第74話 暗中模索?五里霧中?

 



 12月11日、その日を翌週に控えた俺は……


「はぁぁぁー」


 1人頭を悩ませていた。


 どうするどうする? あと1週間で湯花の誕生日。俺の時は結構気合入れてくれてて……実際楽しくて嬉しくて仕方なかったし、どうせならそれを越えるくらいのサプライズで湯花を喜ばせたい。けど……全く良いアイディアが浮かばない!


 11日は土曜日。奇しくも自分の誕生日と同じ曜日。だとしたら必然的にデートに行くのは部活の後になる。遅く見積もってもタイムリミットは夕方。それまでにあっと驚くようなプランを考えなければならない。


 よし……順を追って考えよう。まずは部活終わり。

 いつもなら居残り練習をして湯花のお弁当を食べるんだけど……はっ! その日に限ってお弁当無しにして、一緒にお昼食べるのはどうだ? 美味しい店は後で調べるとして、予約もしとこう。あとは財布と相談か……でも良いぞ? なんだ、意外と冷静に考えれば行けるんじゃないか。


 静まり返った土曜の夜。机に向かって1人頷く姿は、第三者が見たら思わず引くかもしれない。でも今はどうでも良い。湯花を驚かせる……その一心で頭をフル回転させているのだから。


 そこまでは良いな。んで問題はその後、

 どこかで遊ぶのが定番な気がする。湯花の好きなことかぁ、買い物? スポーツショップ巡り? ……それじゃあいつもと変わんねぇよ! デザート作戦も湯花が実施済みだし、インパクトに欠ける。どことなく行きたい場所を探ってみるか……勘繰られない程度に。

 あっ! 誕生日プレゼント買いに行くって手もあるな。でも待てよ? それ俺の時やったよ。まぁあれはあれでめちゃくちゃ嬉しかったけど……それよりサプライズで物を渡した方が驚かないか? 


 本人の欲しい物を聞いてそれをプレゼント。それは好みじゃないプレゼントを渡して気まずい雰囲気になることを防ぎ、尚且つプレゼントされた人にとっても本当に好きな物をもらえるナイスな展開。

 それとは対照的に、いきなりプレゼントを渡す作戦はかなりのリスクが伴う。本当に欲しい物ならまだしも、的外れなやつを渡したら雰囲気が凍りつくのは決定的。だが成功すればその感動は想像を絶するものになるだろう。


 そだな……どうせならリスクを冒してでも驚かせたい。だが問題は湯花の。ストレートに聞いたらバレるのは確定だし、かといって様子を見ながら聞き出すのはかなり慎重に行かなきゃダメだぞ。

 果たして残り1週間でそこまで聞き出せるのか……一抹の不安が頭をよぎる。


 あぁ……大丈夫か? てか、誰か年頃の女の子が欲しがるようなもの知ってる人居ないか……誰か……あっ!


 その瞬間、思い浮かんだのは湯花のクラスメイトである多田さん、間野さん、水森さんの3人。ほぼ毎日近くに居て話をしている彼女達なら、会話の中でそのヒントを聞いているかもしれない。だがっ!


 でもなぁ。3人のこと信用してないわけじゃないんだけど、誰かがポロッと俺のこと言わないか心配なんだよねぇ。仲が良すぎるからこそ、普段通りに話しててその間に……ダメだな。確実とは言えないけど、ないとも言い切れない。


 頭を振って3人の顔をかき消すと、また1からのやり直し。必死に適任と思われる人物を辿るものの……さすがにパッとは思い付かない。


 湯花にバレる可能性が少ない女子、話しやすい女子……女子……女子……ん? んん?


 明確な2つの条件。それに該当する人なんて早々居ないと思って……いた。けど、どうやら俺は女子って単語に意識が行き過ぎていたのかもしれない。そう、気付いてしまったのだ。自分にとっては疑わしいが、戸籍上は女子に当たる人物……それは自分の近くに存在していた。


 ……仕方ない。今は藁にでもすがりたい気分だ。背に腹は代えられない。聞いてみるか……姉ちゃんに。

 そうして俺は徐にスマホを手に取ると、姉の番号をタップする。


 確か今日は希乃さんと遊ぶって言ってたな? まぁすぐ終わるし、出れなくても折り返し電話……


 ガチャ


 ―――はいはーい、どしたぁ?―――


 うおっ! まさかのワンコール反応だとっ!


 ―――あっ、姉ちゃん。遊んでるとこ悪いんだけどさ、ちょっといい?―――

 ―――別にいいぞぉ―――

(誰々ー?)


 ん? なんか遠くから希乃さんの声が聞こえるなぁ。やっぱ遊んでる最中はマズいか? 手短に済まそう。


 ―――海だよ海。あっ、そんで? 何の用だぁ―――

 ―――いやさ、単刀直入に聞きたいんだけど……女の子が誕生日に欲しい物って何?―――

 ―――そんなの現金に決まってるだろ?―――


 そっ、即答!? しかも現金て現実的過ぎて怖いんですけどっ!


 ―――げっ、現金って……―――

 ―――ん? 私ならそれが一番なんだけど……あぁ、もしかしてあれ? 湯花ちゃんへのプレゼント?―――

 ―――なっ!―――


 うっ、なぜそれがわかる……


 ―――海がそういうの聞くなんて1人しか当てはまらないでしょ。にしても私にそんなこと聞くのはちょっとミステイクだと思うけど―――


 お見通しか、しかもそれを自分で言う辺り……ある意味凄ぇ。


 ―――あっ、ちょい待ち? 良いアドバイザー居るよっ!……はいっ―――


 良いアドバイザー?


