コーヒー片手に座りながら……
「はぁ……」
口から出るのは溜め息ばかり。
正直、その実力は分かっていた。いや、分かっていたつもりだった。けど目の前で見た彼らは……想像の遥か上を越えて行く。
まずはU-18代表の3人。代表でも鳳瞭学園でもキャプテンを務める
マッチアップは丹波先輩だから……身長差でミスマッチが生まれるのは明確。そこを皆でカバーしないと。
そして圧倒的エース
最後に精密機械
マッチアップは俺になるよな。身長はおそらく変わらないけど……あの独特の間に引き込まれたら一瞬で打たれそうだ。それにディフェンスもめちゃくちゃ上手い。
それに加え2年の三条。去年のウィンターカップと今年のインターハイで翔明実業のデイビスを完全に抑えたセンターのウィルソン。
「はぁ……」
想像するだけで溜め息しか出てこねぇ。それに鳳瞭相手にやれることやりたくて、さりげなく日城さんにバスケ部の弱点とか聞いてみたけど……本格的な取材はこれからだって話だったし、タイミング悪かったかな?
にしてもバスケの動きはともかく、海東は犬好き、ウィルソンは某アイドルグループにドハマり中、そのアイドルグループに所属してるのが守景の妹等々、身長体重に家族構成や好きな食べ物……その辺の情報を網羅してる方が凄くないか? 新聞部……いや日城さんの偵察力……恐ろしいっ!
「溜め息なんかついて、どしたのうみちゃん?」
そんな俺の顔を覗き込むように、笑顔を浮かべる湯花。突然の登場に一瞬ドキッとしたものの……その声に少しだけ心が和らぐ。
「よいしょっと」
「湯花……いやさ、強いってのはわかってたけど、いざ生でその実力を見せつけられたらさ……」
「まぁねぇ、実物は迫力が違うよ。男子はもちろん、女子の試合見ても……そう感じた」
「女子もアンダー代表居るもんな。ったく、やっぱズルいよなぁ」
「ははっ。でもね、うみちゃん。逆に考えて見てよ?」
「逆?」
「そんな世代別代表相手に勝てたら……実質私達が代表だよ?」
「代表って……」
「そう考えたらさ、やる気してこない? ワクワクしてこない?」
「ワクワクって……」
すっ、凄いな湯花。さすがの俺でも……って。ふっ、そっか。お前なりの……気遣いか? そういえば中学の時も試合前はこうやって、皆の緊張をほぐそうとしてたもんな。部活の皆も湯花にそう言われると、肩の力が抜けて表情も柔らかくなって……今考えると、それは間違いなく湯花の魅力の1つだよ。
……俺もそんな魅力に救われた1人なんだよな。
「そう……だな。勝てば俺達が日本代表か……」
「うん! 目指すならテッペンでしょ? そのチャンスが目の前にあるんだよ」
「確かに、言われてみれば一生に一度巡って来るかどうかわからない……チャンスだ!」
「でしょ? だったら……」
「「いつも通りに悔いを残さず!」」
思わず重なったその言葉に、自然と笑みが零れる。そしてその瞬間、体全体にこびりついていた何とも言えない重さがスッと消えてなくなった。
そうだな、最初から諦めるなんて俺らしくない。全力でぶつかって、何度だって立ち向かう……それが俺のプレースタイル。
相手が誰であろうと、それは変わらない。変えちゃダメなんだ。それが、頂点にして王者の鳳瞭学園だとしてもさ。だから湯花、明日は目にものを見せてやろうぜ? ひと泡吹かせてやろうぜ?
強いチームが勝つんじゃない、勝ったチームが……
強いんだっ!
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