第73話 変わるもの、変わらないもの
冷たい風が頬を伝う度に、季節の変わり目を肌で感じる。
もっぱらスタンバってた雪の季節が徐々に徐々にその姿を現しつつあるんだろうけど……やっぱり寒いのは苦手だ。
つい最近まで心地良い風が体を包み、灼熱の太陽に身を焼かれ、涼しい気候にのんびりしていたはずなのに……しみじみ思う。時が経つのは意外と早い。
朝凪水族館に行ったのだって、気が付けばもう数週間前。まぁあのあと合流した姉ちゃんは、それこそいつも通りの姿だったし、自分自身の気持ちに区切りつけてスッキリしたんだと思う。家でも普通だし……うん、そう思いたい。けど少し気になること言えば……
「ちょっと海? 最近ノゾからストメ結構来るんだけどなんか知ってる?」
口癖のように聞かれる言葉。
今までも望さんからストメとかは来てたらしいけど、面倒くさかったら既読スルーしていたらしい。結構酷くね? って思ったけど、ここ最近はそんなの意に介さないくらいのペースのようだ。
「知らない? もう、ノゾの奴しつこいよぉ」
俺は本当に何も知らない。あの時のこと誰にも言ってないし、言おうとも思わない。
けど、これが偶然なのかはたまた……望さんが変な方向へ行ってないことを祈るばかりだ。それに、そんなに嫌ならブロックでもすればいいのに……なんて口には出せずにいる。
そう考えると我が家はいつもの我が家で、ある意味何も変わっていない。あっ、変わっていないと言えば、イツメン達。定期的な昼食会はもちろん継続してるし、揃えば笑って楽しんで……良い意味で変わってないな。そんな中でも少し気になるのは山形と間野さんの関係だけど、それなりに順調みたいで、
『クリスマスにもう一度告白する!』
つい先日、そんな固い意志表明を伝えられたよ。あの最初の告白以降、気まずい雰囲気になることもなく、それどころか名前で呼び合ったり2人で遊びに行ける関係にまでなったんだから……十分勝機はあると思う。
あとは谷地。山形に遅れること数カ月だけど、ついに水森さんと遊びに行ったらしい。遊んでそうな顔の癖に意外と奥手。そんな一面を垣間見えるようになったのも、気付けば結構な月日を共にしたんだって証拠でもある。
……そういえば、白波は2キロの減量に成功して喜んでたなぁ。多田さんは満足してないようだったけど、それも含めてイツメンはイツメン。その雰囲気は変わらず楽しい。
そして本戦が近付くバスケ部の練習も、あれからずいぶん熱が入っていたのは間違いなかった。念願の全国大会。そして男女揃っての出場。そんな雰囲気に包まれた練習はいつもより激しく、いつもより楽しかったんだ。でも、その日が近付くにつれて、その現実を目の当たりにしたっけ。
「ごめん皆、俺はここまでみたいだ」
キャプテンの横でそう話すのは、今まで練習にも予選にも出てくれていた3年生。そしてその言葉の意味を俺達は痛いくらい知っている。
もともと3年生がウィンターカップに出るっていうことは大きなリスクを伴う。普通の生徒は総体が終わるくらいのタイミングで早々に就活や大学受験の準備に入るけど……ウィンターカップに出るということはそれと同時にバスケの練習も続けること。その労力は果てしない。
それに大学への進学を考えている人にとって、その開催時期は受験の時期と被り過ぎている。たぶん予選まで練習に参加したことでさえキツかったと思う。そして俺達は優勝した。全国への切符を手にした。でも……そこまで付いていけるほどの余裕はなかったんだ。
「謝らないでください」
「ここまで一緒に居てくれてありがとうございます」
1・2年生だってそのことは十分分かってる。だから、
一緒に行きましょうよ!
先輩が居ないと……
内心思っていても、それを口に出す人はいない。
結局、残った3年生は鳳瞭大学への進学が決まっているキャプテンと、黒前大学への進学が決まっている野呂先輩と樋村先輩の3人だけ。でも、そんなの関係ない。今まで一緒に練習してきた先輩達の分まで、精一杯頑張るだけだから。それに……
「海ー、お待たせ!」
湯花と一緒に東京へ行けるのが、何より嬉しい。
「俺もついさっき着替え終わったところだから大丈夫」
「ホント? じゃあ帰ろっか」
「そうだな」
あの水族館での一件以来、自分で言うのもあれだけど……俺達の関係はより深まった気がする。運命って言葉を意識した瞬間、それこそ今まで以上に好きになってて、大切で、そばに居たいって思ったんだ。おそらく……
「海? 手繋ごっ」
「あぁ。……よっと」
それは湯花も同じだと……思う。
「あと1ヶ月切ったねぇ、ウィンターカップ」
「あっという間だな」
「ふふっ、頑張ろうね?」
「もちろん! どうせなら優勝目指さないとな?」
毎日のお弁当は相変わらず美味しいし、こうして人気のない時は絶対手繋いでる。それに、
「だよね。……あっ、海?」
「ん?」
「今日……キスしてないよ?」
「キッ、キスって……分かった。その顔は卑怯だぞ。誰も居ない……な」
1日1回のキスが日課のようになった。
まぁ人に言ったら確実にバカにされるか、バカップルっていじられるのは目に見えてるけどさ。お互いが求めてるなら良いよね?
「へへっ」
「ふっ」
あれから……何度も体を重ねたし、その度にお互いを思う気持ちが強くなった。でもそれと同時に感じたのが、想像以上に……2人で居られる時間が無いってこと。平日は部活、土曜日は誰かしら家に居るし、日曜日も同じく。家に誰かいる状態でなんて難易度が高すぎる。
でもまぁそんな中でも、隙を見て触れ合えてるから……まだ良いのかもしんないな。俺的にはもっとしたいけどね?
こうして着実に時は流れ、暦の上では12月に突入した。もちろんウィンターカップ本戦を控えて、皆の気持ちも引き締まる。けど、俺にとってはそれ以上に気合入れないといけないことがあるんだよなぁ。
「なぁ湯花?」
「うん?」
12月12日……
「欲しい物ないか?」
「欲しい物?」
そう……
「誕生日プレゼント」
湯花の誕生日に向けて!
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