(えっ、棗ちゃん? どしたの? わっ、私?)

(希乃なら私より女の子だから気持ち分かるだろ? まぁ適当になんか言ってやってよ)


 ―――ちょっ! もっ、もしもし!?―――


 まさかの希乃さん!? でも、姉ちゃんよりは断然良いアドバイスくれそうな気はするぞ?


 ―――あっ、希乃さん、お久しぶりです。海ですけど―――

 ―――久しぶりー。それで? なんかいきなり棗ちゃんに電話渡されたんだけど……―――


 ―――すいません。実は女の人から是非意見を聞きたかったんですけど、やっぱり姉ちゃんは姉ちゃんだったもので―――

 ―――なるほどぉ、でも私で役に立てるかな?―――


 うん、多分姉ちゃんの100倍は頼りになると思いますよ?


 ―――もちろんです。それでですね? 聞きたいことがあるんですけど―――

 ―――なにかな?―――

 ―――女の人って誕生日に何貰ったら嬉しいですか?―――


 ―――誕生日? あっ、さっきチラッと聞こえたけど、彼女さんの誕生日近いのかな?―――

 ―――実はそうなんですよ。出来れば自分の誕生日の時より驚かせたいって気持ちがあるんです―――


 ―――ほぅほぅ。そっかぁ……単純に私の個人的な意見でも良い?―――

 ―――もちろんです―――


 お願いしますよ? 希乃さん! なにかヒントになる様な答えをお願いします!


 ―――私だったら、好きな人がくれるものは何でも嬉しいけど……―――


 なんでもかぁ……


 ―――強いて言うなら、手作りの物とかだともっと嬉しいかも―――

 ―――てっ、手作り?―――


 手作りだと!?


 ―――うん。何でも良いんだ。でも好きな人が自分の為に作ってくれたんだって思うと……私だったらキュンキュンしちゃう―――


 キュ、キュンキュン? けど、作るって……ぬいぐるみとか? ……ヤバイ、自分が作ってるの想像しただけで吐き気がする。


 ―――でっ、でもそれなりに技術が伴うんじゃ―――

 ―――技術かぁ……ちなみに誕生日はいつなの?―――

 ―――来週の土曜です。11日―――


 ―――だったら小さいぬいぐるみとか、裁縫系は難しかぁ。じゃあ料理とかは?―――

 ―――料理!?―――


 料理……目玉焼きとか簡単な奴しか出来ないんですけどね?


 ―――うん。それこそ誕生日なら……そうだっ! 手作りケーキはどう?―――


 一気にレベル上がったぁ! ケーキ? スポンジから作るんですよね? よくテレビでやってるように生クリームシュッて綺麗にやるんですよね? ……きびしっ!


 ―――ケーキなんて作った事ないですよ? ましてや、それこそ結構技術必要なんじゃ―――

 ―――そうかな? 私は結構作ってるけど……スポンジも生クリームも既製品があるし、簡単だよ? でも……―――


 既製品かぁ。確かに簡単かもしれないけど……湯花はスイーツバイキング連れて行ってくれたし、レベル差が……


 ―――どんな飾り付けをするのか、どれだけ想いを込めるかは……海君次第だけどね?―――


 想いを……込める?


 ―――きっ、希乃さん。希乃さんだったら既製品使っても、自分の為に作ってくれたケーキ貰えたら嬉しいですか?―――

 ―――うん。ましてや男の子からのケーキだよ? 形はどうであれ、作ってくれたこと自体ががめちゃくちゃ嬉しいよ―――


 手作りケーキ……かぁ。確かにケーキ作るって雰囲気ないよな俺って。もしかしたら驚いてくれるかも……知れない。


 ―――あっ、海君? もう1つ要望というか、私の理想のシチュエーション言っても良いかな?―――

 ―――はっ、はい―――

 ―――よくドラマで、ご飯食べ終わった後に突然ケーキが来るシーンあるでしょ? あれとか実際されたら顔真っ赤になりそうかな―――


 あぁ、良くドラマとかで見ますねぇ。けど、あぁいうのは賛否両論あるんじゃないかな? BGMとか流れたりしたら、注目されるの嫌な人だと壮絶拒否されそう。フラッシュモブとかでプロポーズして断られた人も居るらしいし。


 ……でも、さっとケーキだけ持って来てくれるだけなら……有り? 

 けどなぁ、そんなこと店に頼んでオーケーして貰えるものなのか。たかが高校生のお願いだぞ? 鼻で笑われないか…………って店? 確かに一般的な料理店では難しいだろう。だが、個人の店とかファミリーレストランとかなら? 少しは融通聞いてくれるのでは? …………はっ! そうだ希乃さん? あなた……


 ―――きっ、希乃さん!?―――

 ―――はっ、はい!?―――


 ―――希乃さん、今月のバイトのシフトはもう決まってますか?―――

 ―――えっ? うっ、うん―――

 ―――その……11日は出勤ですか? 昼辺りに出勤ですか?―――


 そうだ、もし希乃さんがバイトなら……レストラン&カフェゴーストなら……その演出が可能なのでは? 前日に作り、保冷剤たらふく用意して、朝に希乃さんに渡し……俺達が到着してしばらくしたら希乃さんに持って来てもらう! イケるかも! けど、問題は希乃さんがシフトに入っているかどうか。


 ―――11日? えーっとお昼から夕方までシフトだよ?―――


 きっ、きたぁ! これは是非ともお願いして、実行するしかない。湯花を驚かすサプライズ……


 ―――希乃さん?―――

 ―――はいっ!?―――

 ―――お願いがありますっ!―――



 これで決まりだぁ!



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